第24話 嫌な奴
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2016/10/13 サブタイトル変更
オーガ出現ポイントに近い、野営ポイントに着こうかとする頃、実はその前からだったが、アニバル方向から冒険者と思われる集団が、近づいていることに気づいた。
「やばいな。アニバル方向から、冒険者6人パーティ、オーガの拠点ポイントに接近中。あと、数分でオーガらの察知範囲に入る。レベル的、能力的にノーマルオーガ3匹くらいなら行けそうだが、ノーマルオーガが20匹いるな。これは厳しそうだ。勿論、ジェネラルには、無理だろう」
「ジンさん、それはまずい。今、アニバルにいるAランクは、たぶん、イーフォ・アルヒンマキの率いるチーム『パグコトゥ』だ。
「あー、いるな〜。仲間は、カシュパル・ズィーカ、コンラート・ヴィトラチル、ゾルターン・ウルバネチル、ヴラディミール・トゥピー、ミクラーシュ・ドゥーマ。
みんな貴族の三男とか四男とかばっかりだな。守護戦士、槍士、剣士、魔法士、弓士、治癒神官か。嘘みたいにバランスがいいな。全員、貴族なのに」
「イーフォは、アルヒンマキ大公の三男坊なんだ。孤児だった俺ら兄弟は、大公にスゲ〜世話になってる。助けられないか?」
「俺単独で走れば、間に合うが・・・」
「すまん。試験監督が、私情を挟んじまって」
「仁君!いつもの仁君と違うよ!」
「そうよ!仁くんなら、困ってたら助ける」
「そうですよ!仁さんは、知り合いが困ってたら、仁さんが知らない人でも助けたよ!」
「俺らが心配か?ルヴィータさんもいるし、判断は間違わねーよ」
「行けよ!」×4
「嬢ちゃんら、すまね〜」
「みんなを頼む。ルヴィータ」
「ジンさん、すまね〜」
仁は、運動系スキル「疾走」を使って、オーガに向かって走り出した。密偵系スキル「隠形」を発動しながら。戦闘関係の行動をしている時に流れる音楽は、F○の「ゴル○ーザ○天王とのバトル」だ。仁はRPGが得意ではないが、所謂、下手の横好きだった。「クリアはした事がないが、ゲームは大好きw」そんな子供だった。だから、召喚の1年前に発売された○F4はやっている。特に、あのシーンの音が、好きだった。
チーム『パグコトゥ』だが、仁よりオーガに近い。オーガに察知されたようだ。オーガがグングンチーム『パグコトゥ』に近づいている。
間に合わねー
『タイカッツォ!原型召喚する』
『はっ!御心のままに』
「眷属召喚!タイカッツォ!!」
原型フェンリルが顕れる。仁はタイカッツォに飛び乗ると、思考をリンクさせる。MAPを共有しながら、指示する。
「目標!イーフォ・アルヒンマキ。オーガ接敵に間に合わせろ!イーフォらを救う!」
「はっ!」
フェンリルは、さすがに神狼。風より速いと感じるほどのスピードで、チーム『パグコトゥ』に近づく、接敵には間に合ったようだが、視界にあるオーガ20匹に慌てている。相当、強行軍だったのか、後衛3人には疲労 困憊の上、先頭のオーガの咆哮により、恐慌状態に陥ったようだ。あれでは、3匹も厳しかろう。仁は、タイカッツォから飛び降り、再度疾走しながら、イーフォ・アルヒンマキに向かって叫ぶ。
「助太刀する!俺はスリギアの冒険者ジン。ルヴィータの友だ!」
一瞬、フェンリルに怯んだ感じがしたが、流石は、Aランクパーティのリーダーと言ったところか、すぐに持ち直し、仁に応える。
「おお!ルヴィータの!私も竹馬の友だ!」
「イーフォ殿!後衛3人が恐慌状態にある。落ち着かせろ!」
「何?!くっ!すまん」
オーガらは獲物と自分たちの間に割り込んだ人種に驚き、さらにフェンリルに驚いている。仁は思考をリンクさせた状態で、オーガジェネラル2匹の位置を示し、命令を下す。
「タイカッツォ!オーガら後方のジェネラルどもを屠れ!」
「承った」
タイカッツォは、オーガらの脇を風のように抜け、後方にある森に消えていった。オーガらは、慌てて仁に背を向けてしまう。主を守りたいのだろう。そんな浮き足立ったオーガが、仁の敵であるはずはない。いつの間にか抜かれた、愛刀「岩通」により、スパスパと首と胴は切り離された。
イーフォ・アルヒンマキらは、呆然としていた。依頼にあったオーガ3頭なら、ギリギリAランクパーティの自分たちでも倒せる。だが、実際出現ポイント辺りでは、オーガが見つからず、あちこち探索していたら、オーガ20匹を見かけた状態だった。死を覚悟した。その瞬間に現れた黒髪の少年は、神獣フェンリルに跨って現れた。フェンリルを使って、倒すかと思いきやほぼ一瞬で、単身でオーガ20匹を殲滅した。従獣士としても優秀な上に、戦闘も並外れた能力が伺える。この少年は、御使様ではないだろうかと、思っていた。
「いやー、ギリギリですいません。大丈夫ですか?恐慌状態は、小康状態になってますね。幾つか、怪我もされている様子。回復させますか。『エリアヒール』これで大丈夫ですね」
「ジン殿と言ったか?助かった。貴殿は凄いな。その若さで、その強靭さ。魔法も剣も超一流ではないか?流石、ルヴィータの友よ」
ルヴィータを何か違う気持ちで「友」と呼んでいるように聞こえる。
「いえいえ、たまたま近くまで来ておりましたので、オーガジェネラルの先遣隊と接敵しそうなあなた方に気づき、私だけが先行してきました。後でルヴィータと合流しましょう。それよりも、助太刀とは言え、あなた方の依頼を奪い申し訳ない」
「オーガジェネラル?!それは、大変ではないか?」
「大丈夫ですよ。先ほど、オーガらが背を向けたのは、タイカッツォ、ああ、すいません。私が使役する神狼フェンリルが向かっていった事に慌てた為です。そろそろ屠っている頃かと」
言い終わるタイミングで、タイカッツォが現れる。
「主様、オーガジェネラルを討滅致しました」
「ご苦労、屋敷に帰り待機せよ」
「はっ」
すぅっと、タイカッツォは、姿を消した。その様子に、イーフォが驚き、仁に問う。
「そなたは、従獣士ではないのか?召喚師なのか?いや、それでは、剣術が優れ過ぎではないか?」
「私は、魔法剣士。タイカッツォは、服従させただけですよ。あいつの特性で、呼べば顕れ、帰れと言えば、帰っていくだけです」
「なんと!神狼を服従させたと申すか」
「はい」
「聞いて良いことではないかもしれぬが、そなたは、伝説に聞く御使様なのか?」
「違いますよ。ただの新人冒険者。現在Aランク昇格試験中の身です」
「はぁ?新人冒険者?その強靭さで?馬鹿にしないでもらえるか!。新人がAランクを受けられる訳ないだろが!!」
激昂するイーフォに、名前と冒険者登録日だけが表示させた状態のギルドカードを見せる。
「な?!嘘だろ?6日目?!!その強靭さで??」
「本当ですよ。元からの力ですかね?ここ数日で上がったのは大した数値ではないですし」
「どうやったら、そんなに強靭くなれる?どんな修行をすれば?どうすれば、ルヴィータに近づける」
困ったな
説明出来ね〜わ
ルヴィータの友というのは
結構な重圧なのか?
面倒くさいな
男の嫉妬
元からを通すしかないかな?
嫌味だけど
「修行とかしたことないですね」
「嘘だろ?元からというのは本当の意味での元からということか?」
イーフォは、崩れ落ちるように、「ルヴィータに追いつくことは無理なのか」とブツブツ言っている。
どこかに妥協点を出さないとな
もうすぐ、ルヴィータが来ちまう
こんな状態のイーフォを
ルヴィータに見せれねーな
男の嫉妬を見ていいのは
対象者だけだろ
第三者が見ていいもんじゃね〜な
「イーフォどの、この髪とこの目の色分かります?私は、異世界からの召喚者です。本当は、誰にも言いたくはなかったのですけれど」
「あ!なるほど、召喚者か、致し方ないな」
おや?一瞬侮蔑が入った?
純貴族主義者か
ルヴィータと友だちなのは、どういう事?
ルヴィータは、自身を孤児って言ってたな
ルヴィータが感じてるほど、
気持ちいい内面ではなさそうだな
そうこうしている間に、ルヴィータたちが合流した。イーフォの目の色が一瞬 澱み、元に戻る。ルヴィータとイーフォは、懐かしがっている風に友好を温めている。
仁は、興味なさげに馬車に戻り、アイテムボックスから、ポットに入ったエチウカサ茶を取り出すと、「ああ、疲れた」という感じで、一息をついた。葵たちが、そわそわして、仁とイーフォを見比べている。
どうした?
葵たち?
ああ、イーフォはイケメンだからかな?
「仁君?どうかした?何か嫌な事あった?」
「何でもない」
「やっぱり、変です。仁さん、嫌な事があったんですね?」
「どうした?楓。そんな事ないって」
「いや!あったね。仁くん。誤魔化されないよ〜〜。私たちの目は」
「「「「嫌な事があった時の目つきしてる」」」」
よー見てるわ
ありがたいけど
つい比較しちまう
俺と陽斗らの関係
ルヴィータとイーフォの関係
それが、気を滅いらせる一因である事もな
俺は幸せだと
「気にするな。さて、どうするかな〜。オーガ倒しちまったからなぁ。再試験あるかな?」
「仁君。そんなに嫌だった?なら、聞かないね」
「そうね。聞いたら、私たちも嫌になるかも。本末転倒だし」
「そうですね。それは嫌ですね」
「だな。こうなったら、仁は梃子でも、心を動かさない」
「陽斗。言葉がおかしい。そんな言葉はないだろ?」
「なぜ、俺だけツッコむ!」
「ん〜〜?何となく」
「結構考えて『何となく』だとう?チクショー」
葵ら3人娘は、仁が落ち込むとすぐ気付くが、深入りはしない。陽斗は、すぐ茶化して気持ちを洗い流す。地球にいた頃と、何も変わらない。
こいつらに本音を言わねーのは
俺らしくないか
「はっはっはっ。すまん。話すよ」
オーガを倒した後の一部始終。イーフォに感じた嫌悪感。ルヴィータたちの友情。そして。
「陽斗、葵、凛、楓。本当に俺の友だちでいてくれてありがとうな。こんな、変な奴についてきてくれてありがとうな。こんな規格外を見捨てずにいてくれてありがとうな。こんな・・・」
オーガをイーフォめがけて
集団暴走襲撃させたくなっている
こんな醜い俺のそばにいてくれて
「仁君!それ以上言わないで!」
「そうだよ。仁くん。私たちは仁くんがいいから着いてってる。ブルーにならないで」
「そうです!仁さんは今までもこれからも私たちの大切な人です」
「だーっ、俺だって、お前になりたいって思った事あるぜ。でも、分かったんだよ。お前はお前。俺は俺。スゲ〜奴が近くにいたら、嫉妬くらいする。ルヴィータさんにとって、イーフォは俺みたいな奴なんだよ。まぁ、よく知らねぇとか、まだ気づいてねーだけなんじゃねーのかな?イーフォは」
「ありがとうな」
「だーっ、言うな。黙って休んでろ」
4人は仁を馬車に押し込めた。馬車の中で、リリが困った顔をしながら、頭を撫でてくれた。なんでいちいちタマモと同じ事をしてくれるんだ。
色んな意味で、涙が出てくるぜ
ルヴィータとイーフォの話は終わったようだ。ルヴィータが、馬車に戻ってきた。イーフォたちは、アニバルに向けて帰るらしい。ルヴィータは、スリギアに向けて、帰ると言う。イーフォたちが、さっさと戻って言ったが、見送りもしないようだ。
「ジンさん。すまね〜。嫌な思いしたろ。大公も公子も次男坊もいい人なんだが、イーフォはなぁ〜。無能なのに、純貴族主義者というか、本人はそんなつもりはないんだが、嫌な奴なんだよ。でも、治らね〜な。8年ぶりに会ったが、子どもの頃のまんまだったな。年が近いってだけで、あいつが大公の城を抜け出してくると、いつも付きまとわれたよ」
「あれ?友だちだと思っているのでは?」
「俺が?アイツを?!まっさか〜恩人の子ってだけだ」
「なんだ。すまん、勘違いしてた。友だちだから助けたいと言ってたのかと」
「あ、すまね〜。あんな言い方じゃ、勘違いされるな」
ほんの少しだけ、ほっとしたことは、内緒である。