ばあちゃんの葬式(1)
「ばあちゃんが亡くなった」
講義の最中に受信したメッセージは母からだった。
ばあちゃんと最後に会ったのは、半年前。
お正月に母方の実家に帰省した時に会ったきりだ。
率直な感想は悲しいというか、もうばあちゃんからはお年玉がもらえないな、ってくらいだった。
といってももう大学2年でお年玉をもらっているのもどうかという話かもしれないが、大学1年になる年の正月に一応お年玉の辞退を申し出たが、社会人になるまではもらっておけとばあちゃんに窘められたのだった。(心の中では想定通りだったのだが)
母からの続報メールがどんどん送られてきている。
どうやら、今晩が仮通夜で、明日が通夜、翌日が葬式らしい。
いますぐ帰宅しなければならないような状況じゃないようなのでちょっと安心した。
今日は予定通りに過ごす事にした。
帰りに紳士服の店に寄り、喪服を買うことだけがいつもと違う。
今年の成人式のためのスーツは新調したが、喪服はまだ持っていない。
にこやかに接してきた紳士服屋の店員に、すぐに喪服が欲しい事を伝えると、急に神妙な顔になったのがちょっと笑えた。
今日は平日の夕方ということもあり空いているようなので、ズボンの裾直しが20分でできるらしい。
普通の服屋ならブラブラ店内を見て回って時間を潰しているが、なんとなくカウンター前のテーブルに座り、普段なら絶対読まないような紳士向けの雑誌をなんとなく見ることにした。
今年の正月にばあちゃんに会ったとき。
「今年は成人式があるからといつもより多目に入れてあるよ」と言っていたので期待して開けたが、去年より1万円多いだけだったので、少しがっかりしたのを覚えている。
買う予定だったノートパソコンにあと2万円届かなかったが、想定外の人に成人祝いをもらったので無事に買うことはできた。
注文してから数週間待ち、やっと届いたのだが、まだ箱から出していない。
今年の秋に新モデルが出るという噂も目にしたが、見なかったことにしている。
20分もかからずに裾直しが終わり、店を出た。
これから帰宅し、翌日の朝から母の実家へ向かう。
母の実家までは車で2時間くらいかかる。
向こうでどうやって過ごすか考えると気が滅入ってきた。
小学生くらいの頃は、年の近い従兄弟達と遊んだりしたが、大きくなってからは帰省しなかったり、会ってもどこかよそよそしい感じで接していたから、なんとなく気まずい。
折角だから、まだ箱から出していないパソコンを持っていって、暇を潰す事にしようと思った。
母は少し元気が無いくらいで、普段どおりに見えたが、日中ひとしきり泣いたのだと後で聞いた。
明日の夜は通夜で、母はいろいろ準備があるので忙しいらしい。
父は特に用事はないようだが、ダラダラ過ごすわけにもいかず、気の抜けない2日間になることは間違いないだろう。
自分は何か仕事を任されるかもしれないと母に聞いた。
葬式はこれからの人生で何度も経験するから全体を良く見ておけと父に言われたが、父や母の葬式を自分がやるなんて全く想像できない。
親は不死身なんじゃないかと子供の頃から思っている。
次の日の朝、ちょっとした旅行に行くような気分で、新しい喪服と未開封のパソコンを持って、ばあちゃんの家に向かった。