第58話 1000年前の真意
ようやく、第13話の伏線が回収できた。
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下記は、ネタバレを含む設定資料です。
いくつか項目があるので、ご注意を
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2016/10/13 サブタイトルの話数変更
鉱山とか鉱脈とかというと、最初に浮かぶものは何だろうか?仁が最初に思い浮かべるものは、佐渡金山であろう。某ドラマが誰もが知っている放送局から、放映されたのは、召喚の4年前の事。新田次郎の『武田信玄』が原作のあれだ。小学生だった仁は、かなり興奮しながら、日曜日のテレビ(土曜日は学校の為、再放送は見ていない)にかじりつく様に見ていた。
仁は、中学生になる頃、佐渡金山と称される金脈が、戦国時代には未発見であった事を知りガックリした。しかもかの小説では、上杉謙信が、佐渡金山を密かに領有している様に描かれているが、上杉家が金が取れる地域を領有したのは、謙信の養子、上杉景勝が武家清華家に列せらた翌年の天正17年に佐渡を領有していた本間(羽茂)高頼らを討った後のことだ。その後、慶長6年には、徳川家康の所領になっている。上杉家が、この地域を領有したのは、約12年間だけである。徳川家康が領有した年に、北山から金脈が見つかり、江戸幕府の重要な財源となった。しかし、昔から、佐渡で金(砂金)が取れることは、知られていた様である。11世紀後半に成立されたとされる『今昔物語集』には、「能登の国の鉄を掘る者、佐渡の国に行きて金を掘る語」という段があり、伝聞の収録という形で描かれている。
さて、だいぶ話が逸れたが、この世界で採掘されるのは、鉄・銅・銀・金・宝石だけではない。ミスリルやアダマンタイト、知られてはいないが神域に行けばヒヒイロカネやアポイタカラなども手に入ることがある。しかし、どの鉱脈に対してもそうだが、この世界の採掘技術は、露天掘りしかない。露天掘りとして有名なものは、サハのウダーチヌイにあるダイヤモンド鉱山とか、南アフリカ共和国のキンバリーにあるダイヤモンド鉱山とかチリのチュキカマタ銅山だろうか。
流石に、重機を使った露天掘りを伝える事は出来ないが、地下掘りまたは坑内掘りと呼ばれる技術を伝えるくらいは出来る。土属性の魔法を使えば、重機並みの露天掘りは出来そうなものなのに、そんな坑道は見たことがなかった。それは、魔法の使い方が労働や産業に志向せず、戦闘や戦争に特化したためだろう。建築に傾倒できるなら、採掘に目を向けても良かろうにと思うのは、仁が高レベルの鑑定を使えるからだろう。地下を鑑定しながらでなければ、優れた土魔法の遣い手でも、鉱脈ごと大地を抉るだけなのだから。露天掘りは、簡単に言うと下に下に掘り下げる採掘方法、地下掘りまたは坑内掘りとは、横に掘っていく方法。
なんで縦しか浮かばないんだろう?
既存の方法しか知らない仁には、そんな疑問が頭を擡げる。
所詮は、本で得た知識でしかない
実際、現場で働いた訳ではないから
生きた知識ではないのかもしれない
そう思いながら、仁は、屋敷に訪れたライムント、ラウレンツの示した資料に目を通していた。流石に火力採掘や水力採掘などの砕く技術はある様だが、掘る方の技術が拙く思えたのだ。エチウカサ茶を飲みながら、地下掘りまたは坑内掘りと呼ばれる技術について、説明していった。ライムントとラウレンツは、その様子を時折、大きくうなずきながら聞いていた。ちょうど、お茶が切れた頃、エルナがお代わりのお茶を持って入室してきた。
お茶のカップは3つ。実は部屋には、エルナを除き、4人いる。
見事な隠形スキルだな
これが
ギムレット商会諜報機関「シヤリジゼ」の長か
しかし、お客様にお茶も出さないというのはなぁ
「なあ、ライムント」
「何でしょう?」
「ジャバルドは、喉渇かないの?」
「「「え?」」」
つい声が出たって感じか
「ジャバルド、姿を見せていいよ。それともそちらにお茶を持って行こうか?」
仁は、応接室の隅、華が飾られている大きな花瓶の傍を見つめる。実は時折、見つめては、反応を見ていた。仁がジャバルドに向けて発言するまでも、目が合う瞬間は何度もあり、ジャバルドには、何度も移動されていたりする。流石に、背後に回られると、不自然に顔を回すわけにはいかないので、背後に向けては、ピンポイントで、ジャバルドに軽く威圧がかかる様にしてあった。それを嫌ってか、背後に回ろうとはしなかった。
察知スキルも優れているか
ジャバルドは、観念して姿を現した。ハーフリングまたは小人族と呼ばれる姿を。エルナは、声には出さないものの、かなり驚き、ビクっと体を震わせた。
「エルナ、カップをもう一つ追加して」
「畏まりました」
エルナは、そそくさと退室し、すぐに新しいカップを持ってきた。そして、またすぐに退室した。
「初めて顔を見せてくれたね。よろしく」
「ジンの旦那、お初にお目にかかりやす。ギムレット商会諜報部『シヤリジゼ』の長をしておりやす、ジャバルドと申しやす」
「ジン様、いつから?!」
「最初からと言えば、最初からだね。エウロパに入国してから、ちょくちょく見かけてたよ。流石に、エルフの村を知られるわけにはいかなかったから、ちょっと細工はしたけど」
「なるほど、あんときゃ参りやした。進みたい方向に進めなくて、エルフの隠れ里の結界くらい、いつも通っているくらいの感覚だったのに」
「なんだ、知ってたのか。まぁ、そうでなきゃ、諜報機関の長は務まらないか」
「そうでやすね」
「まぁ、あの時は、自分がジングロールだった事は、隠しておきたかったからね。もう掴んでいたかもしれないけど」
「いえ、半信半疑でやした。ただ、あのエルフの隠れ里に入れなかったことで、確信に至りやしたが。おそらく、旦那は隠したいんだと思って、ライムントの旦那には、仄めかす程度にしか報告しやせんでしたよ。何故か、報告したくない気になりやした。すいやせん、ライムントの旦那」
「構わないよ。ジン卿は、我らが主人。諜報機関の長ならば、その事にいち早く気づいたろうからね」
「感覚でやすが、この人の為にならない事はしていけないって気になりやした。へへへ、血ですかね」
ジャバルドは笑いながら、人指し指で、鼻の下を擦った。その仕草で仁は、オータム・リーブスだった頃、よく一緒に飲んだ二人の仲間の顔を思い出した。片方は言わずと知れたラジェスタ・アルヒンマキ。片方は、自身の右腕と信頼を寄せていた小人族のヘルバシオだ。
「そうか、君は、ヘルバシオの血を引くのか」
「へい。ヘルバシオの直系でやす」
エウロパに限らず、この世界の歴史書には、オータム・リーブスには、右腕として、ヘルバシオという謎の男がいたとされている。ヘルバシオが目標屋敷の情報を収集し、ラジェスタ・アルヒンマキが貴族の滞在スケジュールを調べ上げてくれたから、盗賊団「落葉群」は不殺を貫けた。でなければ、いくら義賊だからと言って、世界の偉人に入るわけがない。盗賊は盗賊なのだから。
そうか
いつの時も仲間はいたんだな
ただのNPCと思っていたのに
もっと、本音でぶつかれば
くっ
「だ、旦那。泣かないでください。そんなに、ヘルバシオは大切な仲間だったんでやすか?へへへ、嬉しいな」
嬉しい?
だから、ヘルバシオは国境までついてきたのか
仁は、ヘルバシオが別れ際に涙を流していたのを、覚えている。別れの言葉はくれなかったが、国境を越えるところまで、隠形のままついてきてくれた。そして、仁は同じように仲間だったラジェスタの真意に気づく。
そうか
だからか
ラジェスタがあの時嬉しそうに笑って
右手を差し出したのは
1000年前の大乱で、自身の婚約者を含んで王族が全滅した時、「今度は僕を助けてくれないか?」と右手を差し出した。逆光でラジェスタの顔はよく見えなかったが、ラジェスタは笑っている気がした。その時のラジェスタの真意を、ようやく理解できた気がした。そして、別れ際に送られた指輪の意味も。
男同士だろうがよ
せめて腕輪とか短剣とかにしとけよ
まぁ、印章だけどな
そうか
そう思っていたのか
悪ノリと気分の産物だったんだがな
生真面目すぎるぜ
ラジェスタ
「ん?そう言えば、ヘルバシオには、ラジェスタから、指輪とか送られてなかったのか?」
「おや?知らないんでやすか?指輪の発案は、ヘルバシオでやすぜ。柄はラジェスタ王に任せたようですが。だから、二人から贈ったものでやすぜ」
「そんな事、ラジェスタは一言も言ってなかったぞ?別れ際も、国境を越えるまで、ずっと近くをついてきたけど、顔を出さなかったしな」
「あー、だからあんな変な口伝が残ってるんでやすね」
「どんな?」
「『ここで本当の別れだと思う時に名前を叫んでくれる仲間を作れ』って」
「ブフっ。あいつ、俺が気づいてなかったと思ってたのか。近くにいるって分かったから声をかけただけだったのに」
「あー」
それから、深夜まで親交を深めた。その上で、妖精を使った諜報の方法を教え、情報をジャバルドに精査してもらう事になった。ジャバルドの話では、ヘルバシオの一族や盗賊団「落葉群」の末裔たちが、エウロパ各地に点在し、盗賊はしていないものの、闇の者として不殺を貫き、生き抜いていると聞いた。それらを集め、仁の諜報機関を作ってくれるとの事だった。勿論、この事はライムントらには内緒でである。
ラジェスタが何を考えていたのか敢えてボカしました。読者の皆様の想像に任せます。
それと、
天正17年は1589年、慶長6年は1601年です