圧倒的強さ
なんだ……コイツは……
ほんの数発、攻撃を食らっただけでわかる。
――でたらめな強さだ。
「く……」
自分の身体を回復させ、立ち上がる。
再び【分析】で目の前の人間を視る。
「……どういうことなんだ……」
【LV2】――つまり、この女は今まで魔族どころか、魔物すら殺していないということになる。
あり得ない。我の魔眼がおかしいのか? 否。他の勇者には正常に機能していた。
ヒロユキという勇者でさえ、魔力を失った状態から動けたのは精神力の高さで説明できる。
だが、この女は明らかに異常だ。
HPも魔力量も、一般人より低いくらいの酷い数値。
そんな奴が――素手だけで我にダメージを与えただと!?
「まだやるの?」
「我は魔神だ……こんな、こんなことがあってたまるか!」
気がつけば、全力で魔法を放っていた。
この苛立ちは……なんだ……
「死ね! 死ね死ね死ね!」
「ほんと! この世界の人達って命をなんだと思ってるの!」
なぜだ! なぜ当たらん!
「【燃えろ】! 【凍れ】! 【レーザー】! 【吹き飛べ】! 【弾けろ】!」
「うるさい! 歯、食いしばれ!」
「ンガゴ!」
……な、なんだと……
全て避けられ、気付けば殴られていた。
何をしても勝てる未来が見えない。
攻撃手段は何千通りもあるのに、その全てが意味をなさない気がする。
回復再生できるからダメージ自体は問題じゃない。
だが、それが問題じゃないのだ。
「君が! 泣くまで! 殴るのをやめない!」
――勝てない。
この世界を統べる我の力でさえ、コイツには勝てない。
あぁ……この苛立ちの正体は……
「…………」
「お縄につけ! はちょっと違うか」
――認めたくなかったのだ。
“あの人”以外に、勇者を。
「……お前の勝ちだ」