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ジュンパクは弱い者

 「ガシャァァァア!」


 「【限界突破】!」


 咆哮と同時、両者が地面を蹴った。


 キングタナトスはドスン、ドスンと大地をえぐりながら一直線に突進。

その質量が揺らす振動が、観客席の石壁まで響く。


 一方ジュンパクは、数メートル先に転がっていた鎖鎌を素早く回収し、そのまま観客席の方向へ飛び込んだ。


 「……正面からの殴り合いは避けたか」


 上空から二人の動きを見下ろすツクヨミ。浮かぶ姿は余裕そのものだ。


 「ガシャァァァア!」


 しかし、速度ではキングタナトスが上。

巨大な爪が石床を抉り、ジュンパクの背中を追う。ジュンパクはギリギリの距離で直角に方向転換し、獣の突進をかわす。


 「観客席まで再現したけど……ちゃんと利用してくれるね」


 ツクヨミは口元を釣り上げ、隣に立つヒロユキに視線を向けた。


 「どう思う? 君は」


 「……」


 ヒロユキは沈黙したまま、下を見つめている。


 「助けに行かないのかい?」


 「……サシの勝負に手助け不要」


 「ふぅん……別にいいけどさ。死んじゃうよ? あの子」


 「……」


 観客席を駆け回りながら、ジュンパクは呼吸を整え、次の手を打つ。


 「【ウォータースラッシュ】!」


 刃のような水流が放たれ、キングタナトスの肩口を裂こうとする。

だが――


 「ガシャァァァア!」


 水は巨躯の鱗を弾き飛沫と化した。


 「【炎弾】!」


 灼熱の火球が次々と飛ぶ。


 「ガシャアァァァア!」


 炎さえも、その巨体を止めるには足りない。


 「【雷落とし】!」


 頭上の魔法陣から轟音と共に落ちる雷撃。

しかし、焦げ跡ひとつ付かない。


 「ガシャァァァア!」


 「【ウィンドブラスト】!」


 竜巻のような風圧が吹き荒れ、石床の砂利を巻き上げる。

それでもキングタナトスは、まるで止まる気配がなかった。


 ジュンパクは巨爪を紙一重で避けながら、次々と魔法を撃ち込む。

だが――そのすべてが、巨獣の前では無力だった。


 「フッ……あれが彼の戦闘スタイルか」


 「……」


 「確かに、一撃一撃は精密だし、狙いも悪くない。人間の中じゃ上位に入るだろう。

 ――だけど、勇者の側近にしては普通すぎる。普通、普通、ノーマルすぎて退屈だ。この程度の戦い方、僕は暇つぶしで何度も見てきたよ。人間の枠から出られない戦法なんて、つまらない」


 「……」


 「いやはや、“愛の力”なんて言うから、少しは期待したんだけどね……。結局はピエロか。不確定で曖昧な力なんて、その程度だったのかな?」


 「……だまれ」


 ヒロユキが低く吐き捨てる。

 だが、ツクヨミは聞こえなかったかのように目を細め、下を見続けた。


 ――その瞬間。

 ジュンパクの体がキングタナトスの一撃で観客席の反対側まで吹き飛ばされた。


 「見え見えの戦略。次は――」


 「『鎖の回収』」


 同時にツクヨミとジュンパクの口が重なる。

 観客席の影に隠していた鎖が一気に巻き取られ、キングタナトスの足を絡め取った。


 「ガシャァァァア!?」


 「ミーの十八番だよ、これ!派手に飛ばされたかいがあったね!――とりゃ!」


 鎖を巻き取る力で、巨体が観客席の石段を引きずられる。

 その光景に、ツクヨミが小さく口角を上げる。


 「ふむ……。あの状態の武器をよく扱えるものだ。人間の中では確かに異常な武器だろうね。鎖を引っかけて引き回す、その戦法は彼の基本……」


 ――しかし。


 「ガシャァァア!」


 「!?」


 キングタナトスの二本の尻尾が、ねじれるように形を変え――剣の刃となった。


 __そして鎖を、容易く切り裂く。


 「う、うそ……だろ」


 「ガシャァァァア!」


 驚愕するジュンパクをツクヨミが「あーあ」と肩をすくめる。


 「神の武器は、神が宿ってこそ本領を発揮する。言ってしまえば、あの程度の性能なら人間でも何百年かすれば作れる。ましてや相手はこの島で生きる【死の神】タナトス……不出来な鎖を切るくらい、造作もない」


 「……」


 ジュンパクは舌打ちし、再び走り出した。

 だが、キングタナトスも攻撃パターンを変え、追撃の鋭さが増す。避けるだけで精一杯――その息遣いすら、ツクヨミの耳には届いていた。


 「まーた逃げてるよ、もういいよ、飽きた……彼には悪いけどこれ以上は無駄、このまま逃げ続けて身体が限界を迎えて終わり、さて、僕達はさっきの続きを____」


 「黙って見てろ!」


 「っ!?」


 ヒロユキは怒り声を荒げ、ツクヨミを見る。


 「……お前はジュンパクの何を知っている」


 「は、は?何をって、知らないけど」


 「……さっき、俺の側近にしては普通と言ったな?」


 「あ、あぁ、言ったさ」


 「……それはアイツ自身がよく知ってる」


 「?、なんだい?肯定するのかい?」


 「……肯定するさ、それがアイツの強さでもあるから……アイツはみんなの前では笑顔にヘラヘラして接してるが俺は知っている、みんなが寝ている時、自分の部屋で籠もって鼻血が出るほど脳を回転させてあらゆるパターンの敵との作戦を立ててることを」


 「……」


 「……自分が強くないと、そんな自分が嫌いだと、才能がない自分が嫌いだとコッソリ涙を流してることも」


 「だ、だから何だって言うんだい、強くないから頭を回すしかない、自分が弱いから嫌いだと泣いてるだけじゃないか」


 「……だけど、弱音吐いても血反吐吐いてもアイツは諦める事は無かった」


 「……」


 「……あらゆるパターンを想定してもそれを超えてくる魔王達、だからもっと考えるんだって頭を悩ませた」


 「……」


 「……弱いからと諦めるんじゃなく、毎日魔法を勉強したりトレーニングをかかさずおこなって魔法の精度を高めていた」


 「……」


 「……弱い者が強いと思えばそこまでだ、だが、弱い者が弱いと自覚し生きていれば、いつか気付かない内に強いものを超えている」


 「……」


 「……その時が“弱い”が“強い”を制する瞬間だ、その弱い者は強い者を置き去りにしていく」


 「努力は実を結ぶ、そう言いたいのかい?」


 「……その言葉では片付けられないな、何しろアイツの努力は……常人を遥かに超えている」


 





 ドゴオオオコン、とコロシアムからまるで隕石が落ちたのではないかと言うほどの音が聞こえてきて、ツクヨミは下を見る。




 「!?」



 そこには、コロシアムの中心で背中から倒れたキングタナトスの姿があった。




 






 「……だからお前は黙って見ていろ……“弱い”が“強い”を超越する瞬間を」








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