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冒険家のきつねの話

作者: 果瓶



森の奥の奥にある丘の上に小さな家が建っています。そこには優しげなきつねが住んでいて、いつも庭の手入れをしながら朗らかに暮らしているそうです。



そのきつねはかつて世界中を旅した冒険家で、森の子供達に自分の冒険を話して聞かせていました。荒波に立ち向かった大航海の話や、広い広い海の水平線から昇る朝焼けの話。これらを力強く語るきつねの話は、目を閉じればその光景が浮かんでくるようでした。なので子供達はいつも楽しそうに話を聞くのです。そして何よりこの冒険の話をするのがきつねの楽しみでした。



今日もきつねは子供達にかぼちゃのパイを振舞いながら、お話を始めます。子供達は早く早くと楽しみで待ちきれない様子です。



こほん、と咳払いをしたきつねは口を開き語り始めました。



_________________________





きつねがまだ冒険を始めた頃のお話です。



さわさわと枝を揺らす木々の間をすり抜けて、ざっざっと森の中を歩いていきます。



ああ、この森に迷い込んで何日めだろう。


お腹がすいたし、喉も渇いたなあ。


食料も切らしていて、水がたんまり入っていたはずの水筒は空っぽになってしまった。ああどうしよう。



そう考えながらきつねは出口を目指して森の中を歩いていました。日が昇り、日が落ちる。日が昇り、日が落ちる。それを何回も繰り返しているうちに、とうとうきつねは力尽き座り込んでしまいます。



大きな木に寄りかかり、ぐるぐる視界が歪んでいくのを感じながらきつねはぼんやりと考えました。



ああぼくはここで干からびて死んでしまうのだろう。


ひとりぼっちで少しずつ土に還っていくのだろうか。


せめて森のみんなに会いたかったなあ。


さみしいなあ。



一粒の雫がきつねの頰を伝いました。ぽろぽろ、ぽろぽろ。瞳から溢れる雫は止まりません。揺れる視界と濡れた瞳が気持ち悪くって、どんどん顔がぐしゃぐしゃになっていくのがわかりました。



死に際に泣くなんて馬鹿らしいや。


さっさと雲の上にでも逝ってやろう。



きつねは瞳を閉じました。めそめそ泣いてる自分が嫌になったのです。もうさっさと死んじまえばいい。



そのとき優しげな声が耳に入りました。誰だろう。こんなところにいるなんて。なんとか瞼を開けるとそこにはふわふわ妖精が舞っています。



妖精は心配そうにこちらを見ると、小さな小さな手のひらで頭を撫でてくれました。すると、どうでしょう。みるみるうちに疲れが取れ、喉の渇きも空腹も無くなっていくのです。きつねはすっかり元気になりました。



「妖精さんありがとう。おかげで助かったよ。」



にこりと笑いながらきつねは妖精にお礼を言います。妖精は頭を横に振りながら、きつねに青い花を差し出しました。



「これ、くれるの?」



きつねがそう言うと妖精は頭を縦に振りました。真っ青な綺麗な花です。物知りのきつねも知らない花でした。


花をじっくりと見回し、きつねが花の種類を聞こうとするともう妖精が飛び立った後でした。



また何処かで会えるといいな。



きつねはさてと、と立ち上がり歩き始めました。するとすんなり森の出口にたどり着きました。これはあの妖精のおかげなのでしょうか。



きつねは妖精がくれた花を眺めました。



なんだかとっても優しくて、ぽかぽかあったかい気持ちになります。



今度妖精に会ったら何かプレゼントしてあげよう。お手製のハーブティとかどうだろうか。あぁでも妖精にぴったりのカップも必要だなあ。プレゼントを考えるだけで心がわくわく踊っているようです。



きつねはまた新しい一歩を踏み出しました。




その後きつねはあの妖精と再会して共に旅をする相棒となるのでした。



きつねが相棒と出会ったお話。


_________________________



「えー!?きつねのおじいちゃんって妖精が相棒だったの!?」


「そうじゃよ。初めて会ったときから、あの子はとても優しかった。あの子から学んだことはいっぱいあったぞ。」



きつねは妖精のことを思い出しました。きつねはお寝坊さんなので朝はいつも起こしてくれたり。知り合いの陶芸家のくまさんに作ってもらった妖精用のカップでお手製のハーブティと共にお茶をたのしんだり。


妖精との日々はとても楽しく、きらきらしていました。


今でもきつねは妖精のことが大好きなのでした。


「じゃあ今妖精さんは何してるの?」


「冒険が終わったら空の上に飛んでってしまったんじゃよ。」



えー!?と子供たちから大きな声があがる。


「おじいちゃんはさみしくないの?」


「ぜんぜん。わしの心のなかにはいつもあの子が居るからな。楽しかったことも悲しかったことも、全部わしの心のなかにあるんじゃよ。だから寂しくないんじゃ。」


瞳を閉じれば、すぐに妖精が飛び回るのできつねはぜんぜん寂しくなんてありませんでした。たとえそばを離れても寂しくないように、妖精は素敵な贈り物をくれたのです。


ほんといつまでも優しい妖精だったのです


「それにな、あと少しで会えるんじゃ」


きつねは優しそうな微笑みで言いました。もう少ししたら妖精はきつねの周りをふわふわ飛び回るはずなのです。


「ほんと!?じゃあ僕たちも会いたい!」


子供たちが興味津々に言います。きつねは子供たちの頭を撫でながら答えました。


「会えるといいのぉ。」


そう言って胸にかけているペンダントを握りました。





















きつねは気づいたら、あの青い花が咲き誇る丘に立っていました。


ふわりと光が舞って、目の前に妖精が現れます。何年ぶりかの光景にきつねは思わず涙しそうになってしまいました。懐かしい感覚が胸を包んで、じわりと瞳が滲みそうになりました。


また冒険しよう、と妖精は小さな手を差し出します。


きつねはその手を握り微笑みました。



















その日、きつねは眠るように逝きました。


森のみんなはきつねの死を悲しみましたが、きつねは森のみんなに思い出という贈り物を贈っていました。


子供たちはきつねの言葉を思い出します。



「楽しかったことも悲しかったこともぜんぶ心のなかにあるんじゃ。いなくなった人も思い出の中でなら生きれるんじゃよ。だから忘れてはいけないのじゃ。」


きっときつねは、子供たちの心のなかでいつまででも生き続けるのでしょう。


そして妖精ときつねは空の上で冒険を続けるのです。




きつねが最後まで握られていたペンダントにはあの青い花があしらわれているとかないとか。



                  END

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