第17話「再会」
中央には何かの地図が映し出されているモニター。
その前には何人もの人が座り何かの端末を操作している。
中には紙に何かを書いてる人もいた。
その非日常的な光景に俺は呆気にとられていた。
「注目!」
一条が一喝すると、前でデスクワークをしていた何人もの人が一斉にこっちを見た。なぜか俺を見る目が冷たいような気がする。
すると一番前に座っていた年老いた男性が立ち、こちらに向かって優雅に一礼した。
「お着替え終わりましたか。お嬢様」
「ここではそれはやめて。司令よ」
「失礼しました」
この爺さんどっかで見たことあると思ったら…リムジン運転してた人じゃねーか。
運転しながらこんな事もやってるのか…すごいな。
「で、彼の居場所はどこだかわかったの?」
「はい。確認いたしました」
いよいよ光の居場所が聞けるのか。
ホッと一安心したが、ある事に気付いた。
「一条……お前、光の居場所を知ってるとか言ってなかったか」
ギクッ!とした後首をギギギとこっちに向けた一条は言った。
「け、結果オーライよ」
知らなかったのかよ!
知らないのにあんなに堂々としていられるのには呆れるを通り越して尊敬する。
どんな神経してんだ。
俺の訝しむ視線に耐えられなかったのか一条は下を向いていたが、やがて顔を上げるとこっちを見て「ふん!」と言ってそっぽを向いてしまった。
逆ギレよくない。
「それで爺、彼…前島光はどこにいるの」
一条はややイラついた声で年老いた男性…爺に聞いた。
「それが…」
爺は視線を左右に泳がせていた。どうやら言いづらいらしい。
言いそうにない爺の姿にイラついた一条が声を張り上げた。
「爺!早く言いなさい!」
爺は一瞬抵抗の顔をしたが、一条が引かないと見ると諦めたのか口を開いた。
「…伊豆鳥島でございます」
「伊豆鳥島?」
この質問をしたのは俺だ。
伊豆鳥島と言えば、ほぼ円形に近い二重式成層火山島で日本の気象庁においては火山活動度ランクAの活火山に指定されているんだっけか。
でもなんでそんなところに光が…。
「12時間前に、ショッピングモールと同じパターンの超能力反応が伊豆鳥島で見られました」
中央のモニターに伊豆鳥島の場所が赤く点滅される。
「伊豆鳥島にいるのはわかったわ」
一条がこっちに視線を戻す。
「それで、波多野零。あなたは今すぐ前島光のとこへ行きたいの?」
一条が問う。その瞳には人を試すような、あるいは楽しんでいるような色を感じる。
俺は……
「あぁ…行きたい!」
それを聞くと一条はニヤッと笑うと楽しそうに爺に命令した。
「爺!今すぐ船の準備をして頂戴!私も行くわ!」
「既に準備は整っております」
「さすが爺ね!」
「船で行くのはいいが…ここから伊豆鳥島となるとけっこう時間がかかるんじゃないか?」
盛り上がってるところ悪いが、ここから伊豆鳥島に行くにはけっこう時間がかかるはずだ。
今から行ったら夜になってるだろう。
すると一条は心外だと言わんばかりの顔で言った。
「一条の名前を舐めないでもらえる?」
リムジンで移動して1時間ほど、船着き場に着いた。
こんなところに船着き場があるなんて知らなかった。
「こちらでございます」
爺が示した場所は船というよりボートだった。
リムジンを降り、そのリムジンは助手席に座っていた男が運転をして来た道を戻って行った。
爺、一条、俺の3人はボートに乗り込み、伊豆鳥島向けて出発した。
ちなみにボートの操縦者は爺だ。
今どきの執事はなんでもできないといけないのだろうか。
将来執事になりたいなんて思ってる人は大変に違いない。
そういえば竜輝達に言うの忘れてたな…。
竜輝はまだ警察に質問攻めにされてるんだろうか。楓はショッピングモールの件で傷付いて部屋に籠っているらしいが、大丈夫だろうか。相楽は…俺の事を避けてるように見えるが、何でだろうな。
こうして考えてみると1人で来て正解だったかもしれない。
みんなそれぞれ悩みを抱えているように見えるし、光の件は俺が何とかしなければいけない。
しばらくすると伊豆鳥島が見えてきた。
「あれが伊豆鳥島か」
思ったよりでかい。画像で見たことはあるが、実際に見るのは初めてだ。
「あそこは無人島よ」
1人で伊豆鳥島を感嘆して見ていたら、横から一条が話しかけてきた。
「浮かない顔してるわね」
「まぁ…な」
正直、光と会うのは怖い。別れ方が最悪だったし。
会ったところで話を聞いてくれるか。本当に光はあそこにいるのか。
そんなマイナスの事ばかり考えてしまう。
「覚悟はできてるんでしょうね」
「……」
何が。と、答える事はできない。
おそらく一条は光と会った時、最悪の事態を想定して聞いているのだ。俺もそれを頭の片隅で考えたが、そんな可能性すぐ消した。
そんな事考えたくもないし、聞きたくもない。
「戦う覚悟よ」
俺の様子を見てわからないと思ったのか、一条が一番聞かれたくない事を言ってきた。
わかってるよ。余計なお世話だ。
だがしかし、一条の言う通り光の考えが変わっていなかった場合、俺はそれを止めなければならない。殴り飛ばしてもだ。
俺にその覚悟があるのかと言われたら…
「あるさ」
俺は決めたんだ。
光を救ってやるってな。
あいつに人殺しなんてやらせない。
そんな俺の決意に満ちた横顔に満足したのか、一条はフッと笑うと何も言わなくなった。
「着きました」
爺がボートを適当な場所に置き、一条、俺、爺の順番にボートを降りる。
「で、爺。前島光が伊豆鳥島のどこにいるのかわかるのよね?」
さも当然よねという顔で一条が問う。
…それを聞いた爺が冷や汗をかいているのを見た気がするが、サッとハンカチを取り出して額を拭いてしまったのでわからない。
「おそらく…山頂付近にいると思われます」
「一応、なんでそう思うか聞いてもいいかしら?」
「はい、1日ほど前から伊豆鳥島の火山活動が活発になっているとの情報が入ってきております」
「それが前島光と関係していて、山頂で何かしているって事?」
「仰る通りでございます」
なるほど。確かに光は炎を操れる特殊能力らしいし、その能力を使って火山活動を活発にする事もできるかもしれない。超能力は未知数なのだ。
「わかったわ。行きましょ」
爺、一条、俺の順番で進んでいく。
伊豆鳥島は奥に行けば行くほど緑が少ない。
虫や昆虫などといった生物もほとんど見当たらない。
歩いていくと、山頂にたどり着いた。
「うぉ…」
山頂に着くと、一気に暑くなった。体感気温で40度を超えてそうだ。
暑すぎて思わず声を出してしまった俺に対して、一条と爺は額に汗をかいてはいるが何も言わない。
感心して二人を見ていたが、二人が暑さなどどうでもいいような険しい顔で何かを見ていたので、二人の視線の先を追って俺も見てみる。
するとそこには溢れんばかりの溶岩の脇に、1人の男がこちらに背を向けて立っていた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
まさか…あの姿は…
居ても立ってもいられなかった俺は、その男に向かって走り出していた。
「!?待ちなさい!」
後ろから一条の声が聞こえるが、今の俺はその男の姿を確認するまで止まれない。
ザッ!とその男の10mほど後ろで止まる。
溶岩に近いからか、とても暑い。今すぐここから離れたいぐらいだ。
だが、そうするわけにはいかない。
俺の足音に気付いたのか、男がゆっくりと後ろを向く。
その男は――――
「やぁ、遅かったね…零」
ショッピングモールで別れて以来会っていない、前島光だった。