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命乞い

 「みや!」


 「あ、ぅ……」


 「……!」


 ヒロユキは瞬時に状況を理解し、リュウトとみやを置いて力を振り絞り魔神へ突進する。


 「【分析】……」


 (……今、魔神は“寄越せ”と言った……そこから考えられる最悪のパターンは――!)


 「【創造】!」


 「……間に合えッ!」


 日本刀が魔神の首を捉え、鋭く斬り払う。


 ゴロリと床を転がる首――




 「……残念だったな」




 次の瞬間、ヒロユキのすぐ傍に新たな魔神の身体が現れる。先ほどのような苦痛の色は一切ない。


 「解毒は完了した……もはやアイツの毒は我の中に一滴も残っていない」


 「くっ!」


 魔神は無造作にヒロユキを蹴り飛ばし、リュウトたちへと歩み寄る。そして――


 「我には必要ない力だと思っていたが……実際に使ってみると、中々面白いものだな」


 「う、うおおぉ!」


 「だろうな。まだ立てるはずだと思ったぞ」


 立ち上がろうとしたリュウトの後頭部を踏みつけ、そのまま床に叩きつける。


 「がはっ!」


 「お前がまだ動ける理由はわかっていた……我には【LV】や【HP】などの数値が見えているからな。この意味、異世界から来た貴様らなら理解できるだろう?」


 「な……!?」


 「……レベル!?」


 ――そう、魔神はみやの《魔眼》を奪っただけでなく、それを自分の戦闘に組み込み、より危険な力に昇華させていた。


 「フッ……見えるぞ。貴様らの魔力の残量……そして、みやも、もうすぐ死ぬ」


 「み、みや……!」


 地を這いながらリュウトはみやのもとへ、にじり寄る――


 その横を、魔神が悠然と通り過ぎ__



 そして、みやの背に突き立ったままの大剣を掴み――


 「ほら……早く来ないと、死んでしまうぞ?」


 大剣を押し込んだ__


 「ぐ、ぎゃぁぁぁあ!!」


 剣がさらに深く突き刺さり、みやは激痛に全身を跳ね上げ、これまで出したことのない絶叫をあげる――。


 「いたぃ……いたぃっ! リュウトっ……たすけ、て!」


 「や……め……ろ!」


 「よく言う……我にはあれほどの苦痛を与えておきながら、自分が逆の立場になるとそのザマか。やはり貴様らは、生きる価値すらない」


 魔神は嘲るように、大剣へさらに力を込めた。


 「リュウトォォッ!」


 「みや……っ!」


 魔神の視界には、みやの【HP】が凄まじい勢いで削れていく数値が映っていた。


 「だが……我をそこまで追い詰めたのは認めてやろう。久方ぶりに死を感じた……それを讃えて“チャンス”をやる」


 「……チャンス?」


 みやの背から大剣が抜かれる。刹那、鮮血が泉のように吹き出した。


 「この女は元魔王でありながら、貴様に惚れている」



 「こいつを救いお前が死ぬか……こいつを捨ててお前が生きるか……選べ」



 「な……っ」


 「リュウ……ト……私は……もう……いいよ」


 「おれ……は……」


 すでにみやは、視界も音も遠のきつつあった。


 「みや……み……や……」


 這いつくばり、血の跡を引きずりながら彼女のもとへたどり着く。リュウトは迷わなかった。


 ――魔皮紙を、みやに当てた。


 「……そうか。最後は、自分の命より女を選ぶか」


 吹き出す血を浴びながら、リュウトは最後の魔力を振り絞り魔皮紙を起動させ__リュウトは意識を手放した。



 「……」


 

 「……あれっ」


 みやが起きる。


 「どけ、その男をあの世に我が送ってやる」


 「まさかっ……いやっ!リュウトっ!」


 「偽物と言ったのを詫びよう、最後はちゃんとした勇者だった」


 「だめっ!お願い……しますっ!もう逆らわないっ!逆らいませんっからっ!」


 みやは涙を流しながらその場で懇願する。


 「……」


 「あなたの勝ちです、だからリュウトだけはっ、お願いしますっ、命だけは」


 かっこ悪い。


 だが、敗者はそうするしかないのだ、何をしてもダメだった、最後の毒ですら自分達のミスでダメにしてしまった。

 勇者達が敵わなかった敵にみや一人で勝てるはずもない。


 取れる行動はもはや命乞いしかなかった……


 「どけ。」


 「お願いしますっお願いしますっ……」


 「次で最後だ、どけ。」


 「リュウトっ……」


 みやはリュウトを抱きしめる。


 「せっかくの命、無駄にしたな」


 魔神は大剣を振り上げ……


 「2人仲良く死ね」


 「っ」


 振り下ろそうとした瞬間だった。


 「……【目撃斬】!」


 「っ!?なんだと!?」


 魔神の身体は大剣ごと真っ二つに斬られた。


 「……そいつを連れて逃げろ」


 「っ!ヒロユキっ!」






 そこには魔力も無い、身体もボロボロのヒロユキが日本刀を構えて立っていた。

 






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