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1.受ける者。攻める者。

 

 アンティーロック城を落とした次の日。日の出と共に城を後にした。


 検討の結果、アンティー山地をほぼ直線に抜ける山道を行く事にした。街道は、アンティー山地を迂回する遠回りの道となり、ランバルトまで一月を要するのだ。


 先頭はライトニングボルトに乗ったゴドンとデオナ。その後ろを黒皇に乗ったジム。さらに後ろはデニスを乗せて狼並みにニヤケ面のガル。殿(しんがり)は朴念仁のレムとなる。


 サリアは、魔王に呼び出されたまま、今だ帰還せずだ。


「ワシはもう少しここに残るよ」

 悪童のようにある種純粋な笑顔で、ダレイオスは一行を見送った。

 何を考えているのか解らないが、どうせ悪どい事だろう。



 ランバルト公国第三王女レオナの心境は複雑だった。


 囚われの身を、愛しきゴットフリートが救ってくれた。この功績により、ゴットフリートと結ばれることも可能となって嬉しい限り。と思ったら、忌まわしいリデェリアルの小娘(同い年)まで付いてきた。


 しかし、物は考え様。災害魔獣2体が味方となった。自分が言いくるめた。


 見たところ、ゴルバリオンの新兵器・魔弾(バースト・ジャベリン)に対抗できるのは、巨神レムのみ。

 フェンリル狼も防御面さえ気をつければ、充分対抗できると思う。スピードだけを抽出すれば、フェンリル狼だけでランバルトへ向かうという策が有効だ。


 だが、なにか……こう……信用というか、信頼というか、この狼にはそんなのが欠けているような?

 そうよ! 巨神レムとドラゴンを残していくと、だれが2体の災害級をコントロールするのよ?


 それに……。


 この巨神は魔獣と一線を画している。


 知性を感じる。


 デオナは、リデェリアルの小娘(同い年)が、フェンリル狼とドラゴンを操れる事に、巨神が何らか関連していると推理している。


 もう一つは、ゴルバリオンのランバルト侵攻予定日が6日後であること。

 ここよりランバルトまでは15日の距離がある。


 急いで、どれほど日程を短縮できるだろうか?

 2日? 3日?

 魔獣を引き連れ、到着したとしても既に事遅しである。


「あの魔弾の事をランバルトは知らない。騎士の戦法が役立たないことをダフネ爺やは知らない」


 それが2番目に気が病むところであった。

 目下、最も気に病むところは……、


「リリス姫リリス姫リリス姫!」

「一回言えばさすがに解ります。いかが致しまして? ゴットフリート様! 脱がないで脱がないで脱がないで!」

 白い顔から一気に赤い顔になるリリスことデオナ姫。


「ううううう、後ろのデニスさんが、あの、伝説のリデェリアルのレジェンド・ハイマスター。魔獣使い少女。略して魔女っ子」

 それは略したとは言えない。


「青い狼が、昔話で聞く、神を狩る狼フェリス・ルプル。ゴーレムが、魔神を退けた巨神レム。どっか行っちゃったけど、紫煙の罠スイート・アリッサム。うううう……私は伝説の勇者級をたった銀貨10枚で雇ったというのか?」

 ゴドンのつぶやきが止まらない。


「しかし物は考えようです、ゴッドフリート様」

 思い詰めるゴドンに対し、デオナが優しい言葉をかける。


「世界最高位の冒険者を銀貨10枚で雇えたのは、運命の女神がが我らに微笑んでくれたのです。そして、その運命を引き寄せたのがゴッドフリー様なのです。いわば、これはゴッドフリート様の真の実力なのです!」

 言葉1つで子供は変わる。とは良く言ったもの。


「そ、そうですか? そう言えばそうだ。これは事実だ! 伝説の魔獣使いが我が配下となる。これぞまさに姫を思う私の情熱が呼び寄せたもの!」

「い、いやですわ、ゴッドフリート様!」


 勝手にやってろ、であった。






 やあ、レム君だよ!


 俺は静かな決意と共に、旅出る。

 ……にしても、日程が気になる。


 ゴルバリオンがランバルトを襲撃する予定日まで、あと6日。

 そこまで15日掛かるという。

 差し引き9日のマイナス。


 こういう場合はガルに相談だ。

「ねえ先輩」

「何だねレム君?」

 妙にご機嫌なガルである。


「少数が動くだけなら6日後に奇襲という形でランバルトを直撃でしょうけど……動くのは万単位の軍隊です。ランバルトだって事前にその動きを察知する機能を持っているでしょう」

「何が言いてぇ?」

 ガルは、片方の眉に相当する体毛をヒョイと上げた。なかなか器用である。


「つまり、都のずっと先で戦端が開かれれば、戦いが長引きます。9日の差なんてあっという間に過ぎてしまいますよね?」

 戦いには準備が必要だ。それは大変勢力を消耗すると聞く。


「残念だが、戦いに絶対はねぇ。確かに方程式はあるが、……人ってのは常に入力を間違えるものさ」

 ガルが言う方程式ってのを是非、御教授願いたいものである。


「レム君、焦るな。迂回になるが、街道を走ると3つの国を抜けなきゃならねぇ。嬢ちゃんのため、要らぬトラブルを引き起こしたかーねーわな? アンティー山地はリデェリアルに似た山間部。オイラ達の高速移動術は平地でこそ、その真価が発揮される。ゆえにここじゃ使用不可能。……もっとも手がない事はねぇが、嬢ちゃん達がいる故、そいつぁー奥の手だ。チマチマ行こうぜ!」


 奥の手って何だ?


「ふふふ、魔族のな……ふふふ、聞きたい?」

「いやいいッス!」


 とんでもない設定みたいで、嫌な予感バリバリするからお断りした。

 ガルは、そんな俺の態度にクスクス笑ってやがる。これ絶対聞かない方が良いよね?


「おっ! 出発みてぇだぜ!」


 黒皇先生が吠え……嘶くと、ライトニングボルト号がシャキッとした。

 デニス嬢がガルの背に乗る。

 道案内を兼ねて、本パーティーのリーダーを自称するゴドンが先頭だ。

 行きと同じく俺が殿(しんがり)


 なんとか9日の差を縮められないだろうか?

 これといった秘策が思いつかないまま、俺たちはランバルトへ向け旅立った。




「ダレイオス様よぉ! 着きましたでよぉ!」

 人気のないアンティーロック城跡で、ダレイオスの名を呼ぶ者がいた。


 声の主は、無精髭に顔を埋めた小汚い小男だった。

 ロバに曳かせた荷車を3台率いて、ここまでやって来たらしい。


「おお、ここじゃここじゃ! はるばるご苦労じゃったな! 賊には襲われなかったか?」

 ダレイオスが瓦礫の隅から走ってきた。


「馬鹿言うでねですよぉ。空の荷馬車を襲う野盗なんぞおらんでよぉ。それより、荷物はどこかのう? おや!?」

 小男はあたりを見渡して疑問の声を出した。


 城が瓦礫と化しているのだから不思議に思うなと言う方がどうかしている。


「この有様じゃ。そなたが驚くのも無理はない」

「お付きの騎士様はどうしたんかのぉ?」

「そっちかい!」

 ダレイオスは、この男の落ち着き様をみて、大人物に思えてきた。


「人手がおらんと、荷物乗っけるのに一苦労するでよぉ」

「そっちかい!」

 大きいのか小さいのか解らなくなってきた。


「途中でゴルバリオンの連中に襲われた。そこで……助かったのは儂の厚い信心故じゃ」

 ダレイオスは、胸を張ったうえで威張った。


「さすがですのぉ。聖教会の神様は立派ですのぉ。……さて、銀はどこですかいのぉ?」

 明日の昼には、ゴルバリオンの手の者がここへやって来るでのぉ。いそがんとのぉ」

「相変わらずお前の情報収集能力は……。どこで仕入れた?」

「今はゴルバリオンで儲けさせてもらっておりますでのぉ。戦い様々(さまさま)ですでのぉ」


 さすがのダレイオスも、この男にはあきれてしまっていた。


「ならば急いで手伝え。儂は見ての通り片手が使えん。熱も出ておる。場所は見つけてあるからの。酒代をうんとはずむから、頑張ってくれ!」


 怪我により熱が出ているのは本当だ。平気な顔をしているが、立っているのもやっとである。


「へぇ。よろこんで」


 ダレイオスは、荷車を目的地へと誘導した。


「ダレイオス様もやるでのぉ。鋳つぶすためゴルバリオンが集めたランバルト銀貨をガメようって、なかなか素人では考えつかないものでよぉ」


「まあな。連中は知らなかった様じゃが、この城は造幣所。溜め込んだ銀貨は、予想通り荷車3杯分じゃ。これで聖教会も一息付けるというもの。つーかお前、荷車引きやるより、儂ら専属の密偵にならんか?」


「いやー、密偵はこの仕事のための下敷きですからのぉ。頭使うより体使う方が楽だでよぉ。なんどもお誘いしていただいて申し訳ねぇけどよぉ。お断りしたいでよぉ」

 人間、取得スキルと才能は別物であるという良い見本である。


「しかし、銀貨を満載した帰りが心配じゃのう。護衛がおらぬと野盗対策が取れぬ」

 ぼやくダレイオスに、小男はキョトンとした顔をしている。

「ダレイオス様よぉ。悪名高きゴルバリオンの傭兵隊がこっちにむかっとるで。野盗なんざ、真っ先に逃げとるでよぉ。何を心配なさっておいでかのぉ?」


 やはり、こやつは職業の選択を間違っておる。

 ダレイオスは、真剣に勧誘の言葉を考え始めたのであった。



 

 場所は変わって……。


 ここはとある山中。目立たない色合いの天幕がそこかしこに張られている。

 そのうちの1つ。


「リデェリアルの魔獣使いが、ランバルト公国についた模様です。目下、ランバルトへ向け、行軍中。予想通り山間部を縫うコースです」

 猟師に扮した手の者から、その男は報告を聞いていた。


「ゴルバリオンに借りはないが、昔年の恨み、ここで晴らさせてもらおう」

 やつれているが、その冷酷そうな目に力を宿している。

 彼の名はビトール。スリーク王国、黒衣の将軍ベルドの片腕だった男。


「同士諸君!」

 天幕に集まった男達が、姿勢を正す。


「亡きベルド様の仇をここで討つ。敵はあのリデェリアルの魔獣使い。一筋縄ではいかぬ。されど我らベルド閣下に受けた恩は、その程度で萎むほど少なくない!」


 男達の中には、目を水っぽくさせる者もいた。

 ベルドと共にフェンリル狼と戦った生き残りもいた。


「叶わずとも、一矢報い、共にベルド閣下の元へ行こうではないか!」

「オオーッ!」

 拳を突き上げ、鬨の声を上げる。


「ただいまをもって作戦を発動する。全員、戦闘準備!」

 ビトールに敬意を表する者はいない。彼はただのリーダーだ。彼らの主はベルドただ一人なのだから。


 リデェリアルの魔獣使いが進む進路に向け、武装した戦士達が走る。

 その数、ざっと300人。


 はたして、彼らは、無敵の魔獣相手にいかな戦いを挑むつもりなのであろうか?


「進軍を徹底的に細かく邪魔し、ランバルトとゴルバリオンの戦いに、確実に間に合わせなくしてやる!」

 しばらく見ぬ間に一回り小さくなってしまったビトールであった。


「せいぜい後の祭りを楽しむが良い! フハハハハッ!」


 小物道をまっしぐらに進む男の笑い声が、山の間に間に轟き渡るのであった。



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