表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/152

7.アンティーロック城攻防戦-2「デスレース」

「グハハハハハ! 魔獣の一体は仕留めたぞ! あの下は二度と這い上がれない地下空洞。いかに巨神といえど、天井には手が届かん。砂と石に埋もれて朽ち果てるがよい! ゲハハハハッ!」


 バルトの笑いが止まらない。


「将軍、リデェリアルの魔獣はもう一匹残っていますが?」

「おお、そうであったな。だが、道半ば。まともに進めるかどうか、怪しいぞ?」

 バルトは剣を肩に担ぎ、顎髭を撫でながら神を狩る狼を見下ろしている。


「よし、次の作戦だ。新兵器もってこい!」

 左手の指をチョイチョイと曲げて合図を出す。

「はっ! 直ちに」


 既に準備は整えられていた。

 城壁の一部に、新兵器が20基も姿を現した。

 用意された新兵器は、直方体で構成された、あの兵器であった。





 やあ、レム君だよ。


 一時はどうなるかと思ったけど、固い地面に足がついたら、安心できるものだね。

 ここは暗い洞窟の中。薄ーい光が、すげー高い天井のそこここから漏れているだけで地面にまで届いていない。


 しかし、俺の目はしっかりと見えている。

 俺の第二の人生がスタートした、あの洞窟によく似ている。


 ステージ的にはジンの部屋だな。あそこをもっと大きくして、もっとたくさんの柱で天井の岩盤を支えているって図だな。 

 いずれ浸食が進み、天井は崩落するだろう。


 鍾乳石の柱が林立している。太いのとか細いのとか、実に様々。小さい川も何本か流れていて、それが色んな景観を作っている。実に美しい!


 しかし、どんなに美しい光景でも俺の心は癒やされない。

 どうしてこうなった?ガルの口車に乗ったからだろう?予想ついてたのにつきすすんだからこうなったんだろうがボケえぇっ!



 ……なんか無性に腹が立ってきた。


 無意識に五行ロータリーエンジンが回転していた。


 改良されて名前も一新した「ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」をぶちかましてやったら、きっとすっきりするだろうな!


 つーか、すっきりするにはそれしか無いように思ってきた!

 あの天井に向けて……、天井が一気に崩落すれば俺も生き埋めか。


 力任せに壁をよじ登っても、天井部分がオーバーハングしてるからそこでストップだ。

 ええい! この怒りをどこにぶつけるべきか? ここにぶつけてやる。


 今こそ、聖教会を崩壊に至らせた俺のプロレス技を見せつけてくれん!


「ディオスパーダ!」

 肩当てが跳ね上がり、破壊の力を秘めた弾頭が顔を出す。


 ここの柱、全部叩き折ってやる!

 五行エネルギー全開! 弾頭へ注入!


「全弾発射!」


 勇ましい発射音と共に、ディオスパーダが全弾飛び出していく!

 推進剤を付加したニューバージョンは、俺のエネルギーを食うことなく、その飛距離を大幅にアップさせている。


 加えて、弾頭には、木気と火気をベストな配合でブレンドした「火薬」が仕込まれている。

 つまるところ、ミサイルである!


 各ミサイルはそれぞれ軌道を辿り、目標とする柱に激突。大爆発を起こし柱が崩れ落ちる。


 続いて、柱が支えている天井の岩盤が崩れ落ちる。

 俺の体にもデカイのがブチ当たるが何ともないぜ!

 

 ……お! これは使える。


 一度に崩さなければ、上へ上がる足場が作れるかもしれない!

 壁際の天井を抜けば、オーバーハングでなくなり、地上へ手が届くかもしれない。


「ディオスパーダ、次弾装填!」

 改良型ディオスパーダは、2連射が可能なのだ。


「てーっ!」

 一方方向に向けて飛んでいくミサイル。


 次々と着弾、爆発。

 ドカドカと落ちてくる岩盤。天井に穴が空き、日の光が入ってくる。   


 一本だけ太いのが残ってる。

 こいつがメインの柱になって天井を支えている模様。


 よし!


 右腕の肘から先を回転させる。五行エネルギーを右腕に注ぎ込む。

 体を捻って、力をためて……。

 左足を踏み込み、腰を回転させ、右パンチを放つ! 


「バニシング・ゲイザー!」


 右肘で爆発。高速回転した拳が、空気の渦を巻ながら飛ぶ。


 同時にダッシュ。バニシング・ゲイザーは柱の中央に命中! 蜘蛛の巣状のヒビが入る。


 俺は左腕を直角に曲げ、体重を乗っけて内側を柱にぶつけた。

「アックスボンバー!」


 こいつはよー、敵の顎とテンプルを同時攻撃できる必殺ブローだ。こいつを喰らったら、天を支える柱といえど……。あれ? 柱は無事か?


 右腕が戻ってきた。

 少し後方へ下がり、助走を付けて……。

「ウエスタン・ラリアーット!」


 右のラリアットが決まった!

 柱は真っ二つにヘシ折れた!


 その勢いを殺す事無く俺は走る。洞窟の壁際まで走る。

 後ろで柱が轟音と共に崩れ落ちていく。

 それまで支えていた天井岩盤が、根こそぎ落ちてくる。


「おおおおおおお!」

 傾斜した壁を力任せによじ登る。脚部のホバーを全開にし、腕を、指を壁にめり込ませ、泳ぐ様にして登っていく!


   




 バルトは上機嫌であった。

「ゴハハハハハ! 狼に5個まとめてブチ込んでやれ!」


「1番から5番、目標、神を狩る狼! 魔弾発射!」

 5基の箱形発射筒から、計125発の魔槍が飛び出した。それは密集したまま、ガルへ向かって正確に飛んでいく。


『遅せぇ! 当たるわきゃねえだろ! しかし、迂闊に動くとレム君みたいに落っこちる罠』


 ガルは着弾地を予想していた。

 数次にわたる瞬間移動に等しい高速移動をもって、魔弾を回避した。


 魔弾が着弾した範囲は、ちょっとした運動公園ほど。広範囲にわたって土地が沸き立つ。土煙が高く舞い、石つぶてが空を飛んだ。

 そしてぽっかりと大穴が空き、地下空洞が顔を覗かせる。


『オイラじゃなきゃ回避は無理か。ちょい舐めてたぜ。あ、やべぇ!』

 城の魔弾発射筒を見たガルは、大慌てでデニスの元へと走り出す。


 次に魔弾が狙うのは、魔獣ガルに指令を出す魔獣使いだ。

 バルトは頭を潰す作戦に出たらしい。


『デニス嬢ちゃんが危ねぇ! 黒皇先生! 半分以上こっちに来たんで引き返すのは無理か。速く走ってくだせぇ!』


 魔弾の着弾範囲は広い。魔弾を回避するため、大きく道から外れてしまったガルは、早く走れないでいる。




 アンティーロック城の物見台の上では、戦勝気分が蔓延していた。

 バルトが手のひらを目の上にかざして、戦果を眺めていた。

「次、本番! 残り15個全部魔獣使いにブチ込んでやれ。逃げられないよう範囲を広く取ってさしあげろ!」

「了解! 6番から20番! 範囲2番。測定値合わせ!」



  

『くそっ! 間に合わねぇ! こういう時役に立つ壁キャラのレム君はどこで油を売ってやがるんだ!』


 途中でゴドンを乗せたライトニングボルトとすれ違う。すれ違い様に危険を知らせるつもりは一切無かった様で、デニスの元へひた走るガルであったが……。


『おや?』

 異変に気づいた。



 一方、ゴドンを乗せたライトニングボルトは、時速で表現する所の50㎞オーバーで駆けていた。これは全力を上回る速度である。 

 ちなみにサラブレットの瞬間最高速力は70㎞あたりと言われている。


「いいぞ! ライトニングボルトォー! その調子でリリス様の元へ急げ!」


 主のお気楽さが、スゲー迷惑だった。


 ライトニングボルトは、後方より目を光らせながら追い上げてくる黒皇号の放つプレッシャーから逃げているだけだった。生存本能を優先していただけで、主であるゴドンの事情など二の次であった。


 そうでなくとも鎧を装備し、ランスを抱えた騎士は重い。そんなのを乗せて長時間走れる自分の能力に感謝していた。父と母、それからすばらしい血統を受け渡してくれた祖先に感謝していた。


「走れ! ハイヨー!」


 調子の良いかけ声を上げるゴドンうぜぇ。


 そんな不運に思いを巡らすライトニングボルトも異変を感じた。


 その異変とは……距離を開けて走るはずの黒皇号が、接触せんばかりの直後を走っておられるのだ。遠近感を無視した巨大さで迫ってくる。視覚以外の全感覚器官を後方へ向けて走っていたのだ。間違うはずが無い!


 馬なりに言葉を無くした。


 パニクってはいたが、野生のカンが、黒皇様接近以外の危機を告げていた。

 蹄に伝わる危険信号。


 それが最大の数値を出した時、物理的な変化が生じた。

 黒皇の後ろに穴が空いた。地面が広範囲に陥没したのだ。



 後ろから台地が崩れ奈落へと落ちる。

 前からは魔弾が狙っている。



 ガルが黒皇と併走している。

『先生! 地面が大規模に崩れる!もっと速く走れませんか!』

 ガルが黒皇に対し、敬語で警告を発した。黒王先生は背中にデニスとジムを乗せているのだ。


『任せたまえ。精神力5倍掛け集中力ロール使用判定。合格。速力アップに成功!』

 何の呪文かよく解らないが、黒い疾風と化して走っていた黒王先生が、黒い弾丸に変化した。


 具体的に言うと、先生はサラブレットの最高速度に近い時速60㎞の巡航速度で走られていた。謎のかけ声の後、平均時速95㎞にまで速度が上がったのだ。


 見る見る間に、先を行くライトニングボルトに追いつかれてしまわれた。

『次はライトニングボルト君だな。だが集中力ロールは一日一度だけ。ならば!』

 先生の目がギラっと光る。


『カリスマ値マックス! 覇気、全解放!』

 ズオッ!

 音を立てて、黒皇先生を包む空間が歪んだ。


『うおっ!』

 ガルが後方へ飛んだ。身の危険を感じたのだ。

 6つの災害魔獣と恐れられ、大要塞キュウヨウと二つの支城を一日で落とした、神を狩る狼・フェンリル狼のフェリス・ルプルほどの魔族が、命の危険を感じ取ったのだ。


『達成値拡大! 目標、ライトニングボルト。マジックスペル・身体強化ッ!』

 黒皇先生の奥義は無条件で魔法効果を成立させるものであった!




「バフォォフォフォフォーン!」

 黒王先生が畏くも吠えらてきこしめしている。


『我が牙で内蔵を食い散らかされるか、我が蹄に掛かって死ぬか、好きな方を選べ!』

 身体強化の呪文詠唱だったのだが、ライトニングボルトにはそう聞こえた様だ。


 とんでもない二択であった。


 ダンッ! 蹄を台地に食い込ませる。


 死にたくない!


 その一心で瞬間速度105㎞を叩きだした。あり得ない速度である。


「おい、ちょ! ライトニングちょ! 速いって!」

 馬上で慌てるゴドン。彼は何が起こっているのか理解していない。彼が悪いのではない。ヘルメットの狭い視界が悪いのだ。


 巡航速度80㎞で走るライトニングボルトは焦っていた。


 主であるゴドンを振り落とせばもっと速く楽に走れるはずだ。そんな危ない事を考えていた。


 しかし、振り落としている時間が惜しかった。少しでも速度を落とすと黒皇様に踏みつぶされそうだ。後ろで台地が陥没し続けているが、そんなの関係ねー!


 思う事はただ一つ「保ってくれ心臓!」

 ライトニングボルトは死に体で走り続けた。

 




 

「魔弾、発射準備完了!」

 副官から報告を受けたバルトは、剣を頭上に掲げた。


「よーし、……な、なんだ?」

 城が揺れた。


 その揺れは激しく、魔弾発射筒があらぬ方を向く。


 城を直衛する兵5千人の前で地面が割れた。


「おおっ!」

 兵達は目の前の出来事に固唾を飲んだ。


 今まで大地だった岩盤が、一瞬ささくれだって林立した後、地の底に沈んだのだ。


 底に沈んだ岩盤が、爆発音と共に空へ吹き上がった。

 飛び散る岩盤の中から、二つの光る目を持つ巨大な影が姿を見せた。


 怒りのためか血の色をした目。広げた両腕は肩より高く。

 天を支えられそうな太い足が、歩を進める。


 ゴルバリオン傭兵隊は、その悉くが顔に恐怖を貼り付けた。


「ふ、不滅の巨神レム!」

 誰かが叫ぶ。


「怒ってるんだ! 俺たちに怒ってるんだ!」

「逃げろー!」

 今度ばかりは芝居じゃない。本気で逃げた。




 高い所から一部始終を見ていたバルトは、下の兵士達とは違った意味で臨場感を味わっていた。恐怖が足下から這い上がってくるのを自覚していた。 


「目標変更! リデェリアルの巨神!」

 自らの恐怖を振り払う様に、剣を巨神に向け、指示を飛ばす。


「魔弾、発射準備完了!」

 15個、発射筒が俯角をとる。375発の魔弾発射口が巨神を捕らえる。


「撃てーっ!」

 目標指示から発射まで、最短記録をマークした魔弾が発射される。


 集中発射、それも至近距離からの発射は紛う事なく巨神への命中弾および至近弾となった。


 爆発による破壊力は、地上に展開した兵士達を巻き込んだ。

 それだけではない。


「うおぉーっ!」

 破壊力はそれを指揮したバルトにも及ぶ。


 アンティーロック城を守る城壁の一部が瓦解した。

 彼が指揮する物見の塔にも亀裂が入り、間もなく崩れ落ちた。


 塔より、石材と共に落下するバルトは、爆煙の中、二つの赤い光を目撃する。


 地上に激突する直前に、煙を割って平然と立ちあがる巨神の姿を見たのであった。




はい!

そういうわけで、全キャラ拡大解釈で大活躍でした。


……。


つーわけで、中国逝ってきます!


次話「アンティーロック城攻防戦-3(入城)


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ