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自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~  作者: ハの字
第三十一話「英国の決戦について」
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事前確認

 Cー17輸送機は、何事も無くアンドリューズ空軍基地を発した。その機内で、比乃、志度、心視に加え、同じ機に乗り換えた安久と宇佐美ら自衛官組と、英国組のジャックとアイヴィーの計七名が、作戦地図を中心に座り、作戦前最後のブリーフィングを行っていた。


「我々がバーミンガム上空に到達するのは、時刻二三〇〇前後、それが作戦開始時刻となる。今回は時間との勝負となる。なお、バーミンガム都市の防衛部隊とは数時間前から連絡が取れなくなっており、安否は不明、彼らとの連携は考えないこととする。酷な言い方だが、壊滅したと見るべきだろう……降下地点はここだ」


 今回の作戦における暫定的指揮官に任命されている安久が、地図の中心から左上、バーミンガム都市部から北西側を、手に持ったポインターで指す。


 その地帯は丁度、都市部と都市部の間にある山間地帯で、AMWが動作するにも問題無さそうに思えた。市街地や避難している一般市民に被害を出さないという前提条件的にも、ベストな位置だろう。


「偵察衛星の情報によると、都合が良いことに、相手はこの森林地帯に本部を布陣している」


 ポインターをくるりと回して、その地点を示す。地図には、すでに赤丸で書き込みがされていた。


「我々はもう一機、後続でやってくるCー17にて待機中の空挺部隊に先立って降下する。敵集団の機甲部隊、戦車や装甲車、AMWなどと言った、危険度が高い標的を、見つけ次第撃破。理想は、我々より三十分遅れでやって来る空挺部隊が到着するより早く、敵戦力を壊滅させることだ」


「そりゃあまた、タイムアタックみたいな作戦ですね」


 志度が安久に軽口を飛ばす。安久はそれを咎めたりせず、むしろ「まったくだ」と同意してみせた。


「しかし、やらねばならん。さもなければ、無防備な空挺部隊が、敵の機甲部隊に蹂躙されることになる。それだけはなんとしてでも避けなければならない」


「それはごもっともだね」


 比乃が肩を竦めた。とは言っても、持ち込める戦力に限界がある以上、今いる自分達だけでこの難関をこなさなければならないというプレッシャーは確かにあった。


「それで、敵の戦力は判ってるんですか?」


 今度はアイヴィーが挙手して質問する。これが初めての本格的な軍事行動になる彼女からすれば、聞きたいことは山ほどあった。


「うむ、判明しているだけでもAMWはコンカラーⅡが十機、確認されている。それに加え、ペーチルS、トレーヴォなどの、クーデターに加担しているテロリストが保有している機体もいると考えられる。こちらは詳細な数は不明だが、相当な数がいるだろう」


 安久の「相当な数」という言葉を聞いて、質問したアイヴィーが「うへぇ」と嫌そうな声を漏らした。

 実戦経験があると言っても、小規模な戦闘を一度だけの彼女に取って、今回の作戦は重荷だろう。自分から志願したと言っても、それについて責めるのは酷という物だ。


 それに加え、この数のAMWに、上乗せするようにMBT(主力戦車)や装甲車、対空車両までいるかも知れないのだ。この大戦力を相手に、たった七機で突撃を掛けねばならないとなると、アイヴィーでなくても嫌になる。


「大丈夫よお嬢ちゃん。AMWの十機や百機、私達が纏めて引き受けてあげちゃうから! ね、剛?」


「……なぜ俺がそんな大役に巻き込まれているのかは知らんが、ある程度の数ならばこちらで引き受ける。アイヴィー嬢は、心視と共に後方支援に回って貰うので、そこまで気負いしなくて良い」


 彼女を気遣うように言うと、アイヴィーはほっとしたような、それでも安心しきれないような、複雑な表情になる。それには構わず、安久は話を続けた。


「作戦の前段階に当たって、英国空軍の生き残り部隊が、占領された北部の滑走路、その中でもテロリストが使用している痕跡がある物全てに、爆撃を仕掛けることになっている。なっている、とは言ったが、今頃その作戦の真っ最中だろうな」


 そう言って安久が手元の時計を見ると、他の全員も釣られて、自分の時計を見た。安久がごほんと咳払いをすると、全員の視線が再び地図に集まる。


「……いくら相手にAMWがあると言っても、我々が作戦を開始するまでに離陸設備の復旧させることはできないだろう。相手の航空戦力が足止めを食らっている間に、我々でケリを付ける」


 航空戦力、特に対地攻撃能力を有する戦闘機に対して、専用の対空兵器を持たないAMWはほぼ無力と言ってもいい。そして、今回の作戦に対空兵器を持ち込む余裕など無かった。

 それに本来、降下作戦とは、絶対の制空権を確保した上で行うのがセオリーだ。足の遅い輸送機など、戦闘機からしたらただの標的である。もし万が一、相手の航空戦力が残っていたら、作戦を中断して引き返す他無い。


「まずは彼ら空軍が作戦を成功させてくれるのを祈るしかないってことか」


 比乃がぼやく。すると、ジャックがその言葉をふっと鼻で笑った。


「何も心配することはないぞ、日比野少年。我らが祖国が誇る航空部隊は精鋭の集まりだ。きっと、鼻歌交じりで目標を破壊して帰ってくるだろう」


「その絶対の自信はどこから来るの?」


 じと目で自分を見る比乃に対し、ジャックは胸を張り自信満々に答えた。


「無論、陛下の名の下に決まっているだろう」


「はいはい……」


「二人とも、漫才は、そこまで……」


「そうそう、今は安久先生の説明をきちんと聞く時間よ?」


 二人の会話を心視と宇佐美が遮る。安久は何事も無かったかのように作戦の説明を続けた。


「話を敵の装備についてに戻そう。コンカラーⅡやペーチルS、トレーヴォなどの機種については、通常の兵装で撃破できる。しかし、今回は最大限の注意を払わなければならないAMWがいる」


 安久がポケットから取り出した一枚の写真を、地図の上、全員が見える位置に置いた。そこにその一機が写っていた。全体的に尖った印象を持つ、真っ黄色の機体だった。


 事前にクラーラから話を聞いていた比乃が眉を潜め、志度が呻き声を出し、心視は無言で口をへの字に曲げた。これまでの現行機に無い、見たことがない機種。こいつが例の化け物であることは明確だった。更に言えば、テロリスト謹製の特殊機だということも。


「推測だが、バーミンガムの防衛部隊はこいつ一機に壊滅させられた可能性が高い。どの国の物かはまったく不明。しかし、一度交戦し生き残ったパイロットの証言。これはクラーラ整備主任からの又聞きになるが、その話から考えて、こいつはテロリストが生産した機体であると考えられる」


「その根拠は?」


 テロリスト、特に特殊な兵装を持った相手と本格的に戦闘をしたことがないジャックが質問を投げる。安久は表情を変えず、いつものむっつり顔のまま答えた。


「こいつが、既存の物とは逸脱した装置を搭載しているからだ。我々は、何度かそれらの装備。例えば、我が国で開発中の相転移装甲を完全に実用化している敵機と、やり合っている。英国が隠していた秘密兵器が鹵獲された、というわけでもなければ……答えは一つしかないだろう」


「なるほど、よく判った」


 本当に判ったのかよくわからない態度で、ジャックは大きく頷いて見せた。どうやら、逸脱した装備とやらの実感が、いまいち湧かないらしい。逸脱した存在の代表格であるOFMとの戦闘経験もない彼からすれば、当然の反応かもしれないが。


「しかしだ。我々が今回日本から持参した装備も、ある意味では逸脱した側の兵装だ。対抗できる目は十分にある。怪物退治は、比乃、志度、心視に任せる」


「つまりは役割分担だな、あい判った。雑魚は安久大尉らと私、アイヴィー嬢で蹴散らすと」


「そういうことになる」


「結構だ。直接怪物退治ができないのは残念だが、了解した。大尉殿」


 ジャックがまた大きく頷くと、他の面子も了解したとばかりに首を縦に振った。全員の意思を確認した安久が、最後の決め事に話を移す。


「うむ、それでは最後にポジションを決める。前衛が俺と宇佐美、志度。中衛を比乃とジャック氏、後衛を心視とアイヴィー嬢に任せる。例の化け物が現れた場合は速やかに――」

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【異世界のロボット乗りは大変です。~少女と機士の物語~】
本作の続編となっています。
この物語を読み終えて、興味を持っていただけましたら
次の作品もどうぞよろしくお願い致します。


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