第13話 妹との思い出は美化します
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2016/10/13 サブタイトル変更
国境のあった洞窟を抜けると、道なりに歩かず、直ぐに森に入る。これから、エルフの隠れ里に向かう。仁は、つけてくる奴がいるといけないので、少し細工をしておいた。エルフ10人を先頭にしばらく進んでいくと、広域鑑定に反応があった。あと、50mほどで接見する。
「イアヴァスリルに似てる誰かが来るな。姉か?」
「私に姉はおりません。新しい妹が生まれたのかもしれません」
「やめろ、まるでヤヴァスリルが古い妹に聞こえる」
「なら、若い妹?」
「いや、それだと、双子の妹さんが若くないと聞こえるぞ」
「なら、何と言えば?」
「知らないうちにできてた妹とかか?きたぞ」
「人族よ、立ち去れ!ここから先は・・・、アグラリアン義姉さん!?きさまー、我らが大切な姫を、事もあろうに奴隷にするなど!!断じて許さん!!成敗してくれる」
「なー?言ったろ、これが普通なんだって。お前らが緩いか、人族に慣れすぎたんだよ。帰るぞ」
「はーい」×22
「ごめんね、かーさん、まさか話も聞かず、私たちの従姉妹のケレブリンちゃんの命の恩人に剣を向けるようなエルフに成り下がっているとは思わなかったら、100年の歳月って長いのね。残念だわ。アイナノア様に、現在アグラリアン叔母様は生死不明で行方不明だと伝えといてね。じゃ、また生きてたら」×2
「おば様、残念です。さよ〜なら〜」×8
「ちょぉっと!待って!ごめんて!誰にだって言ってみたいセリフってあるでしょう?『人族よ、立ち去れ!』とか『ここから先は一歩も通さん!!』とか、『きさまー、我らが大切な姫を、事もあろうに奴隷にするなど!!』とか『断じて許さん!!』とか『成敗してくれる』とか言いたいじゃない」
ほとんどなんですが?
何なの?
厨二なの?
「よろしいですか?」
「あ、はい」
「さっきのセリフは、言ってみたかっただけで、通せないとかないんですか?」
「はい、特にないです。エルフが先導しない限り、この門にはたどり着けませんから、村から出た誰かが付いているんだろうなとは、分かってました。なら、子供の頃から練習していた、セリフを言って何が悪いんですか?」
あー、パーペキに厨二なのね
そして、逆ギレか
「「ごめんなさいね。ジンさん。この里のエルフは、ちょっと、その痛い子ばかりなの」」
全員?!
そんな事は無いだろう
「ところで、お義母様?奴隷については、どうなんですか?」
「まぁ!お義母様と呼ばないで!私のことは、食肉祭のリンネとお呼びください」
帰りたい
痛い二つ名きた
しかも食肉祭って
響きか?!響きなのか?
しかも
リンネも想像の名前なんだろな〜
エルフらしくないし
「リンネさん。奴隷について聞きたいのですが」
「憧れます。堪りません!!」
ダメだ
チェンジしたい
エルフって、こんな種だったっけ?
それで、旅立ったんだっけか?
記憶がないなぁ
「すいません。村まで、案内してくれますか?」
「私にも奴隷になれと?!喜んで!!」
会話って何だろうね
「お前の母親どうしたらいい?」
「捨てていいのでは?」×10
そっち?
リンネさんには、眠りの魔法をかけて、娘に担がせた。おんぶとかしてやればいいのに、どこから出したか背負い籠に、縛って詰め込んでいた。
母親に容赦ねーな
エルフ10人を先頭に村へ入っていく。ケレブリンを見かけたエルフたちが近寄ってくる。背負い籠から顔を覗かせる厨二を生温かい目で見て、スルー。
本当に容赦ねーな
一人のエルフ男性が、ケレブリンに話しかけた。
「アグラリアンちゃん、おかえり〜〜。日に焼けたね〜」
そこ?
あー、やっぱりシトドラヴの人たちかぁ
「ダークエルフの兄ちゃんとはどうなったんだい?別れたのかい?今は幸せかい」
「うん!あるじ様やさしーの」
「良かったね〜、今は暗黒微笑って感じだね〜」
んん?
10人のエルフには感じなかったが
本当に他のエルフは全員厨二なのか?!
すると、村の奥から、アイナノアが顔を出してきた。全くあの頃と変わらない様子だ。何でこんな厨二エルフの多い里の里長なんかしてるんだろう?不思議だった。その疑問は、この後、氷解する。
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アイナノアは自分の娘の名前を呼ぶ、里の者の声を聞いた。どうして戻ってきたのか?もしかしたら、ダークエルフの男と何かあったか、ダークエルフの男に何かあったのではないかと不安になった。「私の娘は、私と同じように、好いた男との恋愛がうまくいかなかったのではないか」と、そして直ぐに首を振る。娘が出て行って、130年経っている。今更、そんなことはあるまい。ならばなぜ、とも考える。逸る気持ちを抑えて、声のした、村の広場の方へ、足を進めた。
かつてこの村を飛び出した、孫たちが見える。確か、グウルイアのギルドに勤務していた三つ子、エゼルミア、エルミア、エレンミア。一緒に飛び出し、人間の冒険者と恋をしたと聞く、イアヴァスリルとヤヴァスリルの双子、イドリアルとインディスの双子。また、その7人に一緒についていったエアルウェン、エアルベス、エフィルディス三つ子。
自分が失敗したように、愛した男を取り逃さないようにするため、自分の想いを娘たちに、孫たちに伝えたつもりだった。通じなかったのだろうかと不安になる。しかし、里の者は、誰と娘アグラリアンを見間違えたのだろう。孫たちは、娘アグラリアンにそこまで似ている訳ではない。本当に帰ってきたのであれば、何と声をかけたら良いだろうかと。
広場に近づくにつれて、理由がわかった。ダークエルフの奴隷がいる。いや、ハーフのようだ。しかも、娘アグラリアンの双子かと思ってしまうほどに、似ている少女が孫に手を引かれて、里の中を見回している。
そして、その奴隷の子が、時折見ている方向に目を向けて、心臓が飛び出るほどに驚いた。呼吸が止まるかとも思った。
お兄様がいる。ううん。あそこにいる人は人種だから、絶対にお兄様ではないと、理性では考えてしまうが、絶対に兄で間違いないと叫ぶ何かが自分の中にあった。そして、アイナノアは、気づいた時には、お兄様に飛びついた。最初はびっくりしていたようだけど、お兄様は、アイナノアを受け止め、アイナノアの愛を感じてくれた。
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ここまでは、アイナノア視点とアイナノアの妄想である。実際は、「お兄様に飛び」辺りまでが現実で、仁は飛びつかれてはいない。「自分の娘の名前を〜アイナノアの愛を感じてくれた」までを、いい笑顔だけど小声でつぶやきながら、近寄ってきたら、誰でも避ける。仁はアイナノアをさっと避ける。すると後ろにいた陽斗が飛びつかれた。陽斗は、ニヤニヤしている。20歳くらいにしか見えない、綺麗なお姉さんに抱きつかれたら、嬉しいだろうよ。
だが、陽斗!
そのエルフは500歳の厨二だ
お婆ちゃんの厨二なんだぞ!
「なぁ、イアヴァスリル」
「なんでしょう?」
「お前のかーちゃんって、アイナノアに一番似てると言われないか?」
「それはないです!!母は確かに痛い子ですが、妄想と現実の違いくらい分かってます!!」
なるほど
アイナノアは妄想と現実の区別がつかないのか
「ね?ジンさん、アイナノアお祖母様は、ジンさんが、ジングロールさんだと気づいたでしょ?」×10
「本当か?雰囲気が似てるとか、髪型が似てるとかでも、同じ現象が起きないか?」
「否定ができない」×10
「今の里長もこいつなの?」
「こいつって、文字通り生き別れた500年ぶりに会う、最愛の妹さんを」×10
いいノリだな、おい
分かってて言ってんだろ
「ん?485年前に妹とは別れて以来会ってないな。あと、15年後に会えるのかぁ」
「具体的な数字で返された!!そんな感じにボケを潰すなんて!!」×10
「誰でもいいから、今の里長もこいつなのか聞いてきて」
「ちぇ、ノリ悪いなぁ〜」
「うっせぇよ。こいつが里長じゃなかったら、他の奴に事情を話して旅に出るから」
「はーい」×10
現在の里長は、エゼルミアたちの父親だった。アイナノアに、ジングロールに見間違われた旅人は皆、今の陽斗のようになるそうだ。
現在の里長は、アイナノアが比較的まともな状態の時に、里長を引き継いだらしい。まともじゃないと、さすがは血縁というべきか、息子たちも同様な目にあう。ケレブリンの事情や母アグラリアンの現状予測について、現在の里長には話しておいた。そこで、意外な事実が発覚する。ケレブリンの母アグラリアンは、ダークエルフの旅人と駆け落ちしたのは間違いないが、最初の犠牲者は、ダークエルフの兄ちゃんだったそうだ。なんと、アグラリアンは厨二ではなかったらしい。助けに入って、世話をするうち、良い仲になり、見かけるたびに彼を「お兄様!」と抱きつく母から逃げる為、駆け落ちしたのだという。
アイナノアを眠りの魔法で眠らせ、仁たちは、エルフの里を出ようとしていた。10人のエルフたちがついて行きたいと言う。断るものの、龍人族での例があり、結局ついて来る事になった。さすがに、全員というわけにはいかないので、やはりここでもジャンケンを、ジャンケンについては、龍人族と同様、エルフの里でも娯楽に成ってしまうのだが、それはまた別の話。
ついて来るのは、イアヴァスリル、イドリアル、エアルウェン、エゼルミア。4人という事で、龍人族の従者たちが歯嚙みしている。仁はエルフスキーではないが、綺麗なお姉さんの押しに弱いのは、好みの問題である。ちなみに、エルナ、リリシア、アナスタシア、ラシシーフローラにも弱い。
仁はアイナノアの寝顔を見ながら思った。妹は485年前に別れたのだ。可愛い頃のままに、と。
国境を越えて、初めての野営である。エルフ4人はエルナらとメイドを、龍人族2人は仁らと冒険者グループになる。元モデストの屋敷をアイテムボックスから取り出し中に入る。その後、仁たちは、紙と鏡の素材を集める。その周辺で、タイカッツォ、テルビンド、ベルデ、ラシシーフローラが警戒。ある程度、素材が集まったら、模擬戦をしていた。
模擬戦も終わり、屋敷に入ろうとしたその時、突然、周辺が淡い緑色の輝きに満ちた。
『ナスターシャちゅわ〜〜ん』
「げっ!オヤヂ?!」
『むふふぅん。探したよぉん。パパ寂しかったんだからねぇん』
「寄るな、ウザい。どっか行け。そして、死んでしまえ」
『んまぁ、照れちゃってぇ。可愛いなぁ〜。私の娘は』
「ふざけんな。照れてねーよ」
『むふふぅん。ツンデレなんだからぁ』
「あるじ様助けて!」
『ナスターシャちゅわ〜〜ん。君のあるじは僕だよぉん』
「マジ殺す。今殺す。焼き殺す!」
『むふふぅん。気持ちいいわぁ。ちょうどいい温度よぉ』
これが
精霊王ハミンギア・フュルギヤか
鬱陶しいな
ナイスミドルなオッサンなんだが、妖精サイズで、まるで虻のように鬱陶しい。幼児言葉を話すナスターシャが、まるで、地方のヤンキーみたいな話し方になっている。
一瞬何事かと思った一同だったが、すぐに興味を失い、三々五々に野営施設に入っていく。
「ちょっ!みんな!ああ、オヤヂ、ウザい。あるじ様!リリ!助けてよ〜」
『む!良からぬ蟲がついたようだな。大切なナスターシャちゅわ〜〜んから、男の匂いがする!洗浄せねば!!!!』
「やめてよね!あるじ様の匂いを消すなんて、『お父様なんて嫌いなんだからね』」
『ぬわぁんだとぉ!よよよ〜』
あ、オッサンが泣いている
デジャヴ感半端ないな〜〜
「あるじ様!なんとかしてください!」
「お前に出来ないことを俺に求めるな」
『貴様か!ナスターシャちゅわ〜〜んを誑かしたのは!!!』
ほら、こっちに標的が向いた
いやだよ
オッサンに絡まれるの
ん?
そういえば、オッサンによく絡まれないか?
「誑かしたりはしてませんよ」
『そうか、なら良かった』
チョロ過ぎないか?
『そうそう、娘と君はどんな関係なんだ?』
「私はあるじ様のエ○奴隷!」
『なぁ〜にぃ〜、やっ○○ったなぁ〜』
ナスターシャとはそんな関係ではない!
だが、なんだろう知らない単語なのに
伏字にしないといけない気がする!
※繰り返しますが、仁の召喚は1992年です
とても、ウザい精霊王だったが、所詮手のひらサイズ。精霊級の魔法を色々駆使して来たが、仁に敵うべくもなく、デコピンで倒された。
『くぅ、なかなかやるではないか!今日のところは勘弁してやる。だが!次はないと思え!』
「あ、お前、面倒くさいから、二度と来ないように、頼んでみるよ。
“召喚!精霊神オベロン”」
ジングロールの頃に神官をし、精霊魔法には、大変お世話になった。だから、精霊王に対して、面倒くさいと思っても、蔑ろにはできない。だが、とてもとても鬱陶しいので、今後の旅についてきてもらうわけにも、何度も何度も現れてもらうわけにもいかない。とすれば、どうにか排除しなければならないわけだ。そんな時は神頼みだ。
召喚した、精霊神に精霊王を渡し、ナスターシャとともに事情を説明したところ、一旦神界に連れて行き、今後の事を決め、決まったら、連絡すると言われた。一応、他の神々に、根回しはしておいた。後日、精霊神から連絡があり、精霊王は、亜神化し、ナスターシャが精霊王となった。
翌日昼にティアンル村に着いた。エルナと共に冒険者ギルドに行き、全員分の国籍を変える。エルナは、スリギアで副ギルド長をしていると言う父親に手紙を出すと言っていた。仁はエルナに冒険者に運ばせるなら、一緒に着くのではないかと笑いながら話すと、冒険者ギルドには、専属の郵便配達人冒険者パーティが幾つかあり、馬車よりも早く届ける者がいるらしかった。冒険者ギルドに依頼を出しておけば、自分たちより三割増しくらいに早く着くだろうとのことだった。
さて、ティアンル村は人口500人ほどの村だが、グウルイアと同じく、旅行者や行商人などの越境者が多かった。ギルドから出た後、エルナたちに、食材購入と情報収集を頼み、仁は道具屋に岩塩を買いに行く。ここ、ティアンル村は、岩塩が良く取れる山の脇にある。その為、わりかし岩塩が安い。仁は交渉スキルと値切りスキルを駆使し、原価にほど近い金額で、岩塩を大量に買った。岩塩が良く取れる山は、エウロパ王国四大貴族の一人のヘイカスネン辺境伯のの私有山の為、冒険者などが自由に探索出来ないように、採掘場の入り口には、3交代制で守衛がいる。
ちなみに、エウロパ王国四大貴族とは、エクロース公爵、フィルッパ公爵、ハーパサロ辺境伯、ヘイカスネン辺境伯である。王都スリギアに対し、東西南北に、大きな領地を持ち、大きな権力と富を持つ領主である。
エウロパ王国は、英雄王に従った人族王の末裔が支配する国であり、カリメイより2000年ほど歴史が長い。しかし、ずっと善政が続いているわけではなく、滅びかけたりすることも何度かあり、そこそこ腐敗している感じの国である。だから、貴族にも、善政を敷く者と、悪政を敷く者とがある。公式に発表されている限りでは、男爵家以上が65家あり、準男爵家以下が100以上あると言われている。
エルナたちが収集した情報によれば、ヘイカスネン辺境伯は、どちらかと言えば、悪政を敷く者の部類に入る。金と権力にしか興味が無いと言われるほど、富を集める事と力を蓄える事に興味を強く示し、もし、カリメイの勇者召喚がうまくいっていれば、エウロパ侵攻に協力し、王国を二分していたかもしれない。そんな事にはならなかったが。
皆様のエルフに対する清楚なイメージをぶち壊してしまい誠に申し訳ありません。
私も、奥ゆかしいエルフには、清楚なイメージを持っています。
ファンタジーで描かれる清楚なエルフは、きっと違う異世界にいると思います。こんな厨二エルフは嫌だ!と思われた方は、その清楚なエルフを探してみてください。