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人魚討伐依頼は難しい

《グリード王国 王室》


 「《人魚討伐》……ですか?」


 『そうですわ、【勇者】様』


 グリード城に呼ばれたリュウトは、王国会議で取り上げられたという異変の報告を聞き、女王サクラから直々に依頼を受けていた。


 「人魚って……あの、上半身が人間で下半身が魚の、食べれば不老不死になるって言われてる、あの“人魚”のことか?」


 『まあ、流石は勇者様。異世界の伝承までご存じとは』


 「この世界に来て、もう何年も経つからな。似たような伝承を聞くこともある。驚くようなことでもないさ」


 『頼もしい限りですわ……でも、こちらの世界では人魚は“御伽話の存在”にすぎませんの』


 「……そっちも、か。あー、言い方が悪かったな。俺のいた世界でも、伝説止まりだったよ」


 『まあ……そうでしたの?てっきり、異世界には本当にいるのかと思ってしまいましたわ』


 「こっちはこっちで、魔王だの神の使徒だのって普通に出てくる世界だしな。人魚くらいいてもおかしくないって思っただけさ」


 『ふふっ……そう言われると確かに。ですが、ここ最近、その“おとぎ話”のはずの存在が、アバレー王国周辺で多数目撃されておりますの』


 「なるほどな……。魔王の支配から外れた人間の国では、魔族の活動も把握しにくくなってる。タイミング的に見て、《人魚》がその“魔族”って可能性があるな」


 『ご明察ですわ。リュウト様が討伐された【キャンサー】のように、理性を持たない獣的な魔物も居ましたが――』


 「……女王様。俺『達』だ。俺ひとりじゃ、あいつには勝てなかった」


 『……申し訳ありません。みゃ様のことを……』


 「いいんだ。あの時、みゃが居なかったら終わってた。けど……俺たちの旅は、あそこでは終わらなかった。それだけのことさ」


 『はい……【キャンサー】が従えていたのは魔物でしたが、アバレーを管理していた【ジェミニ】は《鏡の世界》で“ゴルゴーン”を。そしてミクラルを担当していた【スコーピオ】は、“吸血鬼の魔族”を従えていたと報告されております』


 「……どちらも、俺の世界じゃ空想上の存在だ。今回の《人魚》も同じ系統と見るなら――調べる価値は、あるな」


 『ええ、その通りですわ』


 「わかった。俺たちはすぐアバレーに向かう。情報、感謝するよ。女王様」


 『ですが、もうひとつ――お願いがあります』


 「……?」


 『できれば……で構いません。一体でいいので、人魚を“生け捕り”にしていただけますか?』


 「捕獲……か。なぜ?」


 『私たちは、まだ敵の情報を何も持っておりません。交渉が通じる存在か、知能を持っているのか……まず、それを確かめる必要があります』


 「…………たしかに。相手を知らなければ、対処もできない……わかった、やってみるよ。できる範囲でな」


 『ありがとうございます♪ それと――例の件は……』


 「……悪いが、心は変わらない。俺にはもう“決めた相手”がいるんだ」


 『………………』


 「その人は……いまも、どこかに囚われてるはずなんだ。俺は、あの人を助け出す。どこまででも、いつまでも――絶対に」


 


 リュウトはゆっくりと目を閉じる。


 ――思い出すのは、何度も捕らわれ、何度もふらりと姿を消すあの人。


 可憐で、気まぐれで、それでも。


 彼にとって、たったひとりの“ヒロイン”。


 「――俺は、あの人を愛してるから」


 『ふふっ、それは……ぜひその人に、直接伝えてあげてくださいませ』


 女王はゆっくりと微笑み――そして、声の調子を整える。


 『では、これはグリード王国・サクラよりの正式な依頼です』


 『アバレー王国へ向かい、《人魚》の討伐をお願いいたします』


 「承りました。では、他の部屋で待機してるアカネとあーたんと合流して、すぐに向かいます」


 リュウトはそう言って、ひとつ深く礼をして――王室をあとにした。


 


 部屋には、女王ひとりが残る。


 


 静寂のなか、サクラの唇がふわりと笑みに歪む。


 『キャハッ♪「食べたら不老不死になる」……?そんな話、初耳なんだけどなぁ♪』


 『そっかそっかぁ……“そっちの世界”では、それが常識なのねぇ♪』


 女王の声は、徐々に甘く、そして狂気に滲む――


 『楽しみねぇ……どんな味がするのかしらぁ?あの人魚ってやつ♡』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 「……とは言ったものの、まったく手がかりがないまま何日も経っちゃったなぁ」


 アバレー王国に到着してすぐ、リュウトたちは噂の《人魚》を追って行動を開始した。


 “水場に現れる”という情報を頼りに、とある泉を拠点に張ってはいるのだが――進展はゼロだった。


 


 「ご主人さま見てみてーっ!お魚つれたっ!」


 朗らかな声とともに泉から走って戻ってきたのは、雪のように白いロングヘアを揺らす――うさぎ耳の獣人、あーたん。


 豊満なバストにむっちりとした太もも、どう見ても立派な“グラマー美女”だが、本人の振る舞いはまるで無邪気な子供そのものだった。


 手には魔法でぷかぷか浮かせた、全長二メートルはある大物ホワイトカール


 


 「お、いいぞあーたん。そいつは今日の晩メシだな」


 「え〜、また魚〜?あーたん、お肉がいい〜!」


 「文句言うなら釣るな。せめてキャッチアンドリリースぐらいしとけ」


 「きゃっち……あんどりりーす?」


 「釣ったら、生きてるうちに泉に戻してやるってことさ」


 「あっ、それいい!じゃあ、あーたん、きゃっちあんどりりーす!するっ!……だから釣りつづけててもいい〜?」


 「はいはい、好きにしてこーい」


 「はーいっ♪」


 楽しげな笑顔を浮かべて、あーたんは《ホワイトカール》を抱えてキャンプへと跳ねるように走っていった。


 テントの中には《食材転送用》の魔皮紙がある。きっと今の獲物を転送しに行ったのだろう。


 


 「……にしても、ここ最近、魚・魚・魚・魚・魚――って、毎日が魚尽くしだな……」


 リュウトは苦笑する。


 「あーたんの釣り好きには困ったもんだ。……アカネが戻ってきたら、せめて塩焼きだけじゃなく、何か他の料理にしてくれるだろうに……」


 


 今、アカネは人間嫌いの多い獣人の集落へと情報収集に向かっていた。


 数日戻ってこないということは、向こうも向こうで苦労しているのだろう。


 「はぁ……けつかっちんだなぁ」


 空を仰いでため息をついたそのときだった。


 ふと、背後に小さな気配――わずかな“違和感”が走る。


 


 「……誰だ!」


 


 即座に立ち上がり、腰のレイピアに手をかけるリュウト。その視線の先、薄暗い森林の縁から、ふたりの男が姿を現した。


 


 「…………よう」


 


 


 「ここにいたんだな、リュウト坊主。久しぶりだねぇ……ミーたちのこと、覚えてる?」


 


 「ヒロユキ!……ジュンパクさんも!」

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