表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/644

逃げた先は

 幼いユキたちをレストランに連れていった男たちは、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら話しかけていた。


 


 「なぁなぁ、ねーちゃん達さ――

 ほんと、いいスタイルに……いい顔してんなぁ? えぇ?」


 


 そう言いながら、男のひとりがユキの腰に手を回し、指先で腹をいやらしくなぞる。


 


 (……っ!)


 


 不快感に背筋が震える。けれど、ユキは耐えた。

 大人の女を演じるように、努めて軽く笑みを浮かべながら――


 


 「そ、そぅですぅ~?」


 


 「おっ、変な喋り方も含めて、エロいぜぇ?」


 


 (変な話し方だったです!?)


 


 脳内で動揺しながらも、ユキとミイは必死に考えていた。

 どうにか、この場を切り抜ける方法を――。


 


 そこへ、店員がグラスに注いだ酒をトレイに載せてやって来た。


 


 「お待たせいたしました。《タオツー》になります」


 


 「よぉし来た来た! お前ら! 乾杯だ!」


 


 「おおー!」


 


 ユキとミイの前にもグラスが置かれる。

 二人とも手を出さない。それは当然だ。

 ――お酒は子供が飲んではいけないもの。

 それくらいの理性は、まだあった。


 


 「ん? おい、どした? 乾杯しねぇの?」


 


 「そ、そうねぇ~……ですぅ」


 


 「ぼ、僕も……」


 


 「よぉーし、みんな持ったな? それじゃあ――」


 


 「かんぱーい!」


 


 「「かんぱーい!」」


 


 「か、かんぱいですぅ……」


 


 「かんぱい……」


 


 震える指先でグラスを取ろうとした、その瞬間――


 


 「――あなた達。ここで、何してるんですか?」


 


 


 「……あぁ?」


 


 


 ガラリ、と空気が変わった。


 


 店内にすっと現れたのは、

 大人になったユキたちよりも背が低い、黒髪ショートの少女。


 「あなたたちに用はありません」

 少女は冷たく言い放ち、ユキの腰に添えられた男の手を指差す。


 


 「その手。――不快です。どけてください」


 


 「は? おいおい、てめー誰に口きいてんだ? ……チビが調子こいてんじゃねぇよ?」


 


 「……チビ?」


 


 ピクッ、と少女の目元が引きつる。

 その瞬間、店の空気が凍った。


 


 「誰がチビですって? ガキ。

 少なくとも、私はあなたより“歳上”なんですよ?」


 


 「ハハッ、聞いたかおい! お姉さまらしいぜこのガキ!

 なぁなぁ、お前さっき文句言ってたろ? 一人増えてちょうどいいじゃねぇか、ナンパしてみろよ~」


 


 「オッケーオッケー、しゃーねぇな~。お姉さまに軽く俺のナンパテクってやつ、見せてやるよ」


 


 男は椅子をガタンと引き、少女の目の前に立つ。

 その顔には、浅い余裕の笑み。


 


 「なぁ、お姉さま? 俺たちより年上なら、ぜひ“大人の手解き”ってやつを……」


 


 「……良いでしょう」


 


 「っ!?」


 


 次の瞬間――男の身体が、まるで人形のように宙を舞った。


 


 バンッ!


 


 背中から綺麗に落下して、テーブルの下で呻く。


 


 「手加減しました。お皿が割れると弁償が面倒ですから」


 


 「てっ、てめぇ!」


 


 別の男が怒鳴りながら立ち上がり、少女に飛びかかる――


 


 が、その声が出きる前に。


 


 「……ヒロユキさんを少しは見習ってください。

 どうして、こうも性欲で脳みそが焼き切れた冒険者が多いのでしょうね」


 


 ドゴッ!


 


 まるで影すら踏ませず、少女の回し蹴りが男の顔面を捉えた。

 グラスが揺れ、男が壁に激突して崩れ落ちる。


 「変態は――あのパンティー野郎だけで十分なんですよ」


 


 少女が冷めた目で吐き捨てると、倒れた仲間を見ていた残りの男が叫ぶ。


 


 「何ブツブツ言ってやがる!おい、こいつ潰すぞ!」


 


 「お、おう! 行くぞ!」


 


 「相手はただのガキ一人だぜ!」


 


 「ふん……三人程度、どうってことありません」

 

 


 「さぁ――いくらでも相手してあげます。かかってきなさい」


 


 男たちがいっせいに襲いかかる。

 だが、少女の動きは一段も二段も速かった。


 


 その隙を、ユキとミイが見逃すはずもなかった。


 


 「(いまです! ミイちゃん、逃げましょ!)」


 


 「(う、うん!)」


 


 「ちょ、ちょっと!?」


 


 少女が戦いながら呼び止めるが、二人は振り向きもせず、店の外へと飛び出していった。


 


 「まったく……本当にヤンチャなんですから」


 


 それでも、口元はどこか楽しげだ。


 


 「……ジュンパク! ヒロユキさん! 起きてください~!」


 


 少女は三人の男を流れるようにさばきながら、声を張り上げて振り向く――が。


 


 「あれ……?」


 


 先ほどまで座っていた席。

 そこに、いるはずの二人の姿が――


 


 ひとりしかいなかった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 夜の町を、ユキはひたすら駆け抜ける。


 


 「ミ、ミイちゃん! はやくです!」


 


 後ろには、いつものように相棒がいてくれると――思っていた。


 


 「こ、ここまで来れば、もうだいじょ……」


 


 ――振り返る。


 


 そこに、ミイの姿はなかった。


 


 


 代わりに、立っていたのは。


 


 見たこともない、真っすぐな一本道。


 


 「……ど、どこですか……ここ」


 


 誰もいない。


 足音も、声も、光も――何もない。


 


 ユキの心臓がドクンと跳ねた。


 


 「……ミイ、ちゃん?」


 


 声が、夜に吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ