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自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~  作者: ハの字
第九話「里帰りと米国からの来訪者について」
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訓練概要

 初の空挺降下の影響を見るため、三人はTkー7を整備員らに引き渡した。そして、筋肉マッチョ達に散々文句やら、部隊長に無茶振りされたことに同情をされたりしながら、その指示を出した張本人の元へ向かう。


 その人物、部隊長の執務室に入る。相変わらず本が多いその部屋の奥で、部隊長は数か月ぶりに顔を見た三人に「おう、久しぶり」と軽い挨拶をした。そんな彼に向けて、比乃は開口一言。


「スラスターの空挺用自動動作、ほとんど役に立たなかったんですけど。僕らに投身自殺させようとしたのですか?」


 それに同意するように頷く志度と心視も、どこか疲れた顔をしている。何故こうなっているかと言えば、部隊長が急遽指示した『AMWによる空挺作戦を想定した実地訓練』のせいである。


 先ほど比乃が言ったように、まだ何のテストも行われていない、空挺作戦用のスラスター自動制御プログラムは、その効果を半分も発揮しなかった。しかも、着地地点に指定されていた場所には、それを知らされていない生身の人間がいたのだ。

 そんなトラブルがなければ、あんな風に前転受け身をする無様な着地にはならなかったのである。


 これは後から通常の空挺装備で降下した二人も同じだった。事前訓練一切なしで高所から飛び降り、パラシュートを制御させる自動制御プログラムを補助AIに導入していた。だが例によって、それも大して役に立たなかったのである。


 下手したら世界でもトップクラスに豪華な飛び降り自殺になるところだった比乃に比べれば、この二人は余程マシだったが、


「いやー、丁度いいから空挺部隊拡張用のプログラムの実施テストをしちゃうかってな、思ったわけだ。それに、お前達の技量を信じてたから指示したんだぞ」


「そういう信頼のされ方はいつか命取りになるので辞めてください」


「……俺達が死ぬのか」


「……私達が殺すかは……今後次第」


「悪かった、だからその目を辞めろ! 悪気はなかったんだ!」


 十八歳の少年少女が出しているとは思えない殺気に、部隊長は少し慄いた。このままでは殺されるとすら思い、誤魔化すように机の中を漁って数枚の書類を取り出すと、机の上に並べた。


 部隊長が手で促したので、比乃がその書類を手に取る。そこに記されていたのは、模擬演習に関する物だった。そこにずらりと並んでいる参加者一覧に比乃、志度、心視の名前がある。


 しかし、演習相手の項目は『米国陸軍特殊作戦群』とだけ書かれていて、詳しい人員や装備などが書かれていた場所は黒いマジックで塗り潰されていた。秘密保持にしてはいい加減だが、それだけ三人を信用しているという証拠でもある。


 そもそも、何故ここで米軍の名前が出てくるのか、比乃が怪訝そうな顔をしたのを見て、部隊長は簡単に説明を始めた。


「相手は、久しぶりの来日となる米軍だ。目的は一応、日米での対テロ戦闘に備えた合同訓練。装備類は少し機密に触れるから言えないが、人員はサプライズだ。お前でもびっくりするような、有名人にして超ベテランが来てくれるぞ」


「はぁ……それはいいんですけど、この演習に参加して僕らはどうすればいいんですか?」


「うむ、これは他言厳禁だぞ」


 部隊長は、机からもう一枚書類を取り出して、三人に見えないようにして読み上げる。


「今回の演習は、表向き、日米での対テロ対策の連携強化が目的となっているが、本質は別にある。技術交換兼、装備類の合同評価会だ。彼方さんは新型のステルス装備類の基礎技術、こちらからは比乃のTkー7改が装備しているフォトンスラスターの設計技術だ」


 少し驚いたように眉を顰める比乃に「遠回しに言えば、こっちからすれば対ステルス機を想定した模擬戦だな」と言って、自分が見ている書類に添付されていた写真を指で叩く。


 そこに写っていたのは、それまでの米国産AMWでは考えられないような、スリムさとしなやかさを感じさせる機体だった。細さで言えば、Tkー7といい勝負だろう。


 しかし、その中身は全くの別物と言って良いことは、比乃にもすぐ予想できた。最新の複合装甲に超電導モーター、火器管制システムなどのアビオニクスに至るまでTkー7よりも一段階か、それ以上の差があるだろう。次期米国陸軍主力AMW、正真正銘の最新鋭機である。


「対ステルス……というと、一年前の」


「そう、米軍も……名称はOFMだったか、あれには煮え湯を飲まされていたらしくてな。こっちで撃退したって連絡したら、向こうから感謝の品が贈られて来たくらいだ。向こうはステルスがどうのよりも、運動性、機動力の面で散々手古摺ったらしい」


 一年前、この駐屯地に攻めてきた謎の存在。暫定的に「OFM」などと呼ばれているその勢力は、南アジアの紛争地帯などで戦闘に介入。一方的な力の誇示をして見せて、散々引っ掻き回し去って行くという、なんとも傍迷惑な集団である。

 その集団は一年前にも、テロリストを相手にした内紛状態になっている南米地帯に姿を現していたのだ。


 一年前、比乃らや安久、宇佐美、ついでに部隊長たち第三師団から大損害を受けてからは、OFMの活動は鳴りを潜めていが、撃退は出来たものの殲滅はできていない。またいつ復活するかも解らないのだ。であれば、今のうちに対策をとってしまおうというのだ。


 つまり、お互いがお互いの弱点を克服できるようにする、技術交換と模擬演習。そう考えると、今回の演習日米両国にとって理に適っている。今回は部隊長の力だけでなく、政府間のやり取りも加わったのだろう、と比乃は推測した。


 であれば、それを実施する自衛官としての責任は重大であることは、部隊長が直接口に出さずとも解る。事の重要さを認識した比乃は、緊張感で頬を痙攣らせた。


「OFMを撃退した経験があるというだけなら、安久と宇佐美でもいいかとも思ったが、Tkー7改の搭乗経験も含めたらお前が適任だ。小隊メンバーの志度、心視もな」


「了解しました……ですけど、僕らここのところはほとんどTkー7に乗っていなかったので、ブランクがあります」


 比乃が困ったような顔をする。ここ一ヶ月、比乃の周辺では、AMWが必要となる事件どころか、普通のテロにも遭遇しなかった(尤も、一ヶ月前までが異常な程に過密だったのだが)。その上、訓練も、学業優先という部隊長の方針に従って、試作品であるフォトンスラスターのテスト以外はほとんど行っていないのだ。正直に言って、腕が鈍っている。


 比乃の言葉に、部隊長は「だろうと思ってな」とにやりと笑い。


「本番は三日後にしておいた。それまで剛とAMWの再訓練だ、あいつも楽しみにしてるぞ。ついでに志度と心視もだ、基礎技術からきっちり磨き直して貰え」


 それを聞いた三人は、五年前から行われて来た安久の訓練を思い出し、今度は揃って頬を痙攣らせた。

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▼こちら新作となります▼
【異世界のロボット乗りは大変です。~少女と機士の物語~】
本作の続編となっています。
この物語を読み終えて、興味を持っていただけましたら
次の作品もどうぞよろしくお願い致します。


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