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自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~  作者: ハの字
第四十三話「迫る終末について」
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米国の動向

 その頃、アメリカの研究機関では、軍からの依頼で引き渡されたテロリストのAMWの分析を行っていた。米軍での呼称を「キャンサー」と言う、それらの残骸が数機分。施設に運び込まれていた。


 トレーラーから降ろされた残骸に、技術者たちが群がる蟻のように取り付いて、調べ始めた。検査機器を手に、装甲やら内部に文字通り手を入れて、何かを見つける度に議論を始める。


「相転移装甲の規格は、日本の自衛隊の物とは異なるのか……?」


「同盟を解いてから情報共有がされてないからな、それすらわからん」


「くそっ、こいつが日本由来の技術で造られたとわかれば、色々と口実になるのにな」


「妙な陰謀論はやめとけよ、上にどやされるぞ」


 軽口を言い合いながら、残骸をバラしたり、動きそうな機材を慎重に取り外したりと、作業を進めていく。しかし、数時間かけても、わかったことはあまり多くなかった。


 この機体は、先進国でやっと実用化されたフォトンバッテリーを搭載していること。そして、相転移装甲のメカニズムは複雑怪奇で解析不能と言わざるを得ないということ。それ以外は、アメリカの技術力を総動員すれば再現可能な程度の物しか使われていないことしかわからなかった。


 一つはっきりしたのは、もし自衛隊が持つ相転移装甲が同じ原理だったら、日本の技術力はアメリカの数年先を行っていることになる。つまり、この機体の開発に日本が関わっている可能性は、極めて低いということだった。


「既存の技術で再現できないのは、相転移装甲くらいだな。装甲に用いられている金属内の分子を変換することで、効果を発揮する仕組みは同じはずだが……」


「その方法がわからないな、単純に電圧をかけるだけで、戦闘で報告されていた強度を発揮できるとは思えん」


 何名かの技術者が残骸から離れ、ブラックボックスである装甲について話し合っている時。そこから離れていた一人が脚部の残骸を見ていると、装甲と装甲の隙間、間接の裏側に付着している物を発見した。


「これは……?」


 その技術者の男性は、ポケットからビニール袋を取り出し、手袋をはめる。そして、その隙間にあった物、こびり付いた砂を掻き出して、袋に入れた。袋を持ち上げて、照明に晒すようにしてその砂を観察する。


(戦闘中に、こんなところに砂が入るか……?)


 見る限り、運び込まれる前に付着して、固まった物らしい。軍が調査したときに着いた可能性は、ほぼない。こんな部分に砂が入り込むのは、戦闘中に砂地を転がったりしないとあり得ない。

 だが、ハワイ島で戦闘が行われたのは滑走路の上。つまり、アスファルトの上だ。砂がここまで残るほど間接の隙間に入るとは考えにくい。


 そうなると、この砂の出所は――


「これは……大発見かもしれないぞ」


 呟いた彼は、大急ぎでそのビニール袋を分析すべく、解析室に持ち込んだ。


 また数時間後、その呟きが真実となった。その砂は、南太平洋にある。小さい無人島固有の成分を含む砂であることが判明したのだ。過去に調査で人が立ち入ったのは数十年前。それ以来、詳しい調査は行われていなかった。何故か、様々な利権団体の圧力を受けて、中止させられていたからだ。


 この意味を理解できない程、技術者たちは呆けてはいなかった。

 直ちに大統領政府へと、結果の報告が行われた。


 ***


 ホワイトハウスの執務室。テロリストらの本拠地が発覚したという報告を受け、急遽集められたエリートたちが、大統領の前で終わりのない口論を続けていた。


「だから、敵の本拠地は発覚したのだから、弾道ミサイルを叩き込めばいいだろう! それで片が付く!」


 血の気の多い、スーツに身を包んだ白人が叫ぶ。普段から強硬的な発言が目立つ男だったが、今回もそれは変わらずだった。

 それに対して、同じ服装をした同じ人種の、しかしこちらは対照的に冷静さが窺える眼鏡の男が言い返す。


「衛星写真を確認しなかったのか? 奴らの拠点は島の地下深くにあることは間違いない。核を撃ち込んでも効果があるのかわからないんだぞ」


「それがどうした! ならば効果が出るまで撃てばいいだろう! そうすれば、これ以上我が国の優秀な兵士たちを摩耗させなくて済む、予算もかけないで良くなるだろうが!」 


 血の気が多い方が言う通り、数ヶ月前にハワイ奪還戦で負った損失もあって、米軍はまだ完全に軍備を整えられていなかった。その上、今は南アメリカのテロ組織の拠点を一つ一つ潰している最中である。

 敵の本拠地の候補である太平洋のど真ん中に、それを攻略するだけの戦力を送る余裕など無い。というのが、彼の意見だった。


「それはわかる。わかるが、効果の薄い攻撃を仕掛けて、その間に敵の頭が逃げ出したらどうする。手掛かりは研究機関が発見した砂が数グラムしかないんだぞ。隠れられたら、奴らが尻尾を出すのはいつになるか」


 冷静な男はそれに反対していた。敵の拠点らしき影は、衛星写真では全く発見できなかった。つまり、基地施設は地下にあることになる。相手がどれだの規模の拠点を持っているかはわからないが、それが大規模だった場合、弾道ミサイルだけでは決定打には成り得ないのだ。


「故に、私は南大陸戦線から戦力を抽出して、少数精鋭で戦力を送り込むことを提案します」


「馬鹿な! 戦力の逐次投入など、愚の骨頂だろうが!」


 それからも、二人の言い合いは平行線を辿る。それを黙って聞いていた大統領は、薄くなった自身の金髪を一撫でしてから、静かに口を挟んだ。


「……つまりだ。弾道ミサイルで敵を倒し切るには威力が足りず。確実に倒すための歩兵などの通常戦力は、用意する余裕がない。ということだな?」


「……その通りであります。大統領」


 確認するように告げた大統領は、肯定の言葉を聞くと、プライベート用の電話を取り出した。


「今から私的な電話をする。少しの間、静かにしていてくれ」


 突然の宣言に、部下の二人が「は?」と戸惑いの声をあげたのを無視して、大統領は目的の番号へと連絡する。スリーコールで出た相手に、親しげな口調で話し始めた。


「ああ、久しぶりだな。選挙前以来か……何、ちょっと困りごとだ……ん? 話したいこと? …………なんだと、わかった……こちらで掴んだ情報だが――」


 そこから、先ほど報告された情報を、ぺらぺらと話す大統領に、部下二人は思わず身を乗り出すが、それを手で制して、大統領は話を続ける。


「というわけだ……まぁ、そうだな。それしかないだろうな……そうしてくれるか、助かる。今度、上質なワインでも送ろう……ではまたな」


 通話を終えて電話を置いた大統領に、二人は詰め寄った。


「大統領! どこの誰かには知りませんが、情報を容易く漏らすなど! どういうおつもりなのですか!」


「そうです。相手はそれほどまでに信用がおける相手なのですか?」


 片方は顔色を真っ赤に、もう片方は眼鏡の縁を指で揺らしながら問う。しかし、大統領はすまし顔を崩さない。


「そうだな。私の古い友人にして、世界で一番、友達が多い奴だよ。同時に、味方にいて、これほど役に立つ奴は他にいない」


「そこまで言う相手なのですか、それで、その男はなんと?」


 部下の問いに、大統領は答えと同時に、決定を下した。


「そいつから重大な情報が入った。我々にもはや時間的猶予はない。これより、非公式にだが、各国に連合軍への参加協力を取り付ける。国連を通す時間もないからな。何、反対はされるだろうが、あいつが手を回せば、問題は無い」


 この国の長が決めた想定外の決定に、部下二人は呆然と顔を見合わせた。この後、大統領に思い直すように説得を試みたが、決定が覆ることはなかった。

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【異世界のロボット乗りは大変です。~少女と機士の物語~】
本作の続編となっています。
この物語を読み終えて、興味を持っていただけましたら
次の作品もどうぞよろしくお願い致します。


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