閑話 エウロパ王の興味
かなり短いかな?
いつもお読みいただきありがとうございます。
本文の都合で、前の閑話「サクヤフフーリエの恋」に、エロさが追加されました。
本文でも出てくる「テイルクラス」の意味は、そちらをご参照ください。
少しPVが復活し始めました
まだ、一番多かった7/6ほどでは無いのですけれども
ありがたい事です。
これからもよろしくお願い致します。
2016/07/26 17:25頃 加筆
エウロパ王国、国王カイロン・ラジェスタ・エウロパは目の前の事態を驚き慄いていた。
国王は現在、王城西側の第6番区の闘技場で、冒険者パーティ「アラウンド・ザ・ワールド」のリーダー、ジン少年の眷属召喚を見ていた。眷属一人一人が、神話級の生き物だ。それを召喚し、しかも人型の状態にもして従える。精霊王にしてもそうだ。少年ジンは、月光神にお願いしてアナウンスも流せると言う。
おそらく、ここにいる皆は気づいているだろう。洞窟型ダンジョンのダンジョンマスターが、この少年である事に。少年が知らないふりをしているのを見て、あえて騙されてやろうと思っているに違いない。
おそらく、あの少年は
この世界の誰よりも強い
いや、伝説上のすべての人物よりもだ
国王カイロンは伝説上の人物10傑に想いを馳せて、ある共通点に気づいた。全員が異世界の転生者である事は、誰もが知っている。それではない共通点。10人中6人の共通点。名前に「ジン」が含まれるという事実。
10傑と言っても、全てが善人と言えない。魔王や龍王も含まれる。10傑には、その偉業や職種と比較しての能力で選ばれる。例えば、村人ブロンクスは、すべての労働系スキルを保持し、皆に伝えたと聞く。その偉業を讃え、労働者ギルドが作られた。別名ブロンクスギルドと言う。だが、職種が村人であるがゆえに、賛否両論があり、10傑に別の人物を入れる学者もいる。しかし、国王カイロンは、国の基盤である、人民そして、労働を支えた人物として高い評価をしていた。まぁ、悪政を敷いた領主や王侯貴族が、死に絶えるなどの呪いのような逸話もあるのだが。
国王カイロンは、ジン少年が、6人の偉人たちとなんらかの関わりがあるのではと、考えた。ジン少年は、黒目黒髪。転生者か召喚者。おそらく、召喚者ではないか?転生者の多くは、晩成型だ。未成人で、大成した者はいない。かの10傑もそうだ。若くして英雄王となった傑物も、成人するまでは、歴史に名前が出てこない。
それにしても興味が尽きない
召喚者なら、我が国に来た事は僥倖としか言いようがない
そう言えば、ライムントが、
カリメイでの勇者召喚で面白い事を言っていたな
そうか、ジン・ミツルギ
彼があの少年か
カリメイ王の狭量が幸いしたな
さて、どうやって会おうか
カリメイ王の轍は踏みたくない
壊滅寸前も嫌だが
あの少年の嫌がる事はしたくないな〜
ルヴィータも気に入っているようだし
国王カイロンが、物思いに耽っていると、VIPルームに来客があった。同席した宮廷魔導師ナディヤが、客人に飛びついた。
「マリアンちゃん!元気してた?」
「うっさいわ小娘。ワシは、子供ではないのじゃ」
「見た目は子どもでしょう?」
「ワシは、龍王の直系じゃ!次期龍王じゃ敬え」
「マリアンちゃんは可愛いね〜」
「やめんか鬱陶しい。ここで、原型に戻るぞ」
「やーめーてーw」
「もっと嫌がれ、笑いおってからに」
「あははは〜。冗談はさておき、ごめんねマリアンちゃん。私が宮廷魔導師になりたいって言ったばかりに、また、ギルド長に戻ってもらって」
「それは何度目かの。構わんと言っておるじゃろ。どうせワシが龍王になるのは、あと、700年ほど先の話じゃし。その間は、ギルド長を続けても構わんよ」
客人は、マリアン・ネグローニ・ルシアン。現魔法士ギルド長。宮廷魔導師ナディヤがギルド長を務めた5年間を除き、ここ200年ほど、魔法士ギルドの長を務める街の重鎮中の重鎮であり、世界10傑の1人ギブソン・ネグローニ・ルシアンの玄孫である。5000年前に人種に魔法という武器をもたせた魔導師がマジク・ジンなら、10000年前に世界に魔法をもたらしたのが、大魔導師ギブソン・ネグローニ・ルシアンであると言われている。
「マリアン様お久しぶりです」
「カイロン坊やか。久しいの。ワシは魔法士ギルド会館にいつでもおるじゃろ。昔みたいに遊びに来ていいんじゃよ」
「お戯れを、もうそれが出来ない身分ですので」
「王族は窮屈じゃの」
「マリアン様も同じでしょうに」
「高祖父さんが、自由な龍だったせいかの。そこまで窮屈ではないのじゃ、そう、あの小僧のようにの、面白ければ悪ノリするし、怒れば徹底的に痛めつけるし。そんな龍だったらしい。あの小僧を見ると、伝承に聞く、高祖父さんを見ているようじゃて」
「なんと、ギブソン・ネグローニ・ルシアン様がジン少年と同じと?」
「ジンじゃと?!あの小僧、ジンというのか。そうかそうか。あの小僧が、美剣仁か。高祖父さんの遺言通りか」
「ジン・ミツルギでは?」
「異世界の日本という国では、姓が先に来るらしい」
「なんと、ギブソン様は、なぜそのような事を?」
「遺言に曰く、『我、美剣仁の幻影なり。いつの日かこの世界に、本来の姿で顕そう。それまで血を絶やすな。その姿を見て、気に入れば、力になるなり従者になるなりせよ』とな」
「な?!」
「うん、面白いのぉ、あの小僧。一族に報告が必要になったで、ワシは帰る。」
マリアンの言葉で、10傑中6人から7人に変わった。会って話したい。そう言えば、ナディヤは、ここに来た時、ジン少年に手を振り、振り返してもらっていた。
「ナディヤ」
「なんでしょう?王よ」
「ジン少年とは知り合いなのか?」
「はい。娘をメイドとして、雇ってもらってます。出来れば、もう1人の娘も差し出して、義理の息子にしたいなぁと、主人と話してます」
「ニコルも不憫な」
「そんなことは無いですよ〜。あの子も乗り気です。でも、ライバルが多すぎなんです。あそこにいる3人の黒目黒髪の子たちもそうですし。一緒にいる、九尾の子もそうです。あの妖精王や人型になった神鳥・神龜・神龍もそうらしいです。他にも、一緒に召喚されて、カリメイに残らされた12人の子たちもそうらしいですし、今、娘と一緒に働いている従者のエルフとか龍人とかもそうらしいんです」
「モテモテじゃないか。誰にも手を出していないのか?異世界人だと、一夫多妻に嫌悪感があるのかのぉ?」
「分かりません。でも、獣人に興味がありそうだと、メイドをしている娘が嘆いてました。労働者ギルドのサクヤフフーリエや冒険者ギルドの獣娘たちが、テイルクラスを拒まず、みなメロメロにされたとか。『私も獣人に生まれたかった』とか言われてショックです」
「テイルクラスだと?!それを拒まぬのか?迎え入れ準備万端だのぉ。だが、ジン少年は気づいているのか?もしかして、気づいていない?いや、マリアン様の話だと、気づいてて気づかない振りして悪ノリしてる!遊び人ではないか」
「女はちょっと悪い男も好きですよ。強くてちょっと悪い男。カッコいいじゃないですか!昔はうちの人もそんな感じだったんですけどね〜。最近では、かなり丸くなって、色々ご無沙汰ですし」
「あー、ナディヤ?それはダーヴィットと話し合え、な!ところで、ジン少年と会う機会は得られないかのぉ?」
「どうでしょうね〜。今がそのタイミングかもしれませんが、呼び出しなんてしたら、カリメイの二の舞に成りかねないですし。困ったものです」
「ジン少年は、まだ闘技場におるな。どういうことじゃろ?」
「今日はパーティメンバー全員が、昇格試験らしいですよ。ジンさんとリリシアさんはかなり強そうですが、他の子達はどうなんでしょう?始まりそうですね〜。Cランク試験。あ、リリシアさん瞬殺。ハルトくんも強いんだ。リンちゃんもカエデちゃんも強ーい。え?アオイちゃんあの距離であの威力?みんな楽勝っぽいですね〜」
結局、王らは、昇格試験を全て見届けた。ジン少年のパーティが全員、Aランク一次試験合格まで。
「そうじゃ、彼らは登録からどれくらいなのかの?」
「え?3日目ですね〜」
「は?!3日じゃと?!うーむ、それは〜。ええい、いいわい!彼らは偉業達成とみなしていいのではないか?」
「USSランク級の?」
「いや、その偉業達成とは少し違うが。ギルド始まって以来じゃろ?最短記録でのAランク一次試験突破は。祝賀会を開いてはどうかの?」
「嫌がりませんかね?」
「うぉい。そこをなんとか連れて来れんか?」
「嫌ですよ。嫌われるかもじゃないですか?私が」
「ワシは王なんじゃが」
「うーん。うちの旦那を使いましょう。ここに呼び出すくらいならいいんじゃないですか?」
「ダーヴィットも不憫じゃが、背に腹は変えられぬ。ダーヴィットの犠牲は忘れない!」
「私もあなたの事は、きっと忘れない!」
「いや、きっととか言うなよ」
「はーい。ダーヴィットに頼んできまーす」
ダーヴィットは、死人のような顔をして、仁たちのところへ赴く事になる。
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仁たちは、闘技場のVIPルームに向かって歩いていた。先導をしてくれているのは、ダーヴィット夫妻。ダーヴィットは死人のような顔をし、ナディヤはこの世の春みたいな顔をしている。
ナディヤさんに尻に敷かれてるなぁ、
ダーヴィット。
おそらくまだ、闘技場のVIPルームには、国王がいるのだろう。国王がナディヤさんをダーヴィットに遣わして、ダーヴィットが嫌々ながら、仁たちをVIPルームに連れて行く事になったんだろう。
眷属を貶められたとか言って、
悪ノリしなきゃ良かったな。
哀れなオッサンの図とか
見たくなかったよ
自業自得か
さて、王と仁は対面した。謁見の間とかの厳かな感じでは無い。と言って、VIPルームなのだから、そんな軽い感じでも無いのだが。
「ジン少年。初めましてだな。ワシはこの国の王カイロン・ラジェスタ・エウロパと言う」
王がフルネーム名乗るなんて、あり得ない。本来なら「ワシは王だ」で終わりのはずだ。それを敢えて、名乗るなら、カリメイ壊滅の危機に陥らせた、仁のフルネームを求めているという事だろうと仁は考えた。
ライムントは王に繋がっているという事か
「初めまして、王よ。私は、ジン・ミツルギと申します」
「うむ。やはり、君がジン・ミツルギか。これから話す事は、君にとって不都合な事かもしれないが怒らないで、聞いてもらえるか?」
「私が怒る可能性がある事を仰ると。恐れているのは、カリメイの二の舞でしょうか?」
「直球だの。うむ。有り体に言えば、そうじゃ」
「あれは、不可抗力です。私のカリメイ王に対する態度が不遜だと、王子と王孫が兵1000を率いて参られたのを、私が横着をして、王子と王孫を見落とし、壊滅させてしまったのが原因です。相手側の都合で襲われたから、反抗した結果、第一王子と第二王子(王孫)を滅してしまったのです」
「なるほどな」
「聞けば、第一王子は、当時5名だった我らを蹂躙し楽しみたかったとか。また、第二王子に至っては、ここにいるアオイ、リン、カエデの3人を甚振り、自分の性奴隷に加えるつもりだったと聞きます。その2つを先に聞いていても、結果は同じだったと言えましょう。仲間を攫おう、殺そうとする者を赦すほど、大器では無いのですよ」
「うむ。理由なく敵対したわけではないという事か。もっともな事よ。その上で、聞いてほしい。ワシはそなたと敵対するつもりはない。ただ、ワシの考えを聞いてほしい。それに対し、合ってるとも間違ってるとも答えなくても良い。ワシが勝手に思っている事じゃ。そしてもし、合っているなら、そなたに叶えてほしい願いがある」
「叶えてほしい願い?この人の身に?」
「悪口ではなく、人とは、思っておらん。神の使いではないかと愚考する」
仁は直感として、王が、自分の本当の事、つまり、この世界で偉人と呼ばれる者たちの多くが、自分であると気づいていると思った。仁はスリギアに着いて、チュートリアル中の全ての人物が、偉人になっていると確信していた。あのただの村人でしかなかったブロンクスですらも、サクヤによれば、労働者ギルドを作るための偉人だった。ジングロールは、人種とエルフを繋ぐ架け橋だった。オータム・リーブは、民衆の英雄、スリギアの洞窟型ダンジョンの踏破者、ギムレットもまだ、商会が残るほどの大商人。他は、皆が知っている歴史上の登場人物だ。自分を知った聡明な人なら気づくと。
「御使ですか。先に願いの内容を聞いてもいいですか?その後に考えを聞きましょう」
「それが良いならそうしよう。ワシには13歳の娘がおる。心の臓に病があっての、医師も薬師も魔法士も錬金術師もお手上げなんじゃ、あと、7年くらいかの、最大生きたとして。20歳くらいまでしか生きられんそうじゃ。その娘を診た錬金術師の1人が、賢者マジク・ジンの魔法か大錬金術師ジンビール・マグヌスの神薬でないと治せないと宣わっての。研究するから研究費を寄越せと言いおった。追い出したがの。じゃが、もし叶うなら、娘を助けてほしいのじゃ」
「やはり、お気づきなのですね。私の事を。ただ、できなかったとしても、罰にならないなら、協力しますよ」
「誠か?!罰するわけがない。誰にもできない事じゃ、出来る出来ないに関わらず、協力する者をどうして、罰しようか。もっとも騙すつもりかもしれと思えば、錬金術師のように追い払うが、それでも、ワシは罰せなんだのじゃ」
「まずは、その神薬を渡しましょう。おそらく錬金術師が言うのであれば、ミカエル・エリクサーの事でしょう。あれは、錬金術師に成ってから作ったものではないんですけど、5524年前の事ですから、間違って伝わったのでしょうね」
「なんと!薬があるのか?!」
「ありますよ。その上で、マジク・ジンの魔法が必要なら・・・そうですね〜。マジク・ジンの魔法に、そのような伝承が残るような回復魔法はないんですけどね〜。どちらにしても、その錬金術師を追い払ったのは正解ですね。もし、魔法が必要なら言ってください。作りましょう!その魔法を」
「作る?!魔法を?」
「賢者マジク・ジンがどのように伝わっているのか、幾つか調べました。魔法を巧みに使い、人が使いやすいようにしたと。違いますか?」
「そうじゃ、間違いない」
「それは、魔法を作る事に他ならないのですよ。魔法は元々、人種に合うようなものではなく、思念を浮かべて、属性の形を作り、属性に沿って、魔力を操るもの。それが魔法の原始です。詠唱を唱え、魔法陣を繰り出し、魔法を使いやすくするなんて事は、原始魔法には、ありませんから」
「なんと!それはそうか。人種に合うために魔法を教授するには、使いやすいように作る、いや作り直すか。もし、効かなんだらお願い致す。とは言え、効かぬとも思えんが、ジンビール・マグヌスの神薬とはあれよな?流行病で国中が死にかけておったのを救ったという神薬よな」
「正確には妻を救おうとして作った薬ですよ。皆の為に、作ったわけではないです。まぁ、その後、別の理由で妻が死に、狂った結果が、最凶だとか、最狂だとか呼ばれたんですけどね」
「う、うむ。よかったのか?その、ワシも同じ事を言おうとしてたのじゃが、10傑の事を」
「仲間は皆知ってます。聡明な方なら、会って話しているうちに気づく事も多いです。悪意を以て近づくなら、追い払いますが、そうでなければ、私の好きにやっても良い事になってます」
「そ、それは神との約束とかか?」
「神と言っても、この世界の神ではないですよ。シトドラヴの神2柱とは、まぁ、友人みたいな関係ですかね。私が、約束というか、好きにすると公言したのは、シトドラヴの2柱よりも高位な神々です」
「なんと!この世界の神々よりも高位な神々がおるのか?」
「高位の神々もこの世界の何かしらの神をされてますし、私も、行動は監視されているようですから。思考に耽っていると、突然話しかけてこられたりしますし」
「それでは、神の使いなどではないのではないのか?」
「いつか、私がそうなりたいと望めば、神になれる存在だと考えてください。と言っても、仲間を放っていくつもりはないので、この世から去った後か、仲間みんなの幸せを確認した後になるでしょうね」
「亜神さまという事か?!」
「まだ、亜神にはなってません。なるかもしれませんしならないかもしれません。それは、俺の人生の中で見つけたものが、決める為のきっかけになるのです。まだ、若いし、ゆっくりでいいかなと思いますw」
その後、エウロパ王国第三王女エリシア・リリアンヌ・エウロパは、ジンビール・マグヌスの神薬により、病が完治した。王は、再度、仁を表彰したくて、呼びたいと伝えたが、仁が断った為、ジンビール・マグヌスの末裔で、スリギア労働者ギルドの副ギルド長のサクヤフフーリエ・マグヌスを呼び出し、ジンビール・マグヌスを讃える祝賀会が、催されたという。
ギブソン・ネグローニ・ルシアンの遺言『我、美剣仁の幻影なり。いつの日かこの世界に、本来の姿で顕そう。それまで血を絶やすな。その姿を見て、気に入れば、力になるなり従者になるなりせよ』ですが、
仁は身に覚えの無い内容です。
チュートリアルを終了する際に、家族に話した内容が「俺は美剣仁って異世界の日本人の転生者だったんだ。日本って国は、姓が先に来る国なんだ。たぶん、いつかは美剣仁としてこの世界に来る予定だからよ。もし一族の誰かが生きてたら、また遊んでくれよ」というもの。
10000年の間に、やや内容が変わっていると思ってください。