【食事で力を手に入れた】
「フシュルルル」
「まだまだ、休まないですぞ!」
山の湧き水をボロボロのバケツにくみながら蜘蛛蛇の上に置いているタライに注いでいくムラサメ。
普通に早く終わらせるなら蜘蛛蛇を使った方が効率が良く早いのだが、ムラサメはあえて自分に負荷がかかるようにしている。
「これくらいでへこたれて居たら立派な冒険者になれないですぞぉ!」
「フシュルルル」
「冒険者は嫌い?うーん、たしかにアヤカシからするとそうかもしれないですぞが……」
「フシュルルル」
「何故冒険者を目指すかって?……学もない、商人にコネもない、知人が居ない僕が出来ることは必然的に冒険者になるしかないですぞ、お母様は反対してるですぞが、きっとまだ子供だからですぞ!今に立派な大人になって稼いでいっぱい美味しいものをみんなで食べるですぞ!」
「フシュルルル……」
「そんな複雑に考えなくて良いですぞ、そうですぞ、その時は私の相棒にするですぞ!」
「フシュルルル」
「大丈夫ですぞ、うまく隠せば問題ないですぞ」
「フシュルルル」
そんな話をしながらタライがいっぱいになったので2人は洞窟に帰る。
「もうすぐつくですぞ!」
「フシュルルル」
「む?この匂い」
洞窟の前まで来ると美味しそうな匂いが漂ってきた。
「美味しそうな匂いですぞ!きっとお母様が大蛇万の肉を最大限に活かしたすごい料理を作ってるですぞ!」
「フシュルルル!」
「急ぐですぞ〜!」
2人はワクワクしながら洞窟の中を進んでいく。
目的地に近づくに連れて匂いは強くなっていき____そして
【やぁ、おかえり】
「……?、お姉さん、誰ですぞ?」
そこにはたくさんの肉料理と超絶美人が居た。
「フシュルルル!」
唯一、本能的に危険と判断できた蜘蛛蛇はタライが落ちるのを気にせずその美女____
____【勇者アオイ】に向かっていった!
だが
【はぁ……【魅了】】
「!?」
「フシュル……」
その魔法にかかった2人の心から警戒心などが消えて行く……代わりに芽生えたのは……恋
「あ、あふ、は、ふ」
初めての感覚に戸惑い言葉を失うムラサメ。
蜘蛛蛇も急に消えた敵意のせいで、どうしていいか分からずその場に止まったままだ。
【どうした?そんなに変な声出して】
「あ、えと、いや、ですぞ、その……」
【そうか、腹減ってるんだ、そうだろ?】
ぐぅ、とお腹の音が鳴る。
ムラサメは机に置かれている肉料理を見た。
【俺と一緒に食おう、家族全員で……もちろん、そこの蜘蛛ちゃんも】
「はい、ですぞ」
「フシュルルル」
2人とも【アオイ】の言葉に逆らえない。
それは命令ではない、人間の恋をした時と同じだ。
“好きな人に嫌われたくないからそう言う行動をする”
【じゃぁ、手を合わせて、いただきます】
「いただきますですぞ」
「フシュルルル」
ムラサメは一口、肉を食べ、その味に驚愕する。
食べた瞬間、脳が喜ぶ、身体が喜ぶ、舌が喜ぶ、もっと食べたい。
もっと……もっと……と、まるで一種の中毒症状に陥った。
「うまい!うまいですぞ!」
「フシュルルル!」
どうやら蜘蛛蛇の方も同じらしく、一心不乱に食べ出した。
【……】
2人が我を忘れる様に食べているのを隣で“一口も食べず”見ている【アオイ】は一言。
【たーんと、お食べ】
この日以来、ムラサメ達は常人を遥かに超えた力を手に入れた。
そして、【勇者アオイ】もムラサメ達が食べている間に消えていってしまっていた……