第9話「襲撃編 前篇」
ヴァーリと最後に出会ってから1カ月。
俺達はいつもの用に、ショッピングモールで超能力の特訓をしていた。
「よし、もうみんな超能力はコントロールできるな。」
現在、超能力で車を動かす特訓が終わったところである。
この1カ月、俺達はずっとショッピングモールで特訓を続けていた。
1カ月間あの少年が現れる様子がなかったし、俺達が襲われる様子もなかった。
特訓をしてわかったが、やはり超能力を普段から使っていると、力のコントロールができるようになる事がわかった。
最初は竜輝が加減を誤ってぬいぐるみを破裂させたりしていた。どんだけ怪力なんだよ。いや、この場合は念怪力か?
他には購入したアイスを手に持たず、食べる特訓をした。
え?どこで食べたかって?もちろんトイレさ(キリッ
人通りの多い場所で、空中でアイスを食べる芸当は怖くてできない。
もし写真を撮られてネット上にばら撒かれたら、いろいろと不味い。実はマジジャンだったんです!とでも言えばいいのだろうか。
だがしかーし。Mrマリックのようにタネも仕掛けもあるマジックじゃあない。
本当にタネも仕掛けもないマジック。これが正真正銘のマジックだ!(ドヤァ
………と、マジックはここまでにして、クレープを食べながら俺達は1階のエントランスホールで椅子に座り、今後の方針について話し合っていた。
「今後は月、水、金の3日間だけにしようかと思うんだが、みんなそれでいいか?」
俺達の超能力はもう無意識には発動しないし、洞窟で襲ってきた少年も襲ってくる気配がない。
となればもう訓練しなくても大丈夫だろう。
それと俺個人でやりたい事もある。
最近、みんなには内緒で飛ぶ練習をしているが、せいぜい2mほど浮いてからゆ~らゆ~らと動くだけだ。
とてもじゃないが、鳥のようにはなれない。
それと、俺の特殊能力が開花するのを今か今かと待っているが、一向に特殊能力が使える様子がない。まぁこっちは気長に待とう。
一カ月前、俺とヴァーリが出会った事は誰にも話していない。ゆえに特殊能力の話もしていない。
話すか話さないかで悩んでいる間に、1カ月たっていたのだ。月日が流れるのは早いね。
「僕はその話に賛成だ。楓はどう思う?」
竜輝は元々このやり方には反対だったからな。まぁ賛成だろうとは思っていた。
「私も賛成かな…超能力使いすぎて疲れてきたし…。」
疲れるのか?俺は超能力を今まで使ってきて疲労感を感じたことはないが……何かあるのかもしれない。
光に視線を向ける。
「僕は…みんなの意見に合わせるよ…。」
光は平常運転だ。
「相楽は何か意見あるか?」
相楽に視線を向けて聞いてみるが、ボケーとしている。
「おーい。相楽。生きてるかー。」
相楽の顔の前でブンブン手を振ってみるが反応がない。まるで屍のようだ。
ふむ。しかし最近相楽はこうしてボケーとしてる事が多い。正確に言うと一週間ほど前からこんな感じだ。
人の話を聞いてるのか聞いてないのかわからない感じ。
こんな時はどうするのか。
そう!覚まさせてあげるには、ほっぺを抓るのが一番いい!
右頬をギュー、と抓ってみる。
そしたら反応があった。
「………………ッ!痛いですよ先輩!レディーになにするんですか!」
「お前に意見を求めてるのに、反応がないからだろ」
「え?………な、なんの事ですか?」
「だから、今後は超能力の特訓を月、水、金の3日間だけにしようかと思うんだが、それでいいかと聞いてるんだ。
「いいと思います!もう超能力の制御はできますし、休みいいですね!」
いつも通りの相楽に戻っていた。
ふむ…最近の相楽の様子はちょっと変だからなぁ…気になるな。
………はっ!まさか相楽が特殊能力に目覚めていてそれで悩んでいるなんてことは…。
可能性はある。遠回しに特殊能力について探ってみるか。
「相楽、お前最近――――――――――――」
瞬間―――パァン!と言う音とともに俺の声はかき消された。
鼓膜が一瞬震えるほどの音量だったが、鼓膜は潰れていない。
何事かと思ってあたりを見回したら、その原因はすぐにわかった。
銃を持った男が6人、エントランスホールのど真ん中にいる。
中にはその光景を見て悲鳴をあげてる人もいるが、銃を持った男が
「うるせえ!黙らねえと殺すぞ!!」
と威嚇射撃をしているのを見て震えながらも黙っていた。
それでも黙らない人がいた。中年ぐらいの男でメガネを掛けてスーツを着用している。
男は勇敢にも銃を持った男6人の中に近寄り、「こんな事は止すんだ!」とか「こんな事をして何になる!」などギャーギャー喚いていたが、銃を持った1人の男が面倒な顔をして中年の男に銃を向けた。
まさか―――と思い俺は瞬時に楓を抱き寄せ、おそらく数秒後に起こるだろう悲劇を見させないようにした。
その瞬間。
「うるせぇよ」
銃を持った男が目の前にいる中年の男の脳天に発砲した。
パァン!と言う銃声の後に、中年の男は力なく床に転がり、血を流していた。
それと同時に何人かは悲鳴を上げたが、撃った男の仲間が威嚇射撃をして収めた。
「このショッピングモールは俺達が乗っ取った。死にたくない奴は、静かにしてろ。外部に連絡してもいいが、通信はこっちの方で遮断させてもらった。」
おいおい何かの冗談だろ?と思ったが、目の前に頭から血を流して倒れている男性と、圏外のスマホが今の状況を現実だと言っていた。
その後テロリスト達がショッピングモール内にいる客をエントランスホールに集め、客全員の腕を縛った。
テロリストの数は10…20…30ぐらいはいる。大規模なテロだ。
しかし、このショッピングモールにテロを起こすほどの価値があるとは到底思えない。
しばらく考えていたが、考えてもテロリスト共の考えなどわかるはずもない。
そういえばみんなは大丈夫だろうか。
ちらっと横をみたら、光は小刻みだが震えていた。無理もないだろう。目の前で人が死んだのだから。
楓は青い顔をして力なく座っている。なるべく楓には死体を見せないように俺が死角に入っていたが、もしかしたら見えてしまっていたのかもしれない。
相楽は下を向いていて表情が見えない。
竜輝は―――――――やばい。
静かだが殺気を放っている。真横にいる俺しかわからないだろうが、怖い。
声を掛けたいが、掛けたら殺されそうな殺気が伝わってくる。マジ怖い。
いくつか気になる事があるので声は掛けるが。
俺は小声で竜輝の耳元に耳打ちした。
「竜輝……お前なら男が銃を発砲する前に止めることができたんじゃないか?」
すると竜輝は一瞬俺の方をギロッと睨んでから答えた。マジで怖いのでやめていただきたい。
「僕も考えたよ。でもテロリストが6人だけとは限らない…現にテロリストは僕の予想より遥かに大人数だったからね。」
なるほど。確かに竜輝でも30人は無理だろう。
例え30人を倒したとしても、中年男のように人質が何人殺されるかわからない。
俺が加勢しても結果は変わらなかっただろう。
竜輝は死人を出さないためにこの選択を選んだのだ。
殺気は出てるのに冷静な奴だ。と思いながら俺はこの状況を覆す打開策を考え始めた。