第5話「しどろもどろ」
「しどろもどろ」の回
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平安時代の始めの頃
古今和歌集が編纂され
春の日差しの下で
桜を愛でながら
和歌を詠む祭りが開催された
次々と歌が奏上され
初めて選ばれた若い歌人の番になった
そして
恋の歌を緊張しながら
立派にカッコよく詠んだ
上座から皇女がじっと見つめる
天皇の娘はこの歌人にホの字・・・・
歌人の方もずっと皇女が好きで
今日の歌は愛の告白だったのだ
やがてすべての歌が終わり
皇女がもう一度
あの歌が聞きたいと言った
そう、あの好きになった歌人の・・・
皇女の指名とあって
歌人の緊張は沸点に達し
一生忘れないはずの歌を
一瞬で忘れてしまったのだ
歌を書いた和紙は真っ白に見えた
口は鯉のようにパクパクするだけ・・・
だめだやっぱり田舎もんの
俺の出る幕ではなかった~
やっと小さな声で言ったのは
四戸呂村に戻って出直します・・・・
ざわつく会場で
皇女が優しく声をかけた
また来年の春に会いましょうね
この出来事から
言葉が出ない時の事を
「しとろ村」と言うようになり
あるいは
「しとろに戻る」とか言われ
いつしか 話が乱れて通じない事を
「しどろもどろ」というようになった