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ある日超能力が突然使えました  作者: グリム
第一章 変化する日常
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第22話「決別」

「さぁ…始めようぜ、第2ROUNDを」


「そんな…僕の紅炎柱プロミネンスが…」


光は俯き、いまだに紅炎柱プロミネンスが破られた事を受け入れられていない様子だ。


「こんなのは嘘だ……信じない……信じないぞ…!」


突如前を向いたかと思うと、今度は俺を親の仇のような目で睨みつける。


「プロミネェェェェェェンス!!!」


右手を前に突きだし、紅炎柱プロミネンスを放ってくる。

 だが、今の俺には通じない。


再生世界ダカーポ


青い輝きを放つ俺の右手と紅炎柱プロミネンスが激突する。

 さっきと同様、右手に触れた紅炎柱プロミネンスはあっけなく散った。


「…!」


光はその光景を見て言葉を失う。


「光…今ならまだ間に合う、帰ろう」


宥めるように光に問いかける。


「僕はもう…後には引けないんだ…!」


そう言うと右手を前に突きし、目つきを鋭くした。

 まさか……。


紅炎柱プロミネンス!!」


右手から紅炎柱プロミネンスが出されるのと同時に、俺の体がグンッと前に強く引っ張られた。


念能力と特殊能力の同時使用か…!

 もしかしたらとは思っていたが、まさか本当にできるなんて思ってなかった。


念能力を使うためにはとてつもない集中力がいる。頭の中を真っ白にして、動かしたい対象の事だけを考えなければならない。

特殊能力も同様だ。俺の場合は神経を右手に集中させ「戻す」という事だけを考える。そうする事で右手が青く輝くのだ。


それを同時にこなすとなると…。

とてつもない集中力が必要になる。脳が焼き切れてしまうのではないかと思うほどに脳へのダメージは大きいだろう。


そんな事を考えてる間に紅炎柱プロミネンスがすごい速度で迫りくる。光の念能力で俺の体も前に引っ張られている状態なので、急いで『再生世界ダカーポ』をしようと右手を突きだす。

が、


「なッ!」


突如突き出した右腕が弾き飛ばされる。

 驚愕で目を見開く。何だ、何が起きた!

そうこう考えている間に紅炎柱プロミネンスが迫ってくる。


……やるしかない、か。


弾かれた遠心力で左腕を前に出す。右手と同じ感覚で左手に全神経を集中させる。


「…再生世界ダ・カーポ!!」


特殊能力の名を叫ぶと、左手が青く輝いた。成功だ!


再生世界ダ・カーポの左手と紅炎柱プロミネンスがバァァン!と激しい音を立て衝突する。


やがて紅炎柱プロミネンス再生世界ダ・カーポによってまるで存在しなかったかのように消えた。


「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」


光は荒い息をしながら左目を苦痛に顔を歪め押さえている。

 その行為で右腕が弾けた理由がわかった。おそらく念能力の連続使用だろう。

物体を同時に動かす事はできるが、連続で行うとなるとただでさえ集中力を使う。念能力を使用してからまた動かしたい対象を集中しなけれならないので、2回目は時間が掛かる。

 それに念能力使用後軽い頭痛が起こる。おそらく脳に負担が掛かるのだろう。テロリストと戦い終えた直後軽い目眩めまいに襲われたのも念能力の使いすぎが原因と思われた。


こんなにも障害があるのに光は念能力を連続で使用できたのだ。にわかには信じられないが、今まで散々ありえないと思ってた光景を見せつけられた。超能力者イディオムに不可能はない。


だがあの様子だとあと1回か2回しか念能力は使えないだろう。紅炎柱プロミネンスもあと1回使えるか使えないかだ。

…かく言う俺もあと1、2回しか再生世界ダ・カーポを使えそうにない。



「…これが最後だ光」


これ以上戦いたくない…と言うのは綺麗ごとで、これ以上戦うと五体満足にいられなく可能性があるので最後に光に問う。

 するとピクッと光の眉が動き、ゆっくりと光と目が合う。その目からはまだ戦意が感じられる。


「言ったはずだ…僕はもう、後には引けないと!」


震えてた膝をガッと右腕で押さえ付ける。


「僕はこれまで人間を信じてきた!それなのに!何度も何度も何度も裏切られた!

 もう一度信じろって言われたって信じられるわけないじゃないか!

例え死んでも!僕がこれまで自分が受けてきた苦痛や!屈辱を!忘れる事はできないんだよ!」


………俺は初めて、光の本当の思いを聞くことができたと感じられた気がした。


―――――静寂が流れる。


………そうか。こうなった光はもう何を言っても聞かない。

 なら―――――――


こいつで聞いてもらうしかないよなぁ!!!


「ぉぉぉぉぉおおッ!!」


雄叫びを上げながら獣のようにダッシュする…!


「絶対に…負けらない…ッ!」


それを見た光は右手を前に突き出す…のではなく、自分もダッシュした!


「ウォォォォォァァァァッ!!」


そうだ…これは意地と意地がぶつかり合った戦い。光には人間が憎くてどうしようもないと言う理由がある。だが………俺は?

俺には何がある?光に人を殺して欲しくないから?それとも元の光に戻って欲しいから?

 たぶんそのどちらとも俺の望んでいる事だろうが、両方とも俺のワガママにすぎない。

……俺のワガママで光の願いを遮っていいのだろうか?


光はたぶん…両親に見捨てられてからずっと人間の事を憎んできたはずだ。それもずっと…。

 その願いを会って3か月ちょっとの俺が邪魔していいのだろうか。友達だと思うなら、光に協力すべきではないのか。そう思ったりもする。


光の願いを叶える、という事は人間を滅ぼすと言う事だ。そんなのやらせていいわけがない。

 でも、光と戦っている内に気持ちが揺らいでしまった。


光の思いが、気持ちが、紅炎柱プロミネンスを通じてダイレクトに伝わってくる。

 再生世界ダ・カーポ紅炎柱プロミネンスを受け止めた時、光の今まで感じてきた気持ちや苦悩が伝わってきた。それを感じてしまった俺は一瞬だが………それもありかもしれない、と考えたんだ。


ほんっと、意見がコロコロ変わるよな俺って。


実際俺が光の立場だったら、間違いなく今の光のように人間を憎む。これは間違いない。

 だけど、それでいいんだろうか?人間を滅ぼした後に何が残る?自分1人だけ生き残って後で自分も死ぬのか?


そんなの………虚しすぎるじゃないか…。



俺は、弱い。自分1人じゃ光を見つけ出す事さえできなかったし、自分1人じゃとっくに死んでた。

 そんな奴の拳を受けたところで痛くもかゆくもないかもしれないだろうけど…。

だけど…それでも…!昔の光のように笑ってほしい。


ぎこちなくて愛想笑いだけど、それでも昔の光に戻って欲しい。


光…今お前どんな顔してるかわかるか?

ひでぇ顔してるよ…憎しみに囚われて、殺意が剥き出しだ。

なぁ…今お前俺の事どう思ってんだ?

自分の邪魔されて殺したいほど憎いのか?

お前の両親や、これまで裏切られた人たちと同様…。


お前にどう思われようと俺は、お前を『戻す』。

 また人間が憎いと思うかもしれない。そうなったら何度も何度も俺達の知ってる光に『戻す』。

覚悟しろよ光…俺はお前の両親や裏切ってきた人達よりも手強いぞ…!


左手が青く輝き始める。それと同時に光の右手も赤くなる。


徐々に距離が縮まる。


10m――――――8m―――――――5m――――――3m――――――


そこで俺の左手と光の右手が今までで一番の輝きを放つ。

2人は同時に、特殊能力の名を叫んだ。


再生世界ダ・カーポ!」

紅炎柱プロミネンス!」


バァァァァァァァン!!!

激しい衝突音と共に再生世界ダ・カーポとゼロ距離から繰り出す紅炎柱プロミネンスが衝突する。


「ぐっ……!」


ゼロ距離から撃っているせいか、今までで一番の紅炎柱プロミネンスだ。

再生世界ダ・カーポを放っているのになかなか消えない。むしろこっちが飲み込まれそうだ。


光はすごい形相で俺を見ている。


「プロミネェェェェンス!」


光がそう叫ぶと紅炎柱プロミネンスを放った右手が更に輝きを増した。


「ぐぉぉぉぉ…ッ!!」


左手が焼けように熱い…ッ!飲み込まれる…!


「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」


それでも必死で雄叫びを上げ紅炎柱プロミネンスを戻す、戻し続ける。


紅炎柱プロミネンス再生世界ダ・カーポの戻す能力を上回り俺の腕を貫くのが先か―――――――

再生世界ダ・カーポ紅炎柱プロミネンスを戻すのが先か―――――――


「ぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」

「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!」


両者は雄叫びを上げ一歩も譲らない。

 だがこの膠着こうちゃく状態もすぐに終わりを迎える。


零の左手が徐々に輝きを失ってきたのだ。


「……!」


やばい…!このままじゃ…ほんとに飲み込まれちまう!!


ヂリヂリと左手の皮が焼けていく感覚が伝わってくる。


くそっ!…何か手はないか…何か!!

 左手が焼かれていく感覚に襲われつつも、必死で可能性を模索する。



…………見つけた…!


だけどこれはリスクが高すぎる…!

 これを行ったら俺の体に何か起こるかわからないし、何より不発で終わる可能性の方が高い。


ジュッと左手が再度焼かれる感覚に襲われる。


……ああ!もうどうにでもなれ!!


キッと光を睨みつけ、頭の中で強く念じる…!


ガッと言う音と共に突如光は頭の横側を叩かれたかのようにグラついた。そしてパァン!という音と共に俺の再生世界ダ・カーポと光の紅炎柱プロミネンスが同時に消える。

成功だ…!

特殊能力と念能力の同時使用。正直失敗するかと思ったが、成功した。

しかしその代償は思った以上に大きかった。酷い頭痛が襲ってくる。頭の奥をハンマーで思いっ切り殴られたかのような、そんな痛みだ。


「…ぉぉぉぉぉおおおお!!」


だがしかし、ガッと右足で踏ん張り、痛みを堪えて右拳を振り上げる。光はただ唖然としている。


「いい加減に――――――」


グッと拳に力を入れる。


「目ぇ覚ましやがれ!!」


光の顔面に向かって拳を振り下ろす…!


再生世界ダ・カーポ!」


淡い輝きを放った俺の右手が光の顔面を直撃した…!

 殴られた光はそのまま後方に吹き飛び、地面に倒れた。


「…はぁ!…はぁ!…」


…やった、のか……?

一条の真空刃かまいたちで強化された拳に比べたら俺の拳なんて虫が止まった程度の威力だろう。

だが、地面に倒れたまま光はピクリとも動かない。


ホッ…と安堵した直後、地面が揺れた。


「…!?」


地震かと思い辺りを見回すと、紅炎柱プロミネンスで開けたと思われる穴からマグマがところどころ溢れてきていた。体感温度で50……いや、60度はあるだろう。

このままでは

「まさか…噴火が始まろうとしているのか…!?」


実際に噴火を目の当たりにした事はないが、勘でわかる。

 もうすぐ伊豆鳥島は…噴火するのだ…!


「…おい!光!起きろ!」


急いで光のもとに駆け寄り、胸ぐらを掴んで揺らし、起こす。


「……ッ…零、君の拳は、効いたよ…」


3、4回揺らすと目を開け、弱弱しくそんな事を言ってきた。


「今はそんな事言ってる場合じゃない!どうやってこの噴火を止める事ができるんだ!」


フッと光は力なく笑った。


「…止める方法はないよ。あったとしても、僕はそれを知らない」


嘘を付いている感じではない…。

光は本当に、噴火を止める方法を知らない……!


クソッ…!どうすればいい!


噴火を止める方法を考える間に次々とマグマが溢れ出てくる。


「…一条!」


ふと一条の方を見ると、今にでもマグマに飲み込まれそうだった。


「待ってろ!今行くから!」


一条は意識を失っているのか、倒れたままピクリともしない。

熱さで意識が朦朧とする中、俺の脚は一条を助けるため動いていた。

 だがしかし、一条の周りは既に溶岩に囲まれていて、近寄る事ができない。

助けるためには溶岩を突っ切り、一条の元へ行かなければならないのだが……。

溶岩を突っ切る間に零の脚が溶けるか、脚が溶ける前に一条の元へ辿り着けるか―――――


そんなの前者に決まっている。この溶岩の中、俺の脚が耐えられるわけがない…!


クソッ!!どうやったら元に戻るんだよ…。



………待てよ?

『戻す』……?

…俺にはあるじゃないか、時を巻き戻す力…再生世界ダ・カーポが……!


急いで右腕をガッと前に突き出して再生世界ダ・カーポを繰り出そうと試みる。

 だが、いくら集中しても俺の右手は輝きを放たない。


…………ガス欠だ。

なんとなくだが…わかる。


それに再生世界ダ・カーポが使えたとしても、一体どこに再生世界ダ・カーポを使えばいいんだ?

目の前にあるこの溶岩に再生世界ダ・カーポをしたとしても、戻るのは溶岩の流れだけだ。噴火活動が収まるわけじゃない。


完全に……詰んでいる。


「このままじゃ一条だけでなく…ここにいる全員が……!」


クソッ!


地面を思いっきり殴りつける。殴った拳は赤く腫れ上がり、嫌でもここが夢ではないという事を証明している…!


溶岩は徐々に一条の体を飲み込まんと迫りくる……!

一条だけじゃない…ここにいる全員、飲み込もうとしている……!


「戻れよ!なんで、こんな時に…何の役にも立たないんだ…俺は……!」


自分の右手を見つめる。

 俺の右手は…ボロボロだった。

切り傷が何か所もあり、腫れ上がっているところも何か所もある。


「戻れよ……頼むから…どうなってもいいから……!」


もう2度と超能力が使えなくなってもいい…!

再生世界ダ・カーポで助かるんなら右腕だってくれてやる…。


だから…頼む。この1回だけ…1回だけでいいんだ…!


「……ダ・カーポォォォォォォォォォ!!!」


振り上げた右手が再び青き輝きを取り戻す…!


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"……!」


瞬間、腕が焼け千切れる感覚に襲われる…!さらに頭をハンマーで殴られたかのような感覚が零を襲う…!


「ぐぉぉぉぉ…………!!!」


あまりの痛さに理性が吹っ飛びそうだ…!

だけど…まだだ、まだ…足りない……!


「ぎぎぎっ…!ぎぁぁぁぁ……!」


全身がミシミシと軋む。トラックを担いでいるかのように全身が重い。…まるで生き地獄だ。

 もうダメだ……と諦めかけていた瞬間、右手が太陽より眩しく輝く……!!


…今だ!


再生世界ダ・カーポ!!!」


右手を溶岩ではなく、地面に……伊豆鳥島全体に響かせるように叩きつけた…!

 ダンッ!と拳が地面を叩くと、再生世界ダ・カーポは地面に大きな青い魔法陣なものを描いた。

それはどんどん広がっていき……すぐに伊豆鳥島全体を囲った。

するとみるみる内に溶岩が火山の中に戻っていく…。

……ビデオを巻き戻している感じに似ている…。



やがて溶岩は火山の中に吸い込まれるように消えていった。

さっきまで噴火しそうだったのが嘘だったかのように…。


巻き戻しが完了したと同時に、伊豆鳥島を覆っていた青い魔法陣も消えた。


「…………」


やった…やったのか?


実はまだ何かありましたー何てあったら、さすがにもう無理だ。体が動かない……。

仰向けになったまま起き上がろうとするが、力が入らず指一本動かせない。


「本当、すごいね……零は」


声のする方を向くと、光が見下ろしていた。

 そうか…再生世界ダ・カーポで体の傷が治ったのか…。

光は真剣な眼差しで俺を見つめる。体は再生世界ダ・カーポで治ったのか傷ひとつない。

今なら紅炎柱プロミネンスや念能力が使える可能性がある。

……使われたら、今度こそ終わりだけどな…。


「もう少し…信用してみようと思うよ……」


………え?


「…もう一回、信じてみるよ……!」

「光……!じゃ戻ってきてくれるのか!?」


それを聞いた光は俯いて答える。


「残念だけど……それはできない」

「ッ…!なんでだよ…!」

「信じてみるけど…僕は完全に信用したわけじゃないんだ。それに………」


光はさらに俯く。それは言おうか言うまいか考えている様子だった。

 数秒ほど俯くと、決心したのか俺の目を見て光は言った。


「天神高等学校には何かある……!」

「………何?」

「フードを被った怪しい男の話をしたのは覚えてる?」


…確か光に火山共鳴を起こして日本の火山をまとめて噴火させようと提案した男だ。

 光の問いに頷く。


「実はその男に……天神高等学校に来ないか、って誘われたんだ」

「…本当か!?」


もし本当なら、光とフードを被った男は前に一度会った事がある。

それで人間不信の光でもそいつの言った事は信じたのか……!


「もちろん最初は断った。だけど……ある条件付きで僕はそれを快諾した」


無言で光を見つめて続きを促がす。


「……母の医療費の負担と、僕の生活の面倒を見る事さ…!」


……確かに、な。

その時の光は衣食住に困っている様子だったし、悪くない提案だったかもしれない。


「もちろん嘘じゃないかと思った。でも、その時の僕はこれからどうやって生きて行けばわからなかったし…母の事でお金にも困っていた。だから、そいつの出した条件で快諾したんです。」


信じてた人全てに裏切られて…その頃の光は自暴自棄になってたんだな……。


「それで天神高等学校で過ごしてました……。零は、何か違和感を感じない?」


違和感……?そりゃそんな好条件なら何も問題はないと思うが…。


「いや…わかんないな……」

「良すぎるんだ……僕に出された条件は毎日学校に必ず顔を出す事、それだけだった。優しすぎると思わない?見ず知らずの青年を保護して、母の医療費まで出す。それに勉強できる環境まで用意するなんて………何か裏があるとしか思えない」


「本当に優しさで助けたかも知れないだろ…?」


それを聞いた光は静かに嘲笑った。


「零…いい加減その考えはやめた方がいいよ…。優しさには裏がある、これが人間さ。零は違うかもしれないけど………」


何もかも悟った悲しい顔で光は答える。


「実際……ここ数日誰かに見られてる気がするんだ。気配を感じて振り返っても誰もいないんだ。それで僕は……いくつか可能性を考えた」


俺は黙って…光の言葉を聞く。


「一つは天神高等学校で何か『ヤバい事』が行われている可能性。

 もう一つは…僕達、超能力者イディオム以外に、この力の事を誰かしら知ってる可能性」


「…!?まさか…俺達以外に、超能力の事を知ってる奴がいると…そう言いたいのか!」

「だってそうじゃないか…。現にそこの二人は知ってる様子だし…怪しい男の方も、火山共鳴なんて事を提案してきたんだ。間違いなく、超能力について何か知っている」


確かに…一条は前から超能力の存在を知っていた……!

しかも超能力の事を知っているのは一条だけじゃない…。あの《BABEL》とか言う組織にいる者は全員知ってると見ていいだろう……。


「僕達5人の中の誰かが言って広まったのかと思ったんだけど……どうやら違ったみたいだね」


軽くため息を付きながら光はそう言った。


「……だとすれば何で光を天神高等学校に招いたんだ…」

「それは僕も知りたいさ…。零だから忠告しておくよ。早く……ここから離れたほうがいい」

「…理由を聞いてもいいか」

「…命の危険に関わるかもしれないからさ。これは勘だけど…あそこに居続けると危ないよ…。

 僕が戻ると、またあの男が接触してくるかもしれない…僕がいないとわかれば、今度は零に接触してくるかもしれないよ。怖いんだ…あの男が……!」

「でも…それじゃお前の母はどうなる!!」

「…それなら大丈夫だよ……。今いる場所は把握してる、それに―――――」


ゆっくりと光は右手を見つめる。


「今はもう、"力"がある……!」


光は……お母さんを連れ出して雲隠れするつもりなんだ…!

 衣食住の方も……なんとかなるんだろう。

 

だがそれを聞いたところで……俺が引き下がるとでも思ってんのか………!


「行かせない…行かせないぞ……!」


懸命に光の方に腕を伸ばそうとするが腕どころか指一本動かなかった。


「……じゃあね、零…………」


背を向け、ゆっくりと立ち去っていく光を俺はただ見る事しかできなかった。


「待て……!待てよ………!」


意識がフェードアウトしていく。クソッ……このまま…じゃ………。


「待………ぇ…………」


そこで俺の意識はストンッと落ちた―――――――





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


その頃…アメリカ、シカゴでは―――――――




『社長室』と書かれた扉にコンコンと、控えめなノックが叩かれる。


「…入りたまえ」

「……失礼します」


そう言って入ってきた女性の髪は銀髪という感じの色で、体型はモデルと見間違えるほどだった。


「…先ほど、火山活動度ランクSだった伊豆鳥島が突如火山活動度ランクAになりました」

「…何?」


優雅に椅子に座りくつろいでいた男は眉を顰める。


「あそこはもう噴火寸前だっただろう?」

「…はい。それが日本支部に配置しておりました《BABEL》の報告によりますとランクSからランクAになる寸前、膨大な超能力反応をキャッチしたとの事です」


それを聞いた男はニヤリ、と笑みを浮かべた。


「……それと、ランクAからランクSになる時も超能力反応があったとの報告です」

「フッ……たまには役に立つじゃないか」


平静を装っているが、喜びが隠せないのか男は歓喜に満ちた表情をしながら女性を見た。


「…『煙男スモークマン』と『吸血鬼ヴァンパイア』は現在どうしている?」

「はい、現在『煙男スモークマン』は任務を終え帰還しております。『吸血鬼ヴァンパイア』は今だ任務中です」

「…『煙男スモークマン』を日本に向かわせてくれ。『吸血鬼ヴァンパイア』は任務が終わりしだい向かわせる」

「かしこまりました」

「後は……日本にいる《BABEL》にも『煙男スモークマン』を向かわせる事を伝えてくれ」


ピクッ、と女性の眉が動く。


「……よろしいのですか?」

「ん?……あぁ、一条のお嬢さんの事かい?それなら放っておけばいいさ」

「…かしこまりました」


女性は一礼するとクルリと180度回転して社長室をドアを開く。


「失礼しました」


そう言うと女性は社長室を退室した。

『社長室』に一人残った男は窓を見て、喜びの笑みを浮かべた。


「まさか日本に超能力者イディオムがいるなんて…思ってもいなかったよ……!」


男はそう言うと、『社長室』で一人高笑いした―――――――

これにて1章が終わりです。

次回からは天神高等学校の謎や《BABEL》について説明していきます。


余談ですが、友達が意味わからない事を言っていたので書きます。


友「なぁ…ファミマ行かない?」

私「いいよ」

友「ファミマのミスタードーナツ美味いんだよなぁ…」

私「…は?ファミマにミスドなんてあんの??」

友「あるに決まってんじゃん!」

私「なかったらジュース1本奢れよ」


そしてファミマの中に入り友達が手に取ったのはただのドーナツ…。


私「…それただのドーナツじゃん」

友「………ごめん」


この後なんかムカついたので腹パンした。

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