『大人への階段?』
父さまに秘密にして、ルークとの逢引きを繰り返していた私は___
どうしても……。ルークとのことを父さまに認めて欲しくて。
母さまとオースティンを交えて作戦会議を開いていた。
「もう当たって砕けろ! って感じで、全部正直に話しちゃうってのは?」
「あああ。駄目よ! 無理。魔王は絶対に頑なに反対するだけ!」
面倒になってきたので、私が全部話してしまいたい。と心のうちを打ち明けると___母さまは青い顔をして却下した。
「じゃぁ! 話して反対されたら駆け落ちする!」
「それはいけませんね~。ルークの立場が悪くなります」
投げやりな気分になって駆け落ちする! と言ったら、今度はオースティンにルークのためにならないと止められてしまった。
「隠れてコソコソしていることがバレてもルークの立場は悪くなって、魔王は即時にサラからルークを遠ざけてしまいそうだし。……面倒よねぇー」
「やはり。私が魔王さまに、きちんとお話させて頂いた上で、サラ様と交際することをお許し願うことが男としての筋かも知れませんね」
ルークは胸を張って、母さまとオースティンにここは、覚悟を決めて__父さまに許しを乞うと申し出ると。母さまもオースティンも暫く顔を見合わせて考えてからオースティンが口を開いた。
「確かに、ルークの言うとおりですね。筋を言えばそうです。男らしく、サラ様との交際を魔王に申し込むということも正しい選択かもしれません。しかし、ここはルークだけでは足りないでしょう。しっかりとルークが、サラ様と思いを通わせているのだということをですね。魔王に上手く伝えないと行けません」
「だから、結局は全部話しちゃうしか無いんでしょ?」
私が立ち上がってルークの手を取って部屋を出ようとしたら、慌てて母さまに宥められて椅子に座らされてしまった。
「えっと、だからね。正直過ぎることも問題でしょ? だから、まずはサラが魔王にルークとお付き合いしてみたいってさり気なく話して、魔王の出方を見るってのはどう?」
「そうだわ。それが良いかも!? やってみる。反対されたら、父さまとは一生口聞かないって言ってやる!」
私が母さまの提案に乗り気でいると、オースティンが苦笑いをしながら私の手を取った。
「違います。良いですか? サラ様は酷く思い悩んだ様子で、魔王にサラ様がルークに想いを寄せていることを相談されれば良いのです。そして、魔王に助けを求めるのです。フフフ♪」
「あ。そういうことね? わかったわ。父さまを味方にするのね。フフフ♪」
この作戦にルークは、あまり気が進まない様子だったけれど。私は早速父さまの部屋へ出向いて、シナリオ通りに父さまに泣きついていた。
「オイオイ! そんなに泣くな! わかったわかった。オレ様があの魔法使いの気持ちを確かめてやるから待ってろ!」
「本当に? 父さまが確かめて下さるの?」
思ったよりも、父さまは簡単に私の演技に騙されて私を一度部屋へ帰してルークを父さまの部屋へ呼んで、私への気持ちを確認することを約束してくれていた。
ところが、なかなか父さまは私の部屋へは来なくて私が、どうなったのだろうと心配になって部屋を出ようとしたら、部屋のドアを開けて父さまがルークと入って来た。
「サラ! やっぱり、オレ様が思っていた通り! お前らは最初から出来てやがったんじゃねえか! ルークから全部聞いた。お前が黙って、あの日に城を抜け出して、コイツと出会ったこと。そして、お前のためにコイツが努力してお前の護衛になったこともな!!」
「申し訳ありません。やはり魔王さまには、正直に話しておきたくて全てをお話致しました」
真面目なルークには、やはり嘘は突き通せなかったようで。私との出会いから、今に至るまでを包み隠さずに父さまに話してしまったようだった。
「しょーがねえから認めてやる! コイツの正直な所に免じて許してやるんだ。ただし、結婚はまだまだ許さん。だが、今日からルークはサラだけのウィザードだ。好きにしろ! それから、言っておくが、お前がサラを泣かせたら、闇の底へ葬ってやるから覚悟しろよ! わかったか?」
「もちろん! 覚悟しております」
この後、父さまにルークは祝いだと言って散々お酒を飲まされて開放されたのは翌日の朝方だった。この有様を目にした母さまとオースティンは、目を丸くしていた。父さまが、こんなに誰かと楽しげにお酒を酌み交わすなんてことは、実のところ、もう何百年も無かったことらしい。もちろん、母さまはこんな父さまを初めて見たと言って、とても嬉しそうに笑っていた。そして、酔いつぶれてしまった父さまを連れて、母さまは凄くワクワクした様子で寝室へ帰って行った。
その日から父さまにコソコソすることもなく。堂々と二人っきりで会えるようになって私もルークもゆっくりと部屋で寛ぎながら、色々な話を交わしてお互いの思いをどんどん深めていった。それに、何故かあの日から父さまと母さまはとても楽しそうに二人で良く城下へ出かけて行ったり、城の中でも二人で過ごしていることが当たり前のようになっていた。
もしかしたらだけど。私とルークのことがキッカケになって、また夫婦二人の時間を満喫する気になったんだろうか? なんてことを考えていたら、その二ヶ月後。母さまのお腹には私の弟と妹が宿っていた。
「魔王さまも、やっと次のお子を儲ける気になったのですね。そして美乃里様も、これはとても喜ばしいことです」
「実はね。双子らしいの! 男の子と女の子の双子だってエルザに教えてもらっちゃった」
お祝いに訪れたオースティンに、母さまはクスクスと笑いながらお腹の子が双子だと告げていた。
「それはそれは! 城の中がとても賑やかになりそうですね。フフフフフ♪」
「魔王も同じことを言っていたわ! フフフ♪」
母さまは幸せそうに、お腹を擦りながら満面の笑みを浮かべていた。
そして、ある日のことだった……。
私は部屋で、ルークと二人きりの時に何気なくふと、思ったままを口にしていた。
「ねえ? ルークは私との子を早く欲しいと思ってる?」
「わ、わ、私は、あの。サラ? 君はその質問の意味をわかって聞いているのかい?」
私が想像していた答えではなくて、思いも寄らない答えがルークから返って来てしまったので、私はその意味を良く考えてみて、今の自分の発言が、やっとどういうことなのかを理解して、顔から火が出そうになるくらい恥ずかしくなって慌ててベットに飛び込んでシーツに包まっていた。
「ほんとにサラには、いつもいつも、ドキッとさせられっぱなしですよ! こんなにまだまだお子ちゃまなのに」
「もう~! ルークの意地悪! 大嫌いよ。エッチ!」
シーツに包まって背中を向けて逆ギレしている私を抱きしめて、優しくルークは頭を撫でてくれていた。
「少し刺激が強すぎたかな? でもね。子供が欲しいということは、そういうことでしょう? サラはもう少し大人にならないと、無理かもしれないけど。私は気が長いほうだから大丈夫ですが、出来れば早く子供は欲しいですね。フフフ♪」
「ルークったら! そうやってすぐに私を子供扱いするんだから! 最近なんだかオースティンに似て来たような気がするんですけど!?」
シーツを取って顔を出してルークに詰め寄って、私がルークに馬乗りになった瞬間だった。
「あっ!?」
ルークに抱えられた私は、そのままクルリと一回転して一瞬でルークが私の上にいて私の唇にルークは自分の唇を激しく重ねていた。何度も何度も、ルークとは唇を重ねて来たけれど。こんな風に激しくされたのは初めてだったので、心臓が飛び出しそうなくらい胸がドキドキして、まともにルークの顔を見ることが出来なかった。
「ほらね。フフフ。サラはまだまだ子供なのですよ! それにね。急いで大人になる必要も無いでしょう?」
「あううう。やだ! なんかルークに子供扱いされるのは嫌なの」
背中を向けて拗ねている私を優しく抱きしめて、ルークはもう一度。今度はそっと優しく唇を重ねていた。
「でも。やっぱりこっちのキスのほうが好きかも……」
私が正直な今の気持ちを打ち明けると、ルークはクスクスと笑いながらもう一度優しく唇を重ねていた。そして大人への階段を登り始めたものの。まだまだ、お子ちゃまな私をルークは優しく気長に待っていてくれるとそっと耳元で甘~い声でささやいていた。