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『私・・・運命の彼と出会ったかも?』



 傷ついた心を癒やすために。コッソリ城を抜けだして、私は街をブラブラと目的もなく歩いていた。城に一番近い街だから、やっぱり色々なお店がたくさん出ていて、見てまわるだけでも時間は十分に潰せそうだった。ここにいる魔物たちは、ほとんどが二足歩行で人間に近い姿をしていて中には魔法使いも店を広げていた。朝食を食べ損なった私は……。まずは腹ごしらえをしようと思って、私が屋台で干し肉を挟んだパンを買ってから、その辺にある木箱に腰掛けて食べていると後ろから知らない男の怒鳴り声がした。


「オイ! お前! 見ない顔だな? どっから来たんだ?」

「ちょっと待って! 今、食事中だから、ちょっと待ってね!」


 私が男を待たせて、急いで手にしていた残りのパンを口へ放り込んで立ち上がって屋台で果実を絞ったジュースを買って、一気に飲み干しておまたせしました~♪ と言って振り向くと、機嫌の悪そうなゴツイ感じの魔物が子分を引き連れて怖い顔で立っていた。


「あらま。……これってもしかしてピンチかも?」

「なめてんのか? コラァ~!! 何処のもんだ。お前!?」


 私が男の格好をしているもんだから、どこぞの騎士か何かに見えたようで。やられる前にやっちまおう的な考えからか? 仲間を集めてやって来たようだ。


「どこって? あそこ!」


私が魔王城を真っ直ぐ指さすと、荒くれ者の頭はガハガハとお腹を抱えて笑い出した。


「おめえ! もうちっと。まともな嘘を付きやがれ! あれは魔王さまの城だぞ!!」

「ええ。だから、あそこから来たって言ってるでしょ?」


私が動じずに答えると、頭のほうがうろたえ出して仲間たちとコソコソと何かを相談し始めていた。


「オイオイ。お前らもその辺にしておかないと、魔王さまにぶっ殺されるぞ!」


物陰からローブを纏った。まだ、私くらいの若さの魔法使いが静かにスーッと現れて荒くれ者たちの前に立っていた。


「魔王さまにぶっ殺されるって? 何でだ?」

「その方の髪の色を見て気付かないのか? 魔王さまの姫君は確か……赤毛だろ?」


魔法使いの言葉に。荒くれ者たちは、私の方を見て赤毛であることを確認すると蜘蛛の子を散らすようにあっという間にいなくなってしまった。その様子を唖然として見ていた私のことを、魔法使いはクスクスと笑って私の手を取って歩き始めた。


「姫様はかなり無茶をされるのですね? お城で何か嫌なことでもあったのですか? フフフ」

「ま、まぁね。気分転換なの。お城にいてもつまらないし。……モヤモヤしちゃうから」


初めて出会った同じくらいの歳の魔法使いに、私は手を引かれて街の中を歩いていた。


「あ。名前? あなたの名前を聞いてないじゃない? 私はサラよ! サラって呼んでね♪」

「失礼しました。私の名はルーク。ルークとお呼びください」


魔法使いは自分の名を名乗ると深くかぶっていたフードを取って私に顔を見せた。


「ねえ? 魔法使いって……。銀髪の人が多いの? それに。あなたの瞳……オッドアイ?」

「フフフフフ。私はオースティン様の甥っ子にあたるので、同じ髪の色をしているだけです。銀髪の魔法使いはそんなに多くはありませんよ。オッドアイはたまたまらしいです。幼少の頃は気味が悪いと石を投げられたこともございます」


そう私に話しながら、空を見つめるルークの金と銀の瞳はとても美しい色をしていた。


「気味悪くなんて無いわ! 誰がそんなことを言ったの? 私が叱ってあげる。こんなに美しい瞳をしているのに。失礼だわ!」

「サラ様はお優しいのですね。そのお言葉だけで十分でございます。ありがとうございます」


私が大声で怒鳴っていると、ルークは嬉しそうに微笑んで私の手を取って跪いて手の甲にそっと接吻をしていた。


「あわわわわわ……」


私が真っ赤になってすぐに手を引っ込めると、ルークは立ち上がって私に聞いた。


「これからどうされるのですか? まだ日が沈むまでには時間はたっぷりありますよ」

「そうね~。まだお城へは帰りたくないから、出来れば街の中を案内して貰えれば嬉しいわ~♪」


ドキドキと波打っている胸に手を当てて、気持ちを沈めながら私はルークに笑顔で返事をしていた。ルークは私の返事を聞くと、嬉しそうに微笑んで私の手を取って歩き出した。胸がドキドキはするものの……。楽しいほうが勝っているのか? そのままルークと私は手をつないだままで、夕暮れまで街の色々な所を回って楽しく過ごしていた。


「ねえ? ルークはお城へは来ることは無いの?」

「まだ、私は修行中の身なのでね。早くオースティン様のようになりたいって思ってはいるんだけど。なかなかね。フフフフフ♪」


私の質問に少しルークは苦笑しながら答えると、優しく私をハグしてくれていた。


「今日は、サラ様と一日を過ごすことが出来て……とても楽しかったです」

「私もすっごく楽しかったわ。それに。助けてくれてありがとう。また、会えるよね?」


このまま別れてしまうと、又いつ会えるかもわからなかったので、私はとても寂しくて……。なかなかルークから身体を離すことが出来なかった。


「きっと会えますよ。サラ様が願えば、必ずまた楽しい一日を一緒に過ごせます」

「そうかな? また、父さまに邪魔されちゃうかも……」


ルークは目に涙をいっぱいに溜めた私をギュぅっと強く抱きしめていた。


「その時は……。私がサラ様をお城から連れ出しに参ります。だから、泣かないでサラ……」

「あっ!?」


ルークはそのまま私の頬に顔を近付けて、そっとキスをして私を真剣に見つめていた。


「ルーク……約束だよ。絶対の絶対だよ!」

「命に変えてもお約束します」


私とルークは……。初めて出会ったその日の内に恋に落ちて、別れを惜しみながらも固い約束を交わして私は一人で魔王城へと戻った。


 城へ帰ると。私がいないことには誰も気付いていなかった様子で、普通に部屋へ戻って服を着替えて夕食を済ませた。父さまも母さまもあえてオースティンのことは私に何も言わなかったので。私も今朝の母さまと父さまの話は聞かなかったことにして、黙っていることにした。



 そして一週間が経った……。私はルークに会いたくて会いたくてたまらなかった。少しでも暇があると、あの日のことを思い浮かべて胸がキュンとして苦しくなった。さすがの母さまも父さまも、私の様子がおかしいことに気づいた様子で慌ててオースティンを城へ呼んで私の部屋へ寄越していた。


「ご機嫌如何ですか? サラ様? おやおやこれはもしかして?」

「オースティン……。あうううう。ルークに。ルークに会いたいの~(涙)」


久しぶりに訪れたオースティンの顔を見た途端。私の瞳からはポロポロと涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。あんなにオースティンにドキドキ胸を高鳴らせて恋していたはずの私が、今ではオースティンを見てもドキドキもしなくて普通に顔を見て話しても平気だった。そして、私は涙ながらにルークに会いたいと繰り返し訴えていた。


「フフフフフ。ルークもサラ様にお会いするために、毎日とても真面目に頑張っていますよ!」

「本当に? そうなの? 私だけが苦しいんじゃないのね。ルークも頑張っているのね」


笑顔を取り戻した私にオースティンは、ルークから預かってきたのだと綺麗な天然石で作った腕輪を私の腕に嵌めてくれた。


「父さまや母さまににはまだ話さないでね! もしかしたら、反対されちゃうかも知れないし」

「そうですね。わかりました。このことは暫くの間はあのお二人には話さないでおきましょう♪」


私は物分りの良いオースティンに、ありがとうと言って抱きついていた。ルークは、私の護衛の魔法使いとしてお城へ上がることになっていると、オースティンは教えてくれた。それと……。試練があったほうが私とルークの恋心というものが燃え上がるだろうからと。オースティンは「ちょっとしたこれも演出なのですよ」と言ってクスクスと楽しそうに笑っていた。


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