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自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~  作者: ハの字
第五話「長期的出張と長期的逃亡生活の始まりについて」
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新居

 比乃が新しい住まいの住所が書かれた紙を運転手に渡し、三人がタクシーに揺られること約十分。

 到着したのは、東京郊外の閑静な住宅街であった。


 東京区内ではある物の、そこは東京事変の復興開始からまだあまり経っていない頃に再建されたここは、大型のビルディングなどよりも先に住民の住む場所を作ることを目指して生まれた、大型建築がほとんど見られない地区である。

 そんな片田舎とも言えなくはない立地に、目的の新しい住居、アパート『はんなり荘』はあった。


 タクシーの窓から見えるのは、白く塗装された木造二階建て、四角くて白い様相から木綿豆腐でも連想させた。確かに「はんなり」という言葉が似合う建築物であると、比乃は感想を抱いた。


 三人は運転手に料金を払ってタクシーを降り、アパートをより近くから観察する。道路の反対側には、建物と同程度の面積がある共同の庭までついていた。ここからわかる範囲でも、綺麗に整備された芝生が見え、管理は行き届いているようだった。


 はんなり荘と書かれた木製の看板が付いている、そのすぐ脇に横付けされた鉄階段を上がる。四つ並んでいる扉の内、階段から見て一番奥にある角部屋が、比乃達の新しい部屋である。


 廊下もしげしげと観察しながら進み、比乃が事前に渡されていた鍵を差し込んで鉄製の扉を開いた。中から、真新しい部屋独特の匂いが漏れ出した。後ろの二人は、嗅いだことの無い匂いに感嘆の声を漏らす。


 どうやら、この部屋にはここ最近まで入居者がいなかったらしい。もしくは、管理人や業者が余程綺麗にしてくれていたのだろうか、と比乃は想像した。


 実際、この部屋はとある理由でこれまで入居者が殆どおらず、これまた別の理由で少し前に改修作業を行ったので、ほとんど新居に近い状態なのだ。比乃らを除けば、管理人がたまの掃除に入ったくらいである。


 まだ何もない真っさらな部屋。沖縄の第三師団駐屯地の宿舎しか生活空間というものを知らない志度と心視は「おおー……!」と声をあげて、靴を脱ぐのももどかしく、タタタッと部屋の中に躍り込んだ。


「凄いぞ比乃! これがフローリングってやつか?!」


 志度が、宿舎や駐屯地の施設ではなかった床材である、茶色いフローリングの床に四つん這いになって、しきりに手でぺしぺし叩いたり、


「食堂の奥にあるのと……同じのがある……おおっ」


 心視がワクワクしながらガスコンロのつまみを捻り、「かちかちかち」という音に慄いたりしていた。そんな同僚達を尻目に、丁寧に全員分の靴を揃えて中に入った比乃は呆れ顔で、


「二人共、いったい何に感動しているんだ……」


 そう言いつつ、自身も真っ白な壁をなんとなく無意味に撫でたりしていた。

 しばらく、そんな風に自分達がこれから住むことになる家を堪能していると、ピンポーンとインターフォンが鳴る。これも初めて聞く音に二人が慄いていた。


 その様子が少しおかしかったのか、少し笑いを含んで比乃が「はーい」と扉を開ける。見れば、青い制服を来た数人の男性たちが、各々に荷物を抱えて立っていた。制服に刺繍されたロゴマークから、彼らが宅配業者であることが比乃にもわかった。


 どうやら、部隊長や安久、宇佐美達が、比乃に内緒で家具などを融通してくれたらしい。それを比乃が知ったのは、一緒に添付られた手紙を読んでからだった。


「予定が一つ空いちゃったなぁ」


 それこそ、今からでも家具を買い揃えに行こうとした矢先だったのだが、大まかな家具の設置までして去って行った業者のお兄さん達に、その予定を奪われてしまった。


 そんな予定を立てていたことを知らない同僚二人は、物珍しげに椅子に座って木の机をすりすりしたり、寝室に持ち込まれた駐屯地の物よりも上等なベッドの上でごろごろしている。

 比乃は二人を無視して、手紙に書かれていた手順に従い、段ボールに梱包されていた通信機のセッティングを進めていく。


 その手つきは流石に小慣れた物で、物の数分で用意を終える――それと同時に、秘匿回線の表示と共に通信が送られて来た。

 そんな予感はしていたと、比乃はワンコールで受話器を取る。相手は予想した通り、直属の上司である部隊長だった。


『あーあー、テステス、ちゃんと聞こえてるかー』


「聞こえてますよ部隊長、家具の件、有難うございました」


 やり取りをしながら、様子を見に来た志度と心視に、手元の紙にボールペンで文字を走らせる。『……送られてきた家具に盗聴器の類が設置されている可能性有り、捜索、破壊せよ』それを読み取った二人は素早く行動を開始する。


 あまりにタイミングが良いので、何かそういった類の物が取り付けられていないか探る必要があった。いくら相手が上司とは言え、部下には部下のプライバシーという物がある。


『なーに門出の祝ってやつだ、気にするな……それよりも、早速だが任務の話だ』


 そんな部下の動きを知らない部隊長は真剣な口調になると、比乃達が東京に送り出された理由である任務について説明を始めた。


『例のやんごとなきお人だが、明後日の午後、東京湾フェリーターミナルに偽装船で乗り付け、そのままお隣で開催する国際交流イベントに紛れて保護する……という話になった』


「東京湾……フェリーターミナルですか」


 比乃は受話器を肩と耳で挟んで両手を開けると、ポケットから携帯端末を取り出した。該当地区のワードを検索にかけ、地図を表示させる。


 そこは、埠頭入口の道路を介した孤島と言った場所で、そのすぐ隣には、大型の公共施設である東京ビッグサイトがあった。


 更に調べると、国際交流イベントがちょうど、明後日から開催されることになっている。その警備兼出し物として、陸上自衛隊もTk-7を数機持ち込んで参加することが恒例になっていた。

 多国籍の人間が集まり、外国人観光客も多く集まるイベントにおいて、対テロ警戒としてAMWを持ち込むことは、この日本ではすでに過剰とは言ってられないのだ。


 これに乗じて、比乃、心視、志度の三人はTk-7改と共に潜り込めということだろう。


『AMWの搬入については高崎一佐に任せてあるから、向こうの指示に従え。やんごとなき人の警護についてだが、埠頭からイベント会場までは向こうが用意した護衛が何とかするらしい。とっておきの護衛らしいので、お前たちはイベント会場でささっと保護して、その後はこっちが用意したセーフハウスに移送してくれるだけで良い。その場所については一応念のため、明日伝える……何か質問は?』


「いえ、ありません」


『よろしい。では明後日までに英気を養っておけ……ま、流石にAMWを使うようなことにはならないだろうがな』


 そう呑気に言う部隊長に比乃が「そりゃあそうでしょう」と答える後ろで、超小型の集音マイクを複数見つけた志度と心視が、それらをメシャリと握り潰した。

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【異世界のロボット乗りは大変です。~少女と機士の物語~】
本作の続編となっています。
この物語を読み終えて、興味を持っていただけましたら
次の作品もどうぞよろしくお願い致します。


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