第19話「すれ違う思い」
僕は『悪』ではなくもしかしたら人間その物が嫌いだったのかもしれない。
いや…もしかしなくても『人間』その物が僕は嫌いだった。
父親を嫌いになり、僕の味方だと思っていた母でさえも僕の味方ではなかった。
小学校や中学校の友達も同様だった。最初は仲よくしていても、自分に都合が悪くなると僕になすりつけてくる。チンピラに絡まれて僕が助けを求めても、自分に被害が来るのを恐れて誰も助けてくれない。
正しいはずの警察にも僕は裏切られた。
すぐ帰すといいながら帰さなかった。僕はその言葉を信じたのに、裏切られた。
無罪を証明するために指紋を取ると言ったのに証拠品に使った。
別口で受験をさせてあげるといい結局何もしなかった。どうせコイツは有罪だ、とでも思ったんだろう。
そして…僕を弁護するはずの弁護士にまで僕は裏切られた。
どいつもこいつも嘘ばっかりだ。
金さえよければどんな悪いことだってする、欲望の塊。
下の者は上の者に逆らったら処分されるという恐怖で何もできない、自分保身の塊。
自分がよければ他人なんてどうでもいい、自分勝手の塊。
人間なんて所詮クズだ。
人間誰もが嘘を付き、人を騙す。
その行動事態が「悪」だ。その行動をやめない人間は「悪」その物だ。
もしかしたらそんな事をしない人間がこの世にいるのかもしれない。
しかし光はそんな人間を見たことがないゆえに、そんな存在が信じられなかった。
この世から悪をなくすためには…人間を皆殺しにするしかない。
光は留置所で人間を皆殺しにする事を決意した。
ーーー
「…これが僕の過去、歩んできた人生です」
「…」
光の過去を聞いた俺は何も言えなかった。
想像を絶する過酷な人生だったからだ。
もし俺が光と同じ人生を歩んでいたら…人間を信じられなくなるかもしれない。
そして光と同じように人間を皆殺しにすると決意するのだろうか。
…いや、違うな。それは間違っている。
自分以外が信じられないから皆殺しにしようなんて、ただの現実逃避だ。
考えれば他の方法もあるはずだ。
そんな事を考えていたらふと、光が口を開いた。
「…でも、そんな僕にまたしても転機が来ました」
俺は黙って光の言葉を聞く。
「それは…零、君に出会ってからです」
「…何?」
思わず声に出してしまった。
俺が光に何かしたか?いや、考えてもまったく思い出せない。いつ、どこでそんな事をしたんだ。
すると光は俺と出会った時の事を話始めた。
ーーー
「前島光です…よろしくお願いします」
パチパチと小さな拍手をされ、指定された一番後ろの窓際に座った。
どうせこいつら全員汚い考えを持った人間だ。なるべく関わらないようにしよう。
そんな事を考えていたら横から声を掛けられた。
「よっ!俺は波多野零。よろしくな」
「よ、よろしく」
いきなりの挨拶に少し驚いてしまいぎこちない挨拶を返す。
明るい感じの青年だった。零はそれからも小声で何か話しかけてきていたが、光はすべて無視した。
ホームルームが終わり、少人数ながらも光の周りに人が集まっていた。
「ねぇねぇ、前島君ってどこから来たの?」
浅黒い肌に、キラキラしている笑顔。健康そうな女の子だった。以前の僕なら間違いなく一目惚れしていただろう。
「…」
だが光はその女の子から目を逸らし、無視した。同様に何人かから声をかけられ、質問をされたが全部無視した。
やがて無視を決め込む光を見て、それぞれ悪態を付いてどこかに行ってしまった。
………やっと消えたか、これで静かになるな。
そう思った矢先、隣から声をかけられた。
「…なぁ、お前ってなんでそんなに愛想悪いの?」
溜息をつきながら僕に話しかけてくるこの青年は確か……波多野零だ。
「…」
僕はさっきの人と同様、無視を決め込んだ。
「…愛想悪いってレベルじゃないなこれ」
波多野零は苦笑して僕の事を見る。
そうだ、それでいい。もう僕に話しかけるな。
だが波多野零はそれでも僕に執拗に話かけてきた。
「なぁ、さっきは挨拶してくれただろ。前島ー。お~い」
波多野零は手をぶんぶん振って僕の気を引こうとしている。が、それでも僕は無視を決め込む。
なんなんだこいつは…鬱陶しい。
無視を決め込んでいると、青年が近寄ってきて波多野零の腕をガシッと掴んだ。
「零、嫌がっているのに無理やり話しかけるなよ」
「え…嫌がってるの?」
「僕にはそう見える」
波多野零がこっちを見たので、頷いておく。
「…そうか、悪かったな」
波多野零は一言そう告げると席を立ってどこかに行ってしまった。
「ごめんね、零も悪気があってしつこく話しかけていたわけじゃないんだ」
波多野零の腕を掴んだ青年が場の空気を悪くしてしまったと思っているのか一生懸命良くしようとしているのが伝わってくる。
「あ!自己紹介が遅れたね。僕の名前は氷室竜輝。よろしく」
僕がキョトンとしているのを名前が知らないからキョトンとしていると受け取った氷室竜輝が慌てて自己紹介をする。
氷室竜輝は握手を求めるように手を僕の前に出した。
求めるよう…ではなく確実に求めているんだろう。
体育系なのか腕はゴツゴツしていそうなたくましい手だった。
しかしその手を握り返さず、その手から目を逸らすことで拒絶を示した。
すると氷室竜輝は嫌な顔一つせずに苦笑だけして終わった。
チャイムが鳴り「困った事があったら何でも言ってね」といい席に戻った。
放課後。
もう僕に話かけてくる人はいなくなっていた。
そりゃそうだ。話すたびに無視すれば、話したくなんてなくなるだろう。
靴箱で上履きから革靴に履き替えている最中に、隣の靴箱から女子高生の話声が聞こえた。
「今日ショッピングモール寄って行かない?」
「あ!いいね、今日発売の『悶えろ!屈強な男達』欲しかったんだー」
「あ…ははは」
こんな田舎にもショッピングモールはあるらしい。することもないので行ってみるか。
決して『悶えろ!屈強な男達』が欲しくてショッピングモールに行くわけではない。
女子高生2人組の後を付いて行くこと30分。ショッピングモールに着いた。
「結構大きいな」
今までに見たショッピングモール中で一番大きいのではないかというほど大きかった。
女子高生の会話を聞いていたところによるとこのショッピングモールには遊園地もあるらしい。
中を散策してみると予想以上に大きかったので、案内板を見た。
「ゲームセンターもあるのか」
以前受験勉強をしてる合間にストレス発散で行った事がある。
「…行ってみよう」
特にすることもないので、ゲームセンターに行くことにした。
ゲームセンターは予想以上の大きさだった。
イトーヨーカドーぐらいのゲームセンターを予想していたが、1フロア丸々使っているのでとても大きい。
メダルゲーム、クレーンゲーム、ビデオゲーム、音楽ゲームなどなど。
光は久しぶりのゲームセンターで興奮していた。
中を見て回ると受験勉強の合間にやっていた「頭文字D」や「コードオブジョーカー」などがあった。
今はもうやってないが、久しぶりにやってみようと思い近づくと誰かにぶつかった。
「ッ…す、すいません」
急いで謝りぶつかった人の方を見ると、ガラの悪い人だった。
「ってーな…てめぇちょいと面貸せや」
無理やり胸ぐらを掴まれる。よく見るとガラの悪い男が他にも2人いた。
カツアゲでもやりに来たのだろうか。これだから人間は……。
「なんだその目は?こっちこいや!」
男は無理やり僕を引っ張っていった。
抵抗するのも面倒だったので、僕は黙って付いて行った。
ガッと殴られゴミ捨て場のゴミ溜まりに僕は倒れた。
「これでぶつかった分はチャラだ…で、持ってる金全部出せや」
殴ってすぐにこれか…。本当にどいつもこいつもクズばかりだ。
死ねばいいのに。いや、俺が殺さなければならないのか。
「てめぇ…さっきからなんだその目は。もっと殴られてぇのか?あぁ!?」
男が光の胸ぐらを掴んで勢いよく引き寄せる。
「………クズが」
思わず声に出てしまった。
僕の声が聞こえたのか男の顔がカッと赤くなり、右腕を振り上げるのが見えた。
殴られる。
そう思った瞬間、誰かが男の振り上げていた右腕を掴んだ。
「そこまでにしとけよ」
低い声で青年がガラの悪い男に静止した。
よく見たらこの青年は波多野零だ。でもこの青年は僕に無視されてどっかに行ったんじゃ…どうして…。
「んだてめぇ!」
男が空いている左腕を振り上げて波多野零を殴ろうとする。
が、それより早く波多野零のボディーブローがガラの悪い男に炸裂した。
男はだらしなく口から唾液を吐き、蹲るようにして床に倒れる。
それを見たガラの悪い男の仲間2人が波多野零に殴りかかる。
顔面目掛けて飛んできた拳を左腕で流し、男がその勢いで倒れこんでくるところを波多野零は足払いをかけて転ばせる。
もう1人の男は転んできた男を避け、よろめいた一瞬を波多野零が顔面を殴って沈めた。
「くそっ!」
転んだ男が毒づきながら立ち上がり、ポケットからサバイバルナイフを取り出す。
だがそれを見ても波多野零は顔色一つ変えなかった。
男が無茶苦茶な動きでサバイバルナイフを振り回す。波多野零は男が無茶苦茶に振り回していたナイフを全部避け、隙を見せたところをガッと勢いよく顔面を殴り気絶させた。
「大丈夫か?」
波多野零が立ち上がりやすいように手を差し伸べる。僕はその手をとり、立ち上がった。
助けてもらったのだから、一応お礼は言わないといけないだろう。
「あ、あ、ありがとう…」
言いたくない気持ちと言わなければという気持ちが重なって、どもってしまった。
それを聞いた波多野零は屈託のない笑顔でニコッと笑った。
その時、僕は感じていたのかもしれない。
あぁ…今までにあった事のないタイプだ、と。
少なくとも僕がこのような状態に陥った時、助けてくれる人は誰もいなかった。
面白がって参加するか、見てみない振りをするかのどっちかだ。
しかもこの青年とは出会ってからまだ1日も立ってない。僕を助ける理由がないのだ。
「…なんで、僕を助けたんですか?」
自然と口からこの疑問が出た。
他にも聞きたいことは山ほどあったが、なぜ僕を助けたのが一番気になったからかもしれない。
すると波多野零は頬をポリポリとかきながら言った。
「あ~…それはだな………謝りたいと思って」
謝りたい?僕に?
意味がわからない。波多野零が僕に悪いことをしただろうか。僕はそんな事記憶にない。
「教室で…しつこく質問してただろ?前島が嫌がってるのを気づかずに。それで謝りたいと思ってたんだけど、タイミング掴めなくてさ。付いて行ったら前島がガラの悪い男に連れて行かれるの見えて殴られてたから、助けなきゃってな」
それで僕を助けようと…。だがそれでも意味がわからない。
それでは波多野零の利益がない。波多野零が助けたのには別の理由があるはずだ。
「…金ですか」
「は?」
波多野零はキョトンとした顔で僕を見つめてくる。
「本当は別に理由があったんでしょう!金ですか!なんですか!」
僕の言葉を聞いた波多野零は口をあんぐりさせて目を見開いていた。
図星を突かれた時の顔ではない、驚いた時の顔だ。
しばらくすると波多野零が口を開いた。
「お前なぁ…理由理由って、助けるのに理由が必要なのか?」
何を言っているんだこいつは。助けるのに理由はいらない?ふざけているのか。
人間は利益を得るための行動しかしない。自分が良ければ他人なんてどうでもいいんだ。
「…あ!理由…じゃないけど条件ならあるぞ」
やっと化けの皮を剥いだか。
どうせ学校生活の間僕をパシリに使うとか、サンドバッグにするとかだろう。
やっぱり人間なんて所詮は救いようのないクズだ。
「もう無視するな。これが条件だ」
……は?
本当に何を言っているんだこいつは。無視をしない?そんな事をしても自分にメリットが何もないじゃないか。
「そんな条件、何の得があるって言うんですか!」
僕は声を張り上げて問う。
「得ならあるぞ」
波多野零はあっけらかんとした顔で答える。
「会話が成り立つ」
波多野零はまたも屈託のない笑顔で答えた。
その笑顔は裏表がなく…僕の心に響いた。
あぁ…やっぱりこの人は―――――
「あぁ、あとこれからは零って呼んでくれ。俺も前島の事、光って呼んでもいいか?」
「あぁ……よろしく、零」
僕は肯定の変わりに初めて、名前を呼んだ。
それから零とは頻繁に喋るようになった。
零の友達の氷室竜輝、佐倉楓、相楽夢を紹介してもらったが、零以外の人とは上手く喋れない。
きっと僕の中でまだ零以外の人間は信じられないのだろう。
でも今はこれでいい。時間はたくさんあるのだから、これからゆっくり零以外の人とも話せるようになりたい。そう、思っていたのに…!
僕はまた、裏切られた。
それはショッピングモールでテロリスト達が襲撃した時だ。
テロリスト達は唐突に占拠し、何の躊躇いもなく人を殺した。
僕はその姿が父と重なって見えてしまい、震えが止まらなかった。
僕が怯えている間に、氷室と零がテロリスト達と戦っていた。
それを見た僕は加勢しようとしたが、足が竦んで思うように動けなかった。
やっと足の震えが落ち着いてきた時に、零から佐倉さんと相楽さんを守るように言われたので素直に従った。
今の僕が戦闘に参加しても足を引っ張る姿しか想像できなかったからだ。
零と氷室がテロリスト達を一掃しているときに、テロリストの1人が何やらゴソゴソやっているのが見えた。
すると零と氷室がゴソゴソやっていたテロリストに突っ込んだ。
が、テロリストは零達が突っ込むより早く手に何かを持って「動くな!」と言い放った。
それを聞いた零と氷室はピタッと動きを止めた。
何だろうと思い目を凝らすと、スイッチのような物が見えた。
「動くな!動いたら…このショッピングモールごと爆破してやる!!!」
このスイッチは爆発のスイッチなのだと僕はその時初めて気づいた。
爆弾のスイッチだと理解した時、僕の頭は真っ白になった。
え…爆弾?何ですかそれ…え…?
零とテロリストが何か言い合っているが、まったく頭に入ってこない。
そうだ…この男は関係のない人を殺し、今なお関係のない人々を殺そうとしている。
その行いは紛れもなく『悪』だ。
ならその悪を裁くのは誰だ?
警察?いや違う。あれも悪だ。
なら法律が裁くのか?いいや違う。あれも人間が作ったルールだ。人間の作ったルールなんて所詮まがい物の偽善、悪だ。
ならば一体誰が裁くのか……。
それは―――――――僕しかいないじゃないか。
誰も信じられないのなら僕がやればいい、なんでこんな簡単な方法今まで思いつかなかったんだろう?
怖かったのかな…。例え悪でも、人を殺すことに。
だけど今の僕にはそんな事眼中にない。
力が欲しい…!この世の悪を…!人間を!滅ぼす事ができる力が!!!!
すると、光の頭の中に呪文のような言葉が流れ込んできた。
異様な出来事に一瞬光は眉をひそめる。
しかし頭の中に流れ込んできた呪文のような言葉を言えば、目の前を敵を一瞬で屠れる事ができると確信していた。
光は何の躊躇いもなくその言葉を言った。
「…紅炎柱」
するとテロリストの足元からごうっと火柱が出て、真っ赤に燃え盛る火柱がテロリストを飲み込んだ。
数秒ほどしたら火柱が収まった。だがそこにさっきまでいたテロリストの姿はなかった。
すごい…これが僕の望んでいた力…。悪を一瞬で焼き尽くし、断罪する力…!
これこそ僕が望んでいた力だ!あぁ…これで…これでやっと…!
心なしか体が気怠い。力が大きい分体に掛かる負担も大きいのか。
すると零が僕の方をおそるそる見ながら言った。
「光……さっきの火柱、お前がやったのか?」
隠す必要がないと思ったので、素直に僕は答えた。
「はぁ…はぁ…そうだよ…。」
それを聞いた零は驚いた顔すると、すぐに何かを考え始めた。
何を考えているがわからないが、僕の視界の端に何か映った。
―――テロリストだ。
そうだ…まだ生きてるんだ…。
光は重い体を引きづり、そのテロリストのところまで歩いた。
テロリストの方に着き、冷ややかな視線で見ていると後ろから誰かが駆け足で近づいてくる音が聞こえてきた。
すると近づいてきた人物―――零は言った。
「光。ここは急いで出入り口を―――――」
「零、少し黙って。」
僕は今落ち着いて話を聞ける状態じゃない。
せめてこの男を葬ってから話を聞こうと零の言葉を遮った。
すると零は察してくれたのか、黙った。
零が黙ってからしばらく立った後、僕は男の髪を引っ張り、頬を一回引っぱたいた。
すると男は呻き声を上げて意識を取り戻した。
冷ややかな目で男を見ていたが、やがて男が叫ぶように喋り出した。
「ち、違うんだ…俺はやりたくてやったわけじゃない…命令されたんだ!」
違う…僕はそんな事が聞きたいわけじゃない!
僕はギリッと歯を食いしばり拳を強く握ると、零が男に続きを促がすように言った。
「ほう…誰に命令されたんだ?」
「それは知らねぇんだ!声は知ってるが、名前は本名じゃねぇ!破格の報酬で、依頼主の事は詮索すんなって条件だったんだ!本当だ!俺は何も知らねぇ!」
それを聞いた零の目が鋭くなったのがわかった。
「ほ、ほんとうだ…俺は何も知らねェ!なぁ!助けてくれ!頼む!俺には家族がいるんだ!家族のために仕方なくこんな仕事してんだ!好きでしてるんじゃねぇんだよ!!!」
家族のため…か…。
このテロリストにも家族がいるんだろうか。簡単に人を殺せる辺り、いい父親だとは思わない。
一瞬、目の前の男の姿が父の姿と重なって見えた…。
あぁ…そうかこいつも、父と同じなんだ。
家族のためと言いながら、簡単に人を殺す。金のために。
「テロリストが…命乞いですか…。今までそうやって命乞いをしてきた人達を容赦なく殺してきたあなたが…!命が欲しい?…笑わせないでください!」
気が付いたら僕の思いは口から溢れ出ていた。
父はやめてやめてと言っても一向に暴力をやめたりはしなかった。
まだ死にたくないと思った人もいたはずだ。なのにこの男は…嘲笑うかのように人を殺してきたんだろう。僕にはわかる。
なぜならこいつからは…父と同じ臭いがするのだから。
「そ、それは…。悪かったと思ってるよ!なぁ…頼むよ、助けてくれ!」
それでもなお、命乞いをするその態度。気に入らない…!
所詮こいつも、自分がよければ他人なんてどうでもいい、自分勝手の塊だ。
そんなやつはこの世にいらない。死んで詫びるしかない。
「光、コイツもそう言ってる事だし、命までは―――――」
「紅炎柱」
零が何か言ったような気がするが、僕の耳には入らなかった。
紅蓮の火柱が男を包み込む。その炎の輝きは星よりも眩しく、太陽よりも熱い。
やがて火柱が静まると、零が僕の胸ぐらを掴んできた。
「おい…光!何やってんだよ!!!」
零は…何をこんなに怒っているのだろうか。
「何って…殺しただけですが。」
そう答えると零は顔面蒼白な顔になって、胸ぐらを掴んでいた腕がズルッと落ちた。
それを見た僕は特に気にすることなく、残りのテロリスト達の位置を把握し、「紅炎柱」で燃やし尽くした。
すると零は僕に怒鳴りだした。
「おい光!お前自分がやってる事がわかってんのか!!」
わかっているよ。悪をこの世から1つ、消しただけ。
零は僕のやっている何に怒っているのだろうか?何も間違った事はしていないのだが…。
「なんか言えよ!なぁ…なんでだよ!!」
嗚咽に似た声で零は僕を見つめる。
もしかして零は…僕が人殺しをした事に対して怒っているのか?
でもそれはしょうがないんだ。僕がやらないと、誰もやらないから。
「……悪がこの世から消えればいいと思った事はありませんか?」
「え?―――」
「弱者を痛めつけ自分がこの世で絶対だと思う者、人を騙しのうのうと生きている者、もうやらないと言いつつ悪事を繰り返す者。それら全てが………この世から消えればいいと思った事はありませんか?」
僕の理想の世界。望む世界。
「そりゃ…何度か思ったことあるけど―――」
「なら先輩はその悪を!殺そうとは思わないですか!?」
零も思った事があるんだ!なら零はこの気持ちがわかるはず!
もう二度と人を信用しないと決めたのに、なぜか零だけは信用できた。
それはきっと零が僕の気持ちをわかってくれていたからだ。
あぁ…これから零と2人で人間を、悪を殺して行くんだ。
あ、もしかしたら零と僕のような考えを持ってる人がいるかもしれないから、皆殺しにする必要はないか。探しながら殺して行けば。
だが零の答えは僕の望んでいた答えとは違った。
「だがな、そいつも俺達と同じ人間なんだ。何も殺す必要はない。」
……今なんて…。
殺す必要がない?『俺達』と同じ人間だから?
僕たちがあんなテロリストと一緒…だって…?
零も…あいつらと同じ…。
……そうか、僕が勝手に勘違いしていただけなんだ。
零は僕の気持ちなんてこれっぽっちも理解してない。
挙句の果てに俺達と一緒だって…?僕は違う。そう思ってるのは零…君だけだ。
…やっぱり人間なんて信じられない。
零もそこら辺の人間と一緒……粛清対象だ。
零は何かを訴えかけるように話していた気がするが、もう零の言葉は僕には届かない。
それから僕はこれから殺す相手…零とこれ以上話す事はないので、その場を立ち去った。
ーーー
「そして、僕が彷徨っているとフードを被った見るからに怪しい男がこの方法を教えてくれました」
「…この方法、とは?」
光はしまったという顔を一瞬だけしたが、まるで何事もなかったかのように話し出した。
「火山を噴火させる方法―――言わば、人を殺す方法です」
「だがこの火山を噴火させたってここは無人島だ。誰も殺せないぞ」
光は顎に手を当てて言うか言わないか考えている様子だったが、やがてまぁいいか、という表情をすると無機質な声で言った。
「僕の能力で…火山共鳴を起こして日本の火山を一斉に噴火させるんです」
「なッ…!」
そんな事が…可能なのか!?
もしそんな事ができるなら、日本は終わる。
日本の火山数は13あるが、それが一斉に噴火したら…考えただけでゾッとする。
「せっかく誰にもばれないところを用意してくれたんですけどね…。まず手始めに日本を、それが終わったら今度は欧州の火山でも噴火させますかね」
光はカラカラと笑いながら話す。
光は本当に人間を…人類を滅ぼすつもりなのだ。
「なぁ…本当に、やめる気はないのか」
俺は光を真剣な表情で睨んだ。
「えぇ…ありません」
光はそんな俺の表情を真正面から受け止めた。
「…このまま話合っても、平行線ですね」
「…あぁ」
「なら…どうします?」
「………そうだな…」
本当に…光と戦わなければならないのだろうか。
だが今の光は何を言ってもやめないだろう。
なら…手段はもうこれしかないよな。
俺は足に力を込め、グッと体を前かがみにした。
それを見た光が動いた。
「紅炎柱!」
光の一言で、意地と意地がぶつかり合った絶対に負けられない戦いが始まった。
サブタイトルを「光!BLに目覚める!?」にしようと思ったけどやめた