困惑の第三師団
諸元
・三○式人型歩行戦車
形式番号:Tk-7
分類:第三世代AMW
所属:日本陸上自衛隊
製造:五つ星重工
生産形態:量産機
全高:七.三メートル
全備重量:約六トン
動力源:スーパーバッテリー
武装:十口径百二十ミリ砲「短筒」
高振動ナイフ
対装甲炸薬ナイフ
多目的アンカー「スラッシャー」
対電子兵装テイザーガン
他、オプション多数
乗員:1~2名
日本の最新国産主力AMW。
陸上自衛隊が運用するAMWとしては二代目となる。
正式名称は、日本ではAMW=歩行戦車という位置づけになっているため、それまでの主力戦車と同じ名称の定め方がされているが、もっぱら型式番号であるTk-7(ティケェセブン)と呼ばれることが多い。
軽く、素早く、高火力をコンセプトにしている。
また、オプション装備が非常に充実しており、高拡張性を誇る。
『pekepediaより』
あの後、技本へと送られた残骸の調査結果が来るまでの数週間。陸上自衛隊沖縄方面第三師団、通称「第三狂ってる師団」では、日夜、安久と宇佐美が遭遇した新型と思われる未確認AMWの正体に関する推測と、次に現れた場合の対応策について議論が重ねられていた。
例えば、機士科の自衛官たちが自由食堂(持ち込み可、出される献立も多数なので自由)で顔を合わせると、
「だから、安久が言ってたように装甲が固くても関節フレームの強度はそれほどでもないんだから、裸締めにしてメインカメラをだな!」
と、握り飯を持った腕を交差させてジェスチャーをする筋肉漢がいれば、
「そこまで接近するのにどうする! 相手はこっちの装甲を熱したバターナイフでマーガリンを切ってホットケーキに乗せちまう切れ味の近接格闘武器を所持してるんだぞ!」
こんな風にな! と一人がパンケーキにナイフをぶっ刺して口に放り込みながら反応し、連鎖して反対側でどんぶりを抱えた大柄なマッチョマンが、
「だったら複数でかかればいいだろ! ケミカルドッキングで最も脆く、そして最重要部である股関節を圧し折ってやるんだよ!」
その為にも体力つけるぞ! と牛丼を掻っ込み、更にそれを後ろで聞いていた別の隊員が
「馬鹿野郎! それじゃあ相手も二機いねぇとダメじゃねぇか! タッグマッチで正々堂々と挑むしかないってことだぞ!」
沖縄本島がリングだ! とホットドッグをマイク代わりに握り締めて叫び、ケチャップとマスタードをぶにゅるると飛び出させる。
このような風景が駐屯地のそこかしこで見られ、施設内をざわつかせていた。
格納庫の技術スタッフ、整備班に至っては、特に秘匿も隠蔽もされていなかったため、少し失礼して収めた写真を見ていた。そして、やれ「明らかにモータや駆動部がない」「人工筋肉にしても動力用パイプの面積がない」「そも、これは本当に機械なのか」など、やいのやいのと大盛り上がり。
果てには、Tk-7に収められていた映像記録を確認して、明らかに質量保存の法則を無視した光る刀剣の展開や、それを受けた二番機の損傷具合に、空を飛んで逃げたという情報を含めて議論をヒートアップさせた。
「つ、遂に宇宙人が侵攻してきやがったんだ……アメリカではなくこのジャパーンに!!」
「ノーン!!」
「急いで技本に議論結果をまとめて送るんだ、光線銃でも用意してもらわなきゃTk-7に勝ち目はないぞ!」
「光子魚雷もだ!」
と半狂乱で騒ぎ出し、その議論内容を周囲に流布しまくって大騒ぎした。
そして、AMW模擬演習で筋肉バスターを繰り出して演習機の股関節を損傷させた隊員らにキャメルクラッチを食らわせて制裁したばかりの部隊長に、しこたま怒鳴りつけられた上で
「私たちは会議室をエイリアン映画のシアター会場として私物化しました」という看板を首から下げさせられ、罰として格納庫の大掃除をさせられた。
それらの騒動の結果。
「お、俺達が相手するのは宇宙から来た悪の帝国ニッポホロビーロン将軍だって話だけど……マジかな? 今からでも必殺技とか考えといたほうが良いか?」
「どうしよう……比乃、私、宇宙人の急所は知らない……どこを吹き飛ばせば死ぬの?」
などと、若干一般常識に欠ける二人が、同年代にしては常識的な同僚にこのような相談を持ち掛け、その同僚、比乃を大いに悩ませることになった。
「……あのね、二人とも、僕も昔はそういう本を読んだり、映画を見たりして、それと戦うヒーローとか、英雄に憧れたりもしたよ? でも現実にはいないの、宇宙生命体は少なくともこの銀河系にはNASAとかの発表だと微生物レベルがいたらいいかもねってくらいで、突然悪の宇宙帝王が日本をピンポイントで攻めてくることはないよ。で、頭とか心臓じゃなくて手足を吹き飛ばさないと死なないクリーチャーも存在しないの、僕たちが相手するのはあくまでも生きてる人間なんだよ。いつも通り、何も怖くないって、だからさぁ……」
比乃は子供を諭すようにそこまで早口で言ってから、自身の左右を交互に見て
「自分達の部屋の布団で寝てくれない?」
シングルベッドの上、自分の両脇を固める同僚二人に告げた。
ちなみに、現在時刻は夜一二時である。
傍から見れば、見た目はよいショタとロリの三人組が寄り添って寝ている可愛らしい状況にも見えるが、ベッドの主からすればただ迷惑なだけだった。
部屋が隣の志度はともかく、心視に至っては、女性宿舎から抜け出してきていた。
事が発覚すれば厳重注意物だが、そんなこと御構い無しである。
「い、いやだってさ……比乃がそう言ってるだけで実はいるかもしれないしさ……」
「人間なら殺し方は分かるけど……知らない生き物はちょっと……」
「こわい」とハモってひしと比乃の身体にしがみ付く。三人揃って小柄なので、ベッドから落ちる心配などはないが、それでもやはり窮屈であるし、心視は所々感触が柔らかくて困るし、志度に掴まれている部位がミシミシ言っていて非常に困る。
もはや説得は不可能だと悟った比乃は、溜息を一つ付いて天井の見上げて
「……宇佐美さんと剛、ちゃんとやってるかなぁ」
と、技本へと情報提供のため出張した、一応ちゃんとした大人の同僚二人を思って現実逃避したのだった。
この日からしばらく、毎晩のように寝床に侵入してくる二人に、眠れるまで何か話してくれと懇願され、夜の朗読会を強要されたり、二人がかりで関節技をかけられたりと、比乃は寝苦しい夜を過ごすはめになった。




