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ある日超能力が突然使えました  作者: グリム
第二章 超能力者
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第26話「崩壊する心」

コンコンと扉をノックする音が聞こえる。

 しばらく続いたノックも、反応がないと見るや開けようとするが鍵がかかっており中へ入る事はできない。


「楓…もう3日よ……そろそろ出てきて…」


声の主は中にいる人物に向かい、悲しみに満ちた声で懇願こんがんするように言う。

 だが、部屋の中にいる人物からの反応はない。


三日間続いたその態度に、とうとう母は限界をむかえた。


「なんで…なんでお母さんの言う事聞いてくれないのよ…!出てきなさい…!楓!」


母は開かない扉を乱暴に叩きつけ、怒鳴り、泣き叫びながら床に崩れ落ちる。


「…もうやめなさい、愛」


そんな母の姿に見かねた父―――佐倉秀雄さくらひでおが階段から上り、母を抱え込むように持ち上げる。


「……父さんは何も言わないつもりだったが、もう3日だ。そろそろ出てきてくれないか、楓」


泣き崩れ、満身創痍の母を肩に担いだ父が開かない扉の向こう側にいる人物に呼びかける。


「………」


だが、楓は父の呼びかけにも反応しなかった。


「わかった。1人で居たいと言うなら2日間この家を空ける。母さんとさとるは父さんの職場で面倒を見るから」


「………」


なおも反応がない楓に、父は何も言わずその場を後にした。




◇ ◇ ◇ 





あれから……何日が経過しただろうか。


テロリスト襲撃事件いらい、楓は何も食べていない。

 脳裏に死んだ人達が浮かびあがり、食べ物が喉を通らないからだ。


無理やり胃袋の中に詰め込んでも、死んだ人たちの顔が思い浮かんでまた戻してしまう。

 死んだ人の顔は今でも鮮明に覚えている。


頭を銃弾で撃たれ力なく床に倒れた後、驚愕に顔を歪め光を失った虚ろな目で楓を見つめていた。

 …即座に零が楓を引き寄せ死体を見せないようにしていた気がするが、楓はしっかりとこの目に焼き付けてしまっていた。


頭に小さな穴が開き、驚愕に顔を歪め、瞳は光を失い、その小さな穴からドクドクと血液が溢れ出ていく景色が頭から離れない。


誰かと顔を合わすだけでもその光景を思い出してしまい、酷い嘔吐間に襲われる。


人間が、命を落としたところを楓は初めて見た。

 楓が聞いた話だと、人は眠りながら死んでいく―――と聞いた。


だが実際に楓の見た光景は、眠りながら死ぬなんて生ぬるい言葉ではない。

 銃口を突き付けられ、恐怖に顔を歪め、無残に散った。

あの時初めて、人間の命を軽さを知った。


「―――――ッ」


いつまでもこんな事を考えてはいけない。そうだ……学校に、学校に行けば零に会える。

 零の顔を見ればこんな事すぐに忘れる。


意を決して目を開ける。


「ひっ――――」


楓が目を開けると、そこにはいるはずのない中年男性がこちらを向いてた。

 しかしその男性の目は光を失っており、頭には小さな穴が開き、そこから血が溢れるように流れ出ている。恐怖でその場から逃げ出したい気持ちを抑え、中年男性の顔がどこかで見覚えのあることに気付く。



―――テロリスト襲撃事件の時に頭を撃たれて死んだ男性だった。


「ぁ…きゃぁぁぁぁああああああ!!!」


声にならない悲鳴を上げ、男性の顔から逃げるように這い下がり、壁にぶつかる。


嫌だ…!嫌だ…!嫌だ…!


勢いよく布団をかぶり直し、また目を閉じる。


いるわけがない。あの男性はもう死んでいる。死んでいるとわかっている。

なのに、


「目を開けるたび……死んだ男性の顔が映る…」


あの男性はもうこの世にはいない。これは自分が見せている幻覚だとわかっているのに……目を開けるたびにあの男性が楓を見つめているのだ。


「もう嫌だ…嫌だよぉ……」


力なく布団に包まり、嗚咽のように嘆く。



それから―――数分立った頃だろうか。母の声が聞こえた。


「楓…もう3日よ……そろそろ出てきて…」


母の声だと理解するのに、数秒を費やした。母の声だと理解すると、ホッと安堵し、肩の力を抜いた。

 母の声で安堵してしまったためか、反射的に目を開けてしまった。


「―――――ッ!」


目を開けるとまた銃弾を頭で貫かれた男性が目の前で楓を見ていそうで、怖くなり急いでまた目をつぶった。


「いたっ!」


目を閉じた勢いでどうやら下唇を噛んでしまったようだ。痛みで思わず目を開ける。

 

「……いな、い…?」


しまった、と思ったが、楓の目の前に頭から血を流している男性は見えなかった。

 なぜいきなり幻覚が見えなくなったのかはわからないが、楓は嬉しく思った。


これで母とも話ができる……。


軽い足取りでベッドから出てると、部屋を出ようとドアを開けようと扉に近づく。

 取っ手に手を掛けたところで楓の脳裏にまたあの男性がよぎる。


「うっ……」


酷い嘔吐間に襲われ、力なく床に横たわる。


もしこのままドアを開け母の姿を見たら、またあの男性の顔を被って見えてしまうのではないか。

 また母の前で……吐いてしまうのではないか。


三日間何も食べていないが、吐くものがない場合黄色い胃液がせりあがってくるのを楓は知っている。

 この三日間でもうどれほど戻したのか……数えるのも馬鹿らしくなるほどに。


そう考えると楓は扉を開けるのをやめ、また自分のベッドに潜るしかない。



「なんで…なんでお母さんの言う事聞いてくれないのよ…!出てきなさい…!楓!」


母の声が聞こえる。だが内容までは今の楓には詳しく聞き取れなかった。

 そう言った後に母が泣きながらガンガン部屋の扉を叩き、楓を部屋から出そうと催促しているのがわかった。

楓はその行動に恐怖を感じたが、何も言わなかった。


しばらくすると、扉を叩く音が止み、父の声が聞こえてきた。


「…もうやめなさい、愛」


どうやら父が扉を叩いていた母をやめさせているようだった。

 父がそう言った後、母のすすり泣きのような声が聞こえたが、すぐにそれも収まり、また父の声がした。


「……父さんは何も言わないつもりだったが、もう3日だ。そろそろ出てきてくれないか、楓」


……楓もできればそうしたい。だが、できない。

顔を見るだけであの男性が見えるのだ。そんな状態で出れるわけがない。

 誰の顔を見るわけでもないのに、脳裏にあの男性の顔が浮かんでいるというのに。


返答のない楓にまた父の声が聞こえた。


「わかった。1人で居たいと言うなら2日間この家を空ける。母さんとさとるは父さんの職場で面倒を見るから」


1人で居たいわけではない。他人の顔が見れないのだ。

 そう父に言おうと思ったが、今の楓には父に反論する力も残っていなかった。


返答のない楓に納得したわけではないだろうが、階段を下りる音が聞こえた。おそらく父が母を連れて戻ったのだろう。


……どうすれば、いいのだろうか。

 常に脳裏にあの男がチラついている。鏡に映る自分の姿さえ……あの男の顔に見えてしまいそうだ。


「お腹……減ったな」


ポツリ、と呟くと、そのまま意識は闇の中へ吸い込まれていった。




◇ ◇ ◇ 






深緑の森に美味い空気。あー田舎っていいなぁ~。

 大きく深呼吸し、ぐーと背筋を伸ばす。

そうえば今日は一条を見てないな。昨日学校来るとか言ってなかったっけ?


「……零」


そんな零の様子をジト目で見る竜輝。


「わーってるよ」


現在俺と竜輝の2人は楓の家に来ている。

 楓の家は全身白塗りの家で、いかにもお金持ち感が溢れていた。ホワイトハウスって感じ?

緑の森に囲まれるホワイトハウスってなかなかセンスあると思う。個人的に。

にしても……


「来てみたのはいいけど、緊張するな」


竜輝に楓の家に案内してもらい、いざ中に入ろうというところで緊張してしまい今にいたる。


「零って緊張とかするんだ?」

「俺も人間だからな、緊張ぐらいするさ」


竜輝は俺の事をなんだと思ってるんだ。サイボーグか?サイボーグなのか?


竜輝と軽口をかわし、インターホンに手を伸ばす。

 俺の指がインターホンに触れそうになった瞬間―――


「あぁ!急に腹が…!竜輝!ヘルプ!ヘルプ!」


お腹を抱え込み、腹痛を訴えるポーズをする零。

 しかし竜輝は腹痛を訴える零を冷めた目で見つめている。


「はぁ……零」


竜輝は一度溜息をつき、呆れた声で零の名前を呼ぶ。


「……わぁーってるよ」


腹痛を訴えるポーズをやめ、演技だった事を認める零。

 竜輝にばれる演技とか……俺も衰えたものだな。


フッと髪をかき分け再びインターホンに手を伸ばす。

 緊張はまだ抜け切れていないのか、手は震えていた。


「……行くぞ」


ごくり、と唾を飲み込み竜輝に問いかける。

 俺の態度が真剣なものに変わったのを察した竜輝が真剣な顔をして頷く。


インターホンに手を伸ばす右手がまだ震えていたので左手で右腕を押さえ無理やり震えを止まらせようとする。


「落ち着け、何をそんなにビビってやがる。楓に会うだけだ、落ち着け俺」


自分に言いつけるように言い放つと自然に右腕の震えが止まり、一度深呼吸をしてからインターホンを押した。



ピーンポーン



インターホンを押すと、インターホン特有の音が鳴り、中にいる人に来訪を伝える。


………だが、しばらく待っても反応がない。


「留守なんじゃねぇの?」


くるり、と振り向き竜輝の方を見て言う。

 すると竜輝は腕を組み、目を閉じながら、


「もう少し、待ってみよう」


と言った。

特に反論もなかったので、楓の家の前でそのまま待つ。


…待つこと5分ぐらいたっただろうか?いまだに反応がない。


「なぁ……本当に留守なんじゃないのか?」


またくるり、と振り返り、竜輝の方を見ながら言うと、竜輝も俺と同じ意見なのか険しい顔をしていた。


「……そうだね。今日はやめて、また出直そうか」


これも特に反論する事がないので素直に頷く。

 となると次は……相楽か。


「竜輝、相楽の家は知らないのか?」


そう竜輝に問うと、こちらを見た竜輝は一度溜息を付き言った。


「……屋上で楓の家は知ってるけど夢の家は知らないよって言ったじゃないか」

「あれ…そうだっけ?」


そんな事言ってたっけな、と思い竜輝に確認すると、うんうんと頷いている。

 まぁ今はその際よしとしよう。

あー俺と竜輝が相楽の家を知らないとすると、知ってそうなのは誰だ?


光は……いや、いないのに何頼ろうとしてんだよ、俺は。

 となると知ってるのは楓か?


楓はこんな状態だし、参ったな。今日は大人しく家でごろごろ。

 そう思い、いざ自分の家に帰ろうと楓の家から一歩踏み出した時、楓の家の中からガタンッ!という音が聞こえた。


「零…!」


竜輝が血相を変えて俺を見る。


「わかってる!」


自分の家に向いていた足をくるりと回転して、楓の家と向き合う。

 

「誰かいるんですか!?」


大声で中に呼びかけるようにドアノブに手を当てると、カチャリ、と開いた。


「鍵が掛かってない!?」


一瞬なんで鍵が掛かっていないか考えたが、もしかしたらあの音は泥棒が入った足音かも知れないと思い、勢いよく扉を開ける!


「お邪魔します!……楓!?どうしたんだ!!」


扉を開けて中に入ると、玄関先に倒れている楓を見つけた。

 俺に続けて入ってきた竜輝も、倒れている楓を見つけて驚愕している。


「楓!大丈夫か!?」


倒れている楓に近づき、安否を確認する。 


「な―――ッ!」


倒れている楓の顔を見て一瞬零は息をするのを忘れた。零の知っている楓からずいぶんと違っていたからである。


頬は痩せこけ、顔色は青く、何かにうなされているように額からは脂汗が出ている。


それは―――衰弱していた楓だった。


本文に出てきた悟、というのは佐倉楓の弟です。


ここ1週間、ボランティアなどやっていまして、更新が遅くなっております。

そのボランティアの内容がまた鬼畜で、もう一回やろうと言われても二度とやりません。

野球部の練習かよ、と思うぐらいに声を張り上げ駅前での募金活動。あれは参りました…半端じゃなかったです。


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