第7話「持久走」
昼休み。
俺達はいつもの屋上で昼飯を食べていた。
だがいつもの昼に比べ、みんな静かだ。
昨日の事が気がかりなんだろう。
空気が悪いのを察したのか相楽が俺に質問を聞いてきた。
「先輩たち何かあったみたいですけど…何かありました?」
そうだな…相楽にも昨日の事は言った方がいいかもしれない。
「実はな―――」
俺は昨日洞窟に行ったら猫地蔵がなくなっていた事。そして謎の少年が俺に襲いかかってきた事を説明した。
「物騒ですね…」
物騒…か。確かにそうかもしれないな。
「よし、なるべくこの5人で行動することを心がけよう。いつまた昨日みたいな事が起こるかわからないしな。」
4人は納得した顔で頷いた。これで飯が食べやすくなると思った矢先、楓が「あ!」と口に手を当てた。
「それよりみんな、次の授業体育だから早く食べないと遅れちゃうよ?」
まじかよ!せっかくゆっくり食べれると思ったのに…。
俺と竜輝と光は急いで飯を腹に詰めて校庭に行った。楓と相楽は体育館だ。
「今日は持久走を行うぞ!まずはいつものように準備体操から!はいすぐ!」
相変わらずタッキーは元気だな…。
体育の授業の先生は滝本雫。
雫なんて可愛い名前に対して熱血だ。
…親に今の状態のタッキーを見せてやりたい。
「こらそこ!真面目にやれ!」
どうやら俺のやる気のなさが態度に表れてしまったらしい。気を引き締めるか。
持久走はどちらかというと得意な方だ。
だけどどうしても竜輝にだけ勝てない…。
だが今日こそは勝ってみせる!輝け!俺のソウル!!
そんな事を考えている間にタッキーが「よーい」まで言っていた。
慌てて俺がスタートの体制を取るとそれと同時に「ドン!」という声が聞こえてみんな一斉にスタート。
一瞬遅れたが目立つほどの遅れじゃない。
序盤俺は先頭で走る。その後ろに竜輝がぴったりと張り付いている。光は体力が元からあまりないので後ろの方だ。
いつも竜輝が後ろにくっ付いて最後に抜かされるんだよな…。俺を風よけにしてるのかこいつ。
だが最近の俺は一味違うぜ。
いつもなら200mほどで終わるダッシュが、なぜか400m付近を通過した今でも継続している。
体力作りは特にやってないが最近はなぜかパワーが溢れている。
500m付近をダッシュのまま通過した。
さすがにこれだけ離せば竜輝もくっ付いてこれないだろ。
そう思い後ろを向いた俺は竜輝を甘く見ていた事を実感する。
後ろには竜輝がぴったりくっ付いていたのだ。
俺は走りながら竜輝に話しかける。
「今日はいつもより調子がいいんだな。」
走りながら話しているからか息が荒い。
「そんな事ないよ。筋トレの成果さ。」
竜輝は息一つ乱していない。
くそっ!こいつスネークかよ!
俺はさらにスピードを上げた。
1500mになり、そろそろ俺のダッシュも限界に近づいてきた。
さすがにこの速度じゃくっ付いてこれないだろ。と思い嫌な予感がしつつ後ろを向いた。
…嘘だろ。ピッタリくっ付いてきてやがる…。
いくら俺が風よけになっているからといって、この速度で付いてこれるのはおかしい。オリンピック出れるんじゃないかと思うぐらいの速度なのに。
竜輝の後ろには誰もいなかった。おそらく俺達がずば抜けて速いなんだろう。
俺が息絶えながら走っているのに対し、竜輝は息が乱れてない。こいつほんとにスネークかよ!!
2000m付近でさすがの俺もスピードが落ちてきた。
それに対して竜輝は息が乱れていない。リアルスネークめ。
竜輝がスピードが落ちたのを感じて抜かしに来る。
このままだと抜かされる―――そう感じた俺は卑怯だが秘伝の技を使うことにした。
これは竜輝にはできないが俺にはできる―――そう!秘儀タックル!
正義感の強い竜輝にはできまい。…たぶん今の俺は悪い顔してる。
俺を抜かそうと竜輝が横にくる。
今だ!
俺は渾身の力を込めて竜輝に向かってタックルをかました!
その瞬間―――竜輝がウ〇インボルト顔負けの超高速ダッシュをした。
………嘘だろ…。
俺のタックルは竜輝に当たらず虚しく空を切った…。
唖然としてる間に竜輝はどんどん差を広げていった。
負けじと俺もダッシュするが足が限界で思うように動かない。
結局、今日も竜輝に勝てなかった。
ゴールするとタッキーと竜輝が話していた。
「すごいじゃないか氷室!このタイムならオリンピックで金メダル取れるんじゃないか?」
タッキーが興奮気味で竜輝に話している。
「自分なんてまだまだですよ。努力が足りてないです。」
「いやー先生は嬉しいなー。自分の生徒が金メダリストなんてな!!」
タッキーは竜輝を陸上選手にさせる気満々だが…当の本人はそうでもないみたいだ。
「先生…俺のタイムは?」
俺はややイラついた声でタイムを聞いていた。
「おっ波多野も帰ってくるのが早いな。え~とタイムは…7分31秒…ってお前も十分オリンピック出れるじゃないか!!」
タッキーが嬉しそうに話す。
にしてもめちゃくちゃ速くなってるな俺…まさか陸上選手の素質があるとは。
「いや~自分が持っている生徒にオリンピック選手が2人もいるなんて先生も鼻が高いな!がははは!」
「先生、一応乙女なんですからその笑い方どうにかしてください。」
竜輝がツッコミを入れる。
そんなこんなで3人で雑談していたら光が息絶え絶えで走り終えた。
いつも光は最後の方だったのに…珍しいな。
「せ、先生…ぼ、僕のタイムは…」
相当疲れているのか大の字になって地面に倒れている。
「前島は…すごいじゃないか!前回より5分近く速いぞ!」
タッキーが嬉しそうに言う。
「あ、ありがとうございます…」
光は目を閉じながらよほど疲れているのだろう、はぁはぁいいながら「水飲みに行きます」と言って給水しにいった。
体育の授業は男女別々なので、今頃相楽と楓はバレーボールをしているはずだ。
相楽は運動神経いいけど、楓は微妙だ。
しばらく待つと全員が走り終えて持久走は終了した。
放課後にいつものショッピングモールに行き超能力の特訓をして家に帰った。
「ただいまー。」
靴を脱いでいると台所の方から母さんの声が聞こえてきた。
「あら、今日は早かったのね。」
「今日は早めに切り上げてきたんだ。」
母さんには放課後学校で勉強してから帰るから遅くなる。と伝えてある。
「ご飯もうちょっとで出来るから、先に部屋で着替えてきなさい。」
料理してる最中なのだろう。台所からは炒めている音が聞こえる。
「わかった。じゃ着替えてくる。」
制服をハンガーにかけ、部屋着に着替えた。
さて、晩飯までどうするか…そういや宿題出てたな。晩飯前に済ませとくか。
そう思った俺はバッグからノートとシャーペンを取り出し、さてやるかと思い机の方を見た瞬間。
そこには数週間前、俺達を超能力者にしたやつがいた。
「やぁ。お久しぶりだね。」
二度と会えないかと思った俺はその光景に絶句した。