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ある日超能力が突然使えました  作者: グリム
第一章 変化する日常
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第12話「葛藤」

山田と一緒に帰ろうかと思ったが、一条の事で熱く語られるのだろうと思い1人で帰宅する事にした。


「ただいま」


手早く靴を脱いで自室に行くために階段を上ろうとしたら、台所から母さんが顔を出した。


「お帰り~。お弁当出しといてねー」


ショッピングモールの一件は母さんも知っている。

 母さんはあの事件から今まで以上に心配をかけていると思う。


「どうしたの?そんな暗い顔して…あ、もしかして楓ちゃんと何かあった?」


母さんは意地の悪い笑いを浮かべてニヤニヤしている。


「そんなんじゃねぇよ!そんなんじゃないけど…」


母さんなら…光の事を相談できるかもしれない。

 光の件は俺1人では何もできない…何をすればいいのかもわからない…。


そんな俺の表情を読みとったのか、母さんが優しい声で話し掛けてきた。


「…台所で待ってるから、話す気になったら来なさい」


俺はその言葉に頷いて自室に入った。


バッグを机の上に置き、制服をハンガーにかけて手早く部屋着に着替える。


そのままベッドに寝転がった。頭の後ろで腕を組み、目を瞑りながら考える。


光の事は正直どうすればいいのかわからない。

 わからないからと言ってこのまま放置する、というのはよくない気がする…。


今の光の状態は最悪だ。

 間違った選択をすれば光はもう、俺達の知る光ではなくなってしまうだろう。


だけど俺は…どうすればいいのかわからない。掛ける言葉が見つからない。


母さんに相談した方がいいのか…。できれば母さんには相談したくない。

 だけど……このまま何もしないで見ているのは嫌だ。


どうすりゃいいんだよ…。


ベッドで一人唸っているとコンコンと扉がノックされた。

 家の中でノックする奴なんて1人しかいない。


「…どうぞ」


するとカチャリという音と共に扉が遠慮気味に開かれた。


「お兄ちゃん…シャー芯なくなっちゃったんだけど、シャー芯ない?」


控えめに扉を開けた人物は波多野皐月はたのさつき。俺の妹だ。

 俺より3つ下で、現在14歳だ。


俺が中学2年生の時は、「我が名は暗黒騎士、ダークソルジャー!近いうち暗黒がこの世を包み込んで滅ぼすだろう!」とか意味のわからない事を言っていたが、そうならなくてよかったと思う。お兄ちゃんは嬉しいぞ。


「あぁ、今出す」


俺はゆるりとした動きで机の引き出しからシャー芯ケースを取り出すと、妹に手渡した。


「お兄ちゃん、最近元気ないけど大丈夫なの?」


一瞬図星を突かれたので、たじろいでしまった。

 いかんいかん。妹にまで心配かけてどうする。


めったに心配しない妹が俺の事を心配してるって事は…今相当ひでぇ顔してるんだろうな。


俺は満面の笑みで妹に言った。


「大丈夫だ。それより今度、数学教えてくれ」


ちょっと顔が引きつっていたと思うが、妹は嬉しそうな顔して頷いた後、自分の部屋に戻った。



………さてと、ウジウジしてる場合じゃないな。


弁当箱を持ち、母さんが待っているであろう台所へ急いで行った。



ガチャリ、と台所の扉を開けると、母さんがちょうど食器洗いを終えてタオルで手を拭いているところだった。


母さんは俺の姿を見ると「あら、早かったのね」と言ってくる。


俺は弁当箱を無言で台所の机に置き、イスに座った。


母さんも椅子に座る。


しばらく沈黙が続いた後、俺は口を開いた。


「母さんは…悪いことをしたやつは全員死んだ方がいいと思う?」


いきなりの言葉に母さんは目を見開いて驚愕していた。


「難しい質問ねぇ………」


数秒ほど悩んだ後、口を開いた。


「母さんはそうは思わないわね。悪いことをしたからって何でも殺すのは、間違ってると思うわ」


今までにない凛とした顔で母さんは言った。

 母さんの言ったことに俺は安堵していた。自分と同じ考えで安心したのかもしれない。


「でも…その人の考えもわかるわ…」


俺が「え?」と言った後母さんは続けた。


「もし仮に、零と皐月を奪われたら………私はたぶん冷静ではいられないもの」




そうか………。

 俺も母さんと皐月を奪われたら…光のようになってしまうかもしれない。

頭の中が憎しみでいっぱいになるのかもしれない。


そんな事を考えている中、母さんは続けて言った。





「でもね零、人を殺したって幸せは来ないわ」




……あぁ……そうだよな。

 悪い奴をいくら殺したって幸せになんてなれない。


ありがとう母さん。


その言葉で決心がついたよ。


俺は光を絶望から救って見せる。





―――たとえ光がそれを望まなくとも、光には幸せになって欲しいから。





これは俺のエゴなのかもしれない。

 だからどうした。

あいつとの付き合いは1年とちょっとしかないけど、それでも俺にとっては大切な友達なんだ。

 これ以上友達を失うのは二度とごめんだ。


憑き物が落ちたように体が軽くなった。

 そんな俺を見て、母さんは微笑んだ。


「…それじゃ、晩御飯作るわね」




その日の晩、いつも食べているはずの料理が、いつも以上に美味しく感じられた。




翌日の放課後。


今日も光は来なかった。

 竜輝は今も警察に呼ばれていて、楓も現在休んでいる。相楽は相変わらず俺の事を避けているように感じる。


光の家にお邪魔しようと思ったが、俺は光の家を知らなかった。

 担任の先生なら知ってるかなと思い聞いてみたが、知らなかった。


夜遅くまで学校中で聞いて回ったが、誰一人光の家を知っている者はいなかった。


しょうがないので今日は家に帰る事にする。


さすがに8時ぐらいだと真っ暗だ。しかも山道なので、幽霊が出るんじゃないかと思う。

 見たことないんだけどね。


突然右側の草がガサガサッと音を出した。


「うぉっ!」


思わずオーバーリアクションしてしまったが、決してビビっているわけではない。


音がなった草からはウサギが出てきた。ここ天神市では野ウサギは珍しくない。


「なんだウサギか…―――ッ!」


安心しきった瞬間、後ろから急に殺意が迫ってきた。

 右に飛ぶことでそれを回避する。

テロリスト達や少年に襲われた経験があって鍛えられたのかもしれない。


さっきまで俺の立っていた場所をズバババッ!と風が切り裂いて後ろにある木をなぎ倒していく。


これは…まさか、かまいたち!?


聞いたことはあるが実際には初めて見た。


かまいたち―――

 それは「空気中に偶発的に発生する真空が刃のように鋭利に切り裂かれる現象」とは聞いたことはあるが、それはあくまで空想で、科学的根拠が無い。

 言わばファンタジー。


だが俺が今目の間で見た現象は…かまいたち以外に例えようがない。


驚いているのもつかの間、かまいたちの発生した方向から誰かが俺めがけて突っ込んでくる!


「くっ!」


暗闇で相手を確認する暇がないが、緊急事態なので超能力を使う。


身近にあった木を超能力で引き抜き、超能力で相手に向けぶん投げる。


並の人間じゃ、避けるのだけで余裕がないはずだ。そこをダッシュで詰めて気絶させる。


そう思い足に力を込めたが、相手は避けずに


真空刃かまいたち!」


と、叫び、投げつけた木を切り裂いた。声的に女だろう。


チッ!


内心で舌打ちしつつも、かまいたちを右に飛んで避ける。


そこへ女が殺気を見せ突っ込んでくる。


俺は真横へふっとぶように念じた。


不意を突かれたのかあっさりとふっとび、木にぶつかる。


俺は暗闇に慣れた目を凝らして女が誰なのか見る。


女はよろよろ立ち上がり、俺を睨みつけてくる。


その顔は――――――――











一条時雨。俺のクラスメイトだった。

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