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『絶対に許さない。』



「ユキちゃんに何をしたの!」


 


「あ? お前がなんで心配すんだよ。

その荷物を見るに、ただの家事奴隷でもしてたんだろ?」


 


「いいから答えて!」


 


「誰に命令してんだ、あぁ?」


 


「……取引、聞こう」


 


「分かってんじゃねーか、じいさんよぉ」


 


(くっ……!)


 


 


「これが何かわかるよな?」


 


牛獣人がポイッと放り出したのは――

見覚えのある、魔皮紙。


 


(……これ、たしか……)


 


奴隷契約書。

売買の時に交わすやつ。

血で拇印を押したら、その瞬間に絶対の契約が成立する――!


 


「俺が渡すのはあの小娘だ。

今は家の中に居るだろうが……

早くしねーと危ないかもなぁ?

子供であんなの使うのは命削るしかねーしな! ゲハハハハ!」


 


「っ!」


 


じいさんが、すごい顔で牛獣人を睨みつけてる。

その目が、一瞬だけ僕を見た。


 


「僕のことは気にしないでください!

それより……早く、ユキちゃんを!!」


 


(僕なんかより……絶対にユキちゃんを……!!)


 


「……」


 


じいさんの顔には、はっきり「すまない」って書いてあった。

目が、悲しかった。


 


じいさんは、自分の親指を拾った木の枝でスパッと切ると、

血で契約書に拇印を押す――


 


ボウッ!!


 


契約書は炎とともに燃え、消えた。

契約成立。


 


「よーし、これで交渉成立。

あばよ」


 


「っ!」


 


「え……!」


 


その言葉を吐いた直後――

じいさんの心臓を、牛獣人の拳がぶち抜いた。


 


「マスター!!」


 


「何言ってんだテメー?

マスターはもう俺だろ?

前の奴なんていなかったんだ。

早くこんなところ出て行くぞ」


 


「う……ぐっ……!」


 


(……ッ!! ぶっ殺してやる……!)


 


叫ぼうとしたその瞬間、

喉が――きゅっと締めつけられた。


 


(っぐ……!?)


 


奴隷の刻印が作動してる。

「余計なことを言うな」って、設定されてたんだ……!


 


「あーあ、人間の血でまた汚れちまったなぁ……

お? そうだそうだ!

あの小娘、どうなったか見に行ってみるか?」


 


(っ!!)



 

走った。

考えるより先に。


 


僕は、全力で家のドアを開けた――!


 


 



荒れ果てた室内。

ぐちゃぐちゃになった家具。


 


そして、中央には――


 


服をビリビリに裂かれ、股から血を流し、

過呼吸でぐったりしてるユキちゃんが倒れていた。


 


「ユキちゃん!!」


 


 


「おかぁ……さん……」


 


 


焦点の合ってない目。

僕の方を見てるようで、見てない。


 


「そうだよ、おかぁさんだよ……!」


 


(……こんなの、ひどすぎる……!)


 


涙が、止まらなかった。


 


「おかぁ……さん……」


 


僕の声を聞いて、

ユキちゃんは少しだけ安心したみたいに、

涙を流して――

そのまま、静かに意識を失った。


 


 


「おーおー、感動的な別れだったなぁ?

それにしてもよぉ、俺たち獣人の性器がデカいって言うけど、

俺たちからしたら人間の女が小さすぎんだよ」


 


「次はお前の番なんだから、覚悟しとけよ? ゲッハッハッハ!」


 


 


「……っっっっ!!!」


 


 


「あぁ? なんだよ、その目は?

ご主人に向かって生意気だなぁ?」


 


 


(……ゲスが……)


 


「……」


 


「あ?何ボソボソ言ってんだ?」


 


「……」


 


おい……聞こえてるだろ?


お前だよ。

お前に言ってんだよ。


もう――大体分かってんだよ。


 お前が――

 俺の中にいるってことは。


 

































『キャハッ♪』


 



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