第10話「襲撃編 後編」
テロリストがショッピングモールを占拠してから30分が経過した。
現在、俺はどうやってこの状況を切り抜けるか考えている最中である。
30分ほど案を考えているが―――――思いつかない。
思いついてはいるが、愚直な案ばかりだ。さすがに30人を相手に戦うのは危険だ。命を落とす。
俺達5人は超能力者なのでこんな腕の縄など簡単に解けるが…問題はそこからだ。
現在考えている案は2つ。
30人を相手にするのは無理だ。
そこで俺達5人が超能力を使ってテロリストの包囲網を突破し、外に助けを求める。
この方法を使うとテロリストが抵抗、もしくは逆上し、助けを呼びに行っている間、人質を皆殺しにする可能性がある。
俺達5人は助かり、テロリストも無事に捕まるだろう。
だが、人が大量に死ぬ可能性がある。
そんなやり方で助かったとしても、竜輝が許さないだろう。後で俺が殺される。さすがに殺される事はないと思うが…竜輝とはできれば仲違いしたくない。
2つ目はテロリストの無力化。簡単に言うと戦う。
この方法は、1つ目よりも死人が多く出る確率は上がる。
相楽、光、楓は戦える状態ではなさそうなので、俺と竜輝がテロリストと戦う。
しかしすぐに片付くとも思えない。長引けば人質を盾に取られる可能性がある。
人質の生死を無視して戦えば勝てるかもしれない。
が、死人が出る。
テロリストと戦うのだ。少なくとも何人かは人質を盾にし、降伏するように言うだろう。
それを無視するとなると…………この方法もダメだ。
目標は死人0でこの状況を乗り切る事。
だがそう簡単にそんな案は出てこない。
「う~~~~~む」
30分ほどずっと唸りっぱなしだ。
竜輝の方をちらっと見ると、静かに拳を握りしめている。
30分前の殺気は今はもうないが、下唇を噛んで悔しそうな顔をしている。
テロリストを倒す力はあるのに、助けることができない。
竜輝にとってはよほど悔しいのだろう。
……今思うと、こんな大勢の前で超能力を使うのはちょっとな…。
だが今は、出し惜しみしてる場合ではない。そん時になったら上手く誤魔化せばいい。
それにしても…さっきからテロリスト共の行動がわからないな。
現在エントランスホールにいるテロリストは12人。その内11人は人質の顔を1人1人見て、1人は椅子にふんぞり返って座っている。
誰1人電話をしていないところを見ると、金目当てではないようだ。人捜しか?
俺の番が近づいてくる。
テロリストは一瞬見ただけですぐ別の人質を見る。
まぁこの人数だからしょうがないのだろう。
俺の番だ。
どのぐらい見られるのだろうと思っていたが、俺に一瞥しただけですぐに別の人質を見た。
どうやら俺ではないようだ。
1時間ほど人探しをしていたテロリストがボスらしき人物に報告しに言った。
「ダメですぜぇ。見つかりやせん。」
「アホか!もっとよく見ろ!赤い長ズボンで、でかい黄色のスニーカー。ネズミ顔で鼻先は黒くペイントされてんだ!!!」
……………………………………それ完全にミッ〇ーマウスな!!
探すならショッピングモールじゃなくてディ〇ニーランドではなかろうか。
見つかるわけが――――――――――
「兄貴!見つかりやした!!」
うそーん。
確かにそいつは赤の長ズボンに黄色のスニーカーを履いているが…ネズミ顔じゃないし鼻先も黒くペイントされてない。
「おし!よくやった!!お前…特徴とちょっと違うが……まぁあってるだろ。」
雑だな!それでいいのか、ボスよ。
捕えられた男は違う違うと言っていたが、ボスがうるせえと言って頭を銃で殴りつけて気絶させてしまった。
「おし…そろそろ外に嗅ぎ付けられてるだろうし、早いとこずらかるか」
「ボス。人質はどうしやす?」
ボスは数秒間考える素振りを見せた後、ニヤリとした笑みを浮かべて言った。
「殺せ」
「了解」
部下らしき男はボスと同じニヤリとした笑みを浮かべ、手近な人質に銃を向けた。
数秒後には鉛弾が脳天を貫いているだろう。
助けたい………が、どうしても超能力を使ってしまう事に躊躇っている。
もし周りにばれたら…今はそれどころじゃないのはわかっている。だがどうしても躊躇ってしまう。
助けるか、見捨てるべきか…どうすればいい!
こうして考えてる間にも男はトリガーを引こうとしている。
どうする…どうすればこの状況を覆せる!考えろ!考えろ!考えろ!!!!!
考えてる間に男の手がトリガーを引こうとしていた。
もうダメだ――――――――――俺が諦めかけたその時。
ポキッとした音が聞こえた後、銃を向けていた男の間抜けな声が聞こえた。
「あ?―――――――――ァァアアア!!!!」
一瞬何が起きたかわからなかったが、男の手首が反対方向にねじ曲がっていた。みんなが一瞬唖然としている中、誰れかがその男の懐に一瞬で飛び込み腹パンチを繰り出した。
「うぐ!」
と、言った後、力なく地面に倒れた。
テロリストを倒した相手は誰かすぐにわかった。
―――竜輝である。
腕の縄は解いてあった。おそらく我慢できなくなったんだろう。
手首を折って銃を落とさせ、一瞬で懐に入り込み気絶させる。
素人のレベルではないと思った。
竜輝は気絶させた後すぐさまボスに向かって拳を振り上げる。
が、さすがはプロ、すでに竜輝に銃を向けている。
このままではコンマ数秒で竜輝が負ける。
そう思った俺は覚悟を決めた。
パァン!とした銃声の後ガッ!とした殴る音が聞こえ、ボスは力なく床に倒れた。
俺は竜輝に向かって飛んでくる弾丸を、超能力で弾いたのである。俺も手の縄を解き戦闘態勢に入った。
すぐさま竜輝はぐるんッと回転して4人で固まってるテロリスト共に狙いを定める。
だが距離が10mほどありすぐには追い付けない。
テロリスト10人が一斉に竜輝に向かって発砲する!
「うぉぉぉおおおおおお!!!!」
俺は裂ぱくの気合と共に10発の弾丸をすべて弾いた。
弾丸を弾くと同時に竜輝が敵の懐に潜り込む。
「…はぁ!」
華麗な正拳突きによって瞬時に4人が無力化された。
あと6人…!
竜輝が攻撃だけに専念して、俺が弾丸を弾く。
このフォーメンションでいける!
たまに俺の方に弾丸が飛んでくるが、それも弾き飛ばしてしまえば問題ない。
しかしそんな状態は長くは続かなかった。
人質たちが悲鳴を上げて逃げ始めたのである。
出入り口は全部封鎖されてるのだが、この光景をみて冷静にいられなくなったんだろう。
これじゃあ人質を守るのは無理だ。
「光!相楽と楓を頼む!」
せめて光と相楽と楓だけは守りたいが、俺は竜輝を守るだけで限界だ。
俺と竜輝に加勢しようとしていた光に指示を飛ばす。
光はいつになく真剣な顔で頷くと自分の背中に相楽と楓を隠すようにして守った。
「楓!相楽!余裕があったら人質に弾丸が当たらないよう超能力を使ってくれ!」
周囲は銃声で俺の声はろくに聞こえなかったはずだが、相楽は頷いた。楓は青い顔をし、目の焦点があってない。心配だが光が守っているので命は大丈夫だろう。
よし、これでいける…!
と、思ったが、俺は1つ大事な事を忘れていた。
エントランスホールの銃声を聞きつけたテロリスト達が、増援に来ていたのである。
奴らは逃げ惑う人質を発砲してエントランスホールに来ていたが、エントランスホールに着くと暴れている竜輝にぎょっとした顔をした後、銃口を向けた。
直後、パァン!と言う銃声とともに竜輝に向かって飛んでくる弾丸を弾いたが、それと同時にサバイバルナイフを持った男3人が竜輝に襲いかかった。
「くっ…!」
襲い掛かってくる男達に竜輝はすぐさま反応できない。
2人同時に竜輝に襲いかかってきたテロリストを、俺は超能力で真横にふっとばし、少し遅れて突っ込んできた1人のテロリストが、ふっとんだ仲間に目もくれない凄い勢いで竜輝に襲い掛かる。
超能力より先に体が動き、俺はタックルをかまして竜輝に突っ込んできたテロリストをふっとばした。
「大丈夫か!竜輝!!」
「!?あぁ―――助かったよ」
俺と竜輝は互いに背中合わせになって、テロリストの攻撃を警戒する。
だがテロリスト達は竜輝の超人的な強さにびびっているのか、発砲はしてこない。
今まで突っ立って竜輝に向かって飛んでくる弾丸を処理していくだけだったが、これでめでたく俺も銃の的だ。
数発なら戦いながらでも処理できるだろうが、何十発、何百発となってきたらたぶん無理だ。
これは…状況から見たら不利だ。
26対2。
絶体絶命―――そんな言葉が一瞬頭をよぎる。
だが俺達は超能力者。絶望的な状況からでも覆せる可能性を秘めている。
が、相手は殺しのプロ。
超能力が使えるからといって油断できる相手じゃない。現にこうして追い詰められている。
殺さなければ殺される――――――――。
これは、本格的に覚悟を決めるときがきたようだ。
「竜輝…覚悟はできてるか?」
「ッ――――」
竜輝は下唇を噛んで何やら少し考え込んだ後
「――――――わかった」
覚悟を決めた。
竜輝も人を殺すのは本意じゃないんだろう。
だがこれはもう殺す気で行かないと逆にこっちがやられる。
「じゃあ3数えたら行くぞ――――――――――3…2…1…GO!」
俺の合図と同時に竜輝がテロリスト達に向かってダッシュする。
同時にテロリストたちも俺達が動き出すのを待ってましたと言わんばかりに発砲してくる。
俺と竜輝は驚異的な集中力で全ての弾丸を弾き、あるいは跳ね返した。
俺は力任せの殴りで、竜輝は今まで習ってきた体術の動きで1人、2人、3人とテロリストを倒していく。
ある者は内臓が潰れたのか口から血を吐いて倒れ、ある者は恐怖でいっぱいの顔をして銃をめちゃくちゃに乱射していた。
それでも俺達は構わず突っ込んで殴りかかった。
テロリストの立っている人数がちょうど1桁になったところだろうか。
銃弾が右頬を掠った。
「ッ!」
軽く舌打ちをしながら構わず突撃する。
9…7…5…3。
俺と竜輝は最後の一人を仕留めるために周囲を探す。
―――いた。30mほど先に、何かを持ってこちらを睨みつけている。
それでも関係ないので、確実に仕留めるために俺と竜輝はダッシュした。
「動くな!!」
そんな事を言われて止まる俺ではないのだが、手に握られているものを理解して止まざるをえない。
竜輝も理解したのか、静止した。
握られているのは、爆弾のスイッチだった。
男は着ていたコートを広げて体に巻きつけたダイナマイトを見せてくる。
「動くな!動いたら…このショッピングモールごと爆破してやる!!!」
男の言ってる事はほんとだろう。
だが、体に巻きつけられたダイナマイトだけでは、この馬鹿デカいショッピングモールを壊すのは少々難しい気がする。
とりあえずかまをかける事にした。
「…嘘をつくなら、もっとましな言い訳を考えるんだな。」
「嘘じゃない!このショッピングモールには爆弾がいくつか設置されている、それに合わせ俺のダイナマイト。さすがにこの大きさでも粉々だ!!」
なるほど…ほかにも爆弾があるならジ・エンドだな。
一瞬超能力で手首をへし折ってやろうかと考えたが、どんな些細なことで爆発するかわからない。リモコンがあれだけとは限らないし。
「わかった。わかったからリモコンを離してくれ。」
「あ、頭の後ろで手を組んで仰向けになれ!!じゃないと、は、離さないぞ!」
俺は素直に頭の後ろに手を組む。
竜輝はしぶしぶとした感じで頭の後ろで腕を組んだ。
「なぁ。少し話をしないか。」
「うるさい!いいから黙って仰向けになれ!!」
対話をする気はないようだ。できれば平和的に解決したいんだが、下手に刺激する必要もない。
今は様子見に徹しよう。
「わか―――――――」
俺がわかったと言い終える前に、男の足元からごうっと火柱が出てきて、リモコンごと男を飲み込んだ。
呆気にとられてる間、火柱がメラメラと燃えていて、数秒ほどしたら火柱が収まった。
だが、そこにリモコンを持った男はいなかった。
「なッ!―――」
混乱する頭で考える。
骨まで残らないようにするには最低でも1500度は必要なはずだ。
しかし数秒で骨まで残らないようにするには1500度では足りない。
いったいあの火柱はどれくらいの熱量なのか…おそらく何万度だろう。考えただけでもゾッとする。
「ひか…り…?」
竜輝が唖然とした表情で光の方を見ているので、どうしたのかと俺も見てみる。
するとさっき火柱が出たところに右手を伸ばして息を荒くしている光の姿があった。
まさか…光がやったのか?
おそるおそる俺は光に近づいていき、質問をする。
「光……さっきの火柱、お前がやったのか?」
すると光は肩で息をして辛そうにしながら
「はぁ…はぁ…そうだよ…。」
自分がやったと認めた。
俺はどうして光がこんなすごい技ができるのか考えてみたが、結論は割と早く出た。
"特殊能力"
これが光の特殊能力なんだろうと、自然と納得する事ができた。
「零…まだ、終わってないよ」
はて、何がだろうか。
テロリストは無力化した。あとは…あ、そうか。人質の解放か。
…ん?でも無理やり出入り口を壊すより、警察が来るのを待つべきではないか。
そんな俺の考えを無視するように、光が歩きだした。
何をするのだろうか。
光は1人のテロリストの前で立ち止まり、憎しみのこもった目で睨んでいる。
光の睨んでいる相手は、ボスだった。
ボスはワンパンで気絶したため、まだ生きている。
たぶんまだテロリストは、光が火柱で燃やした奴以外全員生きているだろう。
だが内臓が潰れている者もけっこういるはずなので、急いで治療しないと死ぬだろう。
うん。ここは扉をこじ開けて助けを呼ぶべきだ。
「光。ここは急いで出入り口を―――――」
「零、少し黙って。」
ピシャリ。と今まで聞いたことないような低い声が出てきたので、俺は思わず黙ってしまった。
竜輝にお願いして楓と相楽をエントランスホールから遠ざけてもらった。
楓と相楽が見えなくなったのを確認する前に、光がボスの髪を引っ張り、頬を一回引っぱたく。
するとボスがウッという声を上げて意識を取り戻した。
「………」
光は黙ってボスを見ていたが、やがてボスが目だけ動かし周囲の状況を確認すると、恐怖で顔を歪めた。
「ち、違うんだ…俺はやりたくてやったわけじゃない…命令されたんだ!」
ボスは急に聞いてもいない事を言い出したが、ちょうどいい。聞いてやろう。
「ほう…誰に命令されたんだ?」
俺はなるべく優しい顔で聞いたつもりだが、ボスの顔は恐怖でいっぱいだった。
「それは知らねぇんだ!声は知ってるが、名前は本名じゃねぇ!破格の報酬で、依頼主の事は詮索すんなって条件だったんだ!本当だ!俺は何も知らねぇ!」
なるほど…要は破格の報酬を餌に依頼主に依頼されただけか…。
しかしボスのいう事が事実だとは、限らない。
俺はボスを半眼の目で睨みつけた。
「ほ、ほんとうだ…俺は何も知らねェ!なぁ!助けてくれ!頼む!俺には家族がいるんだ!家族のために仕方なくこんな仕事してんだ!好きでしてるんじゃねぇんだよ!!!」
男が命乞いをしてくるが、正直嘘にしか聞こえない。
まぁでも元から殺す気はなかったし、もう一回気絶させて警察に引き渡すだけだ。
俺は覚悟ができてるとか言いつつ、結局できてなかったんだな。
すると俺がボスに声を掛ける前に、今まで黙っていた光が冷徹な声で言った。
「テロリストが…命乞いですか…。今までそうやって命乞いをしてきた人達を容赦なく殺してきたあなたが…!命が欲しい?…笑わせないでください!」
「そ、それは…。悪かったと思ってるよ!なぁ…頼むよ、助けてくれ!」
男は光の前で土下座をしたが、光は相変わらず冷めた目でボスを見つめているだけだ。
俺は元々ボスを殺す気じゃないので、そろそろ止めさせようと光に声を掛けた。
「光、コイツもそう言ってる事だし、命までは―――――」
俺の言葉は言い終える事なかった。
「紅炎柱」
光がそう言った直後、火柱がボスを飲み込んだ。
「ッ!―――」
俺は熱さで思わず後ろに後ずさってしまったが、光は相変わらず冷めた目をしていた。
数秒間火柱が立っていたが、やがて収まると、そこにはもう何も残っていなかった。
「おい…光!何やってんだよ!!!」
俺は光の胸ぐらに掴みかかり、自分でも抑えられない感情で糾弾する。
「何って…殺しただけですが。」
『殺しただけ』
光は今殺しただけと言ったのだ。
まるで朝ごはん食べてきましたと言っているような軽い口調で。
俺はしばらく驚きで動けなかった。
しばらく動けない俺を見ると光は、俺の腕を解き、テロリスト全員の位置を確認してから口を開いた。
「紅炎柱―――」
するとごうっという音と同時に、火柱がテロリスト全員を飲み込み、やがてテロリストは全員骨も残らない状態になった―――。