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おかぁさん......おかぁさん......

 「ど、どこです!ここは……!」


 ユキは肩で息をしながら、きょろきょろと周囲を見渡す。


 ついさっきまで走っていた舗装されたアスファルトの道は、いつの間にか砂の小道に変わっていた。

 月明かりに照らされる建物も、ミクラル特有の芸術的な街並みではなく――ただ、無機質に積まれた高い石の壁ばかり。登るには高すぎる。


 「はぁ、はぁ……戻らないと、です……」


 息を整える暇もなく、ユキはその薄暗く静かな一本道を、ふらつきながら進み始める。


 「うぐ……みんなぁ……」


 不気味な静寂と、現実感のない景色。

 そのすべてが、ユキの幼い心を少しずつ削っていく。


 「……帰りたい。帰りたいです……」


 歩き続けること、およそ二十分。

 足は重くなり、視界は滲み、ついにユキは道端の石壁にもたれかかって膝を抱える。


 「うぅ……だれかぁ……せんせぇーい……おかぁさん……おかぁさん……」


 これまで押し殺してきた感情が、胸の奥から溢れ出す。


 「おかぁさん……おかぁさん……こわいよぉ……ユキ、いい子にしてたのに……どこぉ……」


 見た目は大人。けれど中身はまだ、ひとりの子供――


 涙をこぼしながら母を呼ぶ声に、返事をくれる者はいなかった。


 「うぐ……ひっく……ひっく……」


 ぽつ、ぽつと涙を落としながら、ユキの身体が少しずつ縮んでいく。


 心の支えを失った今、大人の姿を維持できるほどの魔力制御も残っていない。


 やがて、ブカブカになったワンピースに包まれながら、ユキは小さな体を丸めてそのまま、静かに眠ってしまった……。


 


 ……………………………………………………そして。


 ザクッ……ザクッ……。


 夜風にまぎれて響く、砂を踏む足音がひとつ。

 その主は、眠るユキの前で立ち止まる。


 「……この子……確か、あの時の」


 月明かりが、その姿を照らす。


 ――その人物は、【勇者】。


 足音の主は、ユキを見下ろしたまま、そっとしゃがみこむ。


 そして、静かに腰を下ろした。


 


 ユキを置いていくことなど、できなかった。


 彼は黙って、隣に座り、夜の静けさのなか――


 ただ、彼女が目を覚ますのを待ち続けていた。





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