お母さんと魔球遊び大作戦!
《15:00〜》
「さて、と。何しようか!」
昼食の片付けも終わり、普通の主婦なら昼寝って時間だけど――。
奴隷稼業で鍛えられた俺には、眠気なんて一つもない。
……いや、主婦とか言ったが、俺、男だからね?
「あそぶ!」
元気だなぁ、子供って。
ミクラルにいたときも、あの子たち、スタミナだけは底なしだったもんなぁ。
今ごろ、元気にしてるかなぁ……。
「うん! 何して遊ぶ?」
「うーん、じぃじ、いつもこの時間は家で寝てる。だから、ひとりで遊んでた……」
「そっか。でも今日は、お母さんがいるから二人で遊べるね!」
「うん!」
「じゃあ、お散歩でもする?」
「じぃじが言ってた。外は危険だから、家のそばから離れちゃだめって」
確かに、ここは森の中。
うっかり探検なんかしたら、魔物に遭遇しかねない。
でも、庭くらいなら――たぶん大丈夫だろう。
「だからこれやる!」
「お、ボールだね?」
ユキちゃんが持ってきたのは、バレーボールくらいの赤いボール。
……いや、むしろ『赤いバレーボール』って言った方が正しいくらいだ。
「ボール? 違うよ! これは《まきゅう》って言うの!」
「そんな野球漫画に出てきそうな名前なの!?」
「いつもひとりで壁に当てて遊んでた……」
「ふふ、わかったよユキちゃん。お母さんが取ってあげるから、投げてきて?」
「うん! いくよー!」
ユキちゃんは両手で思いっきり投げてきたが、少し距離があったせいか、魔球は手前でポトリ。
コロコロと転がって、俺の足に当たった。
「よいしょっと。じゃあ、ユキちゃん、いくよー? それっ!」
「わっ!」
軽く投げたつもりだったんだけど――そこは大人と子供の差。
ノーバウンドでユキちゃんの頭上をぶっちぎった。あら、ごめん。
「ごめんごめん、取りに行くよ!」
「いい! おかぁさんはそこで待ってて! ユキが取りにいく!」
トテトテと走っていったユキちゃん。
……案の定、こけた。
「大丈夫!?」
「うぅ……」
ユキちゃんは、必死に泣くのをこらえて、俺を見上げ――
涙をためたまま、ぎこちなく笑って、言った。
「い、いたくないもん!」
はぁあああああああああああああああ!!!
かわいい! こりゃやばい!!
よくがんばった!! ほんとよくがんばった!!
「うん、偉いよユキちゃん。女の子の涙はね、本当に大切な人の前で流すんだぜ?」
「……? うん!」
「よしよし、じゃあもう一回してみようか!」
「うん!」
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《3時間後》
「はぁ……はぁ……そろそろ終わろっか」
「まだしたいー!」
時刻はすでに夕暮れ。
魔球を使って、遊びに遊びまくった結果――
もはやワンワンお! みたいにボールを投げては取らせ、投げては取らせ、繰り返す遊びになっていた。
……子供の無尽蔵スタミナ、マジで化け物。
「もうそろそろ夜ご飯の準備もしなきゃ」
「ぶぅ……」
「それに、お母さんは明日もいるよ?」
「ほんと? もういなくならない?」
「うん、任せて!」
(……レンタル奴隷としてはちょっと心が痛むけどな……いずれ、この子とも別れなきゃならない……。)
「じゃあ、やめる!」
「うんうん」
「お母さん、まきゅうに空気いれて?」
「え? あ、ほんとだ。ふよふよになってるね。空気入れってどこにあるの?」
「くうきいれ? わかんない。でも、まきゅうに魔力を通すと、膨らむの!」
「へぇ、便利だなぁ」
「……しらないの?」
「あ、いや、忘れてただけだよー! お母さん、お仕事忙しかったから!」
誤魔化しながら、言われた通りに魔力を流すと――
パァーンッ!!
「うぉわ!?」
「わっ!?」
――一瞬で爆発。
何事かと、じいさんが慌てて飛び出してきた。
「な、何事じゃ!」
「じぃじぃ~!」
「ご、ごめんなさい……魔球に魔力を入れすぎて……」
「ここはわしが片付ける。お前はユキを連れて中に入れ」
「は、はいっ!」
俺はユキちゃんと一緒に、逃げるように家の中へ――。
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「しかし……どれだけ多く魔力を入れたんじゃ……。
いくら獣人用とはいえ、普通この魔球を割るなど、並の魔力では……」