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ある日超能力が突然使えました  作者: グリム
第二章 超能力者
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第29話「異変」

「楓……起きないね」

「…あぁ」


現在、ソファーに寝転がり小さな寝息を立てている楓。

 俺が見た時には楓は既に気絶していた。おそらく転んで頭を強く打ちつけたのだろう。

その姿に十分驚いたが、何より驚いたのが、楓の衰弱状態だ。


頬は痩せこけ、腕の肉付きは骨が浮き出るほどに細く、嘔吐などもたくさんしたのだろう、口の周りには……。


「……ッ」


思わず目を背けたくなる光景を前に、零は拳を強く握りしめる。


楓をこんな状態にしたのは誰だ……!

全部…!全部あのヴァーリのせいじゃねぇか…!

俺達にこんな力を与えて、俺達の関係をズタズタにして、楓をここまで追い詰めたのは…!全部!ヴァーリのせいじゃねぇか……!


「……クソッ!」


強く握りしめた拳を、フローリングの壁に思いっ切り叩きつけるが、苛立ちが収まる事はなかった。


「零…!」


それを見た竜輝からすぐに叱責が飛んでくる。


「わかってる!落ち着けって言いたいんだろ!!」

「………」


竜輝は苦々しい顔をしながら俺を見つめる。その無言が、肯定を示していた。



それから20分ほど無言の空間が続くが、楓が今だ目を覚ます様子はない。

まさか……。

最悪の状況が俺の脳裏をよぎる。


「竜輝!」


大声で叫ぶと、呑気に椅子に座っていた竜輝が楓に近づく。


「……大丈夫、まだ息はあるよ」


脈を確かめた竜輝が零に落ち着かせるような声音で言った。

 それを聞いた零は、あからさまにホッとした顔つきになり、すぐに顔を引き締める。


「……零、少し落ち着いた方がいい」

「…俺が落ち着いてないって言いたいのか?」


意識はしていないだろうが、睨みつけるような視線で竜輝の問いに不満そうな態度で表す零。


「僕には、そう見えるよ」


睨まれてもまったく動じず、竜輝が椅子を引き、俺に座るよう勧める。


「……そうだな」


素直に竜輝の言葉に従って椅子に座る。ドサッと勢いよく座ったが、柔らかなクッションが衝撃を吸収し、痛くなかった。

座った瞬間、足元に冷たい感覚が走る。


「……水、か?」


目でその原因を探ると、コップが横に倒れており、ちょうど零の足元に水が散乱していた。


「どうやらお弁当を食べようとしてたみたいだね」


唐突に竜輝が声を上げ、竜輝の方を向くと手にはコンビニ弁当が乗せられていた。

電子レンジが開いているところから察するに、楓はコンビニ弁当を食べようとしていたところだったんだろう。そこに俺達が家に押しかけ、出ようとしたら空腹で力尽きた……?

いや、そんな単純な話じゃない気がする。

静かな寝息を立ててはいるが、額には脂汗がじっとりとかいている。楓の今の状況を見るに…何かに苦しんでいる。

それが何かはわからないが……空腹とは別に、何かに苦しんでいる気がする。


「起きたらすぐに食べさせてあげた方がいいね」


竜輝が何か言っているが、頭に入ってこない。

俺の思考はぐるぐる回り、嫌な予感が止まらなかった。



「トイレ行ってくるね」

「………」


心ここにあらずと言った感じの零を心配そうに見つめると、竜輝はトイレに行った。



「………」


部屋の中で楓の苦しげな寝息だけが静かに響く。

 その苦しげな表情は……俺達から離れて行った時の光の表情と重なって見えてしまいそうで、俺はすぐに目を逸らした。



「ぅん……」


俺が目を逸らした瞬間、視界の端っこに楓が目をゴシゴシして起き上がる姿が見えた。

 

「…楓!」


反応がワンテンポ遅れたが、楓が起きた事に気が付いた俺はすぐさま楓の元に近づく。


「楓!大丈夫か!?」


楓の方を掴み、体調が悪くないか聞くが、思わず掴んだ手には力が籠っていた。


「……楓?」


そんな俺の様子とは対照的に、楓は俺の顔を見た瞬間顔を強張らせた。

 歯を食いしばり、必死に何かに耐えている様子だったが、次第に顔色はどんどん青くなっていく。

まるで死んだ人間でも見ているように。


「………楓?」


そんな楓の様子をおかしく思った俺は、どこか調子が悪いのかと思い楓に顔を近づけた瞬間―――


「…嫌ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


耳をつんざくような絶叫が響き渡り、思わず耳を塞いでしまう。


「来ないで!来ないでぇ…!」

「楓落ち着け!俺だ!」


楓は俺が伸ばしていた手を振りほどき、俺を遠ざけようとまったく力が入ってない拳で必死に俺を叩いている。

俺はそれを甘んじて受け入れ、必死に楓に話しかけるが、楓はまったく話を聞こうとしない。

楓は俺の顔を見て恐怖し、怯え、震えている。


「…零!」


楓が狂気狂乱していると、2階から竜輝がダッシュで降りてきた。楓の絶叫を聞いて飛んできたんだろう。


「これは…!」

「俺に説明を求められても困る!!とりあえず楓を押さえてくれ!!」

「嫌ぁぁぁぁ!来ないで!来ないでぇぇぇぇ!!!」


数秒ほど唖然としていたが、そのただ事じゃない光景を目にしたからか竜輝は楓の後ろに回り込み腕を押さえた。


「楓落ち着いて!僕だ!竜輝だ!」

「嫌ぁぁぁ!離してぇぇぇぇ!!」


依然として楓は暴れ続け、その視線の先には俺がしっかりと映っている。


「……ッ!零!少し離れていて!」

「あ、あぁ……」


緊迫した空気に気圧されながらその場から退くが、楓の視線は俺に向いたままだ。

その事にどこか嬉しさを感じながらも悲しさの方が勝った。


俺と楓の距離が離れていくにつれて、楓は抵抗を減らしていく。

 しかし俺がどれだけ離れても、抵抗は続いていた。


「零…!」

「……わかってる」


竜輝が何を言いたいのかは……なんとなくだがわかってしまった。

 これ以上下がると玄関を出て外に出てしまうので、近くにあった部屋に入る。

外に出てしまうと声が聞こえなくなる。今の楓から声が聞こえなくなる位置まで移動するのは、避けたかった。


俺が視界から消えた事を理解したのか、楓の絶叫に似た叫び声は徐々に小さくなり、やがて収まった。



何が…どうなってんだよ……。


一人部屋に入った零は顔をくしゃくしゃに歪め、苦悶の表情を浮かべる。


静まり返る部屋にただ一つ、声にならない嗚咽を出しながら―――――

 







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