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8.アンティーロック城攻防戦-3「入城」




 

 やあ、レム君だよ!


 日の光は良いね!

 ダークブルームーンの拘束を振り切って水面に飛び出す主人公みたいな勢いで、地表に飛び出したんだ。


 うまい具合に城の側へ出られた。足下では兵隊達が右往左往している所。

 ――てめぇブッ殺すぞこのやろう!


 左頭部の銃口が火を噴いた。機械的な連続音を立て、火というか、直径5㎝の岩石の砲弾が高速度で連続発射される。

 木気と火気の力で打ち出しただけだけどね。60発しか撃ち出せないけどね。


 新兵器、名付けて「岩バルカン」

 音と着弾地点のハデさだけが売りの、開発中対人兵器である。

 銃身が短いから着弾点が定まらない事夥しい。

 ちなみに、時間さえ空ければ足元の土や岩組成から無限に汲み出せるのである。幻獣ベヒモスの能力をインスパイアしてみました。


 おっと、こいつらを挽肉にする前に、やらなきゃいけない事がある!

 さあ青い犬っころめ、引導を渡してやる。どこへ行った! とばかりにカルスト地帯を見渡してみると……。


 大ッ惨ッ事ッ!


 地形が変わっていたぁッ!

 大穴っ! 大規模陥没!


 心当たり有りまくり。


 デニス嬢達は? ……あ、無事だった。ちょうど今、こっち側に渡りきったところだ。

 ライトニングボルトは……いま横倒しに倒れた込んだ様だが、みんな無事だ!


 よかった。


 よく考えりゃ、上にはデニス嬢ちゃんがいたんだ。

 俺の迂闊な行動に、出もしない汗が出てきそうだ。 

 しかし、一度振り上げた拳をどうにかしたいのも人情。どこに下ろしてやろうか? と考えていた時だった。


 いきなり爆発の中心部に立たされた。


 地面ごと捲れ上がって、尻餅をついた。煙がもうもうと立ち上がって、何が何だかさっぱりだ。

 素早く立ち上がったんだが、いったい何事か?


 ……あ!


 これが、ガルが言ってた面制圧兵器か?!


 そうか、あれを使われたんじゃしょうがない。元々脆かったカルスト地帯だ。ちょっとの衝撃で地殻変動を起こしたに違いない! 恐ろしいぜ地殻変動!


 お、俺は、崩れない様に、さ、細心の注意を払ってたしな!


 そうと決まれば、悪いのはゴルバリオン傭兵団!

 まずはアンティーロックとかいう城だ! この悪に染まった城があるから世の人々に不幸が降りかかるんだ!


 俺は左腕を変形させた。

 そして空に向けて構える。


「ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾、発射っ!」


 小気味よい発射音を立て、必殺の弾丸が空へ飛び出す。


 曲線を描いて飛行する弾丸が城の中央上空にさしかかった頃合いを見て、リモートで起爆させた。


 小さな太陽が出現。威圧と名付けても良い爆風が城を包み込む。


 しっかり覚えておけ、ゴルバリオンの傭兵共よ!

 これを面制圧兵器と呼ぶんだ!

 うはははは……いけね! デニス嬢ちゃんが!






『レム君、なんて事しやがる! 大空洞を支える柱を全部へし折りやがった上にストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾を使いやがったな!』


 ガルは牙を剥いた。

 デニス達を秘密の結界で守るのは楽勝だったが、ここで使うとは……予想選択値の一つだったが……想定範囲内……もとい、想定したくない選択肢だった。


『……いやまて、あいつ大空洞に落ちた事でキレてやがるんじゃねぇか? するってぇと怒りの矛先はオイラか? やべぇ!』


 ガルは、すぐさま冷静さを装った。

『ここは一つ、なんとか攻撃の切っ先をゴルバリオンに向けねえと、次の的はオイラだ!』

 ガルの頭は高速回転型へと即時切り替わった。


『……よし、この手で行くか。レム君ーん! 大丈夫だった-? 心配したんだヨー!』

 尻尾をいつもよりパタパタさせながら、走り寄ったのである。






「おお、無事だったかレム君、心配したんだぞ!」

 尻尾を振りながらガルが駆けてきた。


 てめぇのせいで死ぬ思いをしたんだぞ! とは言えないので、そこは言葉をぐっと飲み込んだ。

 怒りにまかせて、カルスト地帯を崩壊させたのは自分です。とは口が裂けても言えない。


 大人だしね。


「ええ、なんとか。脱出には最小限の破壊に留めたんですが、ここらは予想以上に浸食が進んで脆くなってたみたいですね? それを知らせようと急いで上がってきたんですけど、一歩足りずゴルバリオンの攻撃一つで崩落してしまったようです」


「え? あ? そうか! そうだったのか! それは気づかなかった!」

 ちょい説明臭かったが、ガルは俺のヨタ話を信用した模様。


 少々棒読みっぽい気がするが、理解し切れていないからだろう。この辺は後で説明すれば、所詮は犬。なんとか誤魔化せると思う。


「命からがら脱出した所に、新兵器ブチ込まれましてね、もうワヤですわ! 体の中で良心回路がショートしょったらしく、意識せんと、ゆーたら事故でストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾を撃ってしまいましたわ! どんならんわ!」


「そうか、そりゃしかたねぇな。いや、オイラの方もそう来るんじゃねぇかなーと思ってたんで、想定通りの対処が取れた。デニス嬢ちゃん達は完璧に安全だったぜ!」


 意外と話が通用しそうだ。よしもう一押ししとくか。

「さすが先輩、俺たちのコンビネーションは最高ですね!」


「たりめーよ! ガルレムコンビ……いやレム・ガルコンビったー世界に名を轟かせてるからよ! はっはっはっ1」

 なんか最後の感嘆符が1みたいに聞こえるが気のせいだろう。


「そうっすね、別に他意あってストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾を使ったんじゃないんですからね。敵に反撃されて、そこで事故ったんですからね。はっはっはっ1」


「だよなー。ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾は悪意あって使えるような代物じゃねぇし、はっはっはっ1」


 ……よし! この辺で手打ちにしよう!


 なにせ大人だからね。

 



「姫ーっ! リリス姫ー!」 

 壊れた城門をくぐり抜け、ゴドンが城内を走る。


 レムが放った「神の左腕」の威力は凄まじい。

 結果、地上建造物が全て崩壊。廃墟になってしまった。

 あれで前より威力が小さかったと言うから驚きだ。


「ゴドンさん、あんまり先走らないで! まだ敵がいるかもしれないのよ!」

 デニスが後を追う。


「ゴドンさん、敵を締め上げてお姫様の居場所を聞いた方が早いって!」

 デニスが走ればジムも走る。


 城壁の外でなにやら話し込んでる風のレムとガルを放って、リデェリアル組が城内へと入っていった。


 もともとアンティーロック城に用のあったダレイオスも、彼なりの目的地へと走っていった。


「姫ー! 姫……グフウ!」

 いきなりゴドンが倒れた。何が彼の身に起こったのか! 敵か?


「キャー! ゴドンさん!」

 叫ぶデニス。


「落ち着いて、姉ちゃん!」   

 ジムがデニスを諫める。

「ゴドンさんの活動時間が過ぎただけだ。めんどくさいだけで心配ないよ!」


 そう。ゴドンは鎧を装備してからの活動時間が30分という、鍛錬が足りない……もとい、呪われた体質なのだ。




「リリス姫! そこにおいででしたか!」

「ゴッドフリート様! リリスは信じてお待ち申し上げておりました!」


 地下牢に閉じ込められていたリリス姫に出会えたのはは、そのすぐ後だった。


 ゴッドフリート事、ゴドンとリリス姫は、鉄格子を挟んで再開を喜んでいた。

 デニスとジムは、鍵の束を手に、これでもない、あれでもないと苦戦している。


 敵兵は、完全に戦意を無くしていた。連中を締め上げていたら、3人目にリリス姫の居場所を知る者がいた。 


 地下牢とはいえ、そこそこ衛生的な場所であった。

 ベッドもそれなりで、二日に一度はシーツを替えていたし、毎日の食事にも気を遣っていた、と、青い顔をした牢番の兵士が言っていた。


 リリス姫の力強い声を聞けば、嘘でない事が解る。


 牢内は暗く、リリス姫の顔がよく見えないが、声からして、高貴で美人のイメージがする。


「開いた!」

 デニスが鍵を解除した。


「さあ、姫様、こちらへ」

「ゴッドフリート様。リリスはあなた様の物です!」


 ゴドンに手を引かれ、リリス姫が松明の明かりの下、姿を現した。

 デニスとジムは片膝を突き、姫君に対し、礼をとる。


「ゴッドフリート様に付き従った勇気ある者達よ――」

 流れる銀の髪。白い肌。輝く様な美貌。正に美姫。 


「その方らへは、万の感謝の言葉を贈りた……あれ?」

 デニスの顔を確認したリリス姫の美貌が、変な感じに崩れた。


「え? あっ! あんた!」

 デニスもあんた呼ばわりだ。


「リデェリアルの魔獣使い!」リリス姫が叫ぶ。

「ランバルトのお転婆姫、デオナ!」デニスも叫ぶ。


 そして二人とも距離を置き、嫌ーな顔をしてジロジロと互いを睨みつけながら徘徊した。

 聖教会聖都ウーリスにて、敵同士として顔を合わせた二人である。居合わせた時期が悪い。


 ましてや、その後すぐ、読んで字のごとく命のやりとりをしたのだ。

 二人の仲は最悪。相性も最低である。


「なんで? あなたデオナって名前じゃなかったの? 負けたやけっぱちで改名でもしたの?」

「これだから下賤の者は! わたしの名はリリス・デオナ・ランバン・ランバルト! 基本的に高貴な生まれの者は、沢山名前を持っているのよ!」


 2者の間に火花が散った。


「おや、姫様、この者達をご存じで?」

 事情を知らないゴドンは、のほほんとして二人の顔を交互に見ていた。


「知っているというか……なんでアンタ達がゴッドフリート様と一緒に現れるのよ?」

 リリス事、デオナ様のご機嫌は究極に斜めだった。


「へぇー、……『リリスは信じてお待ち申し上げておりました』『ゴッドフリート様。リリスはあなた様の物です』とか?」

 デニスの物まねは、声より特徴を捉えるタイプだった。


 デオナは、デニスを縦真っ二つにしたかったが、ゴドンの手前、そうはいかない。


「おほほほ、悔しかったら早く男を作る事ね」

 デオナの作り笑顔が輝いている。


「おほほほ、そいえばゴッドフリートさんって、バライトさんに似てるわね」

 デニスも負けていない。


「おほほほほほほ、あんな小男がどうか致しまして?」

「おほほほほほほ、デオナ姫様は外観重視ですのね!」

「「おほほほほほほほほほほほほほほほほほ」」


 二人の笑いが地下牢に木霊する。風も無いのに松明の火が揺れる。


 ゴドンは訳もわからず、笑顔を顔に貼り付けて立っていた。


ジムは全ての事情を察しているがため、いったいどうすればよいのか解らず、ただオロオロするばかりであった。




戦いは終わったが、戦いが始まった。


次話「ハンネス・マンドレー」

皇帝、自らを語る。


お楽しみに!

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