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自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~  作者: ハの字
第七話「初めての学校生活と護衛対象について」
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学校生活

 それから一週間後。元から社交的で日本語も問題ないメアリとアイヴィーはともかく、東京に疎い比乃と心視、志度の三人はクラスに馴染めるか不安を抱いていたが、それは杞憂に終わった。


 最初の内は、メアリに後ろから近付いた他クラスの男子に、志度が飛びかかろうとしたり、同級生の執拗なアップローチに辟易とした心視が、スタングレネードを取り出そうとしたり、比乃の心労が絶えない出来事がままあった。だが、特に学校内でそれらが問題視されている様子は、不思議となかった。


 このクラス……というより学校自体の懐が深いというのか、生徒も教師も多少の不可解な行動くらいなら慣れているという感じなのである。比乃達にとってこれは嬉しい誤算であった。その慣れを助長させている存在が、


「ひびのんと志度に心視! 一緒に昼食を取るぞ! 晃が屋上で待ってるから早く来い!!」


 自分たちの護衛対象でなければだが。


 紫蘭は自分のSPの他に、比乃ら自衛官が護衛についていると事前に知らされていた。そのせいなのか、転校初日から「ならば親交を深めるべきだな!」などと言って、比乃ら三人を連れ回し学内や学園近辺の案内などをしていた。


 以来、どうしてか気に入られた三人は、こうしてちょくちょく昼食や放課後に紫蘭と、彼女と家が隣らしい晃と下校を共にしていたりする……最近では、比乃は「ひびのん」という変なあだ名までつけられてしまった。


 しかし、護衛対象の近くに自然に居られるという都合上、こういった誘いを断るわけにはいかない、紫蘭もそれを解っていて誘ってきている節があるが、その目的を比乃達は知らない。だが、メアリの方の護衛も行わないといけない。なので、紫蘭には家事があるからなどと理由をつけて、交代制で彼女に付き合っている。


 今も、護衛対象に呼び出されては仕方がないので、比乃たちはメアリとアイヴィーに「ちょっと行ってくる」と断ってから席を立ち、弁当箱を片手に上機嫌の紫蘭に着いて行く。


 ちなみに、メアリの学内での護衛については、手が届かない時はアイヴィーに任せてあった。緊急時のために、彼女には比乃達が持っているのと同じタイプの通信端末を渡してあったりする。


 しかし、これもまた、比乃を悩ませる種になっていた。特に用もなく、アイヴィーは比乃にばかり連絡をして、特に中身のない雑談などしてくるのだ。これでは普通の携帯電話と同じなのだが……閑話休題。


 三人を見送ったアイヴィーが、メアリの方を見て、涼しい顔をしている親友に聞く。


「……いいのメアリ、アキラさんって人のとこ行かなくて」


「良いんですよアイヴィー。ここ数日の様子からみて、まだ時間はあるみたいですし、焦って功を逃すのは、得策ではないでしょう?」


「なるほどなぁ」


 とりあえずそう感心したようにしてから「あ、見て見てメアリ、購買に変なパンが売ってて、お弁当作って貰ったのに思わず買っちゃったんだけど」と鞄を漁っていたアイヴィーは、メアリが獲物を見る肉食動物のように目を細めたのには気付かなかった。


 たまたまそちらを見ていた男子生徒の一人が突然、背筋をぞくぞくさせて同級生に「うわ……」と引かれたくらいである。


 *   *   *


 歓天喜地高等学校の屋上は、基本的に生徒達向けに解放されている。ボール遊びなどは厳禁だが、こうして生徒達が昼飯を食べたり、運動部の生徒が汗まみれのシャツを干しに来たり、片隅でカップルがいちゃついたりする場所として、有効活用されていた。


「おーい、こっちだこっち」


 屋上に上がると、先にベンチ座っていた晃が手招きしていた。紫蘭と三人はそれぞれ会釈しながら並んで座り、弁当を広げた。


 今日の弁当は質素に海苔弁と惣菜である。ここ最近、作る量が倍の六人分(内訳は自分、志度、心視、メアリ、アイヴィー、あとなぜかジャック)になったので、朝の調理時間が足りないのだ。


 しかし、比乃は手抜きしない。ちゃんとのり弁のご飯とご飯の間におかかを挟んでるし、惣菜も冷凍ばかりではなく、しっかりと自作した物である。そこらの主婦顔負けの主婦力を発揮していた。


 そんな弁当を摘みつつ、三人はいちゃつくもとい、晃に絡む紫蘭が一方的に迎撃される様を見守りながら雑談をするのが、お馴染みの流れなのだが、今回は少し様子が違った。


 まず、晃の食べているパンがいつもと違う。いつもはフライングしてでも買いに行くというコロッケパンを主食としているはずだが、今日はウインナーロールだ。


 紫蘭も、いつもなら小さい重箱を取り出して、その中身を無理やり晃に食べさせようと躍起になるのだが、今日は一言も発さずに、もぐもぐと一人でその量を平らげていた。


 一体何があったんだろう、と比乃らが揃って首を傾げていると、パンを食べ終えた晃が、今にも死にそうな顔になりながら、その理由を話し始めた。


「なぁ日比野……うちの学校、中間テストの前に学力テストあるの、知ってるか」


「それは勿論知ってるよ、それがどうしたの?」


 歓天喜地高等学校は、五月末に行われる考査の前に、春休み中に生徒が出された課題をやったかどうかの確認を兼ねて、その課題よりもほんの少しレベルが高い学力テストを行うのだ。「それがどうかした?」と逆方向に首を傾げた比乃に向かって、晃と紫蘭はバッ! と素早く床に座った。更に頭を下げて、勢い余って土下座の姿勢に移行。


「「お願いします、勉強教えてください!」」


 急なお願いに「は?」と戸惑う顔を見せる比乃に、平伏したまま二人が顔だけ上げる。まるで、悪代官を成敗してほしいとお侍さんにお願いする百姓のような二人は、口々に訳を話す。


「お前ら、この前の小テスト、古文と歴史以外は百点取りまくりだろ! びっくりだよ沖縄の学力!」


「小テストですら赤点ギリギリの我々とは大違いだ! 是非、是非に頼む!」


 つまりは、自分たちがテストでピンチなので、助けてほしいということらしい。「このとぉ~り!」「おなしゃす!」と両手をぱちんと勢いよく合わせて、もう拝むという勢いで懇願する二人に、比乃は困ったように頬をぽりぽりと掻く。


 実際、中卒とは言え“地上版の航空機”とも言えるAMWを乗り回し、その運用方法やらなにやらまでしっかり学習しているのだ。しかも、それらと関係ない科目は第三師団駐屯地のインテリ派自衛官達に師事していた。

 一般レベルの高校の理系科目、ましてや英語など御茶の子さいさいなのは確かだった。


「いやぁ僕は構わないけど、そんなに教えるの上手じゃないよ?」


「それでもいい! 取っ掛かりさえ掴めれば俺達だってやれるはず!」


「そう私たちはやれば出来る子!」


 やればできるってことは今やれてないってことだよなぁ、とか思っている比乃の制服の裾を、隣で話を聞いていた志度と心視がちょいちょいと引っ張る。


「なんか見てて可哀想だし、やってやろうぜ。面白そうだし」


「先生……やってみたい」


 最近、妙なことにばかり興味を示している気がしてならないと比乃は内心閉口するが、尚も手を合わせて南無南無している二人を見て、流石に見捨てるのは可哀想になった。溜息を一つ吐いて、了承する。


「わかった。じゃあ明日の放課後、僕たちの部屋で勉強会ね」


「「ありがとうひびのん!!」」


 ひしと抱き着いてくる二人を遂に蹴り飛ばした比乃は、またやることが増えるなと、これからのスケジュールを頭の中で組み直すのだった。

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