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契約者 - 守りたいもの 作者:Dot Man

序章

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暗い森の中で

読んでいただきありがとうございます。
素人作なので、あまり期待せず読んでください。
 できる限り遠くへ逃げようと必死で走り続けていた。けれど、とうとう体力が尽きて倒れ込む。粗く苦しい呼吸を繰り返しながら、回らない頭で考えたのは、絶望的なこの状況についてだった。
 逃げるのに必死で家から災害時用にと保存しておいた非常食を持ち出す余裕さえなかった。だから手元には一切の食糧がない。外界に生息する獣は強く、武器を持っていない自分では刃が立たないだろう。それに、万が一何かの偶然で狩れたとしても、その血肉は脆弱な人間にとって毒となる物質を含む。果実も同様だ。
 要するに、必死で逃げた結果として体力を消耗した状態。空腹感よりも強い飢餓感に苛まれているというのに、それをどうにかする術が一切思いつかないということだった。
 多少呼吸が楽になってきたが、もうこれ以上走る気力は湧かない。だがそもそも走る意味ももうないだろう。外界の森の奥深くは危険だと言われている。俺を探すためだけに入ることは躊躇らわれるはずで、同時にこんな場所に逃げ込んだ俺はもう生きてはいないだろうと思われているはずだ。その予想が間違っていて見つかったなら、その時はもうあきらめるしかないと割り切る。
 とはいえ、寝転がるにしても木々の根が痛い。ゆっくりと立ち上がり、もう少しマシな場所がないかと少し歩くと、光が差し込んでいる場所が見えた。警戒しつつ近づいてみると、木々が生えていないその場所に佇んでいたのは、驚いたことに「塔」の残骸だった。

――「塔」というのは、天高く伸びる先史文明の遺産のことだ。古くからの伝承によると、様々な加護をもたらしてくれる神聖でありがたい建造物だという。ゆえに「塔」は信仰の対象であり、その多くは大切に管理されている。

 だからこそ、無残な姿になり果て、森の奥に放置されている姿は衝撃的なものだった。
 けれど、それをどうにかしようという気は起きない。今自分がこうして苦しんでいる原因は塔にあり、そしてそのきっかけとなった事件は、塔が神聖なものであるという通説を否定しかねないものだった。だから、かつて抱いていた塔を神聖視して信仰する心が今では薄れてしまっているようで、この光景に対して悲劇的だとか、そういう感情は湧かない。ただ、壊れないと思っていたものが壊れている光景を見て、心と関係なく事実として、世の中に不変なものなんてないのだということを思い知らされたような気分になるだけだった。
…自分もこの塔の残骸と同じように、人知れず朽ちてしまうのだろうか。
 そんな考えが頭をよぎる。否定できない。それどころか、このまま漠然と何もせずにいれば、それが現実になることは想像に難くない。
 だとして、塔の残骸にもたれかかった白骨化した死体を見つけた存在は何を思うのだろう。その死体が塔を壊した存在のもので、それが懺悔のために身を捨てたとでも思うだろうか。それとも塔に魅了され、そのそばに寄り添い続けた存在のものだとでも思うのだろうか…
 信仰心が強かった存在だと勘違いをされることは、信仰心のない今の自分にとっては少し屈辱的にすら思う。とはいえ、これ以上動く気力はない。

 指先を動かすのも辛くなってくる。そんな中で、自分の不幸を呪った。なぜ俺が巻き込まれなければならなかったのか。献身的過ぎたのかもしれない。もっと怠慢にふるまっていれば、こんなことにはならなかったのだとしたら…
 世の中、まじめな奴ほど馬鹿を見るというが、本当に、そうなのかもしれない。

 眠い。



 …





――飢餓を通り越すと、胃が痛みはじめ、痛みを通り越すと一瞬倦怠感だけに支配され、そのさらに先には感覚の麻痺が待っていた。そしてそれからだんだんと眠くなるらしい。
 つまりは、俺はおそらく「死」に至る寸前だったのだろう。そして、眠ったら最後もう目覚めないはずだった。だったのだが…

 ゆっくりと目を開ける。寝ぼけた頭が初めに反応したのは、左手に感じた温かいものだった。そちらに目を向けると、そこには白く長い髪と、人形のように白い肌の女性がいた。彼女は俺の隣で、俺と同じように瓦礫にもたれかかり、俺の左手を握りながら眠っている。
 神秘的な感じさえする彼女をしばらく見つめていたが、寝ぼけていた思考がはっきりし始めると、この不可思議な状況に混乱し始める。
「なんで、俺、生きて…?」
 思わず漏れた独り言は、言葉に詰まりながらの動揺が表に現れた言葉だった。
「空腹、は、あまり感じてない。一体何が、それに、彼女は、一体…」
 いくら塔の加護が届かない地だとはいえ、それでも体に刻み込まれた烙印は消して消えてはくれない。そんな奴のそばでのんきに眠るなんて、この世の常識からはかけ離れた行動だった。
「…彼女が目を醒ますのを、待つしかない、か。」
 しかし、そう思ったところで特に何かできることはない。結局そういう結論に落ち着いた。
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