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ツクヨミ

 《ヒロユキサイド》


 「……」


 ヒロユキは日本刀を持って深夜の森を無言で駆ける。

 リュウト達とは違い、その周囲にタナトスの影は一匹もない。


 「……ジュンパクか?」


 背後から足音。振り返らず、静かに問いかける。


 「も〜、アニキぃ。置いていくなんて、ずるいよ〜」


 「……」


 「それで、どう? この辺は敵もいないし、このまま魔神城まで――」


 「いや……敵はいる」


 「?」


 「……お前だ」


 「……………………」


 にやり、と。

 ジュンパクの姿をした“何か”が、口元を歪ませる。


 「よく気付いたね」


 「……幻覚や偽物には慣れている」


 「そっかぁ、と言うか止まってくれないの?」


 「……悪いが急いでるんでな」


 「まったくもう……」


 そう言うと走ってるヒロユキの前に浮遊しながら自己紹介を始める。


 「僕の名前はツクヨミ。実体は持たないけど“世界の夜”は僕だ」


 「……意味がわからん」


 「太陽の位置?大気の屈折率?星の自転?あらゆる計算と観測、どれほど数式を積み重ねても“原点”には辿り着かず途中で納得して自身の中途半端な知識をひけらかす__物理でも、天文学でも、哲学でも証明できない」


 目の前のジュンパクは手を広げる。


 「なぜなら、夜は“現象”ではなく“私”だからだ」


 「……よく喋る奴だ」


 「ごめんごめん。人間と話すのは久しぶりで、これでもウキウキなんだよ」


 「……」


 「機嫌がいい証拠に急いでる君を止めてないだろ?まぁ、夜である限り君に勝ち目はないんだけどね」


 「……」


 「ねぇ、無口すぎない? それとも、この“人間”に似すぎてて話しづらい?」


 そう言うと、ツクヨミの姿がゆっくりと変わっていく。

 背は伸び、胸はふくらみ、髪は長く……“大人の女性ジュンパク”がそこに立っていた。


 「……確かに、これじゃ全くの別人だな」


 「話してくれる気になった?」


 「……話してる時間はない」


 「そっか。じゃあ――無視できないようにするね」


 パチン、と指が鳴った瞬間。


 「……!」


 視界が、闇に閉ざされた。

 否――ヒロユキが見えなくなったのではない。

 ヒロユキを中心に、空間そのものが切り取られ、ひとつの“部屋”のように閉じ込められたのだ。


 【ようこそ、僕のコレクションボックスへ】

 【何も無い夜の世界。ここでは君は標本だ。歳も取らず、腹も減らず、排泄もない。唯一、削れていくのは――君の心だけ】


 「……」


 【ちなみに、この世界では作り出した僕が最高位の神だ。君の考えていることも……次から全部、覗かせてもらうよ】


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