プロローグ
これが初めて書いた小説です。
ご意見やご指摘など頂ければ嬉しいです。
最終話まで書き上げたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
「それじゃあ、いこうか」白衣を着た初老の男性は、上品な笑顔でそう言った。
荷物を詰め込んだ鞄を持ち、病室の出口まで進んだとき、僕が二年三ヶ月いたらしい部屋を見渡した。
「退院おめでとう」女性の看護師がそっと手を差し出した。
「ありがとうございます。浅上さんには色々と迷惑かけちゃって…すみませんでした」
握ったその手を強くしっかりと握り返して、浅上看護師は静かに首を振り
「ううん、気にしない、気にしない」屈託の無い子供のような笑顔でそう言ってくれた。
最後に、もう一度だけ病室を見渡す。入り口には「進遠 裕」という名札がある。僕の名前だ。複雑な気分だった。寂しいのか悔しいのか。色んな気持ちがポッカリと穴の開いた心の隙間に流れ込んでくる。
見慣れた病棟を通り過ぎ、エレベーターに乗る。ドアが開き総合受付のあるやたらと広いフロアーを出口へと進む。一歩一歩近づく外の景色。眩しい。期待か不安か、胸が締め付けられる。知らず俯いた視線の先で担当医と浅上さんの足が止まった。
「ほら! 背筋伸ばして!」浅上さんは僕の背中をポンと叩く。
「それでは、お世話になりました」二人に向かって軽くお辞儀をする。
「辛い事があったら相談にきなさい」担当医の西野先生は優しく笑う。
「大丈夫。君は強い子。でも、辛い事があったらいつでもおいで。力になれる事はあるかもしれないから」浅上さんはにっこり笑い、そう言うと僕の手に何か書かれた紙を握らせた。
これはメールアドレスだろうか。ノートを切り取った紙には英字と数字の羅列と【困った事があったらいつでも連絡してね! 】と書かれている。
「ありがとうございます。先生、浅上さん。僕は多分もう大丈夫。他の看護師さん達にも宜しくお伝えください」うなずく二人。少しの沈黙の後。
「最後に……僕の…僕の…時間は動いていますか」入院中、何回も言った台詞だ。
僕の言葉に浅上さんはまっすぐ僕を見て、真剣な面持ちでこう言った。
「君は止まっていない。君の時間は私達と同じ。ちゃんと流れている」