零章 一(マイナス)の日々
つまらない。
来る日も来る日もつまらない。
といって「俺は今つまらないぞ」という感想がわざわざ発生するわけではない。ただそういう気体が俺の毎日を覆っている。
テレビ見て笑う。映画借りて脳のどっかが熱くなったりもする。人生悔いナシでございますってかっていう老夫婦の客をみれば朗らかだかな気分になりもする。
だがそれらは俺の生活に1ミリ1グラム影響を与えることはない。
メニュー考案に集中し苦慮の末やっと形になった時の達成感も、22時閉店、半までには全ての客がはけ23時も過ぎりゃ俺の身体の何処にも残っちゃいない。
同僚とどこがオチか知れないような冗談をひとつ二つ交わしたりして片付けを済ます。仕込みの見当もつき「おつかれ」ときっと俺は挨拶しただろう、タオルと靴下を袋に落とし(汚れすぎたり破れたら替える、いつも適当に手に入る、ビニールだったり紙だったりの袋)、肩に掛けるか小脇に挟み、でかく重いゴミ袋を引きづり板場から店を出る。
16時間以上ぶりの外気にも大抵意識は傾かないままで、廃棄物を外階段下のさびたポリ風呂に投げ入れ手を払う。
一服ふかして駅へ歩き出した頃、目は開いているだろうがやはり意識などない。
俺のつまらなさ達は多分奴ら自身で浮かぶコトバの相手をしていたのだろう。
俺の頭の中はこの七年同じ軽さだった。
だが、俺はあいつに出合った。青子に、出合ったんだ。