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5.魔神よ

「ブルルイッ!」

 黒皇先生が荒れておいでだ。

 盛んに蹄で石畳を掘り返しておられる。

 花崗岩でできたブロックをいとも簡単に掘り返しておられる。


「ウグッ!」

 サリアが呻いた。俺との戦いで受けた傷が痛むのだろう。

 無理に体を動かすから回復が遅れるのだ。


「サリア」

 バライトが、自由の利かなくなった両腕を動かし、サリアの元へと膝行り寄っている。

 その体から、流失する光の粒子が激しさを増していた。

 もう間もなくバライトはこの地上から消えてしまうだろう。

 それは自業自得だから仕方ないのだが……。




「さて、愚かな人間共よ。聖教会という愚かな羊飼いに率いられる事を良しとし、甘んじて受け入れてきた人間共よ。その従順なる行為を我は『怠惰』と呼ぶ」

 えーと、良い神様なんだけどビジュアルで損してるタイプ?


「よって罰を与える。創世の破壊槌ファル・ブレィドーによる壊滅を進ぜようぞ」

 やはり悪い神様だ。


「我を悪か正義か、その方のレベルで論じるのも愚かな事よ」


 生物は生きたいと願うもの。死を恐れるから驚異に対し悪と論じて何か不自然なことでも?

「見方を変えると正義が悪となる。それも一理ある」


 ……おや? 会話が成立している?

「成立しておる。我は全能。思考を読み取ることなど造作もない。想定外とは言わせぬ」


 ならば話が早い。今すぐ破壊を止めろ! 中には罪もない人も少数だがいるはずだ、と思う。滅びるのは人だけではないぞ。中には何の事やら理解してない羊や猫もいる。

「連帯責任という言葉を知っておるか?」


 あんたは生後三時間の子猫に連帯責任を求めるのか? 

「うむ、一理ある。認めよう。しかし、その感情こそが正確な判断を惑わす悪ではないか? 欲ではないか?」


 あーいえばこーゆう。言葉にして考えれば全て読まれてしまう。

 どうにかして目的に誘導しなければっ!



 俺は肩当てを跳ね上げ、デオスパーダの残弾、二発を発射した。


 一発目はドクロの顔に向けて。

 やはり通過。実体が無い。それが判った。


 二発目はトンカチに向けて。

 頭の部分に命中。


 ハデに爆発したものの、トンカチに傷一つ付けられなかった。


 あのトンカチは実体である。

 これに気づいて欲しい……。


「答えがすぐに出ないか? それはお前が体を持っているという証拠である。なんら恥じることはない」

 魔神は、俺の攻撃に全く気にしていない模様。話しに淀みが無い。

 雨粒が一つ二つ、つむじに当たった程度なのかもしれない。 


 そこへ助っ人が現れた。

「二発の実弾。全て察したぞレム君、ここはオイラに任せてくれないか?」

 こういう時だけ心強い味方。ガル先輩が満を持して現れた。






「リデェリアルの巨神が、魔神と交渉をしている?」

 ハウルは信じられない物を見ていた。知性は人だけの物。魔獣に知性を認めない。

 それが聖教会の正式コメントであり、ハウルの常識でもあった。


 ところが。

「確かに会話しておる」

 いつの間にか、ハウルの横にダレイオスが立っていた。


「リデェリアルの巨神は、我らを助けようとしてくれている。そう見えませぬか?」

 魔神は巨神に正対している。巨神は魔神に、身振り手振りを交えて意志を伝えている様にみえる。


 ハウルやダレイオス達人間には、巨神の声が聞こえない。だけど、魔神の声は聞こえる。

 片方の会話だけだが、内容は押して計れる。


「聖教会が戦ってきた……リデェリアルの巨神が我らを助けようと?」

 まさか、とか、バカな、とか、その類の単語は、周りの人々の口から漏れている。


「あたりまえよ」

 ハウルは声の主を見た。

 デニスだ。


「レム君は優しい子。人の痛みが分かる子なのよ。あなた達よりずっと清い心をもった子なの」


 聖教会の人間に反論する者はいなかった。

 反論しようと試みる者も幾人かいたが、大抵は隣の人間に口を押さえつけられてるか、睨まれているかだったからだ。






 ガル先輩と魔神の話し合いは続く。


 込み入った話となったので、いつしかテレパシーによる念話となっていた。

 多分に先輩の誘導による力が働いていたと思う。


「確かに子猫は無垢なる者。それが三匹も固まって丸こまっている鍋に破壊の槌を落とすのは神としてどうかと思う。しかしだな――」


「しかしもクソもねぇよ。理論をすり替えないでもらおうか。オイラは、発言に責任を持てっていってるんだ。それで神と名乗るなら聖教会は正しいことをして来たって証明に繋がるぞ。気をつけろ!」

 現在、やや先輩有利で話が進んでいる。なんて頼もしい人だ。






 魔神に対し、一歩も引かず渡り合うリデェリアルの巨神。側に寄りそうフェンリル狼。

 どこをどう見ても巨神が最後の砦だ。


 太い腕。頼もしい背中。

 いつしか、人々はレムに祈りを捧げだした。


「やめなさい! きっと迷惑だって言うわ!」

 デニスの一言は、とても厳しいものだった。






「ふんふんふん、そんなあほなー!」


 俺の役目は、大げさなゼスチャーだけする滑り芸人の立場となっていた。

 主役は完全にガル先輩である。


「ならば焼き芋は落ち葉だけの焚き火に限定するとしよう。しかし、それだけで二酸化炭素の排出量を絞れるとは限らぬであろう?」


「排出量測定のエリアと手法、並びに共通単位を決めねぇと、さっきの条約と間に齟齬が出らぁね。そこで調整という名の摺り合わせを討議してぇ」


 話し合いは、いつしか詐欺行為へと発展していった。







 時間にして五分と経っていないだろう。


 人々はお互いの体を抱き寄せ合い、リデェリアルの巨神に望を繋いだ。

 毒竜と、ゴーレムと化したバライトは、肩を寄せ合い小さくまとまっている。


「決着が付いたようね」

 そう宣言するデニスは、まるで信託を受けた巫女のように神々しかった。





 どうしてこうなった?

 大事なことだからもう一度言う。

 どーしてこーなったのっ?


「やかましい! 速く走れ!」

 ガルが怒鳴る。


 そうだ。この結果を得るために、俺とガルはがんばったんだ。

 俺は急いでバライトの元へと走った。

 そこに、そこにこそ最後の一手があるのだ!




「交渉の結果である。人間共よ聞け!」

 魔神が無駄に堂々としている。


「リデェリアルの巨神、不滅の巨神レムとの交渉の結果、我は世界に手を出さぬと決めた!」

 人々の間から、歓喜の声が溢れた。


 いいやだから、お前ら最後まで聞けって!


「正義と悪の区分けが着かぬ以上、我は手を下せぬ」

 ひゃっほいひゃっほいと、うるせーですよ人間達!


「よって、結末は創世の破壊槌、このファル・ブレィドーに任せる」

 人々はひゃっほいを止めた。


 だからあれほど止めておけと言ったろ!


ガル先輩。

頼りになる漢!

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