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3.戦いの残滓

「触手ノ王 な日々」は、限りなく等位性がハゲシイ平行世界と思ってください。



 デニス戦隊DGL一行は、アンティーロック城への道を急いでいた。

 目的が目的なので、まともな街道は通らない。主として道なき山道だ。


『――そんなこんなで、ゴルバリオンは妙ちきりんな面制圧型大量破壊兵器を作ったらしいぜ』

『へぇー、そうなんすか。格好いいですね!』

 そういった世間話をしながら、山道を歩く魔獣達。


『ところで先輩。俺たち冒険者になったんだし、山道歩いてんだし、ゴブリンとか野盗なんかと戦闘してみたいですよね』


 ガルは鼻を空に向けてクンクンさせていた。

『オイラ達が通ると、ゴブリンは隠れるんだよな。3回ほどすれ違ってんだけど、みんな息を止めてじっとしてんだよ。野盗の方はまだ根性あるぜ。ずっと後ろを付けてきてるのがいるからな。手を出す気配は全くねぇんだが……』


 レムが後ろを振り返るが、それらしき姿は見えない。相変わらずガルの五感は三次元レーダー並みの精度を誇っている様だ。




 一団のリーダーにして、俺たちを顎で使う立場にいるゴドンが、小さくなって先頭に立っている。


 ……リデェリアル山岳地方の出身だと言っていたな……。


 ゴドンは背後の魔獣が気になって気になって仕方なかった。


 リデェリアルで魔獣使いと言えば、有名なリデェリアルのレジェンドハイマスターだ。

 六つの災害魔獣の内、神を狩る狼フェリス・ルプスと、紫煙の罠スイート・アリッサムを配下に従え、さらに不滅の巨神レムを自在に操る化け物の様な魔獣使い。


 単純戦力は、大国3個分に匹敵する。


 ……こんな子供なわきゃねぇ……。


 そりゃ確かに大型の魔獣を引き連れているけど……。


 アリッサムなる黒い竜……。どっか行ったみたいで、ここにいないし。

 元ネタはスイート・アリッサムだろう。あれは多分レッサードラゴンだ。本物のドラゴン見たこと無いけど。


……ちょっとカマかけてみるか。


「えーっとデニス君。黒いレッサードラゴンが居ないみたいだけど、どうかしたのかね?」

「アリッサムさんはフリーダムなんです。契約の条件がそうですし。でも、危険が迫れば必ず駆けつけてくれますから安心してください」


 ほら。レッサードラゴンという項目に反応しなかった。



『そういや先輩。デニス嬢がレッサードラゴンと自称させている姐さんの姿が見えませんが?』

『魔王さんから招集がかかった。ひとっ飛び魔王城と称する暗黒の洞窟へ飛んでいる。なんせ毒竜さんは、魔族の良心と呼ばれているからな。頼られたり相談されたりが多いんだ』


『……あれだけの事をやらかしておきながら、魔族の良心ですか?』

『あの程度、魔族がしでかす日常に比べれば、てぇしたこたーねぇよ!』

『ああ、理解しました。魔族の酷さを理解しました』




 ゴドンの独り言は続く。

 ……それから、フェンリル狼じゃなくてガルム犬だろ? ガルム犬でも相当だけど、災害魔獣クラスじゃないし、命令を聞くかどうか未確認だし。


 で、巨神レム。どう見てもゴーレム。造りが細かすぎる。作為的だ。


 やたら迫力のある黒馬だって、馬に変わりはあるまいし。


 うん、伝説のレジェンドハイマスターじゃねえ。

 だいいち、レベルDの冒険者じゃないか。


 ――と、自分で自分を無理矢理納得させていた。




『ところで黒皇先生、俺って、どんだけレベル上がってんでしょうかね?』


 黒皇先生こと、聖教会始祖エフィシオス=ユカが首だけ振り返った。

『ん? ああ、ウインドウオープンっと、ふんふん、戦闘力の欄でディオスパーダの能力値に変化があるね。改良したのかね?』

『解ります? 中身をちょいと変えたんですよ!』

 レムは自慢げに胸を張った。


『先輩の方はどうですか?』

『え? オイラはいいよ。オイラは完成されたパーフェクト・ファイターなんだから数値に変化はねぇはずだ』


『どれどれ? 確かに変化は無いな。……いや、まて! 大きく変わったというか、数字が酷く落ち込んでいるのがあるぞ!』

『え? えええ? 何でぇそりゃ?』

 ガルが慌てている。


『リデェリアル村で出会った時は、【この世界でトップクラス】との注釈があったんだが……、聖教会相手に戦っている最中、何があったのだ?』


 聖教会戦は激しかった。どこか体を壊したか?

 ガルがゴクリとつばを飲んだ。レムは、汗をかく機能が無いのに額をぬぐった。


『カリスマ値が1桁に落ちている! 聖教会を相手に戦っている最中、何があったのだ?』

『え、ええー?』

『ああ』

 愕然とするガルに対して、素直に納得しているレムであった。




 さて、一行の並びは、馬に乗ったゴドンの後ろに、先生に跨ったジム、ガルに乗ったデニスそしてレムと続く。アリッサムは魔族の野暮用で、少しの間戦列を離れていたりする。


 ゴドンの乗馬、ライトニングボルトは、このメンツの先頭でガチガチなって歩いていた。


『先輩、あの馬ですけど、同じ方の前足と後ろ足が同時に出てませんか?』

『見事なマスタソグ歩行法だ。いまだかつて、あれほどの使い手は見たことがない』

 新しい設定が加わった。


『マスタソグ歩行法は、伝説の放浪民族ゼフの一族が編み出した、疲れが少ない歩行法。長距離を速い速度で歩く秘法なのだ』


『じゃあ、ちょっと真似してみますかね』

『みっともないから止めとけ!』

 ガルから冷静なツッコミが入った。


『ん? 何か焦げ臭いぞ?』

 ガルが鼻をひくひく動かしている。  



「止まれ!」

 ゴドンが片手を上げて停止命令を出した。筋肉と関節が強ばっていたからか、肩からポキッと心地よい音がした。


「みんな姿勢を低く!」

 ゴドンは、馬から飛び降り、身をかがめた。ライトニングボルトも慣れたもので、精神力を使い果たしたデク人形のように、膝を折って地に伏した。


『先輩、俺たちも小さくなりましょう』

 ガルはチームリーダーの命令を無視して威風堂々と立っていた。


『るっせぇ! バカヤロウ! 漢がそう簡単に地に伏していられるかってんだ、べらんめぇ!』

「ガルちゃん、伏せ!」

 ガルは一動作で地に伏した。カリスマ値一桁は伊達じゃない。


 デニスがガルから飛び降りた。

「どうしたんですか?」

「あれを見ろ!」


 何事かと尋ねるデニス嬢に、ゴドンは大岩の向こうを指さす。   

 曲がり角になってる所だが……破損して歪んだ盾が転がっていた。


「みんなはここで待て」

 ゴドンが走る。曲がりなりにもパーティリーダーにして某国の騎士。責任感はいっちょまえにある様だ。


 大岩の影からこっそり顔を突き出して……。

「あっ!

 一言叫んで、岩の向こうへ走っていった。


『なんかあったみたいだな?』

『ですね』

 レムとガルも岩向こうへと走る。


 大岩の角を曲がると、視界が開けた。そこは短い草が生えた平地だった。


 まず視界に入ったのは荷車の残骸。

 次に見えたのは、倒れている人。そろいの鎧を着た人達。騎士の様だ。


 皆、血を流している。ゴドンは首筋に手を当て生死を確かめているが、生存者はいない。

 火が使われたのだろうか? 周囲では木製品の破片が燻っていた。

 どうやら直前まで争っていた様だ。


「な、何があったのだ?」

 すでにゴドンは上半身裸であった。これはかなり危機的状況らしい。


「何があっ……あの人たちは聖騎士!」

 追いついたデニスは、倒れている騎士の鎧を一目見るなりそう叫んだ。


「せ、聖騎士だと?」

 つられてゴドンも叫ぶ。


「なぜこんな場所に聖騎士が? なぜこんな損害を?」

 ゴドンはパンツに手を掛けていた。すでにズボンははいていない。

 念のために言うが、これは大変危険な現場なのである。


「姉ちゃん! ゴドンさん! こっちにまだ息のある人が!」

 ジムが少し離れた岩陰で、二人を手招いている。


 どうやらたった一人の生存者の様だ。

 黒い粗末な服を着ている。腰には荒縄をベルト代わりにして絞めている。


 聖教会の司祭あたりの風体だ。ぽっちゃりしてるが、それは年齢から来るものだろう。老人の域に入って間もなくと言ったところか。

 肩から背中に掛けて刀傷が走っている。うまく太い血管を避けられたようで、怪我の割に出血が少ない。運のいい男だ。


 ゴドンが司祭を抱き起こした。

「しっかりしなさい。傷は浅い。手当てすれば助かるぞ!」

「う、ああ……」

 司祭が薄く目を開けた。何かを喋っている。


「なんだ? 何が言いたい?」

 よく聞こえる様、ゴドンは司祭の口元に耳を近づけた。


「な、なぜ故……全裸?」

 それだけ言うと、司祭は気を失った。怪我が原因で気を失ったと信じたい。


 デニスが目を両手で塞いでいる。

「キャー! あれ?」

 目を塞いでいるはずなのだが、司祭の顔が見えるようだ。見知った顔の様だ。


「聖都ウーリスにいた……たしか、……ダレイオス司教?」





 

 デニス一行を追跡していた野盗達に動きが見られた。


「伝令用意! リデェリアルの魔獣使いが聖教会の生き残りと接触した。目的地はアンティーロック城」

 精悍な顔つきをしたリーダーらしき男が命令文を口にした。


「これをアンティーロック城守備隊長バルト将軍にお伝えしろ!」

「はっ!」


 男が一人、走り出した。




「先輩、経済って言葉を知ってますか?」


次話「聖騎士バザム・マール」

お楽しみに!

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