閑話 アッスントの策謀
息抜きのついでです。
実は、長くなりすぎてしまったので、
2話に分けました
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日は2話投稿になります。
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まぁ、仁が出てない話なので、閑話ですから、
読まなくても大丈夫ではありますが、
次投稿分の背景になる閑話となっていますので、ご注意を
アッスントは、十束を、見送り物思いに耽る。
ふむ
わかりやすいな
ジン君と比べて
アッスントは、仁のおかげというが、それだけで、第一王子の座を手に入れたわけではない。アッスントは人の心を読む事に長けていた。大公にそう育てられたし、天性として、そのような能力にも優れていた。だから、人の心の機微をつく、仁の作戦も第一王子の地位獲得の一つの方法として、利用できた。
アッスントから見ても、仁は隙がなかった。心を読む事が出来なかった。逆に読まれているとも感じたからこそ、「凄かった」と評したのだ。常に有利に立ち回られた。婚約者の件も、絶妙のタイミングであった。いくら大公の娘だからとは言え、心理的には、賊に犯された女を妻に迎えたいとは思わないはずだ。それは、今考えればの話だ。あの時は、そんなこと思いもつかなかった。大公も同じ思いだったそうだ。自分の娘だから愛おしいが、そんな目にあった娘を嫁に出すわけにはいかないと、普通は思うはずだと。それなのにである。それなのに、自分たちの心の少しの隙を、縫い針の穴に糸を通すような隙を、すっと通すように、切り出され、今に至る。その隙に差し込まれた糸は、抜糸できないようで、そんな娘を妻にしたいと思わないはずだと思う今でも、婚約者を変えられない。意味が分からないと思う。
そんな仁と比べると、十束ら、召喚者たちは、隙だらけだった。心が読めるし、扱いも容易い。求めている答えを見せているようにして、誘導すれば、すぐに引っかかる。彼女らは、仁の元に行くために、自分たちを低く見せているのだろう。焦りが見えるのは、計画がうまくいっていないからだろう。
アッスントは、自分ならばと考える。自分ならば、策がうまくいかなければ、次善の策も与えるか協力者を作る。わずか1日で、王城を退去した仁が、協力者を作れるはずがないと考えるのが、普通だが。
ふむ
協力者はいるな
ジン君が抜けた日か
全宰相モーノは父に殺されたようなものだと聞く
同日、テオルグが辞職を願い勇者教育係になった
兄が死んだのはたまたまだろう
近衛将軍サカリアスは兄の巻き添えで死に
翌日、テオルグの娘が
電光石火の如く退職して
数日後実家に帰った
実家はエウロパのスリギアか
繋がった
協力者はテオルグで間違いなかろう
テオルグを始末するとどうなるか
“どうなると、思う?”
突然、妖艶な感じでいて、幼い子どもとも取れそうな、無機質で年齢不詳な女の声が、聞こえた。答えを楽しみたいようでいながら、ゾワッと背筋に氷でも入れられたような声である。アッスントは、あたりを見渡す。執事やメイドは何事かと、王子に駆け寄った。
気のせいか?
“そなたにだけ聞こえている
気のせいではない”
どなたかな?
“やはり聡明だ
普通は、声を出しそうなものを
私は、監視者
召喚者を見守り、うまく仁様の元へ導く者
テオルグも知らない第7の策”
第7だと?!
一体いくつあるのだ
“答える義務はないが、
ある程度、お答えよう
私も知らない
テオルグが私の存在を知らぬように
私も知らない策があると思われる”
答えていないようなものだ
"さて、人間
テオルグを始末したら
どうなると、思う?”
この人間という呼びかけは、精霊種、龍種、神種などが、人種人族を蔑みながら、呼ぶときに使われるものだ。元々、魔法が使えずにいた人族を、人種の中でも間引きされるような存在とか間抜けな存在とかという意味で「ジンマ」と呼ぶ。この声の主は、人種ではない事が窺える。仁は、神種数体を使役すると聞く。つまり、USSランク越えの何かが、気配を消して、監視していることに他ならない。テオルグは放置せざる得ないだろう。それで、召喚者らが、一人もいなくなる。カリメイが滅びるのと引き換えなら、諦めざるを得ない。
カリメイは壊滅でしょうか?
“よく分かっているじゃないか人間”
全員をスリギアに送った方がいいでしょうか?
“全員はまだ早い
が
いずれは、そうした方が良いやもしれぬ”
ふと「監視者」を名乗る何者かの気配が消えた。アッスントは「ふぅ」と汗を拭う。えもしれぬ恐怖に汗が止まらない。
全員はまだ早いか
全員でなければいいか
何かないか?
何人かを送り込む手段
ふーむ。王宮はメイドが少なかったな
召喚者らにメイドを割り当てているからな
ミナコの力はおしいが
また、スミレの頭の回転も惜しいが
いっその事、女子12人はスリギアに送るか
何かきっかけが必要だな
そう言えば、
エウロパ王の第三王女の
快気祝いを出すんだった
それに乗じよう
使者は・・・
兄の関係者を送るか
メイドが足らない理由の一つでもあるが
専属メイドだけを残しても意味はないだろう
彼女ら6名は二度と戻らぬ方がいい
姪が可愛くないわけではないが
第一王女には巻き添えをくってもらおう
さて、どんな理由にするか・・・
3日後、大々的にエウロパ王国への使者が旅立った。全権大使は第一王女デルフィーナ。副大使に元第一王子正妃サトゥルニア、元第一王子第一側妃ロシータ、元第一王子第二側妃ラモナ。書記官に元第一王子第三側妃ペネロペ、元第一王子第四側妃シオマラ、元第一王子第五側妃インマクラダ。それに、総勢17名の専属メイドたちを率いての大人数だ。護衛役は、元近衛将軍の雇っていた非正規軍約100名。
ところが、数日してカリメイ王都に思いもよらぬ一報が入る。護衛軍の男どもが、大使たちを、我先にと襲いかかり手篭めにしたという。また、大使らを人質にとり、とある洞窟に立て籠もっている状態だった。
ここで明るみに出たのは、元第一王子、元第二王子、元近衛将軍サカリアスら3人による悪行だった。元第一王子と元近衛将軍サカリアスは、非正規軍約100名を引き連れ、辺境近くの村々で、奴隷狩りと称した大虐殺を頻繁にしていたこと。元第二王子は、大虐殺には参加していなかったものの、従軍し、非正規軍のメンバーと女狩りをして、食い物にしていたことである。元第一王子、元第二王子、元近衛将軍サカリアスら3人がいなくなったことで、非正規軍メンバーの楽しみがなくなり、ここで爆発したのではないかという見方である。
世嗣ぎとなったアッスント王子は、軍と召喚者らとともに遠征する。仁も召喚者らに伝えていたことだが、対人戦の経験値が、軍に属する限り、必要になる。その為、召喚者らの従軍に反対する者はいなかった。
数日して、洞窟に立て籠もり、賊と化した非正規軍約100名は、誰一人逃すことなく殲滅された。第一王女らは、一旦王都に戻り、少しのケアの後、今度は秘密裏に、王都を出た。彼女らは嫌がったが、元第一王子らの罪を贖う為、職務後は、国外追放であることを言われ、罪人の証を装着されたという。メイドは、元第一王子らの罪を知っていながら、報告の義務を怠ったという理由で同罪となったが、第一王女の専属メイドたちは、全員重体という理由で、国に残る事になった。代わりにメイド兼護衛という名目で、召喚者のうち12名の女たちが、同行することになった。勿論、護衛軍は第一正規軍から100名ついた。