閑話 十束すみれの思い
ちょっと息抜きですw
長すぎたので2話に分けます。
本日18時にもう一話UPされます。
ここまでが7月最終活動報告で書いたものです。
おそらく、この後が、作ってないと思われます。
いつも、読んでいただきありがとうございます。
ブックマークも増えており、一定のPVもいただき、感謝の極みです。
本当に励みになります。
誤字や、助詞の間違い等ありましたら、ドシドシお待ち申し上げております。
修正する事で、文が良くなるのです。私にとっては、一字千金の価値があります。
よろしくお願いします。
十束すみれは、非常に困っていた。仁がカリメイから抜ける際に、排除してしまった第一王子のすぐ下の弟が、第一王子になってから、召喚者たちの待遇がかなり良くなった。まずは、召喚に際し、隷属術式を使っていた事に対しての謝罪が行われ、訓練が充実した。また今までは、王城の客間の幾つかに、男女分かれてではあるものの、数人一組で、詰め込むように住まわされていたのが、王宮の敷地内にある使われていなかった、離宮の一つを改築し、一人一部屋となり、男子は執事付き、女子はメイド付きの対偶に変わった。
当初の計画では、混乱と雑な扱いに乗じて、事故に見せかけるなどしながら、少しずつルルルエサバドを抜け、数人で合流しながら、エウロパのスリギアを目指す予定だった。ところが現在、メイドか執事による、ほぼ一昼夜の管理体制のもと、行動する事になっている。実際問題、隙がないのだ。
仁くんがいれば・・・
すみれは、いない人に頼ってはダメだと、頭をふる。すみれと仁が、初めて同じクラスになったのは、小学3年生の頃。2年毎にクラス分けがある小学校だった。すみれは、名前の通り、昔からお花が大好きで、クラスの花壇の手入れをしていた。小学4年のある日、花壇の手入れをしていたら、急に小雨が降り出し、慌てて手入れをしていると、頭に雨が当たらなくなった。でも、花には雨が当たっている。なぜだろうと顔を上げると、仁が傘をさして、すみれに雨が当たらないようにしていた。仁は目が合うと恥ずかしそうに話しかけてきた。
「ありがとな。お花が綺麗なのは、すみれがいつもこうしてくれてるからなんだな。知らなかったよ」
「ほら、名前の通り、お花が好きだからさ」
「そっか」
仁の肩は雨で濡れていた。「私の為に傘を差さなければ、濡れてなかったのに」初めて異性を意識した瞬間だった。それから、仁と仲良くなりたくて、休み時間に話しかけようと考えたが、いつも休み時間には葵・凛・楓がいた。なんとか、あの3人に勝って、仁と仲良くなりたかった。その結果、間違った選択肢を選んでしまう。中学に入り、大人の階段を早く登る為、不良仲間に入った。番長の斎藤亮の恋人と言われているが、実は違う。亮との関係について、偶然通りかかった仁に聞かれてしまい泣きながら逃げた事もある。
あーあ
不良なんかになっていなければ
一緒に連れて行ってもらえたのかな?
でも、不良ならなかったら
心友と呼べるさくらとも
出会えなかった・・・か
「ああ!もう!」
十束すみれは、つい声を出してしまった。メイドと一緒に離宮に戻る途中だったのを思い出した。
恥ずかしいよ〜〜
「如何された?」
誰かな?と振り返ると、第一王子アッスント殿下が心配そうに、こちらを伺っている。メイドに対しても聞いていたようだが、メイドは首を振って、困った様子。
「申し訳ありません、殿下。少し考え事をしておりまして、その、袋小路に陥ってしまっておりました。つい声が出てしまったようです」
「お困りのことがあれば、何でも言ってください」
「何で、そんなにお優しいのでしょう?私たちは、どちらかと言えば、厄介の種でしょうに」
「父や兄の悪事に対してのお詫びですよ」
「それだけではないですよね?私たちを取り逃がさないように、必死に取り囲まれている。そんな気がします」
「ははは、これは手厳しい。本音を言えば、その通りですよ。ああ、警戒しないで下さい。我々は、真の勇者を取り逃がしてしまったと思っています。テッシン君、ミナコさん、ノブハル君、ノブナガ君も相当に強いと思いますが、彼ほどじゃない。違いますか?」
「仁くんのことを言っているなら、その通りです。彼がどれくらいの強靭さを持っているかは、私たちも良く知りません。でも、そういう力とか魔法とか、そういった部分で、彼に頼ったことはありません。元々、私たちの住んでいた世界には、魔法なんてありませんでしたから。それなのに、すぐに適応して、すぐに使いこなせて見せた。色々、説明できない部分はありますが、応用力は相当に高いです」
「そうですね。彼はすごかったですよ。お話ししてませんでしたが、スリギアに向かう途中の彼に会って、話を聞いたことがあります。彼の言う通りにしたから、第一王子になれたと言っても過言ではないでしょう。それに、私の婚約者は、賊に襲われてしまったところを彼が手ずから助けてくれました。心も労ってくれたと聞いております。彼には恩を感じていますが、もし、父や兄のようなことをしていなければ、カリメイに残ってくれたかもしれません。そう思うと悔しいですし、彼をまた、カリメイに呼ぶ機会が得られるなら、あなた方を逃さないようにするのは、吝かではありません」
「それは、戦争のためですか?」
「違います。もうご存知かもしれませんが、魔族とは、2000年以上争いは起こっていません。あなた方をの力を用いて、こちらから攻め入ったとしても、勝てるかどうか分かりません。ですから私は、あなた方も、勿論、ジン君も、戦争の為に、力を使ってもらおうとは思っておりません。もっと違うところで、役に立って頂こうと思っています。そうだ、これはご存知ですか?」
アッスントは懐から、綺麗な布で丁寧に包まれた、ティッシュを取り出した。十束は目を瞠る。
「これは、ティッシュ?!こちらの世界にもこれがあるのですか?」
「やはり、異世界の品物ですか。これはまだ、この世界に流通しておりませんよ。でも、数年後には、流通するかもしれません。十年以上先かもしれませんが。これはジン君に頂いたものです。彼が作ったものです。どのように作ったのか、全く見当もつきません。勿論、我が国の研究機関で、研究させました。しかし、解明できませんでした。残っているのは、これが最後なんです。14歳とは言え、彼にこれを作り出すことができた。つまり、あなたたちにも同じことが出来るかもしれない。そう考えています。ですから、あなた方を逃さないとも言えます」
「殿下、大変申し上げにくいことをお伝えしても良いですか?」
「なんでしょう?」
「私は、元の世界で、このティッシュなどの紙を作る家に生れました。もっと幼い頃から、このティッシュなどの紙を作る技術に触れてきたのです。しかしながら、私には、全く思いつきもしません。材料はおろか作り方さえも。もしかしたら魔法なんかが、関係するのかもしれませんが、この世界にはない技術でしか作れない。この世界の生活基準は、私たちが生きていた世界のだいたい150年くらい前の生活基準ですが、魔法を除いた技術は、1000年くらい前のものであると思います。魔法がない世界なら、1000年かければ、出てくるかもしれない。技術進歩を歩んできた世界で、そのことが、常識になっています。私だけでなく、他のみんなも。その常識を覆す可能性があるのは、仁くんだけだと思います」
「魔法がないのに、今よりも1000年先ですか、その根拠は?」
「まだ習いたてなので、間違っているかもしれませんが、魔法でもスキルでも、種族的な能力がない限り、空は飛べない。魔道具でもそんな方法はない。それは間違いないですか?」
「間違いないですね」
「私たちの世界では、お金さえ出せば、誰でも飛べます。勿論、事故が起こり、死んでしまう可能性もあります。また、その空飛ぶシステムは、一度に数百人同時に飛ぶ事が可能です。魔法が生まれて1万年。人種に魔法が伝来して5000年経っているのに、空を飛ぶ魔法がない。空を飛ぶ為の技術が、元の世界で最初に確認されているのは、私たちが生まれる2500年くらい前。文献にあるだけで、確たる証拠はありませんけど。そこから、色んな実験を経て、空気を袋に詰めて、熱気球という空飛ぶ船の原型が成功したと言われるのが私たちが召喚された時の約290年くらい前。人を乗せて飛べるようになったのは、209年前。大量に人が運べるようになるにはもう少しかかってますが。そして、私たちが召喚された頃には、空を越えて、星々の中を飛ぶ時代になっていました。信じられますか?それが、当たり前に知っている世界から来ました。空を飛ぶという一点にを考えても、少なくとも、紙を自力で作れる技術が、育つまでに1000年はかかると思います。でも仁くんは、それをやってのけた。私たちには、その技術が用意されないと作れないかもしれないものをです。ううん。その技術を用意してもらっても出来ないかもしれません。私たちの世界では、16歳で成人ではなかった。20歳で成人でした。だから、私たちには、働く意識というか、何かを作る意識が低いと思われます」
「なるほど〜〜。確かに難しいですね。しかし、おかしいですね。あなたは、ジン君を引き合いに出して、自分たちを役立たずだと思わせたいように思える。何かの考えがあって、そうしているのですか?」
十束は、カリメイ脱出についてほとんど意識せずに話していた。勿論、その事を考えなかった日はない。できるだけ早く、仁の元に向かいたい。みんなの総意であり、女子12人の願いでもある。無意識のうちに言葉に織り込まれた願望を読み取られたかのように、狼狽えてしまう。
「変な質問をしたね。引き止めたようだけど、大丈夫かな?」
「ああ、すいません。友との予定がありましたので、これにて〜〜」
十束は、逃げ去った。
アッスント殿下はヤバい
これは逃げられないかも
手紙などでもらった仁くんの策は3つ
それぞれ、人にあった策を作ってくれてるけど
本当にルルルエサバドを仁が去る日に、テオルグを使って、残る全員に策の書かれた羊皮紙と、もしかしたら今生の別れになるかもしれないということで、感情豊かな文面の思い出話が書かれた手紙をもらった。みんなは別れの手紙を何度も何度も読んで、泣いた。「絶対にまた会う!」というのスローガンだ。だが、仁が実際に行えば、成功するかもしれないが、自分たちでは無理かもしれないという不安が大きくなっている。
そういえば、他の策は書かないともあった
何か手段を取っているに違いない
それを信じて、十束はさくらの部屋へ向かうのだった。
十束が触れている2500年前の飛行技術は、ご存知の方も多いと思いますが、紀元前5世紀頃(4世紀という説もある)のアルキタスの鳥型飛行体のことですね。
次の熱気球の話は、1709年のバルトロメウ・デ・グスマンの空中船「バッサローラ」のことです。有人飛行については、1783年11月21日のモンゴルフィエ兄弟の熱気球の話です。
私が中学時代にペットボトルロケットが流行ったきっかけを作った数学講師(教諭になった時は、高校物理の教諭でした)が、数学の授業中に、突然、飛行機の話になり、この話をされました。そして、放課後ペットボトルロケットの実験をしましたw