第2話「超能力」
光と夢に昔遊んでいた場所を紹介してから1週間がたった。
俺たちの日常が壊れたのは何気ない行動からだった。
「先輩!先輩!」
相楽が小声で俺を呼んでる。天神高等学校の授業は学年がばらばらなので基本自習である。自習内容はワークをひたすらやる。ちゃんとワークにも答えがあるので答えを見ながらやれば楽なのだが、先生がいて答えを見ながら書くのは少々厳しい。
毎時間に自習の先生が1人教卓の椅子に座り、生徒がわからないところがある場合は手をあげて先生を呼ぶ。という形だ。
「先輩!先輩!」
相楽の存在を忘れていた。
「なんだ相楽」
俺も小声で答える。
どうやら相楽は俺の机の下にある消しゴムを取ってほしいらしい。
そんぐらい自分で取れ。とジェスチャーするが、自分で取るのが面倒らしい。
知るか。こっちも面倒なんだ。
俺は相楽が取れ取れと言っているのを無視してワークを再開した。
「先輩消しゴムくらい取ってくださいよーぶー」
とか言ってるが無視。
やがて相楽は俺に拾ってもらうのを諦め、指でクイックイッと消しゴムを手招きしている。こいつこんな馬鹿だったけな。
俺があきれて見ていると5回目に指をクイッとやったら消しゴムが相楽のおでこに吸いこまれるように当たった。
「いたぁ!!!!」
クラス全員の目が相楽に行く。相楽はすいません…といいながらさっき起きたことに驚いている。
俺も驚いた。
見間違いかとも思った。だがあれは違うだろう。
授業が終わった後相楽を廊下に呼んだ。
「相楽、お前さっきの消しゴムになんかバネでもつけてるんじゃないだろうな。」
俺は何か細工をして消しゴムがあんなに跳ねたんだろうと予想した。だが相楽は否定した。
「違うよ。『あ~消しゴムがこっちに来ないかなぁ~』と思って指クイクイしてたらほんとに消しゴムが飛んできたわけ。なぜかおでこに。」
俺は鼻で笑った。そんなわけあるか。そんな超能力みたいなのがあるわけない。
まさか相楽は…中二病だったのか。
俺があわれみの顔で相楽を見つめていると
「本当ですって!先輩も見たでしょう!細工があるかどうかこの消しゴムも触っていいですから!」
相楽は必死に俺に訴える。
確かに消しゴムが飛ぶ光景は見た。だがどうやってあんなことできるんだ?
消しゴムを触ってみたが細工しているようすもなかった。
「相楽、もう一回消しゴムを飛ばしてみてくれないか。ここだとあれだから、物置に移動しよう。」
相楽は頷いて、物置の鍵とってくる。と言って先に行った。
物置の鍵を内側から閉めて、外側からは誰も来れないようにしておいた。これで問題ないだろう。
「相楽、やってみてくれ。それで消しゴムが飛んだらもう否定のしようがない。」
相楽は今度は立った状態で消しゴムを指でクイクイしている。はたからみたら変な人だ。
だがいっこうに消しゴムが飛ぶ気配がない。
「ちゃんとやってるのか。全然動いてないぞ。」
相楽も相当集中しているのか黙ってて!と言ったまま何も言わない。指をクイクイしてるだけだ。
20回ぐらい指クイクイしたが変化がない。
やはり見間違いか。と思い物置の鍵を開けようとしたら相楽がさすがに痺れを切らしたのか、「あーもう!!」といい腕をブンッ!と下から上にあげた。
すると一瞬だがものすごい風がおきたような気がした。
相楽が心配になり相楽の方を見たら上を向いていた、俺も視線を上に移動したらそこには消しゴムが天井の壁にめり込んでいた。
飛んだ。
その光景は消しゴムが飛んだという事実に十分だった。
有り得ないと頭の中でわかっていてもこの光景は現実だ。
相楽の方を見ると震えていた。
そりゃそうだろう。腕を思いっきり振ったら急に消しゴムが天井にめり込んだのだから。
怖いと感じるだろう。普通消しゴムは天井にめり込まない。
この件に触れるのは今はやめようと思い俺は震える相楽に保健室に行くように言った。
相楽は混乱しているのか、返事がない。
仕方ないので保健室まで連れて行く。
酷く震えている相楽に保健室の先生は何事かと俺の方に説明を求めるが俺は相楽は体調不良だと言って保健室を後にした。
教室に戻ると楓が俺と相楽が一緒に廊下を出て行ったのを見たのか
「零、そろそろ授業始まるけど夢ちゃん見なかった?」
消しゴムの事を言うか迷った。だが今は混乱は避けたほうがいいだろうと判断した。
「相楽は体調が悪くなって保健室で寝てるよ」
すまん楓。あとできっと話す。
「夢ちゃん大丈夫かな。放課後4人で保健室行こうね!」
俺は頷いた。楓は嬉しそうに笑った後竜輝と光に放課後保健室にお見舞いに行くことを伝えるのであった。
放課後。
相楽のお見舞いにきた俺たちだったが保健室の先生によると相楽は早退したらしい。
楓ががっくりと肩を落とした後すぐにシャキッとなり「じゃあ夢ちゃんのお家に行こう!」と言い出したところ保健室の先生が相楽は1人になりたいと言っていたらしいので無理に家に行くのはよくないと言われた。
さすがの楓もこれにはがっくりと大きく肩を落とした。やっと降参したか。
「そうだ!まだ電話があるよ!電話!」
…タフなやつである。さすがに保健室の先生も電話は止めなかった。
その後保健室で少し雑談していたら日が暮れてきたので帰宅した。
「ふぃ~いい風呂だった。」
俺が風呂から出て携帯にメールが来ていないかチェックしていたら相楽から電話が来ていた。
かけ直すか。と思ったら相良から電話が掛かってきた。
「もしもし、大丈夫か」
消しゴムの件でまだショックを受けているか心配だった俺は第一声にそんな声をかけた。
「うん、大丈夫」
声は小さいが震えてるようすはない。これなら消しゴムの件を話しても大丈夫かなと思った俺は話を切り出した。
「相楽、前からあんなことできたのか?」
念のため聞いておく。前から使えたらあんなに怯えてないだろうが。
「違うよ。今日が初めて。」
そうだろうな。ならなぜいきなり消しゴムが飛ぶんだ。
「相楽、ここ最近変わったことはないか。なんでもいい。」
う~ん…と相楽は唸ってからあ、そうだといいながら
「そういえば最近ゴミ箱に投げたゴミがよく入るよ。」
なんだそりゃ。関係な…いとも言えないな。おでこに吸い込まれるように飛んだ。ということはゴミ箱に吸い寄せるように投げた。という芸当もできるかもしれない。そんなの超能力者でなければますますできないが。
…待てよ。相楽がほんとに超能力者という可能性は…ないな。考え過ぎだな。
そんな事で超能力が使えると決めつけるのは早すぎる。
俺は超能力の存在を信じてはいないがな。さすがに消しゴムが飛んだ時は信じかけたけど。
俺は軽いため息をつくと相楽に言った。
「まぁ考えすぎなんだろう。お互いこの事は誰にも言わないでおこう。明日学校来いよ。」
「ありがとう先輩。心配してくれて。」
ちょっと照れくさくなった俺はじゃあ切るぞ、と言い電話を切った。
しかしあれだな…このことを忘れるのはちょっと難しいな。
今までに起きたことをメモしておこうと思いスマホのメモアプリを起動させようとするがしまった。必要ないと思って消してしまった。
またアプリをインストールするよりも紙とペンの方が早い。そう考えた俺は机にあるメモ用紙とペンを取りに行こうとするがふと思った。
―――――俺も超能力が使えるのではないか。
いやまさかな。と思いながら実は期待している俺もいる。
試しに机に置いて合ったペンに向かって人差し指をクイクイとやってみる。
…反応はなかった。
それから3回ほど指をクイクイしたが反応はなく、諦めて自分でとりに行った。
ペンを取ろうと手を伸ばしたとき違和感に気付いた。
…ペンが机から半分出ている。
それはおかしい。確か指をクイクイする前まではけっこう奥にあったはずだ。
「マジかよ…」
憂鬱な気持ちになりつつ、とりあえずこの事は考えずにいようとベッドに横たわり、深い眠りについた。