表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
558/644

遠くに見える黒い影

 「………」


 ユキナは木の根で作られた巨大な玉座に腰掛け、目を閉じて静かに思考を巡らせていた。


 (――圧倒的に有利な世界。相手に情はない。ならば、するべきことは一つ)


 胸元で光るハート型のバッジを強く握りしめる。


 (魔力転送装置……これさえあれば、私は“全ての能力”を扱える)


 ユキナ――山亀の最大の弱点は、その燃費の悪さにあった。

 巨体を動かすだけで莫大な魔力を消費する生物。

 本来なら一週間活動すれば、数百年の眠りが必要となる存在。


 だが今は違う。

 転送装置から注ぎ込まれる無尽蔵の魔力が、山亀を常に“フル稼働”の状態へと押し上げている。


 つまり――


 「……確実に殺せ、と命じられている」


 現在、ユキナを中心に広がる自然の要塞は、町一つを丸ごと呑み込むほどの規模に達していた。


 「急げ」


 「ーーー!」


 ユキナの号令に応じ、植物の兵士たちが次々と生まれ、持ち場へと駆けていく。


 もしこの世界が“普通”なら……ここで暮らす種族は、きっとこの植物たちだろう


 「確実に」


 だが――それは“普通”の世界の話。

 ユキナには絶対に殺さなければならない敵がいる。

 そうしなければ、この世界を作った神――『アオイ』に、今度は自分が殺される。


 「……」


 壁となる樹木。足場となる根。毒を放つ花。牙を剥く捕食植物。

 時間が経つごとに要塞は拡大し、ユキナの有利は盤石に思えた。


 ――それでも。


 「……胸騒ぎ。鬱陶しい」


 勝利を確信できるはずの状況で、心の奥底がざわめいていた。


 ____そして、その予感は、的中する。



 「ーーーーー!!!」

 「ーーー!!」

 「ーー!!!」


 要塞を構成する植物たちが一斉にざわめき、ざくざくと根や枝を軋ませて騒ぎ出した。


 「……来た」


 ユキナはすぐに植物を媒介に外の景色を覗き込む。

 そして――その光景に、思わず息を呑んだ。


 「……何、これ……」


 大要塞から数キロ先。

 海の地平線を覆うように、真っ黒な雲が渦を巻いている。


 それはただの嵐ではない。


 ____ミクラル王国を恐怖に陥れた元凶。








 【ブルゼ】――その軍勢が、進軍を開始していた。




 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ