第62話 妹の成長〜513年目の我儘〜
ルビの無い魔王は、普通に「まおう」と呼んでください。敢えての使い分けです。ご注意を。
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下記は、ネタバレを含む設定資料です。
いくつか項目があるので、ご注意を
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2016/10/14 サブタイトル話数変更
その真っ黒な馬車は二頭のスレイプニルによって引かれていた。その為、やや大きめの馬車であった。よく調教されているようで、大人しい。だが、人種の居るところに顕れるような馬ではない為、ヘイカスネン辺境伯は、顔が強張っていた。ヘイカスネン辺境伯以外は、平静を保つことが出来ている。
流石は肝が座っている
仁は、ラドカーン王子の頬に汗が流れたのを見逃さなかった。馬車の馭者台から、人型になった執事然とした魔人が降り立った。それから、馬車の扉を開き、これもまた真っ黒なドレスを纏った黒髪の少女が馬車から降りる為に、手を差し出している。二人の従者に傅かれ、魔王は、一歩前に進む。
仁は、打ち合わせ通り、ラドカーン王子の右 傍から半歩後ろに下がった位置に移動して魔王陛下を迎える。ふと、目が合う。一瞬だが、魔王の目が喜色に彩られる。が、すぐに澄ました顔に戻る。7人が声を揃える。
「エウロパ王国へ、ようこそおいでくださいました、魔王陛下」
続いて、ラドカーン王子が自己紹介し、ラドカーン王子が、仁に促すように手を指す。
「ようこそ魔王陛下。この度、応接を承りました。ジン・ミツルギと申します」
仁は、魔王の口が「お兄ちゃん」と動くのを見逃さない。が、今は放っておく、続いてアルヒンマキ大公に促しを送る。魔王は、無視されたと思ってか、眦を吊り上げる。仁が、視線を戻し、兄妹でしか分からない程度の睨みを見せる。一瞬だが唇を尖らせ、また、澄ました顔に戻る。
アルヒンマキ大公が、やや吃らせたのは、魔王の百面相を見てのことだろう。
すいません、大公
恙無く、出迎えの儀が終わると、謁見の間に進む。そこで、魔王は、突然の要求をしてくる。
「大使殿、手を」
そんなの打ち合わせにねーよ!!
魔族側も慌ててるな
魔王のアドリブか
「畏まりました」
仁は、ダンスを誘うように、手を差し出すが、気に入らない様子。さらに、魔族側は慌てている。勿論、エウロパ側もだ。魔王は、聡明で強力な魔王としては、有名だが、我儘だと言う話は聞こえてこない。おそらく、久しぶりの我儘なのだろう。魔王は、「んーん」と首を振り、催促してきた。
「違う!いつものように」
魔族側は、唖然としている。エウロパ側は、何が起こったかついてこれない様子だ。仁は頭を抱えたくなったが、ここは、姿勢を変えず、再度、ダンスを誘うように、手を差し出す。痺れを切らしたのか、魔王は、手を振り払って、自ら両手を差し出した。
「お兄ちゃん、手を繋いで」
元の世界での町の祭りで、小学生の頃の莉は、迷子になったことがあった。それも何度も。わりかし活発は莉は、神輿を見て、じっとしていられなかったらしく、すぐに走り出し、兄仁と逸れた。見つかった時、涙を堪えながら言ったのが、ちょうど今言った感じの「お兄ちゃん、手を繋いで」だった。
この世界で迷子だったとでも
言いたいのかね〜〜
この子は
魔族側もエウロパ側も、仁に注目している。仁は、もう我慢できなくなった。右手で、顔を抑えると、溜息を一息。魔王の右側に立つと、「ほい」と小声で言い、ぶっきらぼうに左手を差し出した。
「へへへ、お兄ちゃん大好き」
莉は、全身で絡め取るように、仁の左腕を掴み取った。
「はしたないぞ、莉」
「へへへ、う゛れ゛し゛い゛よ」
「最後まで、我慢なさい」
「あ゛い゛」
その様子は異様だったろう。天下に轟く魔族の王が、一介の士爵の左手を握り、ぶんぶん振りながら、歩く様は。
小学生に戻ったみたいだな
謁見の間に着くまで、その状態が続き、謁見の間に入る際、手を引き離したが、かなりの抵抗を受けた。「また、後でな」という、仁の言葉で、何とか離してくれた。
その後、魔族側とエウロパ王族側の初日の対面は、恙無く進み、予定の最後の項目を迎えようとしていた。しかし、魔王の門前から謁見の間の扉までの様子を知っている者たちは、かなりの不安を感じていた。最後の予定とは、「後日の仁の子爵への陞爵」と「仁とマデーレン及びマーガレットの婚約発表」。前者はまだ良い。問題は後者だ。仁のいる位置からは、王に注進出来ないし、身分的に不可能だ。チラッと大公が、仁を見た。仁は首を振る。大公が溜息をつく様子が分かる。項目毎に、少し休憩が入る。その機会を逃すまいと、大公がカイロン王に小声で、注進したようだ。驚きの顔を見せたが、納得したようだ。機会は、まだある。時期が未定だが、魔王が、エウロパ王国を去る際にも、同じような儀式がある。当然、全貴族が揃うのだ。その時までに、仁が何とかするしかないだろう。
しかし、前者も魔王には、問題だったようだ。仁の陞爵が発表されると、魔王は物言いを入れた。
「カイロン王、おに、ジン・ミツルギを子爵にされるとの事ですが、その程度の身分ならば、ジン・ミツルギを魔族領に迎えたい。そちらの大公に当たる地位と、魔族領のうち、タイカッツォ神魔領、テルビンド神魔領をお渡しする用意がある」
タイカッツォ神魔領、テルビンド神魔領?!
何それ?
奴らの領地が残ってるの?
二つ合わせると
現在の魔族領の5分の1だぞ!
第一級の魔族じゃねーか
仁が魔王だった頃、右腕左腕の忠臣であった、タイカッツォとテルビンドは、功績が高すぎるという理由から、それぞれ魔族領の10分の1の領地を授けた。その当時から、魔族領の大きさ自体は変わっていない。魔族側の側近と思しき2魔人は、慌てた様子は無い。事実なのだろう。そして、魔王が、まるで、臣従に近い形で、外交の為の来訪になったのは、これを告げる為に相違無い。
「な。マリーン王、ジン卿は、この国になくてはならぬ存在。それは聞き届けられませぬぞ」
「聞き届け頂けるなら、そちらの要望は全て、受け入れましょう」
謁見の間が騒めく。外交の手法として、不可能な要求も何手か入れる。それをも受け入れると言っているのだ。勿論、魔族側の要求もエウロパに来ているはずだが、エウロパ側の要求も事前に送ってある。エウロパ側から要求を増やすことは出来ないが、それはあまりにも美味しい話に違いない。
ほぉ、莉め
得意の揺さぶりをここで切るのか
さて、エウロパはどう動くかな
仁は不謹慎にも、場の動きを愉しむ姿勢に入った。そして、自身の出番までは、沈黙を守ることにした。
「ぐ、いや、マリーン王、外交は外交。ジン卿の事とは、切り離して頂けないか」
「それは、一度国に帰り、仕切り直せということか?ジン・ミツルギの件は、魔族領領国議會を通している。すぐさま、とって返すぞ。そちらの要望はそのままに、こちらの要求はジン・ミツルギの魔族領入り、一択になるがな」
「ぐぐ、その場合、外交は取りやめとなる」
「ほぉ、魔族を敵に回すか?良いぞ。ジン・ブラド・レイ以前の時代に戻すか」
「な!!魔族はそれで良いと?!」
「無論」
詰んだな
「しかし、それでは、ジン・ブラド・レイ大魔王の意思に背くのではないのか?」
「あれは、所詮、思想だ。如何様にでも解釈出来るように、作られておる」
あー、まぁそうね
取りようによっては
世界統一してから仲良くしてもいい
って内容だからね
「そうなのか?ジン卿!」
仁は頷くだけにとどめ、発言は控える。
「ま、誠か」
カイロン王は青ざめ、続きの言葉が出せない。他の貴族たちも何も言えないようだ。
初戦外交は、エウロパ側の敗北だな
仕方ない動くか
「何も言えぬか?了承と取るぞ。さぁ、おに、ジン卿!魔族領へ行こうぞ」
「魔王陛下、初戦外交の勝利、寿ぎ申し上げます。早速ですが、第二回戦と参りましょうか?」
「え?お兄ちゃん?!なんで?!」
「え?」×68
「初戦から切り札とは、大きく出ましたね。切り札を切るときは、どうすべきと言ったか覚えてらっしゃいますか?」
「『次の手を用意しろ』。嘘!お兄ちゃんが、次の相手?!勝てる訳ないじゃん!!お兄ちゃん、攻め手も守り手も30手以上ある上に、どうにか逃げようとしても、それを逃してくれないじゃん。ねぇ、一緒に暮らそうよ。お兄ちゃんは、召喚されたばかりだから、何ヶ月ぶりかもしれないけど、私は513年待ったんだよ!!嫌だよ。また、別々なのは!!ねぇ、お兄ちゃん」
「ごめんな。莉、この前、親父に言ったばかりだが、俺には俺の人生があるんだよ。それにな、俺は500年前にこの世界にいたぜ?13歳で、こっちに来れなかったってこたぁねえよな?そんな身体にはなってないはずだ。完全一子相伝タイプとして作り出した鬼人なんだからな。意識を持った瞬間から、誰よりも強かったんじゃねーの?」
「うう、お兄ちゃんの人生かぁ。え?何で知ってるの?この身体は、性別の違いはあっても、義父と同じ力を持っていた。義祖父の力が元になってるって、聞いてる。私は、さらに鍛えたけど。てか、500年前にいたって?」
「そうだよ、俺の人生。鍛えたか、そうだろうな。シュテンやイバラキより、強い鬼気を感じるよ。500年だけじゃない。1000年前にも、1500年前にも、その前にもいたよ。てか、義父とか義祖父って、イバラキもシュテンも泣いちゃうぞ?あいつら泣き虫なんだから」
「え?本当にいたの?あー、確かにあいつらは泣き虫だけど。でも、何で、義父の名前や、義祖父の名前を知ってるの?」
「ああ、本当にいたよ。結局、泣き虫は治らずか。シュテンは、俺の養い子だからな」
「ええ?じゃ、お兄ちゃんが、太祖ジン・ブラド・レイ様?!」
やっと収束した
昔からポンポン思ったこと言う子だよなぁ
てか、様付け?
「そうだよ」
「そっか、ならずっと一緒に居たんだね」
「そうだな」
「嬉しい。カイロン王、さっきは、すまぬ。先程の提案は取り下げよう。本番の外交はまた後日としたいが良いか」
「え?良いのか?」
「ああ、私の身体はな、ジン・ブラド・レイの遺伝子を元にジン・ブラド・レイの約10分の1の力を持って義祖父が産まれてきた。先程、ジン卿が言った完全一子相伝とは、義祖父と同じ身体には産まれてくるということじゃ。ジン・ブラド・レイの9人が前世の一人、ジンビール・マグヌスの技術でな。どんな理かは知らぬが、前世が過去だったり未来だったりするがの」
「イデンシとやらが何のことか分からんが、つまり、自身の中に兄がいるから、良いと言うことで良いのだな」
「皆まで言わすな ・:*:・(*/////∇/////*)・:*:・それと、マデーレンとマーガレットだったか?そち等のジン卿との婚約は、今後の対応次第で認めようぞ」
知ってたのか
しかし、誰が流した?
間者の影なんて全く気づかなかった
あ!母さんか!!
ったくぅ
発表前だって言ったのに
魔王の口から、婚約の件が出た為、他の貴族たちは、反対意見が出せなかった。つまり、なし崩し的に承認されたことを意味する。最終的に決めるのは魔王に任せたという形だが。
おそらく、反対する気はないのだろうな
これを言う為の流れだったんなら
上手くなったもんだよ
次の手か
やられた
「ふふふ。勝ったかな?さて、お兄ちゃんの屋敷に連れてってよ」
「分かった。2人も来て良いよな?」
「勿論!」
魔王と仁は揃って退出した。2魔人とマデーレンとマーガレットが続いて退出した後、謁見の間全体がほっとした雰囲気になったのは、言うまでもない。
莉の「お兄ちゃん」ですが、好きな妹キャラの声優さんを想像してくださいw
私は、個人的に悠木碧さんでしょうか?