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ヒロユキを殺すしかない

 「ヒロユキ!ジュンパクさん!どうしてここに!」


 奥から姿を見せたのは、リュウトがよく知る二人だった。


 「。。。。。。伝えたいことがあってな」


 「伝えたいこと? あれ、そういえば他の人たちは?」


 「。。。。。。急用だから置いてきた」


 「……そ、そっか?」


 自然と笑顔になっていたはずなのに、リュウトの胸には得体の知れない違和感が渦を巻いた。

 何かがおかしい――ただ、その“何か”が掴めない。


 「それより、ボウズ。そっちの進捗はどうなんだ?」


 ジュンパクがそのへんの岩に腰を下ろし、気軽に声をかけてきた。


 「うーん……ダメですね。まったく手がかりなしって感じで……」


 「ふーん。ま、こっちも似たようなもんだけどね。……それにしても、聞いたよ~? 魔王の一人を倒したって」


 お互いの冒険の噂は、耳に入っていた。

 こうなるのは、まぁ当然だろう。


 「フフ、それはお互い様じゃないですか。ジュンパクさんも一人倒してるって聞きましたよ」


 「あら、バレてた? いや~見せたかったなぁ、ミーと兄貴のコンビネーション! ね、兄貴!」


 「。。。。。。ん? あ、あぁ」


 「それは見たかったなぁ。どうだった? ヒロユキ」


 「。。。。。。そ、それは……」


 「フッフッフ! ミーと背中合わせになって、兄貴が『……後ろは任せた』って言ったとき、ホント震えたよ! ミーの義手にも鳥肌立ちそうだったね!」


 テンション高くジェスチャー付きで語るジュンパク。

 その様子を一通り聞き終えてから、リュウトはふと真顔に戻りヒロユキに向き直った。


 「そういえば……ヒロユキ。急用って?」


 「。。。。。。そのことだが……二人だけで話したい」


 「二人だけ、で?」


 「。。。。。。あぁ」


 その申し出に、一瞬だけリュウトは戸惑った。

 理由は、よくわからない。けれど――特に疑う決定的な材料もない。


 「わかった。ジュンパクさん、ここにいたら……たぶん、あーたんが来るから。来たら伝えておいてもらっていいですか?」


 「いいよ♪ ミーにまかせなさーい」


 「。。。。。。こっちへ」


 ヒロユキが無言のまま振り返り、静かに歩き出す。

 リュウトもその背に続いた。


 「……ボウズ」


 「ん?」


 「……いや、なんでもない」


 ジュンパクは、なぜか胸の奥がざわついた。

 意味もなく、不安が首をもたげる。

 それでも彼はただ、二人の背中を黙って見送った。


 


 ――――――――――――――――――――――


 《森を歩くこと、約10分》


 踏み慣らされた道など一切ない。木々を掻き分けるようにして、川辺まで出たところで、リュウトがようやく口を開いた。


 「……なぁ、そろそろいいだろ?」


 「。。。。。。」


 「おい、ヒロユキ?」


 「。。。。。。なぁ、リュウト、俺達は“勇者”なんだよな?」


 「? 何を言ってるんだ?」


 「。。。。。。それは、間違いないよな?」


 「……どうしたんだ? いきなりそんなことを……!」


 ――ガキンッ!!


 金属音が炸裂する。反射でレイピアを抜いていなければ、リュウトの首は刎ねられていた。


 「っ! ……どういうことだ、ヒロユキ!」


 「。。。。。。チッ」


 リュウトの喉元を正確に狙った黒刀。それを咄嗟に弾き、すぐさま後方へ跳躍して距離を取る。


 「今の一撃、完全に殺しにきてただろ……! 冗談で済むレベルじゃねぇぞ!」


 「。。。。。。」


 「っ、ととっ――!」


 ヒロユキが沈み込むように踏み込み、続けざまに斬りかかる。

 リュウトはその気配を読み、後方の岩場へ跳び移ったが――


 「。【エアースラッシュ】」


 「な――っ!?」


 刀を大きく振り抜いた瞬間、圧縮された空気が刃となって走る。

 リュウトが着地したばかりの巨岩が一瞬で真っ二つに裂け、背後の木々もろともなぎ倒されていく。


 「くっそっ!」


 跳ね飛ばされたリュウトに追撃するように、ヒロユキが飛び上がり、真上から斬撃を振り下ろす。


 (狙いがエグい……ッ!)


 リュウトは即座に魔法陣を展開し、空中に風の足場を作り出して横に跳躍――辛くも着地する。


 「(あぶねぇ……今の技、二連発されてたらやばかった。……ってことは、“やらない”んじゃなくて、“出来なかった”って事だな、命拾いした)」


 「。良く避けたな」


 「お前……ヒロユキじゃないだろ」


 もう、わかっている。

 その事実を、あえて口に出して確かめる。


 「。ハハ……出来れば最初の一発で仕留めたかったが、流石は勇者」


 「……あれが本物のヒロユキだったら、俺でも危なかったかもな。

  なんたって、あいつは俺と同じ……」


 「。魔王様を倒した張本人だろ? にわかには信じがたかったが……ふむ、“こんな使いやすい身体”なら納得だ」


 「(まずい……)」


 心の奥底がざわつく。

 目の前の存在が口にした言葉――“使いやすい身体”。

 それはつまり、この体が“本物のヒロユキ”であるということ。

 倒せば……ヒロユキを、殺すことになる。


 そして――それよりも、もっと悪い状況がリュウトを襲う。


 「。お?」


 「……おいおい、嘘だろ……」


 脳内に、魔法の詠唱が勝手に浮かんでくる。

 そして、同じように……目の前の“それ”も。


 二人は同時に言葉を放った。



 「。【武器召喚】」


 「【武器召喚】!」




 ――空気が爆ぜた。





 ヒロユキの黒刀が、その形を静かに変える。

 漆黒の刀身はぬるりと揺れ、やがて――

 波の無い水面のように、景色を写し出す鏡の刃へと変貌した。

 まるで空間そのものを切り裂くような、完璧な刀身。

 鍔も柄も余計な装飾が一切なく、純粋に「斬る」ことのみに特化した、無機質な美。

 



 対するリュウトの右手には、光の渦が生まれていた。

 風に舞う砂金のような粒子が螺旋を描き、次第に形を帯びていく。

 現れたのは――

 黄金に輝く巨大なランス。

 柄は長く重厚で、中央に向かって広がる鋭利な槍身は、太陽の反射で周囲を焼くような輝きを放っている。

 左右の装飾は完全な対称で、まるで“意志”が宿っているかのように微かに脈動していた。



 二つの“神の武器”が向かい合う。



 「。これが勇者の武器か……いいねぇ、たまんないねぇ!」


 「くっ……!」


 「。さ、ボーッとしてると、こっちから行くぞ?」


 鏡のように輝く日本刀を構えたヒロユキが、地を蹴って突っ込んでくる。その振り下ろし――


 「っ!」


 リュウトは紙一重で飛び退いた。


 ――その瞬間。


 ザクリ。


 地面が裂けた。だが、砂は舞わず、音すらしない。空気と土を、ただ“斬った”。


 「。おっとっと……」


 ヒロユキは振り下ろした反動でバランスを崩す。

 ……普通ならば振り下ろした刀は地面で止まるはず、だが__


 ____この刀は、切れ味が常識を超えている。だからこそ――力を入れると、制御できない。



 「ヒロユキ、すまん! __腕一本、もらう!」


 黄金のランスが突き出される。寸分違わず、ヒロユキの右腕を狙って――


 「。あぶねっ!」


 ヒロユキは刀を手放し、跳び退いた。刹那、リュウトのランスが空を突き、風を裂く。


 「……ちっ」


 「。おいおい、お友達の腕をもぎ取ろうなんて、冷たいねぇ? リュウト」


 そう言う彼の背後で――あの日本刀が、まるで意思を持ったかのように動く。


 地面を斬ったその刃は、刀身の最後、唯一“斬れない”柄の部分でようやく止まっていた。


 そしてそのまま、音もなくふわりと浮かび――ヒロユキの手元へ、すっと戻っていく。



 「うるさい! だまれ!」


 「。おっと」


 リュウトはランスを突き出し、ヒロユキの腕を狙う。

 それをヒロユキは、鏡のような刃を持つ日本刀で真正面から受け止めた――


 「!!」


 「なっ……!」


 ランスの先端と日本刀の刃が交差した瞬間。

 何かが“ぶつかった”感覚はあった。だが、音も振動も――何もなかった。


 【何でも貫く武器】と、【なんでも斬る武器】。

 二つが交差した刹那、空気が押しつぶされるように沈黙し、時間がほんの一瞬だけ――止まった。


 直後、見えない力が弾け、二人の武器はあり得ないほどの反発で跳ね飛ばされる。


 

 「……」


 「。いいねぇ、それでこそ勇者」


 気づけば、先ほど二人の武器がぶつかり合った場所を中心に、周囲の木々は根こそぎ消え、川の水も跡形もなかった。

 ――爆風すらなかったのに、まるで“最初から存在していなかった”かのような光景が、そこに広がっていた。


 「。さながら、コロシアムのバトルフィールドってとこか?」


 「お前は一体誰なんだ! 人魚の手先か!」


 「。人魚ぉ? あんな水中でしか強くない奴らと一緒にするなよ。いいだろう、冥土の土産に教えてやる」


 ヒロユキは不敵に笑いながら、日本刀を構え直す。


 「。俺は【リブラ】の魔王様の幹部、アヌビスの魔族――【ヌルス】だ。よろしくして、逝っちゃって!」


 名乗りと同時に、日本刀が閃く。

 リュウトは神のランスでそれを受け止めるが――


 斬撃が交わるたび、木々が一本、また一本と音もなく姿を消し、土面がむき出しになっていく。


 森は、まるで誰かがバリカンで刈っているかのように……静かに、しかし確実に“禿げていった”。


 「くそっ! くそぉ!」


 「。おいおい! 受けてるだけじゃ、何も変わらねーぞ?」


 「(どうしたらいい……このままじゃ――!)」


 【武器召喚】した勇者同士に、もはや手加減などできない。


 ――リュウトには、一つしか選択肢が残されていなかった。


 


 ヒロユキを、殺すこと。


 


 それ以外に、この戦場で生き残る術はない。


 「うおおおおぉおぉ!! 【目撃突】!!」


 「。やっと殺る気になったか! 【目撃斬】!」


 互いに武器を構え、最強の一撃をぶつけ合おうとした、その刹那――


 「!!!!」


 「。!!!」


 神の魔法――【目撃】。


 目で捉え、ただ武器を振るだけで相手を穿つその魔法は……発動しなかった。


 


 否、できなかった。


 


 二人の腕には――


 


 大量の【糸』が、絡みついていた。



 相手を目で捉えたが“武器は振られ無かった”ので神の魔法は発動をキャンセルされていた。





 


 「。……なんだ、これは!!!」


 


 


 その叫びをかき消すように、森の奥から声が響いた。


 


 


 「なぁぁぁあにしてるんだバカちんがぁぁぁあ!!!」


 二人がそちらを振り向くと、そこに立っていたのは――













 白い狐の仮面をつけた、金髪の獣人だった。


 




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