閑話 テオルグとエルナ
本編を書こうと思っていたのですが、閑話になってしまいました。
勢いで書いてしまっているので、
予定外の進行状況です。
なんとか、辻褄を合わせるようにします
テオルグは、まず、元執務室に向かった。正式に辞任が受理されるのは、早くて明日だろうが、今のごたごたで、長くなる可能性が高い。だが、自分は少なくとも、仁に対して立場と希望を伝えた。身分はいらない。いつでもやめられる位置にいなければならない。家族には申し訳ないが、最悪縁を切ろう。その際には、今までの蓄えを全て渡し、補償はしよう。幸い妻は、ずいぶん前に先立った。娘もこの国ではないが、魔法士として活躍している。息子は冒険者として活躍し、今は引退しているものの、ある街の副ギルド長をしている。息子の娘、つまり、孫だが、孫だけが近くにいる状態だ。
テオルグは賢者マジク・ジンの再来と呼ばれている事は、知っていた。だが、本人と出会った事で、再来には程遠いと自覚した。
普通、魔法を使う場合、魔力が消費される関係上、相手の使った魔力量に応じて、魔力感知が働く、軽微であればあるほど気づきにくい。無詠唱や詠唱破棄と言った高位スキルであっても、魔力が動くため、何か魔法が使われるまたは使われた事を気づくというのが、普通である。
ジン様の魔法は凄かった
あの結界、全く分からない
全く魔力が動かなかった
魔法神になったと思われていたが
違うのであろうな〜〜
おそらく、魔法神の上をいくのではないかな?
きっとそうに違いない
そんな方に仕えられるのか
いや、まだ仕えられると決まったわけではない
これからの働き次第か
元執務室の前に15〜6歳のメイドが立っていた。テオルグの孫である。礼儀作法を学ぶ為、宮廷に入り、テオルグ専属のメイドとしても働いていた。正確には、宮廷魔導師辞任受理後に、他への配属になるのだろうが。受理されるまでは、正式公布されないが、宮廷内で太い情報網を持つメイドたちは、すぐに機密などを掴む。眉がつり上がっている。相当怒っているようだとテオルグはうんざりした。
「お爺様!宮廷魔導師を辞されたというのは、本当ですか?」
「何の話だ?」
「受理前ですし、大っぴらに出来ないのは分かりますが、私は身内です!ここでは何ですので、中でお話ししませんか?」
「ここは私の部屋ではなくなる。片付けに来ただけだ」
「くっ、意思は固いのですね。今後はどうされるおつもりですか?」
「お前はどうしたい?実家に帰るか?宮仕えを続けるか?」
「今はお爺様の事が先です。あの勇者どもの教育係などをされると聞いてますが」
「あまり良い感情を持っていないようだね」
「当たり前です!第二王子殿下を殺めた輩の仲間ですよ!」
「そうか。第二王子殿下を慕っていたのだね」
「ううう(ノ_<)」
「仕方ない。部屋に入ろうか」
テオルグは、孫が泣いている間、財産分与の書類を作り、サインをして、しっかりと蝋で封をした。家族を捨てるというのは、きついものだと感慨に浸る。そして、元執務室にある私物、魔法の研究資料などテオルグが手がけたものだけ纏める。すると、孫が涙目で手伝い始めた。
「エルナ、まだゆっくりしてなさい」
「ダメです!テオルグ様、私はまだ、専属メイドです。テオルグ様だけを働かせるわけには参りません」
10分ほどで、片付けが終わり、ソファーに向き合って座った。
「さて、エルナ。お前は、ジン様が嫌いなのだね。殿下を殺めたから」
「はい。詳しくは聞いておりませんが、第一王子様とともに、殺害したと聞いております」
「敵対行動を初めに取ったのは、どちらだと思うね?」
「もちろん、奴に決まってます」
「そうか」
「違うのですか?」
「うむ。違う。彼ら勇者は異世界から攫われてきた。攫われてきた事に対しては、何も文句は付けなかったが、自分の能力を上手く隠し、4人の仲間と王城を退去された。その事を第一王子殿下は叛逆と言ったそうだよ。お前もそう思うか?」
「そ、それは理不尽な考え方です」
「うん。私もそう思う。陛下も同じであったよ。それで、5人に対し、1000の兵と将軍を連れて、討伐に向かわれたそうだ。兵を差し向けるだけでなく、第二王子殿下とともにね。第二王子殿下については、連れた行ったのか、第二王子殿下がついていったのかは分からないが」
「それでも、本当に強いなら、将以外を討てば良いのでは?」
「1000の兵ごと、瞬殺だったそうだ。どの範囲の攻撃だったかは、報告になかったので、分からないが、ある程度伸びた隊列を全て一飲みにする様なものだったと思われる」
「え?そんな、そんな能力をなぜ、隠して?」
「私は詳しく聞いたから、分かるのだけれど、あれは隠すべき力だよ。最初は私もあの方の能力に気づかず、もし、殿下と同じ考えに至ってしまったらと、ゾッとするよ」
「お爺様でも、勝てなかったとか、仰いませんわよね?」
「格が違いすぎる。例えば、エルナは私が、フェニックスかフェンリルを使役出来ると思うかい?」
「神が従えるもの、もしくは、神そのものではないですか。人には到底不可能です。お爺様は、凄い魔導師だと、誇りに思っていますが、分別くらいはあります」
「ジン様は、フェニックスもフェンリルも両方使役されたそうだよ。」
「?!そ、それは隠すべき能力です。で、でも」
「うん、でもやりすぎと言いたいのだろう?」
「は、はい」
「気持ちは分かるが、恐らく、ジン様は、軽くひと撫でするくらいの気持ちで、もしかしたら、王子が直接来るとは、予想してなかったのかもね」
「あ、あー」
「亡くなった方を悪く言うのは、いけない事だけど、第一王子殿下は短慮というか、考えなしなところがあったからね。5人に対し1000は多すぎるから、蹂躙するのを見て楽しみたかったのかもね。嫌な話だけど。それに、第二王子殿下も、外面は良いが、女にだらしないところがあって、ジン様の連れた仲間のうち3人は、お前よりも少し若い女の子だったんだよ。そっち目的でついていった可能性も否定できないんだ」
「・・・思い当たる節が。聞いた事があります。メイド長や執事長が、第二王子殿下の女癖についてボヤいていたのを、私は乙女フィルターで見ていましたから、聞き流しましたが、あれは、本当の事だったんですね」
「王にはお聞かせしていないが、庶子が数人いらっしゃるよ。結婚前だったから、認知もできないしね。」
「・・・ひどい話です」
「話がだいぶ、逸れてしまったけれども、初めに敵対行動を取ったのは、殿下たちだというのは、分かってくれたかい?」
「はい。亡くなった事は、自業自得です。それで、お爺様はどうなされるのです?まるで、ジン様についていくために、職を辞されたようですが」
「まだ、反対かい?」
「凄い方だというのは、分かりますが、怖い方だとも思います」
「うん。怖いね〜〜。でも、わくわくするのだよ。年甲斐もなくね。私にとっては、長年追い求めた姿だからね〜。理想とはだいぶ、違ったし、私も『再来』とか言われて、近づいた気がしてたけど、本物はやっぱり凄いね〜〜」
「え?ま、まさか」
「あ!!すまん。言うつもりじゃなかった。内緒にしててね」
「ほ、本当なのですか?騙りとか」
「それは無いよ。直接聞いてみた。まぁ、騙りだったとしても、良いかな?伝説に聞いた大魔法を私が気づかない方法で、使われたんだ。初めての経験だった。50年生きてきて、あれほど痺れた経験はないね。近くで、侍りたい!!学べなくてもいい、見てていたいんだ。あの方の近くで」
「でも、年齢にあいません。あ、不老不死とか?でも、召喚されたんですよね?異世界に生まれ変わって戻ってきた?謎です」
「年齢については、分かっているんだ。『過去の自分』らしいよ。どういう仕組みかは分からないけど、記憶も能力も持っている感じだね。他にも、『過去の自分』と仰った方々の名前を聞いたけど。凄かったよ。召喚の時の事は、いつか聞きたいね〜〜。でも、すぐに分かるかもしれない。勇者たちと仲良くなれれば」
「お爺様、俄然、ジン様という方に興味が湧いてきました。あ、でも、最初嫌いだと思っていた事を知られたらどうしましょう」
「気にしないと思うけどね〜。他の『過去の』方々で、敵対した者を懐に入れて裏切られた事のない伝説もあるからね」
「!!!英雄王!!!」
「ははは〜〜」
「私も出来れば、侍りたいです。お爺様にも負けません!!!」
「うん。じゃー、これはいらなくなったね〜」
「その封書は?」
「お前が、敵対したときのための財産分与の権利書」
「そこまでの覚悟を!!分かりました。貰える者は貰って、お爺様より高くジン様に私を買ってもらいますw」
「エルナ?」
「冗談ですΣ(ノ≧ڡ≦)てへぺろ☆それで私はどうしましょうか?お爺様専属でないなら、私も辞して、家にいましょうか?」
「そうだな。もし、まだジン様がお近くにおられるようなら、お前だけでも合流しても」
「どうでしょう?今日の今日には無理でしょうから、まー、家に帰って考えます」
誰かがドアをノックした。
「先ほどの話は内密に」
「勿論です」
「入って良いぞ」
「失礼します。テオルグ様、勇者様たちがお揃いです」
「メイド長、ご苦労。エルナを連れてゆく。今、王城で起きている事を話すから、人払いをしておけ」
「畏まりました」
「私の辞任については聞いていると思う。勇者様たちとの話が終わったら、エルナの今後の事について、エルナ自身の考えを聞いてもらえぬか?」
「畏まりました」
「では、エルナ行くぞ」
「はい、テオルグ様」
テオルグとエルナは、客間へ向かった。25人が入れる客間は、一つしかない。エルナもそこに集める準備をしていた事を知っていたので、間違いないだろう。
エルナ曰く、表には出していないが、メイドたちの間では、勇者たちに悪感情を抱く者が多いとの事。第二王子派、第一王子派、第一王子夫人派はそれに当たると。王の客扱いなので、不服でも従わざるを得ない為、態度で示す者はいない。今回の人払いには、喜んで従うだろうと。
客間の前に着き、部屋に入る。一旦、メイドたちを外に出す。
「人払いをお願いする。お前たちも、いい気持ちではないのではないかと思ってな。ああ、この事は誰にも言わないから、査定とかは大丈夫だ。もし何かあれば、私からも口添えしよう」
メイドたちは喜んで協力した。テオルグは、エルナを残し、メイドが本当にいなくなるのを確認すると、勇者たちに話しかけた。
「さて、勇者諸君、大切なお話が3つあります」
テオルグたちが来る前、勇者たちは話し合いをしていた。誰が受け答えをするのかと、仁を除いて、上手く受け答えが出来そうな人物は1人しか居なかった。
力武大和は元生徒会長であり、3年3組の学級委員長であった。もっとも、力武の実力での生徒会長当選ではない。他のクラスに、強敵がいたのだが、強力なブレーンとして、仁が陰に日向にバックアップしていた。当選後、副会長に推したが、あっさり断られた。
「何でしょうか?」
「そう硬くならないでほしい。まずは、これを見てくれないか」
仁が去り際に渡した手紙を開いた。すると、仁のフォログラムが現れる。これには、テオルグもエルナも勇者たちも驚く。テオルグは、勇者の誰かに渡して読んでもらおうと、思っていただけだったのだ。
“やあ、久しぶり!
俺が出てってどれくらいたったかな?
3日かな?1週間かな?
1週間ならもうすぐ次の街に着く頃だよ〜
さて、本題だけど、このテオルグは協力者だ
信用していい。
この世界での俺の事も少しは話したからね
まずは、君たちに、自身を鍛えてもらいたい
外の世界は、魔物に溢れている
いきなり旅立とうとかダメだよ
魔法でも何でも良いから、余裕で、魔物を倒すくらいにはなってね。
それと、忌避感があるとは思うけど、
人を殺す可能性がある事も知っておいてね
盗賊やら山賊やら普通に襲ってくるから
軍事訓練の担当者の協力者は得られなかったけど
テオルグが何とかしてくれるはず
頼むよテオルグ
じゃー、みんな、また会える日を楽しみにしてる”
「さすがはジン様、驚く魔法だ。さて、私の事は、分かってもらえたろうか」
「は、はい。すいません。かなり、身構えてました。あんな短時間に、協力者を作るなんて、さすがだな〜〜」
「さて、ジン様の事に関わることだから、私も全てをお聞きできたわけでは無いのだが、この世界の過去に何度か、こられていることは、ご存知かな?」
「何度もというのは聞いてませんが、役割練習していたと聞いてます」
「ふむ。そちらの世界では、ロールプレイというのか。勉強になる。今度、時間がある時ので良いので、もっとジン様の事を教えてもらえないか?実は・・・」
「お爺様!!本音ダダ漏れです!あ、失礼致しました(〃 ̄ω ̄〃ゞ」
「ああ、すまん。少なくとも7回以上、ロール、プレイだったか?それをしている。7人ともが、世界10傑だった」
「何でもありだな、ジンは」
「やはり、あなた方でもそう思うか。あなた方がこの国を出られるよう協力する。全員が無事、出られた時は、私もそこの孫エルナもジン様の元へ馳せ参じる予定だ。出来れば、きちんと辿り着けるように、私が指導するつもりだ。流石に魔導師なので、武器を使った訓練にまで口は出せないが、先ほど、ジン様が希望されていた件については、出来るだけの協力をしよう。協力者はこれ以上増やせないと思うが、そこは理解してほしい」
「分かりました。それが大切なお話の1つ目でよろしいのでしょうか?」
「そう、一つ目だ。なお、大臣の位は返上を申し出ているので、これからは教官とだけ思ってくれればいい」
「はい」
「2つ目だが、宰相モーノが死去した」
「仁が最後に接触した人物ですよね」
「そうだ、そして、あなた方を召喚する事を私と共に画策した人物だ」
「え?そんなこと言っていいんですか?怨むかもしれませんよ」
「構わないさ。それだけの事はした。私は、後悔していない。ただ、そこにいる孫は与かり知らぬこと故、恨むのであれば、私を恨んでほしい」
「分かりました。なら、私は怨みません。仁が、協力者に仕立てたのでしたら、例え仁が今の事を知らなかったとしても、怨むのはお門違いです」
「うう、む。ありがとう」
「勝手を言うようで悪いのですが、私は怨みませんが、他のみんなは分かりません。今後、ご自身で確認してください」
「分かっている。そして、最後に最も重要な話がある。王子らが筋違いな根拠を元にジン様に向けて軍を発し、殲滅させられた。この国は、未曾有の大混乱の中にある」
「え?仁は無事なんですか??」
「なんの傷も負ってはいないらしい」
「ほぉぅ」×25
「今後、あなた方が嫌な思いをするかもしれない。今のところ、王も私もエルナもジン様に非がないというのは分かっているが、今後、王の姿勢が変わるかもしれない。王子が2人とも死去したのだからな。この王城での味方は2割に満たない。私も大臣を辞したため、後継たり得ない。エルナも近いうちに城を辞去する予定だ。元々なんの権力もないメイドだからな」
「お互い厳しい立場ということですね」
「そういうことだ」
「分かりました」
「話は以上だ」
その後、小1時間ほど、テオルグとエルナと勇者たちは、仁の話で盛り上がり、かなり打ち解けた。数人は、テオルグに恨み言を言っていたが、それは隷属魔方陣についてであり、召喚については特に文句も言わなかった。テオルグは、隷属魔方陣を打ち破ったのが、やはり、仁だった事を知れて、ご満悦だった。また、エルナは未だ会ったことのない仁の事を、他の女子たちからエピソードを交えて聞き、仄かな思いを育んでいった。
エルナの退職は割とすんなり許可された。
基本的に、女の子たちは
チョロインです。
現実はそんなに甘くないんですが
ツンデレさんとか、書けるか心配です。
ヤンデレとかはかけそうですがw
あと、テオルグのキャラが崩壊しました。
仁・孫については激甘すぎですね。