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狐は幻想の英雄でして  作者: 榛乃チハヤ
第一章 願いの欠片でして
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楽しい列車旅でして

 しかしそれまで暇。現代と違ってテレビはない。さらにスマートフォンは通信サービス会社が存在しない上電池切れで使用不能。

 ただ部屋に閉じ込められるだけというのはいささかつまらない。

 

 「しりとりしようぜ、お前先手な」


 「メロン、ああ負けたわ」


 虚しい。なにか遊びたい。しかし雪斗のスマホは――


 「くれは、俺のスマホの電池は切れててもお前はまだあるんじゃないか?」


 「電源切ってたわ、フル充電そのまままよ!」


 完璧だ。もう何も怖くない。データ通信、つまり電話やネットサーフィンは不可能だがオフラインゲームならできる。

 勝った、人類の勝利だ。くれはがスマホの電源をつける。


 「なぁくれは、電波が立ってるんだが」


 「なんですってぇっ!?」


 おかしい。ここは異世界、ネットに接続できるはずが――


 「なんだこれ」


 某有名サイトは開けない。あれも開けないこれも開けない。

 しかし、検索エンジンのうちひとつだけ機能するものがあった。ただ、この検索エンジンを収録したアプリを入れた覚えはなかった。


 『Wihoo!』


 入れた覚えはないし、存在を知らない。

 ウィフー? まさかヴィシーズ帝国じゃないだろうな、まさか。


 『トップニュース』

 『ウィシンヌ国王、再出発の地下鉄視察』


 中世に。この中世に。核、遺伝子組み換えときてネット環境か。

 二人はもう驚きを通り越して呆れた。ここまであからさまに現代技術が出てくると考えられる事がひとつしかない。

 ウィシンヌ国王、完全に俺達と同じ異世界人じゃねぇか。

 もう全ての話がわかったし、全ての話が通った。異世界人だから原子力も核兵器も遺伝子組み換えもネットも知ってたのか。

 そうなれば話は自然だ。あとは証拠さえあれば国民がニセ国王だと騒いでくれるだろう。

 だがその前に逃げる。今はただ逃げる。


 未完成の原子力機関車と連結された客車に乗る二人が時計を見ると午後五時と分かった。

 そろそろ晩ご飯の準備をしたい。というか晩ご飯は用意されるのだろうか。


 「失礼します、晩ご飯について伺いにきました」


 個室の扉を叩く音がしたあと若い女性と思しき声がする。

 

 「どうぞ――!?」


 そこには身長百五十センチほどの少女が立っていた。現代でいうと中学生だろうか。

 この世界の人間は半人半狐。この少女にも小さな小さな耳があった。


 「かかかかわええっ!」


 「アンタロリコンだったの!?」


 「ちげぇよ! 小動物が好きなのと同じ心理だよ!」


 「あのぉ、すいません……」


 「すいません」

 「すいません」


 二人が声を揃えて謝ると可愛らしい笑顔のまま話を続けた。


 「本日、お二人のサポートをさせて頂く『枚方かざの』です、よろしくお願いしますっ」


 あどけなさの残る少女は元気いっぱいに頭を下げ、料理三つを提案した。


 「ざるそば、ざるうどん、おにぎりの中からお願いします」


 「なめてんの?」


 「ひゃっ!」


 「雪斗、幼女怖がらせた」


 長旅をこれで乗り切れって正気か。雪斗はまるで酒がはいってるのかと思うほど荒い口調で全部寄越せと言う。それも睨みながら。それでも嫌な顔をせず笑顔を取り戻して客車に付属する厨房へと行こうとする。

 そこを雪斗が止めた。


 「かざの、俺達と旅をしないか」


 二人で寂しい状況だが、一人でも増えれば少しは面白くなるだろう。


 「本当ですか! 私、親がどこに居るかもわからなくてこの先が不安だったんですよ、それに……」


 「それに?」


 


 「日本、という異世界から来たんです……」

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